この記事でわかること
- 相続税申告と遺産分割協議を行わなければならない期限がわかる
- 遺産分割協議を相続税の申告前に成立させるべき理由がわかる
- 遺産分割協議が成立しない場合の相続税の申告方法を知ることができる
亡くなった人(被相続人)が保有していた遺産は、相続人の誰かが相続しなければなりません。
遺言書がない場合、誰がどの遺産を相続するのかを決定するのは、相続人全員で行う遺産分割協議です。
しかし、遺産分割協議は遺産を引き継ぐ人を決定する重要な手続きであるため、簡単に成立するとは限りません。
遺産分割協議が成立しない場合、相続税申告の期限を迎えてしまうことも考えられます。
今回は、遺産分割協議の期限と相続税申告の期限について、解説していきます。
相続税申告と遺産分割協議の期限
税金の申告には、それぞれ申告期限と税金の納付期限が設けられています。
相続税の申告期限については、どのように定められているのでしょうか。
また、遺産分割協議の期限は、どのように決められているのでしょうか。
相続税申告の期限
相続税の申告期限と相続税の納付期限は、ともに相続開始があったことを知った日の翌日から10か月以内と定められています。
たとえば1月10日に亡くなった人がいる場合、通常は11月10日が申告期限・納付期限となります。
「相続開始があったことを知った日」という表現になっているのには理由があります。
それは、亡くなった人がいても、自身が相続人となっていることを知らないケースが考えられるためです。
たとえば法定相続人である子どもが全員相続放棄し、次順位の法定相続人である親などの直系尊属も全員亡くなっていたとします。
この場合、法定相続人となるのは被相続人の兄弟姉妹です。
ただ、兄弟姉妹は相続の発生を知っていたとしても、自身が相続人となっていることを知るのは後になってからです。
そこで、「相続開始があったことを知った日」とすることで、亡くなってから10か月ではないことを明確にしています。
相続の申告期限や納付期限を守れない場合には、様々なデメリットがあります。
申告期限までに相続税申告ができなければ、相続税の特例を適用できず、相続税額が増えてしまう場合があります。
また、申告期限や納付期限を守れないと、加算税や延滞税などのペナルティが科される場合があります。
遺産分割協議の期限
遺産分割協議は、被相続人が残した遺産を誰が引き継ぐのか決定する話し合いのことです。
被相続人が遺言書を作成している場合は、遺産分割協議を行う必要はありません。
ただ、遺言書を作成していない場合には、必ず相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。
遺産分割協議を行う際に、相続発生後いつまでに成立させなければならないのだろうと疑問に思う方がいるでしょう。
実は、遺産分割協議には、いつまでにしなければならないという期限はありません。
決められた期限内に協議を成立させなければ、罰則が科されるということもありません。
そのため、場合によっては何年にもわたって遺産分割協議を継続することもあり得ます。
相続税申告前に遺産分割協議を成立させるべき理由
遺産分割協議を成立させる期限はないため、すべての相続人が納得するまで話し合いが行われることもあります。
ただ、遺産分割協議を成立させて相続税申告を行う方が、様々な面でメリットがあります。
具体的にどのようなメリットがあるのか、確認しておきましょう。
相続税の特例が適用できる
相続税の特例の適用を受けると、納付すべき相続税額が大幅に減額されるものがあります。
ただ、これらの特例を適用するには様々な要件がありますが、特に誰がどの遺産を取得したのかを確定させなければなりません。
相続税の特例の適用を受けるためには、遺産分割協議を成立させておく必要があるといえます。
物納ができる
遺産分割協議が成立し、誰がどの遺産を引き継ぐのか確定している場合には、相続税の物納が利用できるようになります。
通常、相続税の納付は現金によって行う必要があります。
ただ、手持ちの現金が少ない場合、要件をクリアすると物納が認められることがあります。
遺産分割協議が成立していなければ、物納に必要な手続きを行うことはできないとされています。
申告の二度手間を避けられる
遺産分割協議が成立しない場合でも、相続税申告の期限はやってきます。
遺産分割協議ができないからといって、相続税の申告期限が伸びることはありません。
そこで、一度は申告期限内に相続税申告を行い、その後、遺産分割協議成立後に修正申告を行う必要があります。
しかし、2回にわたって申告しなければならず、修正申告によりペナルティを受ける可能性もあるため、この方法にメリットはありません。
相続税申告前に遺産分割協議が成立していれば、相続税申告は1回で済みます。
遺産分割協議と相続税申告の流れ
遺産分割協議と相続税申告は、いずれも相続発生後の同じような時期に並行して進めなければなりません。
それぞれどのように進め、2つの手続きはどう関係するのか、確認していきます。
①遺産分割協議を行う
遺産の内容を確認し、その遺産を誰が相続するのかを話し合いで決定します。
なお、遺産には借入金や未払金などの債務も含まれるため、債務を引き継ぐ人も同時に決定しなければなりません。
また、遺産分割協議にはすべての相続人が参加するものとされています。
②遺産分割協議書を作成する
遺産分割協議で誰がどの遺産を相続するか決定したら、その内容を書面にする必要があります。
遺産分割協議の内容をまとめた遺産分割協議書を作成し、この後あらゆる手続きの場面において用います。
③相続税の計算を行う
遺産分割協議が成立すると、その内容に従って相続税の申告書を作成します。
また、各相続人が納付する相続税の額は、遺産分割により引き継いだ遺産の額により案分されます。
そのため相続税の額は、遺産の総額がわかっているだけでは計算できないこととされています。
遺産分割の方法まで確定しなければ計算できないため、遺産分割協議書を先に作成する必要があります。
各相続人の税額を求めたら、納付期限までに納付しなければなりません。
④相続税申告を行う
前述したように、相続税の納税と相続税申告は申告期限までに行わなければなりません。
原則として、相続税申告はすべての相続人が共同で行うものとされています。
ただし、やむを得ない事情がある際には、各相続人が別々に申告することも認められています。
遺産分割協議が成立しないときの相続税申告方法
遺産分割協議を行ってから相続税の計算を行うのが、原則的な相続税の計算方法です。
ただ、遺産分割協議には期限がない上、相続人同士で揉めるケースもあり、なかなか成立しないことがあります。
相続税の申告期限・納付期限が厳格に定められているため、遺産分割協議が成立しない場合、どのように対処するのでしょうか。
相続税の期限内に法定相続分に基づいた申告を行う
遺産分割協議が成立しなくても、相続税の申告期限・納付期限が延長されるわけではありません。
そのため、相続が発生してから10か月以内に相続税額の計算を行い、申告しなければなりません。
ただ、遺産分割協議が成立しなければ、本来相続税の計算はできません。
この場合、すべての遺産を法定相続分で分割し相続したものとして、各相続人の相続税額を計算します。
その後、遺産分割協議が正式に成立したら、相続税の修正申告あるいは更正の請求により、相続人ごとの税額を計算し直します。
特例適用のために書類を用意する
相続税には、遺産分割が成立しなければ適用できない特例がいくつかあります。
これらの特例は、特定の相続人が相続した場合にのみ適用されるため、未分割となっている場合には適用できないこととされています。
ただ、相続税の申告期限・納付期限までに遺産分割が成立していなくても、適用を受けられる方法があります。
それは「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出することです。
この見込書を提出することで、遺産分割協議が申告期限後3年以内に成立すれば、特例が適用できるようになります。
まとめ
相続が発生し、相続税の申告期限・納付期限まで10か月あり、十分に間に合うと思っている方が多いでしょう。
しかし、様々な手続きをしなければならず、相続人同士の意見の対立もあることから、10か月以内に成立しないことも多くあります。
そこで、遺産分割協議が成立しない場合の相続税の申告方法についても、確認しておく必要があります。
遺産分割協議には期限がない一方、相続税申告には期限があるので、間違えないようにしましょう。