この記事でわかること
- 小規模宅地等の特例について理解できる
- 小規模宅地等の特例を併用する場合の計算方法
- 小規模宅地等の特例を最大限活用する方法
小規模宅地等の特例といえば、自宅の敷地を同居する家族に相続するケースが一般的です。
しかし、事業用建物の敷地や駐車場を相続する場合など自宅以外の種類の土地にも適用可能なパターンがあります。
今回は、これら複数種類の土地につき小規模宅地等の特例を併用する場合の計算方法についてご紹介します。
自宅の他に、事業用土地や駐車場も保有していて、相続対策をしたい方はぜひ参考にしてください。
目次
小規模宅地等の特例の併用をするケース
小規模宅地等の特例は、適用できる土地の種類が複数あり、限度面積以内であれば複数種類の減額を併用して計算することが可能です。
まずは適用可能な土地の種類を見ていきましょう。
小規模宅地等の特例の種類は4つ
小規模宅地等の特例の種類は、4つあります。
それぞれに限度面積が異なりますので、組み合わせ方には注意が必要です。
詳しくは次の章で解説します。
小規模宅地等の特例の種類は、以下の通りです。
特定居住用宅地等 | 一般的にイメージされる、小規模宅地等の特例です。被相続人が住んでいた住宅が建っている土地などが、特定居住用宅地にあたります。 |
---|---|
特定事業用宅地等 | 被相続人が営んでいた事業用の建物が建っている宅地のことです。たとえば、被相続人がお店等を経営していたお店が建っている宅地は、特定事業用宅地にあたります。 |
特定同族会社事業用宅地等 | 被相続人が経営する会社が建っている宅地を言います。 |
貸付事業用宅地等 | 被相続人が貸し出している駐車場の宅地などがあたります。 |
小規模宅地等の特例といっても、かなりのパターンがあります。
小規模宅地等の特例は併用ができる
小規模宅地等の特例は、併用ができます。
平成27年1月1日以降に起こった相続から、特定居住用宅地等と、特定事業用宅地等、特定同族会社事業用宅地等の完全併用が可能です。
小規模宅地等の特例を併用する場合の限度面積
小規模宅地等の特定を併用する場合、限度面積があります。
その土地がどの種類にあたるかによって限度面積が違う
まず、その土地がどの種類の宅地にあたるのかを判定してください。
どの種類の宅地にあたるのかによって、限度面積が異なります。
国税庁のホームページに一覧表が掲載されている
国税庁のホームページには、減額される割合が掲載されています。
お手持ちの土地が、どの区分に当てはまるのか、限度面積はいくらまでなのかをまずは確認してください。
相続開始の直前における宅地等の利用区分 要件 限度面積 減額される割合 被相続人等の事業の用に供されていた宅地等 貸付事業以外の事業用の宅地等 1 特定事業用宅地等に該当する宅地等 400㎡ 80% 貸付事業用の宅地等 一定の法人に貸し付けられ、その法人の事業(貸付事業を除きます。)用の宅地等 2 特定同族会社事業用宅地等に該当する宅地等 400㎡ 80% 3 貸付事業用宅地等に該当する宅地等 200㎡ 50% 一定の法人に貸し付けられ、その法人の貸付事業用の宅地等 4 貸付事業用宅地等に該当する宅地等 200㎡ 50% 被相続人等の貸付事業用の宅地等 5 貸付事業用宅地等に該当する宅地等 200㎡ 50% 被相続人等の居住の用に供されていた宅地等 6 特定居住用宅地等に該当する宅地等 330㎡ 80%
限度面積を超えてしまった場合はどうなる
限度面積を超えてしまった場合は、その土地は対象にならない、というわけではありません。
限度面積までが対象になります。
たとえば、500㎡の特定居住用宅地があったとして、330㎡までは特例の対象になるということです。
併用する場合の限度面積について
被相続人が、小規模宅地等の特例の適用可能な複数の土地を所有していた場合、限度面積の範囲内で特例を併用することができます。
併用する場合の計算方法は大きく2つに分かれます。
貸付事業用宅地を含まない場合は完全に併用することが可能で、限度面積もそれぞれ制限されることはありません。
貸付事業用宅地を含む場合は一定の計算式によりそれぞれの種類ごとに限度面積に制限が加わります。
貸付事業用宅地等を含まないケース
貸付事業用宅地を含まないケースでは、特定居住用宅地と、特定事業用・特定同族会社事業用宅地を併用することが可能です。
特定居住用宅地を限度面積330㎡まで適用したあと、プラスして特定事業用・特定同族会社事業用宅地の分400㎡まで使える、ということです。
特定居住用宅地の面積が330㎡以下、特定事業用・特定同族会社事業用宅地の合計が400㎡以下、両方を適用する場合は、合計730㎡までが限度面積になります。
貸付事業用宅地等を含むケース
一方、貸付事業用宅地を含むケースでは、含まないケースのように両方を上限まで使うということはできません。
貸付事業用宅地を含むケースの場合、
これらの数値が、200㎡以下であるという条件がつきます。
特定居住用宅地等の面積:100㎡
特定事業用・特定同族会社事業用宅地等の面積:150㎡
この場合、貸付事業用宅地の限度面積は、
100×200/330+150×200/400+貸付用事業用宅地=200㎡以下
61+75+貸付用事業用宅地=200㎡以下
貸付用事業用宅地=64㎡以下
となります。
宅地の種類の選び方のポイント
限度面積が大きい宅地の種類を選べば、同じ使用率であっても適用面積が大きくなるので、減額も大きいです。
どの宅地の特例を先に使うのか、計算してみます。
という制限がかかっています。
次に、特定居住用宅地と、貸付用事業用宅地の併用を計算してみます。
例としては、被相続人が住んでいた家が建っている宅地と、被相続人が貸していた宅地というパターンです。
特定居住用宅地等の面積を仮に165、特定事業用・特定同族会社事業用宅地等の面積はゼロとすると、
特定居住用宅地等の面積×200/330+貸付用事業用宅地=200㎡以下
165×200/330+貸付用事業用宅地=200㎡以下
100+貸付用事業用宅地=200㎡以下
貸付用事業用宅地=100㎡以下
ということになります。
特定居住用宅地の減額率 | 80% (330㎡まで) |
---|---|
貸付用事業用宅地の減額率 | 50%(200㎡まで) |
このような減額率の違いがあるため、基本的には80%減額を優先させるほうが有利になりますが、平米単価や誰が相続するかによっては減額率を逆転するケースもあるため、必ずシミュレーションを行うようにしましょう。
小規模宅地等の特例を併用時の計算の流れ
複数土地を持っている場合は、どのように選択適用したらいいのでしょうか。
特例を併用する場合の有利判定
特例を併用する場合の有利判定は、基本的には、複数パターンを計算して見ることのほか、簡易的に判定する方法があります。
特定居住用地の1㎡単価を2.64倍し、貸付事業用宅地の1㎡単価と比較します。
単価が大きいものから特例を適用すれば、相続税の納税額を最小化することができるというわけです。
簡易的な計算方法を下にまとめます。
特定居住用地と貸付用事業宅地 | 特定居住用地の㎡単価×2.64倍と貸付用事業宅地の㎡単価を比較 |
特定事業用・特定同族会社事業用宅地と貸付用事業宅地 | 特定事業用・特定同族会社事業用宅地の㎡単価×3.2倍と貸付用事業宅地の㎡単価を比較 |
適用する土地が多い場合や、複雑な場合はご自身で判定せずに、税理士に相談することをおすすめします。
実際の計算をしてみよう
まず、数値を用意します。
- 特定居住用宅地の減額率:80%
(330㎡まで)=80/100×330=264 - 特定事業用宅地の減額率:80%
(400㎡まで)=80/100×400=320 - 貸付用事業用宅地の減額率:50%
(200㎡まで)=50/100×200=100
1と2は完全併用できますので、選択する必要がそもそもありません。
1・3、2・3の組み合わせでは、選択をする必要があります。
1は246、3は100なので、1㎡単価が2.64倍になるかどうかをまず検討します。
2・3の組み合わせの場合は、1㎡単価が3.2倍になるかどうかを計算してください。
特定居住用地と貸付事業用宅地の比較
特定居住用宅地の単価が仮に600,000円だった場合、貸付事業用の単価がいくらの時に、貸付事業用宅地を優先適用するべきなのか、という問題を考えます。
1㎡単価が2.64倍になるかどうかなので、貸付事業用宅地は158,300円と、158,500円の2通り考えます。
特定居住用宅地:単価60,000円
小規模宅地等の特例適用額:60,000円×330㎡×80%=15,840,000円
貸付事業用宅地(その1) 単価158,300円
小規模宅地等の特例適用額:158,300円×200㎡×50%=15,830,000円
→この場合は、特定居住用を選択すべき
貸付事業用宅地(その2)単価158,500円
小規模宅地等の特例適用額:158,500円×200㎡×50%=15,850,000円
→この場合は、貸付事業用を選択した方がお得
特定事業用宅地と貸付事業用宅地の比較
特定事業用320、貸付事業用100なので、1㎡単価あたり3.2倍がボーダーラインになり、これを超えるかどうかで判定します。
計算方法としては、特定居住用宅地と貸付事業用宅地を比較した場合と同様です。
相続税を減らすための小規模宅地等の特例の併用パターン例
できるだけ相続税を減らしたい方向けに、小規模宅地等の特例の併用パターンをご紹介します。
特定居住用宅地と特定事業用宅地の併用
特定居住用宅地と特定事業用宅地を併用する場合は、
自宅が200㎡(単価500,000円)、特定事業用宅地が300㎡(単価1,000,000円)とします。
この場合は、貸付事業用宅地を含みませんので、そのままそれぞれを足し合わせて計算します。
200㎡×500,000円×80%=80,000,000円
300㎡×1,000,000円×80%=240,000,000円
合計:320,000,000円
特定居住用宅地と不動産貸付事業用宅地の特例の併用
特例居住用宅地と、不動産貸付事業用宅地を併用するパターンです。
自宅が200㎡(単価500,000円)、駐車場が70㎡(単価1,000,000円)とします。まずは、限度面積を計算します。
計算式は以下の通りです。
200×200/330+70=191<200㎡
限度面積の問題はクリアできました。
次に、どの組み合わせが有利になるか、有利判定をします。
自宅の単価を2.64倍し、駐車場の単価と比較します。
500,000円×2.64=1,320,000円>駐車場の単価1,000,000円
このケースの場合は、特例居住用宅地に優先的に特例を適用するのが最適です。
適用した結果の減額は、以下の通りです。
面積の全部を特例居住用宅地として計算しました。
200㎡×500,000円×80%=80,000,000円
70㎡×1,000,000円×80%=56,000,000円
合計:136,000,000円
もし、自宅だけ特例居住用宅地として、駐車場は貸付事業用宅地としてそれぞれ計算した場合は、以下の減額になります。
特例居住用宅地を優先適用した方が、減額幅が大きくなることがわかります。
200㎡×500,000円×80%=80,000,000円
70㎡×1,000,000円×50%=35,000,000円
合計:115,000,000円
小規模宅地等の特例の併用する場合の注意点
ここまで、小規模宅地等の特例について、特に併用する場合についてご紹介しましたが、いくつか注意点があります。
小規模宅地等の特例については、一番有利な選択ができたとしても、他の面ではそうではないことがあります。
したがって、特例を使いたい場合は税理士に相談をするのが最適です。もちろん、今回ご紹介した計算方法は、ご自身で確認をする意味もありますので、計算方法を知っておくことは無意味ではありません。
他の控除枠を適用したい場合は税理士に相談しよう
たとえば、配偶者控除、相続人固有の控除がある場合についてです。
小規模宅地等の特例を適用する宅地を相続する相続人について、配偶者控除を受けるというパターンがあります。
配偶者控除では、1億6,000万円もしくは法定相続分まで相続税がかかりません。
金額的にかなり大きい控除枠です。
小規模宅地等の特例と、配偶者控除は併用することが可能ですので、配偶者控除の枠がまだある場合に注意が必要です。
小規模宅地等の特例との兼ね合いを考えると、小規模宅地等の特例で相続税を最小化したからといって、トータルの納税金額も最小化されるわけではない場合があります。
全てのケースを想定して自分で計算するのは大変なので、小規模宅地等の特例を使って遺産の分け方を考えるというよりは、遺産の分け方が決まった状態で、小規模宅地等の特例を適用し、計算してみてください。
相続人の間で話がまとまらない場合に注意
相続人の間で協議がまとまっていない場合、小規模宅地等の特例に合わせて遺産分割をしようとすると大変なトラブルになってしまうことがあります。
トータルの納税額を節約する、という方向で小規模宅地等の特例の選択方法についてご紹介してきましたが、相続人にとっては自分が支払う相続税が最小かどうかという情報が必要です。
小規模宅地等の特例を適用できる面積には上限があります。
どの宅地について、小規模宅地等の特例を使うのかを決める時点で、その宅地を相続する人の相続税が安くなることがわかってしまいます。
特例を適用しない宅地を相続する人にとっては、自分の相続税が高くなってしまうので、嫌に思うこともあるでしょう。
どの宅地に小規模宅地等の特例を使うかについては、必ず相続人全員で話し合いをしてください。
適用には、相続人全員の合意が必要ですし、今後の遺産相続トラブルを避ける意味も込めて、きちんと話し合いをすることをおすすめします。
相続人で揉めてしまって、遺産の分け方が決まらず、期限内に相続税申告ができなくなってしまった場合については、各種特例を適用することができません。
特例を適用して節税しようとしたのに、トラブルになってしまって、かえって節税にならなかったということが起こらないように、気をつけてください。
相続時精算課税を選択した場合に注意
国税庁のホームページには以下の記載があります。
なお、相続時精算課税に係る贈与によって取得した宅地等及び「個人の事業用資産についての贈与税の納税猶予及び免除」の適用を受けた特例事業受贈者に係る贈与者または「個人の事業用資産についての相続税の納税猶予及び免除」の適用を受ける特例事業相続人等に係る被相続人から相続または遺贈により取得した特定事業用宅地等については、この特例の適用を受けることはできません。
引用:国税庁ホームページ
小規模宅地等の特例を使うか、相続時精算課税を選択するか、どちらかの選択になるということですね。
どちらの方が節税効果があるのか、よく考えてから選んでください。
相続対策のために事業の用に供した場合
国税庁のホームページによれば、
「相続開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地等であっても、一定の規模以上の事業を行っていた被相続人等の事業の用に供された宅地等については、3年以内事業宅地等に該当しません。」
引用:国税庁ホームページ
被相続人等が有していたものの
相続開始時の価額の合計÷新たに事業の用に供された宅地等の相続開始時の価額が15%以上である必要があります。
貸付事業用宅地の注意点
貸付事業用宅地については、相続が決まったからといってすぐに売ってしまうと、特例が適用されません。
また、人に貸さなくなってしまっても、対象にならないことがあります。
詳細は、以下の表の通りです。
区分 | 特例の適用要件 | |
---|---|---|
被相続人の貸付事業の用に供されていた宅地等 | 事業承継要件 | その宅地等に係る被相続人の貸付事業を相続税の申告期限までに引き継ぎ、かつ、その申告期限までその貸付事業を行っていること。 |
保有継続要件 | その宅地等を相続税の申告期限まで有していること。 | |
被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の貸付事業の用に供されていた宅地等 | 事業継続要件 | 相続開始前から相続税の申告期限まで、その宅地等に係る貸付事業を行っていること。 |
保有継続要件 | その宅地等を相続税の申告期限まで有していること。 |
引用:国税庁ホームページ
まとめ
今回は、小規模宅地等の特例について計算の方法と、有利判定についてご紹介しました。
控除は他にも種類がありますので、結局のところどうしたら最終的に相続税が一番安くなるのかという点については、税理士に相談してください。
また、小規模宅地等の特例を適用する土地の選び方について、相続人同士で揉めてしまう可能性があります。
揉めてしまうと元も子もありませんので、相続人同士でコミュニケーションを図り、トラブルを生まないための努力も大切です。
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ご家族の相続は突然起こり、何から手をつけていいか分からない方がほとんどです。相続税についてはとくに複雑で、どう進めればいいのか? 税務署に目をつけられてしまうのか? 疑問や不安が山ほど出てくると思います。
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