この記事でわかること
- 相続税の申告を相続人ごと別々に行ってもいいことがわかる
- 相続税申告を別々にするリスクやデメリットがわかる
- 相続税申告を別々に行う際にリスクを軽減する方法がわかる
相続税の申告を行う際は、すべての相続人が共同して申告書を作成し申告するのが原則です。
相続が発生すると、すべての相続人により遺産分割協議を行い、その結果に基づいて相続税を計算することとなるからです。
ただ、事情があってすべての相続人により相続税申告を行うことが難しい場合もあるかもしれません。
この場合、相続税申告を別々に行ってもいいのか、別々に申告するリスクはないのか、解説していきます。
相続税申告は各相続人が別々に申告できる
相続税申告は、被相続人の最後の住所地を管轄する税務署に、すべての相続人が共同して作成した申告書を提出します。
相続した遺産の情報やその総額、そして相続税額などの情報は、すべての相続人について1枚の申告書に記載されます。
ただ、何らかの事情があって、相続人が共同して相続税申告書を作成することが困難な場合もあります。
たとえば、長年行方不明の相続人がおり、相続税の申告期限までに連絡がつかなかった場合、連絡のつく人だけで申告します。
また、遺産分割協議で揉めている場合、納得していない相続人が申告の内容を不服として、一緒に申告しないこともあります。
特別な事情があるため、共同して相続税申告ができない時には、申告期限までに申告することを優先する必要があります。
そこで、相続税申告を相続人が別々に行うことが可能とされ、また実際にそのような申告が行われることがあります。
相続税申告を別々に申告するリスク・デメリット
相続税申告は、原則としてすべての相続人が共同して行うものとされ、実務上はほとんどが共同で申告されています。
制度上は別々に申告することも可能とされていますが、そこにはどうしても避けられないリスクやデメリットがあります。
その具体的な内容について、確認しておきましょう。
申告書の記載内容が一致しないことがある
相続税の申告書には、被相続人が保有していた遺産について、そのすべてを記載しなければなりません。
そして、その遺産の中身を誰が見ても特定できるよう、細かな情報まで記載していきます。
たとえば、預金の金融機関名や口座番号、土地の地番や地積、建物の家屋番号なども、申告書に記載します。
すべての相続人が共同して相続税申告を行う場合には、これらの情報を1枚の申告書に記載するだけです。
そのため、記載が一致しないということは起こりません。
しかし、別々に申告を行う場合には、これらの情報をそれぞれの相続人が正しく記載する必要があります。
もし誤った情報を記載してしまうと、それぞれの申告内容が一致しないこととなります。
また、多くの遺産がある場合には、一部の遺産を記載漏れにより申告しそびれるというミスも起こりやすくなります。
同一の被相続人についての申告であるにもかかわらず、遺産の内容が異なるのはおかしいため、避けなければなりません。
相続税額の計算が一致しないことがある
相続税の税額は、すべての遺産について相続税評価額を求め、その評価額を合計した金額から計算されます。
通常はすべての相続人が共同してこの計算を行い、1枚の申告書に記載するため、税額の計算が合わないということはありません。
そして、相続人が別々に相続税申告を行う場合も、この計算の過程は一致していなければなりません。
しかし、それぞれの相続人が連携して相続税申告を行わないと、その計算が一致しないことが起こり得ます。
たとえば、土地の相続税評価額は、評価する人によってその評価額が変わる可能性が高いものです。
また、有価証券の相続税評価額も、その計算を間違えやすいものの1つです。
相続税評価額の計算結果が異なれば、その後の相続税の計算も変わるため、結果的に納税額が合わなくなってしまいます。
各相続人が納付する税額は、それぞれの相続人が実際に相続した遺産の金額に基づいて按分します。
しかし、相続人ごとの取得分に意見の相違があるなど、それぞれの申告書の中身がバラバラとなることも考えられます。
その結果、各相続人の納税額もバラバラになることがあり、どれが正しいのか判断できないことがあり得ます。
税務調査を受ける可能性が高くなる
ここまで見てきたように、1人の被相続人についての相続税申告であれば、すべての中身が一致しているはずです。
しかし、別々に申告を行うとどうしてもミスが起こりやすく、申告書の記載内容や税額が異なるケースがあるのです。
この場合、はたしてどの申告書が正しいのか確認するため、また納税額に過不足があるため、税務署による調査が行われます。
別々に申告するとミスが起こりやすいため、その分税務調査を受ける可能性も高くなります。
また、申告内容に差異がなくても、税務調査の可能性はあります。
別々に申告するということは、相続人同士で何らかのトラブルを抱えていることが多いからです。
相続人が共同して申告書を作成できない状況にあるため、相続人の中に遺産を隠している人がいるかもしれません。
税務調査により何らかの問題点が指摘できる可能性が高いことから、税務調査を受けるリスクは高くなります。
相続税申告を別々に申告するときの対処法
相続税申告書を別々に作成して申告すると、様々なリスクやデメリットがあることがわかりました。
そこで、このようなリスクを把握した上で、問題が起こらないような対処が必要となります。
相続税申告の内容を一致させる
相続税の申告は別々に行うことができますが、申告の内容はすべて一致していなければなりません。
遺産の総額が異なる、あるいは相続した人が異なることで、各相続人が負担する相続税の額も変わってしまいます。
相続税申告を別々に行わなければならないような状況にあるため、申告内容を互いに確認することは難しいかもしれません。
ただ、別々に申告してその申告内容に差がある場合には、必ず税務署から問い合わせを受けることとなります。
そのようなことになっても、誰も得をすることはありません。
税務調査のリスクを少しでも避けるため、あらかじめ申告内容を一致させるようにしましょう。
遺産を隠さない
相続税額は、すべての遺産の額、各相続人が相続した財産の額が確定して、はじめて計算できます。
たとえば、一部の相続人しか知らない遺産があった場合に、その存在を隠していると、全員の相続税額が変わってしまいます。
後から財産隠しが発覚すると、その行為自体を非難される上、相続税額も増えてしまいます。
どのような場合も財産隠しはダメですが、特に別々に申告する場合は注意しましょう。
生前贈与や生命保険の情報を明らかにする
相続税の申告を行う際に誤りやすいのが、相続発生前に行われた贈与を相続財産に加算する計算です。
自分だけ贈与されていた場合には、その情報を隠したままにしておきたいと考えるかもしれません。
しかし、そのことで相続税の計算ミスを指摘されることがあります。
贈与を受けていたという情報は、遺産分割協議の段階で必ず明らかにするようにしなければなりません。
また、被相続人が亡くなった時に、生命保険金を受け取っている相続人がいる場合もあります。
生命保険金も相続財産とみなされるため、相続税の申告書に記載しなければなりません。
自分だけ保険金を受け取っていた場合でも、必ず他の相続人に伝えておきましょう。
まとめ
相続税申告をそれぞれの相続人が別々に行うことも、制度上は問題ありません。
ただ、多くの人が共同して申告している中で、別々に申告するとどうしても目立ってしまいます。
そのため、税務調査のリスクが高くなります。
共同して申告するために努力し、どうしてもできない場合には互いに矛盾点のない申告となるようにしましょう。