この記事でわかること
- 自筆証書遺言と公正証書遺言との違いがわかる
- 自筆証書遺言の正しい書き方がわかる
- 5つの要件がわかる
- 作成方法がわかる
- 保管の方法がわかる
2019年に民法が改正され、自筆証書遺言に関する取り扱いも以前とは大きく変わりました。
改正の趣旨は、自筆証書遺言の利用を促進するもので、より広く遺言書を普及させたい国の意図が見えます。
遺言書が残されていれば、故人の遺産をめぐる相続争いが激減し、スムーズな財産の移転が行われるため経済活動が活発になります。
残された家族にとっても国にとっても遺言書は本当に優れもので、万人にとって書いておいて損はないと言えます。
この記事では、自筆証書遺言の作成方法の一部始終を動画でも説明しています。
また、自筆証書遺言のメリット・デメリットや書き方、注意点についても詳しく説明していますので、有効となる遺言書を作成して保管までできるよう、ぜひご覧ください。
目次
自筆証書遺言とは?
自筆証書遺言は、全文を自筆で書く遺言書です。
パソコンや代筆などで作成した遺言書は認められず、日付や本文、署名などすべてを自筆で書く必要があります。
また、作成した自筆証書遺言は、法務局で保管してもらうことができます。
自筆証書遺言のメリットは、他の遺言書と比較して作成時に手間や費用がかからない点です。
一方で、遺言書は法律で厳格に書き方が定められており、少しでもその要件に則っていないと遺言書の効力がなくなるデメリットがあります。
日付や相続人、財産などを特定できるように具体的に記載し、文字の修正や訂正もルールに従って適切に対応できるよう、遺言書の正しい作成方法を確認しておきましょう。
公正証書遺言との違い
自筆証書遺言ではない遺言の種類の1つに、公正証書遺言があります。
公正証書遺言とは、公証役場において公証人により作成された遺言のことです。
遺言を作成しようとする人は、公証役場において公証人に遺言の中身を口述します。
2人の証人の立ち会いのもと、その内容を公証人が書面にまとめて遺言書が作成されます。
自筆証書遺言とは違い、形式的な不備により遺言が無効になることはありません。
また、遺言者が亡くなった時には、裁判所による検認の手続きは必要ありません。
秘密証書遺言との違い
秘密証書遺言は、自筆証書遺言や公正証書遺言とは異なる遺言の種類の1つです。
遺言書自体は、自筆証書遺言と同じように、遺言者自身が作成しなければなりません。
作成した遺言書は、その中身を明らかにしないまま公証役場に持ち込まれ、公証人にその遺言書の存在を証明してもらいます。
自筆証書遺言との違いは、遺言書の存在を公証役場が把握しており、公証役場はその存在を相続人に知らせることができる点です。
公正証書遺言との違いは、公証人や証人に遺言の中身を知られることなく遺言書を作成できることです。
一方、形式面での不備により無効になる可能性がある点は、自筆証書遺言と同じです。
自筆証書遺言の作成方法
ここでは、自筆証書遺言の作成方法を順番に説明していきます。
自筆証書遺言の作成方法
- 必要書類を用意する
- 財産目録を作る
- 財産を渡したい相手とその配分を考える
- 遺言書を書く
一通り読めば必要な書類からおさえておくべき要件、作成方法までわかるので、参考にしてください。
必要書類を用意する
はじめに、自筆証書遺言を作成する目的である「財産の価額」を確認できる以下の書類を用意します。
必要な書類
- 不動産関係の書類:「登記簿謄本」「固定資産税評価証明書」「売買契約書」など
- 有価証券に関する書類:「証券会社の残高証明書」
- 預貯金に関する書類:「各銀行の残高証明書」「貯金通帳」「ネット銀行の残高確認ページ」など
なお、未上場株式の場合は市場価格が不明のため、税理士に依頼し株の評価をしてもらう必要があります。
また、預貯金を複数の金融機関に振り分けている場合、漏れがないように注意しましょう。
財産目録を作る
財産に関する書類を元に、財産目録を作ります。
2019年1月13日に民法が改正されたことにより、財産目録はワープロやパソコンでの作成が可能になりました。
さらに遺言者以外の第三者の手書きでも有効となりました。
財産目録は、財産の内容が誰が見ても一目でわかるように作成することが重要です。
預貯金や不動産・有価証券以外に、借金等の負債を記載することもできるため、漏れがないように作成しましょう。
また、財産目録には、署名・捺印が必要です。
財産目録が両面にわたる場合は、両面ともに遺言者の署名・捺印が必要なので、忘れないように注意してください。
財産を渡したい相手とその配分を考える
受遺者とは「遺言によって財産を受け取る人」のことです。
基本的には、配偶者・子・孫・親や兄妹など法定相続人を指します。
遺言書を作成することにより、法定相続人以外の第三者を受遺者に指名することが可能です。
また、特定の法定相続人にだけ財産を多く受け継がせる方法もあります。
ただし、このような場合は「遺留分の問題」が発生する可能性があります。
遺留分は遺言書があっても覆すことのできない権利のため、遺言書で財産の配分を明確に定めても法定相続人が遺留分を主張すれば争いになります。
これを防ぐためには、法定相続人以外を受遺者に指定する場合をはじめ、特定の法定相続人に多く財産を受け継がせる場合は、専門家に相談して対応策を考えてもらいましょう。
ちなみに、法定相続人以外を受遺者に指名する場合、個人だけでなく団体も可能です。
遺言書を一気に書く
準備ができたら気合を入れて書くだけです。
コツは、下書きをパソコンでできるだけ正確に作っておくことです。
内容だけでなく、書く位置までそろえておけばカンペキです。
遺言書の作成は一番大変な作業ですので、しっかりと準備をしておくことが大切です。
実際に弊社の税理士が、生まれて初めて自筆証書遺言の作成にチャレンジした動画を見てみてください。
これを見れば、準備の大切さや、実際にどんな感じで進めればいいかのイメージが湧くでしょう。
自筆証書遺言の正しい書き方と5つの要件
ここでは、自筆遺言書を作成する際の要件について説明します。
どのような要件があるのかしっかりと把握しておくことが大切です。
遺言を残す本人が自筆する
パソコンで作成した文書や音声データ、動画などの映像データで自筆証書遺言は作成できません。
自筆証書遺言は、遺言者がすべて手書きで作成しなければならないのです。
ただし、上記「財産目録を作る」で説明したとおり2019年1月から遺言書のうち財産目録だけはパソコンでの作成を認めるように法律が改正されています。
パソコンで作成した財産目録にも、署名押印だけは必要となります。
日付をしっかり記入する
日付は「○年○月吉日」といった書き方ではなく、「平成30年6月16日」のように明確に日付が特定できる書き方でなくてはいけません。
日付のゴム印を使うのもNGとなります。
本文と同様に自筆で日付を記入してください。
(過去の判例ではこのような日付の書き方の自筆証書遺言を無効とした事例があります)
署名をする
自筆証書遺言は本人の署名がないと無効になってしまいます。
戸籍通りの名前を書いておくのが手続き上スムーズです。
捺印を忘れない
印鑑は実印である必要はなく、シャチハタ以外の印鑑であれば三文判でも問題はありません。
しかし、なるべく実印を使うことをおすすめします。
封入は民法上の要件ではありませんが、改ざんを阻止する目的でも封筒にいれて保管するのが望ましいでしょう。
封入する封筒にも同じ印鑑を使って封印してください。
訂正する場合は書き方のルールを守る
書き損じてしまった場合は、正しい書き方で訂正しておく必要があります。
法律で自筆証書遺言の訂正要件が定められており、もしこの要件を満たしていなかった場合は、訂正が認められないこともありますのでご注意ください。
訂正要件
- 訂正箇所を指示する
- 訂正箇所に押印する
- 変更した旨を記載して署名する
具体的に説明すると、まず訂正箇所に取り消し線を引いて訂正後の内容を記載し、訂正箇所には印鑑を押します。
そして、遺言書の余白部分に変更した旨を記載し、署名をしてください。
変更内容は「本行 〇字削除〇字追加」のように訂正文字数を具体的に書くようにしましょう。
訂正箇所が多くて正しく訂正できているか不安な方は、新しく遺言書を作成し直すことをおすすめします。
自筆証書遺言の書き方の文例
自筆証書遺言を清書する前に、ほぼカンペキな文章をパソコンで作っておきましょう。
遺言書について色々と説明しましたが、完成形の文例を見たほうがイメージが湧きやすいかもしれません。
まずは文例を真似て作ってみて、自分の希望に沿わない部分だけを修正していく方法がよいでしょう。
以下に、実際に作成した遺言書を掲載します。
オレンジ色のポイントに注意して参考にしてみてください。
完成系の文例を真似て作る場合は、できるだけご自身の内容に近い文例を使ったほうが手軽に書けます。
内容別にたくさんの遺言書の文例を掲載している「遺言書の書き方・文例・見本・サンプル集」をぜひご覧ください。
自筆証書遺言の6つの注意点
遺言書が無効になれば、もともと作ってなかったのと同じだけと思うかも知れませんが、それは間違いです。
無効な遺言書に記載されていた相続人は「もしこれが有効だったら、もっと財産がもらえていた」という精神面でのしこりだけを家族の間に残してしまいます。
したがって、作成の手軽な自筆証書遺言であったとしても、専門家のアドバイスは必ず受けたほうが良いでしょう。
ここからは、自筆証書遺言を作成するときの6つの注意点について説明します。
自筆証書遺言を作成するときの6つの注意点
- 要件を満たさない遺言書は無効になる可能性がある
- 2人以上で一緒に作成したものは無効(例:夫婦連名で1枚の遺言書を残す)
- 財産が具体的に特定できない書き方のものは手続きに使えない可能性がある
- 認知症の人は作成時点の症状により無効になる可能性がある
- 遺言書が複数見つかった場合は古いほうが無効
- 家庭裁判所の検認が必要
それでは1つずつ見てみましょう。
遺言書の要件を満たさないものは無効
自筆証書遺言書は、要件を満たさないものは無効になってしまいます。
上記で解説した自筆証書遺言の5つの要件を守って作成しましょう。
自筆証書遺言書は手書きで作成し、日付、署名、押印を忘れずにしてください。
訂正する場合は、書き方のルールを間違えないように訂正しましょう。
2人以上で一緒に作成したものは無効
法律上、遺言は2人以上の人が共同で残せません。
例えば、夫婦が連名で子供達のために1枚の遺言書を残す行為は法的に認められません。
夫婦それぞれが「自分の意思を遺言書にこめたい」という場合には内容について事前によく話し合いを行い、最終的にどちらか1名の名前で遺言書を残すと良いでしょう。
財産が具体的に特定できない書き方のものは無効
財産について指定する場合にはあいまいな表現は避け、正確な表現で、財産を特定する必要があります。
例えば、土地や建物については登記簿謄本に記載されている内容・項目をそのままを書かなくてはなりませんし、預貯金については支店名や口座種類、口座番号までを詳細かつ正確に書く必要があります。
土地や建物については相続が行われた後、相続人はすみやかに相続登記の手続きを行ないましょう。
認知症の人は作成時点の症状により無効
遺言書を残すためには、作成する時点で遺言者に正常な意思能力がなければなりません。
意思能力に不安がある方は、自筆証書遺言ではなく、公正証書遺言を利用すれば有効性について問題となりにくくなります。
過去の裁判例ではうなずくことしかできない状態の人が残した遺言や、複数残されていた遺言書で相互に矛盾がある遺言の場合には無効となった事例があります。
ただし、公正証書遺言であれば、常に有効というわけではありません。
遺言書が複数見つかった場合は古いほうが無効
遺言者が亡くなった際に、2通以上の遺言書が見つかった場合、遺言書の内容がもう一方の内容と抵触していると、作成日付の新しいほうの遺言書が有効になり、古いほうは無効となります。
ただし、古いほうの遺言書の内容すべてが無効となるわけではなく、抵触している部分のみが無効となり、それ以外の部分は有効のままです。
したがって、一度作った遺言書の内容を大きく修正したい場合は、新しい日付でイチからすべて作ってしまうほうが確実です。
その場合は先に作った遺言書を撤回する旨を明確に示すことが望ましいでしょう。
ちなみに、古いほうが「公正証書遺言」、新しいほうが「自筆証書遺言」だったとしても、公正証書遺言の内容が自筆証書遺言の内容に抵触していれば自筆証書遺言が有効となります。
基本的には家庭裁判所の検認手続きが必要
自筆証書遺言書を発見した場合、それを家庭裁判所に持ち込んで「検認(けんにん)」の手続きの申請をしなければなりません。
遺言書が封入されている封書を、検認の前に誤って開封してしまった場合、5万円以下の罰金が課される恐れがあります。
ただし、開封してしまったからといって遺言書自体が無効になるわけではありませんので、開封後も通常どおり検認の手続きを行いましょう。
検認は遺言書の存在の有無を明確にし、偽造などを避ける目的で行なわれるものです。
検認したからといって、その遺言書が法的に有効と証明されるわけではありません。
なお、2020年7月以降は、法務局による保管制度を利用すればこの手続きが省略できます。
まとめ
遺言書を作成する際には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言のいずれかを選択して作成することとなります。
このうち自筆証書遺言を作成する場合は、遺言書の作成にかかる費用を抑えられるメリットがあります。
一方、自筆証書遺言は自身で作成しなければならず、要件を満たさなければ無効になってしまうリスクがあります。
確実に遺言書を成立させたい場合には、自筆証書遺言ではなく公正証書遺言を作成することも検討する必要があります。
その際は専門家に相談し、最善の方法を選択するようにしましょう。
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