本来、法定相続人(民法で定められた範囲の相続人)は、必ず相続人になれるはずなのですが、何らかの事由で、相続人としての資格を剥奪されることがあります。では、どういった場合にそのようなことになり、どういった手続きを経て相続人としての立場を失うのでしょうか。
今回はどういうケースに相続が欠格となるのか解説します。
相続欠格とは?
相続というのは、被相続人(亡くなった人)と関係の近い人が、民法の定めに従って被相続人の財産を引き継ぐという制度です。しかし、すべての人が被相続人の財産を引き継ぐ者として適格なのかといえば、そうではないこともあります。
たとえば、被相続人に対し、殺害やその未遂などの暴虐を働いた者が相続することは、一般的な感情から考えても適当ではないでしょう。また、自分が多く財産をもらいたいために、ほかの相続人に相続させないような策略を図った者も同じです。
こういった、社会感情から見て相続させることがふさわしくない人間から、相続の資格を奪うというのが「相続欠格」という制度なのです。
相続欠格の要件
「相続欠格」というのは、被相続人の意思がどうであるかに関わらず、法定相続人から相続の資格を奪う制度です。相続欠格となるケースは、大きく2種類に分けると「被相続人やほかの相続人に対する殺害等の行為を行った場合」と「被相続人の作った、もしくは作ろうとした遺言書を、自分の都合の良いように書き換える等の干渉があった場合」になります。具体的には以下の通りです。
被相続人や他の相続人を殺害したり、殺害しようとした場合
まず、被相続人や、先順位または同順位の相続人を故意に殺したり、殺そうとしたりして刑を受けた者です。故意による殺人や殺人未遂というのは、ほかのケースと比べて最も悪質であり、一般常識から考えても相続させるべきではないことは明らかといえるのではないでしょうか。
その一方で、過失致死のように「故意ではなかった」というケースや「被相続人に殺されそうになったので、正当防衛で殺してしまった」というようなケースでは、欠格事由に該当しません。
被相続人が殺害されたことを知りながら、それを告発しなかった場合
次に、被相続人が殺されたことを知りながら、告発や告訴をしなかったというものです。
これも、被相続人の利害を考えると、悪質な行為と考えられていることによるものですが、例外もあります。
たとえば、告訴や告発をしなかった本人が「是非の弁別(何が善いことなのか悪いことなのか識別する)をすることができない場合」や、「被相続人を殺した人がその告訴等しなかった人の配偶者、直系血族(親、子供等)だった場合」などです。
つまり、通常は告訴することが一般的であるところ、被相続人と非常に近い関係性であったことでためらわれるような場合に、多少ゆるく解釈されているということです。
詐欺や脅迫によって遺言を妨げた場合
詐欺や強迫により被相続人が遺言することや、前にした遺言の取り消し、変更を妨害した場合、被相続人の遺言を偽造、変造、破棄、隠匿したような事実があった場合です。
公正証書による遺言であれば、公証役場に遺言書原本が保管されているのでこのような問題は起こらないのですが、自宅で書く自筆証書遺言については、発見した者によって変造される危険があるため、このような決まりがあるのです。
ただし、平成9年に出された最高裁の判決によれば、こういった行為は、相続人が不当な利益を得る目的がある場合に限り、相続欠格の事由に該当するという判例があります。
相続欠格は取しできない
相続欠格が取り消しされることはありません。もし生前に被相続人から許しを得ていたとしても、その被相続人の相続人になることも、遺言によって財産を受け取ることもできません。
ただし、被相続人が、上記のような相続欠格に該当する人を許したうえで、相続人としての権利を回復させてあげたいと思ったら、どうなるのでしょうか?
本来、相続欠格とは法律上当然に相続権を失わせる制度であって、そこに当事者の意思が介入する余地はないのですが、もともと相続財産とは、被相続人の自由にできることが原則であること、相続欠格者に対しても生前贈与することが認められていることなどを理由に、相続権を回復させてもよいというのが、法律家の間での有力な説です。
なお、相続欠格者となってしまった者への遺贈(被相続人の意思で相続財産を譲り渡すこと)は、相続欠格に該当したことを知りながらしたのであれば、やはり許したということが認められ、遺贈は有効となる説が有力です。
相続人の廃除とは?
相続欠格と同様に、相続人としての資格を失うのが「相続人の廃除」です。廃除は、された人の遺留分さえも失わせる、非常に強力な手続きです。そして、被相続人が自らの意思によって行うところが、相続欠格とは異なる面です。
廃除の事由
廃除の事由としては、3つ挙げられます。
まず被相続人に対する虐待行為があったことです。
たとえば、日常的に殴る蹴るといった激しい暴力を振るう、親が病気で寝たきりになっているのに、ろくに世話もせず衰弱させた、などという場合です。
次に、被相続人に対して、重大な侮辱があったことです。
たとえば、人前で親を口汚くののしったり、重大な秘密を暴露して名誉を傷つけたりした、などの場合です。
最後に、そのほかの著しい非行があったことです。
たとえば、いわゆる「ドラ息子」がろくに定職にもつかず、親の財産を勝手におろして使い込んでいたり、夫が妻と子を捨てて愛人と別の家庭を築いていたりした、などの場合です。
こういった場合、被相続人は生前または遺言書によって、該当する相続人を廃除することができます。
ただし、廃除の対象となるのは「兄弟姉妹以外」の法定相続人となります。兄弟姉妹は元々遺留分がありませんので、もしどうしてもそれらの者に相続財産を渡したくないと考えるのであれば、被相続人が遺言書でほかの人に「全財産を相続させる、または遺贈する」としておけばよいことです。
つまり、遺留分を失わせることを目的とする廃除手続きを、兄弟姉妹に対してはわざわざする意味がないということになります。
なお、相続欠格や廃除によって相続権を失った人に子供がいる場合は、代襲相続権が認められます。たとえ、親に問題行動がみられたとしても、その子自身に問題がなければ、子供の代襲相続権まで奪う理由はないと考えられるからです。
ただし、子供がいない場合は、ほかの相続人の相続分として分配されることになります。このあたりは、相続放棄した人の子供に代襲相続が認められないことと混同しやすいので、気をつけましょう。
廃除する方法
被相続人の生前に廃除を行う場合、被相続人が家庭裁判所に「廃除請求の申し立て」を行います。廃除は、被相続人だけに認められているのであって、どんなにひどい非行があったとしても、ほかの相続人等からすることはできません。
手続きは、調停もしくは審判によって行われますが、もし被相続人と廃除の対象となる相続人の間で、廃除してもかまわないという話し合いになっていたとしても、家庭裁判所はいったん廃除事由が本当にあるのかどうかを確かめます。もし廃除事由がないようであれば審判手続きに移行し、そこでも廃除事由がないと判断されれば、裁判所は廃除できないという判断を下すことになります。
しかし、もし廃除事由ありと認められた場合はそれが確定しますので、戸籍に記載する届出を行います。具体的には、確定後10日以内に廃除の申し立てを行った人が「推定相続人廃除届け」を提出します。
遺言書によって行う場合は、遺言書のなかにその旨を記載しておきますが、この場合は被相続人の死亡後に「遺言執行者(相続手続きを相続人の代理人として行う人)から、家庭裁判所に廃除の申し立てをすることになるため、必ず遺言執行者を選任しておかなければなりません。遺言執行者は特別の資格などは不要で、未成年者、破産者(法律的な欠格事由に該当する)以外の人であれば、選任することができます。
もし遺言書の中で選任されていなかった場合、家庭裁判所が遺言執行者を選任することになります。実際、実務のなかで廃除が認められることはかなりレアなケースとなっており、単なる浪費や暴行、素行不良程度では、認められないことが通常です。
では、認められたケースを見てみましょう。
まず、親の農業を手伝うべき子供が、親を虐待して小屋にとじこめて生活費も与えず、暴言を吐いていたというものです。
また、配偶者への度重なるDVにより、暴力を受けていた一方が、危急時遺言(死が間近に迫っているときに行う通常とは異なる形式の遺言)で、暴力を振るった配偶者を廃除したというものがあります。
逆に認められなかった事例としては、子供が親に対する暴言や暴行を働いていたものの、その原因が幼少時に里子に出されたり、兄弟と著しく差別的な扱いを受けたりしたなど、親側にも非行の一因があると考えられるようなケースです。
また、父親と息子がもみ合いの喧嘩になり、父親が傷害を負ったが、父親側にも暴力行為があったようなケースでも、やはり廃除は認められていません。
このような例から、非行が一方的なものではなく、当事者それぞれに原因がある場合においては、廃除は難しいという傾向がわかります。
廃除の取消とその方法
廃除が確定した後であっても、被相続人は家庭裁判所に請求するか、遺言書によっていつでも廃除を取り消すことができます。もともと、廃除という制度の趣旨は、被相続人が自分の財産の行き先を自由に決めてよいということなのですから、被相続人自身が非行のあった相続人を許したのであれば、廃除の取り消しを認めても差し支えないと考えることが自然です。
仮に、まだ暴力や暴言、浪費などの非行が続いていたとしても、被相続人さえ良いのであれば、廃除の取り消しをすることは差し支えないのです。もし、取り消しが認められると、廃除の効果は相続が開始した時(被相続人の死亡した時)に遡って消滅しますので、廃除されていた人の相続権が回復することになります。
子供が代襲相続人になる
相続欠格された場合、相続の権利は相続欠格者に子供がいれば、代わりに子供が代襲相続人になります。
代襲相続人とは、推定相続人が死亡・相続欠落・相続廃除により相続権を失った代わりに相続する人を表します。
相続欠格・廃除の撤回について
相続欠格や相続廃除により相続権を失った場合でも、相続権を回復できる場合もあります。
相続欠格の場合は、被相続人が生前のうちに相続欠格事由を許せば、財産を受け取れます。
ただし、相続権自体が回復するわけではないので、生前贈与など別の方法で相続を受け取る必要があります。
相続廃除の場合、生前であれば被相続人から家庭裁判所に相続廃除の取り消しの申立をする方法があります。
もう1つの方法として、遺言書に相続廃除の取り消しの旨を記載し、後に相続執行者が家庭裁判所で手続きを行えば、相続廃除を撤回できます。
いずれの場合も生前のうちに被相続人から、相続廃除事由に該当する非行を許してもらう必要があります。
相続について悩んだら専門家に依頼しよう
今回の相続欠格や相続廃除のように「相続権はどうなるのか」「相続させないと言われたけど法律上可能か」などわからないことも多いでしょう。
相続に関する内容は専門的な知識が必要で、家族の構成などケースバイケースで判断が異なる場合があります。
そのため、相続権などの法律に関することは専門家にサポートしてもらうと安心できます。
ここからは専門家に相談するメリットを紹介します。
相続欠格・廃除についてアドバイスをもらえる
専門家であれば相続欠落の判断や、相続廃除に関する対応について適切なアドバイスをもらえます。
「被相続人の方で相続廃除を行いたいがどのように申立をしたら良いかわからない。」
「相続人で相続廃除されたけど撤回を求めたい」
などお困りごとがあった際に専門家に相談することで、最適な助言を受けながら手続きできます。
相続トラブルを回避できる
相続は誰がいくらもらうべきかなどトラブルに発展しやすいです。
その際に専門家であれば、第三者の目線で適切に助言ができるためトラブルを回避できます。
相続トラブルでは、もともと仲の良かった相続人同士の関係性が悪化することがあります。
専門家が介入することで法律上の見解から、納得感の高い意見をもらうことができますので頼ると良いでしょう。
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まとめ
いかがでしたでしょうか。
相続欠格は、該当する事由がひとつでもあれば、当然に相続権が失われるものですが、廃除については、あくまで被相続人の意思にかかっていることになります。
相続権を奪うものとしては、非常に強力な効果を持つものですが、上記のようにめったに認めてもらえることができない制度なので、一時の激情にかられて申し立てをするようなことがないよう、冷静に考えてから手続きしなければなりません。