この記事でわかること
- 任意後見制度とはどのような制度なのかを知ることができる
- 任意後見制度と成年後見制度の違いやメリット・デメリットがわかる
- 任意後見制度を利用する際の手続きや費用について知ることができる
後見人という言葉を聞いたことがある人は、多くいるかもしれません。
しかし、実際にそのような制度を利用している人は決して多くはないでしょう。
そこで、ここでは任意後見制度について解説していきます。
任意後見制度と成年後見制度の違いや、利用する際の手続きについて知ることで、ご自身や親御さんの将来的な不安を解消しておきましょう。
任意後見制度とは
任意後見制度とは、判断能力が低下した時に備えて、あらかじめ任意後見人を選定しておくことで老後の生活を守る制度です。
任意後見人は、財産の管理や身の回りの支援を行ってくれる人であり、判断能力が低下した人の生活を支える役割があります。
任意後見制度には、大きく分けて3つのタイプがあります。
1つめの「即効型」は、任意後見契約を締結してすぐに任意後見を開始する場合です。
ただし、任意後見契約を締結する時点では判断能力がなければなりません。
そのため、契約締結後すぐに任意後見を開始するケースはそれほど多くないと考えられます。
2つめは「将来型」です。
判断能力があるうちに任意後見契約を締結し、判断能力が衰えたら家庭裁判所に申立を行い、任意後見を開始します。
この場合、実際に任意後見が開始されるまでどれくらいの時間がかかるかわかりません。
そのため、契約を締結していても、任意後見を利用せずに亡くなってしまうということも起こりうるのです。
3つめは「移行型」です。
任意後見契約を締結した際に、まずは財産管理などの支援を開始することができます。
その後、判断能力が低下したら、家庭裁判所での手続きのうえ、財産管理以外も含めた支援を行う任意後見に移行するのです。
契約締結から亡くなるまで、総合的に支援を受けることができ、利用者にとって不安の少ない方法といえます。
任意後見制度と成年後見制度の違い
前述したように、任意後見制度は判断能力が衰える前に自身で任意後見人を決定する制度です。
また、任意後見人に対して依頼する内容を決めておくことも可能です。
これに対して、判断能力が低下した人の後見人をその親族などが決める制度を、法定後見制度といいます。
すでに自分で判断することができなくなったため、周囲の人の申立により後見人を決める方法です。
そして、任意後見制度と法定後見制度の2つの制度をあわせて、成年後見制度といいます。
成年後見制度は、判断能力が低下した人をサポートするための制度ですが、これまで述べてきたようにその内容により2つに区分することができるのです。
任意後見制度のメリット・デメリット
任意後見制度とはどのような制度なのか、おおまかに理解していただけたのではないでしょうか。
それでは、任意後見制度にはどのようなメリットやデメリットがあるのかを見ていきましょう。
任意後見制度のメリット
任意後見制度のメリットは、なんといっても後見人や後見の内容について本人の希望を反映させることができることです。
まだ本人の判断能力が低下する前であるため、希望を織り込んだ形の契約書を作成することができるのです。
これに対して法定後見制度の場合、本人の判断能力はすでに失われた状態で契約するため、本人の希望は反映されません。
また、法定後見人は家庭裁判所が選任するため、誰が後見人となるかわからない点にも大きな違いがあります。
任意後見制度のデメリット
任意後見制度のデメリットとしてあげられるのは、本人の判断能力が低下した状態では利用できないことです。
元気なうちに契約を締結しておかないと、本当に後見人が必要となった場合に法定後見制度を利用するしかありません。
また、任意後見契約は亡くなるとその契約が終了します。
そのため、亡くなった後の葬儀や遺産の処分については、別に契約しておく必要があるのです。
任意後見制度の利用が向いている方
任意後見制度を利用することができるのは、判断能力が低下していない人に限られます。
そのため、大前提として判断能力に問題がない状態でなければなりません。
そのうえで、判断能力が低下した時にどのようなことを依頼したいのか、その内容がはっきりしている場合は任意後見制度が向いています。
自宅を売却する際に条件をつけたい、あるいはどのような介護サービスを利用したいのかといったことを決めておくことができるのです。
また、自身の判断能力が低下した際に、誰に後見人になってもらうかは大きな問題です。
任意後見制度を利用する場合は、誰を後見人とするかを指定することができます。
法定後見制度の場合は、後見人を家庭裁判所が選任するため、自分で決めておくことはできません。
このことは、任意後見制度を利用する上で大きなポイントとなります。
任意後見制度の手続き方法・必要書類
それでは、任意後見制度を利用する際には、どのような手続きを経る必要があるのでしょうか。
その手続きの流れや、必要な書類について確認していきましょう。
任意後見受任者を決める
任意後見制度を利用するためには、任意後見人の候補者となる任意後見受任者を決めなければなりません。
任意後見受任者となる人は、公的な資格が必要なわけでも、親族でなければならないわけでもありません。
個人的に信頼のおける人であれば、友人、親族、知り合いといった人を任意後見受任者とすることができます。
もちろん、親族を任意後見受任者とすることもできますし、法人を任意後見受任者とすることもできます。
ただし、任意後見人となることができない人もいます。
未成年者、破産者は任意後見人となることはできません。
また、本人に対して訴訟している者や過去に訴訟した者及びその親族も、任意後見人となることはできません。
さらに、不正な行為を行ったために任意後見人となるのがふさわしくないと判断された者も、任意後見人になることはできません。
任意後見人にしてもらいたいことを決める
任意後見制度を利用する場合、任意後見人に対する依頼内容は自由に決めることができます。
そこで、任意後見人に対して何をしてもらいたいか、その内容を考えておきましょう。
介護や看護に関することだけでなく、身の回りの世話に関することや、死後のことを依頼することもできます。
ただ、死後についての内容は任意後見人として行うことではないため、別に死後事務委任契約を結ぶ必要があります。
お墓参りに年2回行きたい、ペットの世話をしてほしいといった具体的な内容を決めておく方が、スムーズに契約できるでしょう。
まずはどのような内容を希望するのか、自分で書き出したうえで、任意後見受任者と話し合いを行い決定します。
任意後見契約の締結
任意後見受任者となる者を定め、後見の内容を定めたら、本人と任意後見受任者の間で任意後見契約を締結します。
この契約を締結する際には、本人と任意後見受任者とで公証役場に行き、公正証書による契約書を作成しなければなりません。
仮に公正証書によらずに契約しても、その契約は無効とされてしまうため、注意が必要です。
公正証書を作成するためには、公証役場に行かなければなりませんが、特別な事情がある場合には自宅に来てもらえます。
日時や目的については、必ず事前に打ち合わせしておくようにしましょう。
なお、契約にあたって必要となる書類には、以下のようなものがあります。
- (1) 戸籍謄本
- (2) 住民票
- (3) 運転免許証
- (4) 印鑑登録証明書
- (5) 財産目録
このほかにも、個別の状況に応じて必要となる書類があります。
必要書類についても、事前に公証人に確認して準備していきましょう。
なお、任意後見契約を締結したからといって、すぐに後見が開始されるわけではありません。
契約により、将来的にその人の支援を行う後見受任者を決定したということになるのです。
任意後見監督人選任の申立
任意後見契約を締結した後、実際に任意後見受任者の支援を必要とする状況になったとしましょう。
本人の判断能力が低下し、様々なことが自分でできなくなってしまった場合です。
そのような状況になった場合、任意後見監督人の選任の申立を家庭裁判所に行います。
任意後見監督人は、任意後見人が任意後見契約の内容のとおりに仕事をしているかを監督する人です。
また、被後見人と任意後見人の利益が相反する場合には、被後見人の代理を行うこともあります。
任意後見制度を利用するにあたっては、必ず選任しなければならない人なのです。
本人の判断能力が低下してきたからといって、家庭裁判所が自動的に任意後見監督人を選任するわけではありません。
そのため、任意後見の利用を開始する時には任意後見監督人の選任を行うための申立を行う必要があるのです。
申立を行うことができるのは、本人のほか、任意後見受任者、配偶者、四親等以内の親族です。
本人の所在地にある家庭裁判所に申立を行いますが、この時、任意後見監督人の候補者を推薦することができます。
ただ、推薦したものが任意後見監督人にふさわしいのかを家庭裁判所が審理するため、必ず選任されるとは限りません。
また、いったん審理が始まると、その申立の取下げはできないため注意が必要です。
申立に必要な書類は数多くあり、以下のような書類を準備しなければなりません。
- (1) 申立書
- (2) 申立事情説明書
- (3) 本人の財産目録及び資料
- (4) 本人の収支状況報告書及び資料
- (5) 任意後見受任者事情説明書
- (6) 親族関係図
- (7) 戸籍謄本
- (8) 住民票
- (9) 後見登記事項証明書
- (10) 後見登記されていないことの証明書
- (11) 任意後見契約公正証書の写し
- (12) 成年後見用の診断書
任意後見監督人には、一般的に親族ではない第三者が選任される傾向があります。
弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門職のほか、法律関係、福祉関係に従事する法人などが選ばれます。
また、任意後見受任者の親族の一定の人については、任意後見監督人になることができないとされています。
任意後見監督人の選任
任意後見監督人の選任は、家庭裁判所が行います。
候補者が申立の際に推薦されている場合でも、必ずその人になるとは限りません。
本人や任意後見受任者の個別の事情を考慮し、適切と思われる人選を行うのです。
その後、選任された結果については、家庭裁判所から任意後見受任者に郵送されます。
任意後見監督人が選任されると、任意後見受任者は任意後見人となり、契約で定めた支援の内容を実施することとなります。
なお、任意後見監督人の人選に不服がある場合でも、不服申立をすることはできません。
また、さかのぼって申立を撤回することもできません。
前述したように、任意後見監督人に選任されるのは多くが専門職で、本人の利益を守るのに適しているとして選任されるため、不服申立や取り消しを受けないこととされています。
任意後見制度の利用にかかる費用と相場
任意後見制度を利用する際には、手続き上必要な費用があります。
また、任意後見人や任意後見監督人が仕事を行うため、その報酬を支払う必要があります。
それぞれ、どれくらいの費用がかかるのでしょうか。
任意後見制度の利用に必要な費用
任意後見制度の利用にあたっては、公正証書による契約書を作成する費用と、任意後見監督人の選任申立にかかる費用が必要です。
公正証書の作成手数料については、基本手数料11,000円、登記嘱託手数料1,400円、印紙代2,600円などがかかります。
また、任意後見監督人の選任申立時には、収入印紙が2,200円、切手代が5,000円程度かかります。
なお、本人の精神鑑定が必要な場合には、別に5~10万円程度必要となります。
任意後見人に対する報酬
任意後見人との契約内容は自由であるため、報酬についても特に定めがあるわけではありません。
また、親族が任意後見人となる場合は、報酬をゼロとするケースも多くあります。
ただ、弁護士などの専門家に任意後見人を依頼する場合は、無報酬とはならないでしょう。
一般的に、管理する財産の額に応じて報酬の額を決めることが多いと言われています。
1,000万円以下で月額2万円、1,000万円~5,000万円で月額3~4万円、5,000万円以上で月額5~6万円といった感じです。
また、後見の内容によっては、この金額に上乗せすることも十分に考えられます。
任意後見監督人に対する報酬
任意後見監督人として選任された人に対しても、報酬が発生します。
家庭裁判所がその金額を決定することとなりますが、個別の事情を考慮するため、金額には多少のバラつきがあります。
一般的には、管理財産が5,000万円以下で月額1~2万円程度、5,000万円以上で月額3万円程度が目安となります。
まとめ
任意後見制度は、なじみのある制度とはいえず、実際に利用している人の数もそれほど多くはありません。
しかし、何も対策を行わずに認知症となった場合と比べて、後見人に任せることで安心して生活ができます。
判断能力がなければ利用できないため、自分には関係ない、親には関係ないと思っている人ほど、実は関係する制度なのです。
あらためて、自身や家族の介護の問題と一緒に、任意後見制度についても考えてみてはいかがでしょうか。