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最終更新日:2024/6/5

生産緑地とは?指定されるメリット・デメリットや2022年問題について

古尾谷 裕昭
この記事の執筆者 税理士 古尾谷裕昭

ベンチャーサポート相続税理士法人 代表税理士
東京税理士会 登録番号104851

東京、横浜、千葉、大宮、名古屋、大阪、神戸など全国の主要都市22拠点にオフィス展開し、年間2,200件を超える日本最大級の相続税申告実績を誇る。 業界最安水準となる明朗料金ときめ細かいフォローで相続人の負担を最小にすることを心がけたサービスが評判を得る。1975年生まれ、東京都浅草出身。

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この記事でわかること

  • 生産緑地制度の仕組みやメリット・デメリットがわかる
  • 「生産緑地の2022年問題」とその結果がわかる
  • 生産緑地の指定を解除する条件や手続きがわかる

都市部にご自身や親族が住んでいる方は、街中の農地や森林で「生産緑地地区」と書かれた看板を見かけることがあるでしょう。

生産緑地は、看板に地元自治体名で「○○都市計画」と併記されているように、街づくりに重要な役割を担っている土地です。

生産緑地の所有者には緑地を保全する義務が課されていますが、所有する農地を生産緑地に指定してもらうことで大きなメリットも得られます。

今回は、生産緑地制度の仕組みと、そのメリット・デメリットや、近年話題になった「2022年問題」についてわかりやすく解説します。

生産緑地とは

生産緑地とは、市街化区域内で一定の要件を満たす土地について、市区町村が都市計画で指定した農地や森林のことです。

この指定によって、建築行為などを許可制にして規制することができます。

生産緑地は、住みよい街づくりのための制度

人口が集中して都市化が急速に進む地域では、農地や森林が次々に開発され、住宅地や商業地が整備されていきます。

一方、雨水を吸収して地盤を保持する機能を有し、また、地元の農林漁業の基盤でもある農地や山林は、都市の中に残すべき地域の財産でもあるといえるでしょう。

都市化の推進と農地や森林の保全との調和を図り、住みよい街づくりを円滑に行うために設けられたのが、生産緑地制度です。

生産緑地制度に関する法律用語

生産緑地についての理解を深めるには、街づくりに関する法令に使われる法律用語についての正しい知識が欠かせません。

ここで、生産緑地の解説に頻出する「都市計画」と「市街化区域」という二つの法律用語について確認しておきましょう。

都市計画

都市計画法という法律に基づき、都道府県や市町村(または国土交通大臣)が、都市の整備や開発、保全の方針を定めた計画を 「都市計画」といいます。

都市計画は、都市が秩序ある整備によって健全に発展するために、土地の使い途や市街地開発事業などについて定めることとなっています。

市街化区域

都市計画において、すでに市街地化している区域と、概ね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域として指定されるのが 「市街化区域」です。

市街化区域は、都市化を重点的に促進するエリアとして、地域ごとに建設できる建物の規模や用途に制限が設けられます。

生産緑地は都市計画で指定された特別な農地

田舎にも都会にも農地はありますが、以下の3つの農地だけが生産緑地に該当します。

  • (1)市街化区域内であること
  • (2)生産緑地法が定める3つ要件を満たしていること
  • (3)都市計画で指定を受けた農地であること

もともと、農地は農地法によって売買や転用などが許可制になっていますが、 農地だからただちに生産緑地と同じ扱いを受ける、という訳ではありません

生産緑地の2022年問題とは

生産緑地に関するトピックで最近大きく取り上げられたのが「 2022年問題」でした。

ここでは、2022年問題を回避するため、2017年に導入された新たな制度の内容も含めて解説します。

2022年問題は「生産緑地の大量一斉解除」への危惧

生産緑地に指定されることで受けられる税制優遇や、指定条件の緩和が1992年の法改正により実施され、多くの都市農地が生産緑地になりました。

生産緑地の指定から30年が経過した後は、土地所有者はいつでも市区町村に生産緑地の買取りを請求することができます。

このため、2022年に大量の生産緑地が一斉解除され、 宅地の過供給や都市緑地の急減が起こる恐れが「2022問題」として議論されました

2022年問題対策として特定生産緑地制度が誕生

生産緑地制度の維持のため、2017年の法改正で新たに導入されたのが 「特定生産緑地制度」です。

この制度は、 生産緑地の指定から30年が経過する前に、所有者の提案を受けて市区町村が当該土地を特定生産緑地に指定する、というものです。

特定生産緑地に指定されると、土地所有者の買取り申出期間が10年延長され、その間は引き続き税制の優遇が受けられます。

ほぼ9割の生産緑地所有者が新制度を利用

2017年の法改正では、特定生産緑地制度の導入の他に生産緑地の行為制限の緩和も行われ、土地所有者に制度が受け入れられやすくなりました。

国土交通省が公表した調査結果によれば、2022年末の時点で、 1992年に指定を受けた生産緑地の89.3%が特定生産緑地となっています

特定生産緑地の指定状況
引用:「特定生産緑地の指定状況に関する調査結果」(国土交通省)

生産緑地に指定される要件

生産緑地に指定されるための土地の要件については、生産緑地法の第三条第一項に規定されています。

市街化区域内の土地のうち、次の3つの要件を満たした農地や森林は、市区町村の都市計画において生産緑地地域に指定されることができます。

(1)良好な生活環境を守る相当の効用があること

要件の1つめは、公害または災害の防止や、農林漁業との調和など、 地域住民にとって良好な都市環境の確保に相当の効用があることです。

また、その土地が「公共施設等の敷地の用に供する土地として適しているもの」であることも、併せて必要とされています。

(2)一定以上の面積規模があること

要件の2つめは、500平方メートル以上の規模の区域であることです。

ただし、 市区町村が条例を定めることによって、この面積要件を300平方メートルまで緩和することができます。

(3)農林漁業の継続が可能であること

要件の3つめは、用排水などの状況を勘案して、 その土地が農林漁業の継続が可能な条件を備えていると認められるものであることです。

指定した区域での建築行為等を許可制にすることで規制し、都市農地の計画的な保全を図ることが、生産緑地制度の主な目的であるためです。

生産緑地に指定されるメリット・デメリット

市区町村の都市計画によって生産緑地に指定された土地の所有者は、税制面での優遇を受けることができます。

一方、先に述べた通り、生産緑地制度は「都市農地の計画的な保全」が目的のため、指定を受けた土地は用途の制限を受けることになります。

こうした生産緑地に指定されることのメリットとデメリットについて、順に見ていきましょう。

生産緑地のメリットとなる税制優遇は3種類

生産緑地の指定を受けた土地は、以下の 3種類の税制優遇を受けられるというメリットがあります。

  • (1)固定資産税の軽減
  • (2)贈与税の納税猶予
  • (3)相続税の納税猶予

それぞれについて、詳しく見ていきましょう。

固定資産税は農地評価により大幅に軽減

区分 評価方法 課税計算方法
市街化区域農地 生産緑地 農地評価 農地課税
一般市街化区域農地 宅地並評価 農地課税に準じる
三⼤都市圏の特定市の
市街化区域農地
(特定市街化区域農地)
宅地並評価 宅地並課税

参考:農林水産省

市街化区域内にある農地は宅地への転用が容易であるため、固定資産税評価額は基本的に宅地並みになります。

一方、生産緑地は宅地よりも評価額が大幅に低くなる農地として扱われるため、 固定資産税が数%程度まで軽減されます。

贈与税・贈与税は条件が満たされれば納税が猶予される

贈与や相続では受贈者や相続人に税金がかかりますが、生産緑地の贈与や相続では、 一定の条件を満たすことで納税の猶予を受けることができます

納税の猶予期間は、贈与の場合は贈与者または受贈者の死亡日まで、相続の場合は相続人の死亡日または農業後継者へ生産緑地を生前贈与した日までです。

なお、受贈者や相続人が生産緑地での営農を止めた場合、あるいは必要な手続きを怠った場合などには、猶予が打ち切られてしまうので注意が必要です。

生産緑地のデメリット:用途が農業に限定されること

税制優遇というメリットがある生産緑地ですが、その指定を受けるには、 土地を農地として利用し続けなければならないというデメリットもあります。

生産緑地は長期にわたる営農の義務がある

生産緑地の指定を受けた土地は、 指定から30年間、農地として使用管理し続けなければなりません

また、土地の所有者には営農を継続するために要する設備などの管理も義務付けられています。

なお、2018年に施行された新法により、生産緑地の貸付けがしやすくなり、土地所有者の管理負担が軽減されています。

生産緑地の用途は農業に限定される

都市農地の保全が生産緑地制度の目的なので、生産緑地の指定を受けた土地は、 他の用途への転用や売却ができません

建物の建設や増改築、土地の造成工事をする場合には原則として市区町村の許可が必要となります。

なお、2017年の生産緑地法改正により、農家レストランや直売所等の収益的事業を行うための施設も、設置が認められるようになりました。

生産緑地の指定解除をする流れ・必要書類

生産緑地は、良好な都市環境の確保のために都市計画上重要な位置付けがされており、指定の解除には制限が設けられています。

ここでは、生産緑地の指定を解除するための条件や手続きの流れ、必要書類について解説します。

主たる従事者が死亡した場合

生産緑地の指定から30年の間に営農従事者が死亡した場合、後継者は生産緑地での営農を継続するか否かを判断しなければなりません。

営農をやめることとした場合、生産緑地の所有者は、 はじめに市区町村へ土地の買取りを申し出ることになります。

そして、3カ月以内に市区町村または市区町村があっせんする農林漁業従事者による買取りが行われなかったときに、生産緑地の指定が解除されます。

主たる事業者の死亡により生産緑地の指定解除を希望する場合は、原則10カ月以内に、以下の書類を揃えて市区町村へ提出します。

※東京都八王子市の例
必要書類 備考
1 生産緑地買取申出書 実印を押印
※印鑑証明書を添付
※買取申出対象地が多い場合は別紙一覧別紙を添付
2 主たる従事者についての証明書 農業委員会が発行したもの
3 戸籍(除籍)全部事項証明書等 主たる従事者が死亡したことが分かる書類
発行日から3カ月以内のもの
4 【原本】登記事項証明書(全部事項) 発行日から3カ月以内のもの
5 【原本】公図の写し 発行日から3カ月以内のもの
6 買取申出同意書 (共有名義の場合)
実印を押印
※共有名義人全員の印鑑証明書を添付
7 委任状 (代理人が申請する場合)
実印を押印
8 権利を消滅させる旨の誓約書等 (抵当権など所有権以外の権利がある場合)
※相続税等の納税猶予を原因とする抵当権の債務者となっている場合は提出不要
9 【原本】 所有者の出生から死亡までの戸籍(除籍)全部事項証明書等及び遺産分割協議書 (所有者死亡による相続未登記の場合)

主たる従事者が営農不能な故障をした場合

生産緑地の指定から30年の間に、営農従事者がケガや病気などで農業を継続できない状態になった場合も、生産緑地の指定解除ができます。

この場合も、生産緑地の所有者は、まず市区町村へ土地の買取りを申し出ることになります。

そして、3カ月以内に市区町村または市区町村があっせんする農林漁業従事者による買取りが行われなかったときに、生産緑地の指定が解除されます。

主たる事業者の故障により生産緑地の指定解除を希望する場合は、以下の書類を揃えて市区町村へ提出します。

※東京都八王子市の例
必要書類 備考
1 生産緑地買取申出書 実印を押印
※印鑑証明書を添付
※買取申出対象地が多い場合は別紙一覧別紙を添付
2 主たる従事者についての証明書 農業委員会が発行したもの
3 医師の診断書等 農林漁業従事不可能である旨の証明
4 【原本】登記事項証明書(全部事項) 発行日から3カ月以内のもの
5 【原本】公図の写し 発行日から3カ月以内のもの
6 買取申出同意書 (共有名義の場合)
実印を押印
※共有名義人全員の印鑑証明書を添付
7 委任状 (代理人が申請する場合)
実印を押印
8 権利を消滅させる旨の誓約書等 (抵当権など所有権以外の権利がある場合)
※相続税等の納税猶予を原因とする抵当権の債務者となっている場合は提出不要

参考:八王子市

指定後30年が経過した場合

生産緑地の指定から30年が経過した後は、生産緑地の所有者はいつでも、市区町村へ土地の買取りを申し出ることができます。

3カ月以内に市区町村または市区町村があっせんする農林漁業従事者による買取りが行われなかったときに、生産緑地の指定が解除されます。

この場合は、市区町村に以下の書類を提出して手続きします。

※東京都八王子市の例
必要書類 備考
1 生産緑地買取申出書 実印を押印
※印鑑証明書を添付
※買取申出対象地が多い場合は別紙一覧別紙を添付
2 【原本】登記事項証明書(全部事項) 発行日から3カ月以内のもの
3 【原本】公図の写し 発行日から3カ月以内のもの
4 【原本】所有者全員の印鑑登録証明書 発行日から3カ月以内のもの
5 買取申出同意書 (共有名義の場合)
実印を押印
6 委任状 (代理人が申請する場合)
実印を押印
7 権利を消滅させる旨の誓約書等 (抵当権など所有権以外の権利がある場合)
※相続税等の納税猶予を原因とする抵当権の債務者となっている場合は提出不要
8 【原本】 所有者の出生から死亡までの戸籍(除籍)全部事項証明書等及び遺産分割協議書 (所有者死亡による相続未登記の場合)
9 指定後30年を経過した生産緑地買取り申出受付表

参考:八王子市

まとめ

生産緑地は、営農の義務があり自由に利用できない一方、税制面で大きな優遇装置が与えられています。

生産緑地の指定やその解除は、メリットとデメリットを正確に把握することが難しいので、検討している方は弁護士などの専門家に相談しているとよいでしょう。

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