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最終更新日:2024/8/2

一人社長が個人事業主よりも節税できるポイント6つ!【会社と個人に資産を残す】

森 健太郎
この記事の執筆者 税理士 森健太郎

ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネルを運営。

PROFILE:https://vs-group.jp/tax/startup/profile_writing/#p-mori
YouTube:会社設立サポートチャンネル【税理士 森健太郎】
書籍:プロが教える! 失敗しない起業・会社設立のすべて (COSMIC MOOK) ムック

この記事でわかること

  • 一人社長になったことで可能になる6つの節税について理解できる
  • 一人社長になると経費として計上できるものがわかる
  • 一人社長になるときに注意すべきポイントがわかる

事業が順調に進むにつれて、納める税金が高くなってくると、いよいよ節税を考えるタイミングです。

個人事業主として現在お仕事をされている方の中には、節税を考慮して法人成りを検討している方もいらっしゃるのではないでしょうか。

個人事業での節税には限界がありますが、一人社長として活動することで、節税可能な範囲が大幅に広がります。

今回は、一人社長になることで可能となる6つの節税方法について解説します。

また、一人社長の場合に経費として計上できるものや、一人社長になるときに注意すべきポイントも併せて説明していきますので、ぜひご一読ください。

一人社長になったことでできる節税6つ

まず初めに、一人社長となった場合に可能となる節税方法について紹介していきたいと思います。

一人社長になったことで可能となる節税方法は、以下の6つです。

  • ・給与所得が控除される
  • ・所得を分散できる
  • ・欠損金を長期繰越できる
  • ・消費税の納税義務が免除される
  • ・出張日当を経費に計上できる
  • ・役員社宅として家賃を経費計上できる

これらの節税方法について、このあと詳しく解説していきます。

給与所得が控除される

一人社長になった場合、給与所得控除制度を適用することにより、所得税を節税できます。

個人事業主であれば青色申告特別控除制度を適用しても最大55万円(電子申告または電子帳簿保存を行えば最大65 万円)の控除しか受けることができません。

しかし、法人成りして一人社長になった場合には、給与所得控除を適用することで最大195万円の控除を受けることが可能になります。

給与所得控除の控除額は次の表のとおりです。

令和2年分以降

給与等の収入金額(給与所得の源泉徴収票の支払金額)給与所得控除額
1,625,000円まで550,000円
1,625,001円から1,800,000円まで収入金額×40%-100,000円
1,800,001円から3,600,000円まで収入金額×30%+80,000円
3,600,001円から6,600,000円まで収入金額×20%+440,000円
6,600,001円から8,500,000円まで収入金額×10%+1,100,000円
8,500,001円以上1,950,000円(上限)

引用:No.1410 給与所得控除|所得税|国税庁

所得を分散できる

所得税には累進課税制度が適用され、収入が多ければ多いほど、より高額な税金が課せられる仕組みとなっています。

つまり、所得を分散することで所得税率が下がって、結果的に節税に繋がるのです。

個人事業主の場合には所得を分散することはできませんが、法人成りして一人社長となった場合、社長(個人)と会社(法人)に所得を分散することが可能になります。

欠損金を長期繰越できる

会社を設立して法人成りすることで、個人事業主の場合よりも欠損金を長く繰り越すことができ、これにより法人税の節税が可能になります。

法人税が採用している課税制度では、赤字となった場合に、この赤字の部分である欠損金を、赤字が出た当該年度だけではなく、翌年度以降にも繰り越すことができるとされています。

つまり、赤字が発生した翌年度以降に黒字になったとしても、前年度の赤字額と損益通算して、法人税の計算をして良いのです。

そのため、繰越欠損金があった場合には黒字となった利益分を相殺でき、法人税の節税が可能となるというわけです。

この欠損金の繰越期間については、個人事業主よりも長く繰り越すことができます。

個人事業主の場合は3年間ですが、会社設立をして法人成りしている場合は最大9年間(平成30年4月1日以降に開始した事業年度において生じた欠損金であれば10年間)とされています。

消費税の納税義務が免除される

年間課税売上高 1,000万円を超える個人事業主は、消費税の課税事業者の対象となり、2年後の申告で消費税を納めなければなりません。

しかし、課税事業者になる年の前年に法人成りして一人社長になると、消費税の納税義務免除の適用を受けることができ、最大4年間、消費税の納税が免除されます。

会社設立直後の半年間の売上または給与などの支払総額が 1,000万円を超えるなどの一定の要件に該当しない限り、会社設立後2年間は原則として消費税の課税事業者の対象外とされ、消費税が免除されることになっているのです。

出張日当を経費に計上できる

個人事業主の場合は通常、出張の際に生じた旅費交通費は、その実費のみを経費計上することになります。

しかし、一人社長として法人成りした場合、あらかじめ出張旅費規程を設けておくことにより、出張日当として定めた金額を経費にすることが可能になります。

たとえば、出張の際の宿泊費を3万円として定めた場合、実際にかかった宿泊費が3万円に満たなかったとしても、出張日当として3万円を経費計上できます。

役員社宅として家賃を経費計上できる

法人成りして一人社長になった場合、役員社宅制度を活用すれば、家賃を経費として計上できるようになり、節税効果が期待できます。

会社名義で貸借した社宅を、会社の役員に貸し付けるという役員社宅の仕組みを利用して、家賃の大半を会社の経費に計上することができるというものです。

役員の負担額の算定方法については、以下のように定められています。

<役員に貸与する社宅が小規模な住宅である場合>
次の(1)から(3)までの合計額が賃貸料相当額になります。

  • (1) (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
  • (2) 12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/(3.3平方メートル))
  • (3) (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%

<役員に貸与する社宅が小規模な住宅でない場合>
役員に貸与する社宅が小規模住宅に該当しない場合には、その社宅が自社所有の社宅か、他から借り受けた住宅等を役員へ貸与しているのかで、賃貸料相当額の算出方法が異なります。

  • (1) 自社所有の社宅の場合次のイとロの合計額の12分の1が賃貸料相当額になります。
    • イ (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×12%
      ただし、法定耐用年数が30年を超える建物の場合には12%ではなく、10%を乗じます。
    • ロ (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×6%
  • (2) 他から借り受けた住宅等を貸与する場合会社が家主に支払う家賃の50%の金額と、上記(1)で算出した賃貸料相当額とのいずれか多い金額が賃貸料相当額になります。
    小規模な住宅とは、法定耐用年数が30年以下の建物の場合には床面積が132平方メートル以下である住宅、法定耐用年数が30年を超える建物の場合には床面積が99平方メートル以下(区分所有の建物は共用部分の床面積を按分し、専用部分の床面積に加えたところで判定します。)である住宅をいいます。

引用:No.2600 役員に社宅などを貸したとき|国税庁

一人社長が経費として申請できるもの一覧

続いては、一人社長が経費として計上できるものについて一覧で紹介します。

経費となるかどうかの基準は、個人事業主と大差ありません。

支出の使用目的が事業すなわち会社であり、損金に算入することができれば、経費として扱われます。

ですが、個人事業主よりも一人社長の方が経費計上できる範囲が広がるのは事実です。

一人社長が経費として申請できるものは、主に次の通りです。

  • ・地代家賃
  • ・水道光熱費
  • ・通信費
  • ・旅費交通費
  • ・会議費
  • ・接待交際費
  • ・広告宣伝費
  • ・外注工賃
  • ・支払報酬
  • ・福利厚生費
  • ・給料賃金
  • ・損害保険料
  • ・租税公課
  • ・消耗品費
  • ・減価償却費
  • ・新聞図書費
  • ・荷造運賃
  • ・修繕費
  • ・雑費

ここまでは、個人事業主の場合とあまり変わりません。

しかし、一人社長になると役員報酬(社長の給与、賞与)も経費として計上できるようになります。

ただし、役員給与を経費で落とすためには、役員給与を毎月同額としなくてはなりません。

また、賞与を経費とするためには、支給対象者、支給額、支給日を、事前に税務署へ届け出ることが必須です。

一人社長になるときの注意点

ここまで、一人社長となると節税面で柔軟に対処することができるようになる旨、また、一人社長が経費計上できるものについて詳述してきました。

前述のように、一人社長には様々なメリットがありますが、会社の設立から運用までを自身一人で行わなくてはならず、様々な負担も生じてきます。

ここからは、法人成りして一人社長になるときに、注意すべきポイントについて解説します。

法人化を検討される際には、下記の点を参考にしてみてください。

今後の事業に大きく影響していくことなので、節税面のみならず、自身と事業の状況を踏まえながら、慎重に検討しましょう。

節税をしても手元にお金が増えないケースもある

法人成りして一人社長になることで、節税できる範囲が拡大するわけですが、一人社長の方が手元に残るお金が増えるかというと、必ずしもそうとは限りません。

節税ができても、支払う費用が多くかかってしまえば、元も子もなくなります。

一人社長になる場合には、以下のようなコストが発生してくるので要注意です。

  • ・会社の設立、運営、解散にかかる費用
  • ・法人住民税
  • ・社会保険料・専門家へのコンサルティング料

まず、会社の設立や運営、解散に費用がかかります。

定款の作成、登記手続きなどが必要となり、様々な経費が発生するためです。

会社の解散時にも会社清算のための登記費用などが発生します。

また、赤字の場合でも法人住民税を納める必要があります。

住民法人税は、会社の利益とは関係なく課せられる税金で、たとえ赤字となった場合でも、納め続けていかなくてはなりません。

社会保険(厚生年金・健康保険など)への加入義務も発生するため、社会保険料の半分を支払い続けていくことになります。

社会保険料は、法人住民税と同様に、赤字の場合でも発生し続けます。

また、会社を設立して法人成りするには、自身だけですべての意思決定や手続きの処理を行うのは容易ではありません。

その際に専門家へ依頼すれば、その分のコンサルティング費用がかかります。

これらの費用を軽減させる対処法としては、専門家に依頼せず、会社設立・運営・解散などの手続きをすべて自身だけで行って実費のみに抑える方法や、経理ソフトを活用して経理業務を行ったりするという方法があります。

しかし、実際に自身一人で行うには困難なケースがほとんどです。

法人成りして一人社長になるときには、必要に応じて専門家への相談も検討しましょう。

節税がイタチごっこなっては意味がない

法律上の矛盾や盲点を逆手にとって税金額を少なくさせるといった、租税回避行為による節税対策では、その後の法律の修正により、その効果が失われることになります。

節税対策を実施した時点では十分な効果が期待できていたとしても、法律の修正がなされれば、その効果はすぐさま消滅してしまうわけです。

このような租税回避の度に、法改正によってその効果が無くなってしまうというイタチごっこの繰り返しでは、節税面であまり意味がありません。

長期にわたり、安定して節税効果を得るためには、国の政策的な配慮に基づいた節税制度を活用することが賢明でしょう。

具体的には、小規模企業共済や中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)、中小企業経営強化税制などがあります。

それぞれの制度について、説明していきます。

小規模企業共済

小規模企業共済とは、国が運営する共済制度です。

中小企業の役員や個人事業主が退職などで事業をやめた場合に、この制度を活用することで、その後の生活に必要な資金をあらかじめ準備しておくことができます。

掛け金は全額所得から差し引くことができ、年間最大84万円を所得控除することが可能になります。

中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)

中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)とは、中小企業基盤整備機構が実施している共済制度です。

取引先の会社が倒産した場合、掛け金の最高10倍(上限8,000万円)を、無担保・無保証で借り入れできます。

また、事業資金が必要となった際にも、掛け金の一時貸付を利用することが可能です。

この制度を活用することで危機管理に加え、節税もできるようになります。

中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)では、掛け金の全額を損金として、会社に必要な経費として算入できるのです。

中小企業経営強化税制

中小企業経営強化税制とは、中小企業者等が経営力向上のための設備等を取得した場合に、特別償却または税額控除する制度のことを言います。

特に大きな設備投資をした際には、その設備費用について、この制度を適用できる可能性があります。

まとめ

今回は、法人成りして一人社長になった場合に節税できるポイント6つを詳述した他、一人社長が経費計上できるものと一人社長になるときの注意点について解説してきました。

前述のように、一人社長になると節税面で柔軟に対処することができるようになりますが、その反面、個人事業主のときにはかからなかった費用や負担も発生します。

法人成りを検討するときには、節税のメリットだけでなく、そのようなにデメリットついても十分に考慮したうえで、自身と事業の状況および今後の生活と照らし、総合的に判断しましょう。

手元に多くの資産を残せるように、目先の租税回避ではなく、長期的に安定した節税対策をしていくことが重要です。

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