2021年4月21日に成立した「民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24条)」によって、2024年4月1日より相続登記の申請義務化が施行されることとなりました。これまで相続登記の申請は義務ではなく、申請しなくても不利益をうけることはありませんでしたが、今後、正当な理由なく登記しなかった場合は10万円以下の罰金をうけることもありえます。
同時に、相続登記の申請義務をかんたんな手続きで回避できる方法も用意されました。この記事では、相続登記の義務化による申請期限や罰金とその回避方法、そして相続登記を申請する場合の具体的な手続きについて解説します。
相続登記とは
相続した不動産の名義を、亡くなった方の名義から相続した人の名義に変更することを相続登記といいます。
これまで相続登記の申請は義務ではなく、申請しなくても不利益をうけることはありませんでした。そのため、
- 相続登記の手続きが面倒で費用もかかる
- 相続人同士の連絡が取れなかったり、遺産分割の協議がまとまらない
などの理由から、何代も前の親族名義のまま放置されている不動産は非常に多く存在します。
しかし、相続登記の申請義務化が施行される2024年4月1日以降は、正当な理由なく登記しなかった場合は10万円以下の過料を科せられることがあります。
この新しいルールの詳細を確認していきましょう。
相続登記義務化の内容
相続登記義務化の申請期限
2024年4月1日以降、不動産を取得した相続人は「その取得を知った日または2024年4月1日」のいずれか遅い日から3年以内に相続登記の申請を義務付けられることとなりました。
つまり、義務違反となるのは最短でも2027年4月1日となり、この日以降は最大10万円の過料の適用対象となってしまいます。
2024年4月1日以降に相続が発生した場合は、相続により不動産の取得を知った日を起算日として、そこから3年以内が申請期限となります。
相続登記しない場合の罰則とは
相続登記の申請をすべき義務がある相続人が、「正当な理由」がなく申請を怠ったときは、10万円以下の過料を科せられることがあります。
正当な理由とはたとえば、相続人がきわめて多数にのぼり戸籍収集や相続人の把握に多くの時間を要する場合や、遺言の有効性や遺産の範囲が相続人で争われているために相続不動産が誰に帰属するかはっきりしない場合、その他の事情を登記官が総合的に考慮して判断されます。
2024年4月1日以前の相続も義務化対象
2024年4月1日以降の法改正なら、過去に不動産を相続した自分は関係ないと思った方もいるかもしれませんが、この相続登記の義務化は過去の相続により取得した不動産についても適用されることにご注意ください。
過去に相続した不動産の未登記については、2027年3月31日までに登記をしなければ10万円以下の過料の適用対象となってしまいます。
相続登記が義務化された背景
法改正により相続登記が義務化された背景には「所有者不明土地問題の解消」があります。
相続登記されていない物件で、空き家・空地状態が長く続くと、あらゆる面で問題が発生します。空き家の倒壊リスクや放火、ゴミ屋敷化。空き地の集会や治安悪化などの危険性をはらんでいます。
隣接する土地への悪影響だけでなく、地方行政が乗り出して「危険物件」として指定せざるをえなかったり、まちづくりを推進させるための都市計画・区画整理事業や復旧・復興事業の妨げになってしまうこともあります。
そのまま放置しておくと、地域住民の安全・安心が確保されず、住民の暮らしにも大きな影響を与えてしまいます。この所有者不明土地の面積は、九州全土の面積よりも大きくなっていると言われています。
相続登記をしないとどうなる?
相続登記を放置する人が多く社会問題化していることをお伝えしましたが、そもそも相続登記は所有者が自分であることを第三者に示すために当然にすべき手続きです。
社会全体ではなく、相続人個人にフォーカスして、相続登記しないことによるリスクやデメリットについて見てみましょう。
不動産の売却ができない
相続した不動産を売却したい、あるいは担保にしてお金を借りたいという時、亡くなった人名義のままではこれらの行為はできません。
高額での購入希望者が現れたのに、相続登記に手間取っているうちにその値段では売れなくなってしまったり、現金がすぐに必要なのに担保にできずにタイミングを逃してしまうということがないよう、相続登記は速やかに済ませておくことが望ましいです。
相続人が増えて手続きがより複雑になる
人が亡くなるたびに相続人はどんどん増えるうえに、配偶者や子どもといった近しい関係から甥や姪など疎遠な親戚にまで権利が分散していくのが相続です。
時間の経過とともに権利関係が複雑化し、最初の段階でもなかなかまとまらなかった遺産分割がよりまとまらなくなってしまいます。
配偶者、子ども、親、兄弟姉妹の身近な親族のうちにきっちりと遺産分割を確定させておくことが望ましいです。
不動産の一部が知らぬ間に差押にあう
相続開始から相続登記を済ませるまで、相続した不動産は相続人全員の共有状態にあります。
もし、共同相続人の中に借金がある人がいて、返済が滞ると、債権者に差し押さえられてしまう可能性があります。親族だけだと思っていた共有者に、他人や業者が紛れ込んでしまうともうスムーズに物事が進むことはなくなり、共有者は自身の利益を最大化しようと権利主張してくることは間違いありません。
プロの共有者が相手になると、共有部分を買い取ろうとすると多くの費用を請求され、逆に共有部分を売り払おうとしても足元を見られた安い金額を提示されることになってしまいます。
義務を回避できる「相続人申告登記」という制度
相続人申告登記とは
相続人申告登記とは、相続登記の義務化に伴って、相続人が申請義務を簡単に果たすことができるようにする観点から設けられた新しい登記手続きのことです。
相続登記の申請義務を果たすための最大のハードルは遺産分割協議です。ほとんどの場合、この遺産分割協議が3年以内に成立しないことがネックとなるのですが、それでも義務を果たそうとすると「法定相続分で相続登記する」こととなります。
ただ、この法定相続分での相続登記の手続きはそれなりの手間がかかります。そこで、この暫定的で面倒も多い手続きを避けるために新設された制度が相続人申告登記なのです。
登記名義人が亡くなったことと自分がその相続人であることの2つを、申請期限である3年以内に登記官に対して申し出れば、申請義務を果たしたとみなされ、過料を科せられることがなくなります。
申出を受けた登記官は、職権で登記簿に申出のあった相続人の氏名や住所等を記録しますので、登記簿上で誰が相続人なのかが明確になります。
相続人申告登記のメリット
相続人申告登記の一番のメリットは、通常の相続登記に比べ、断然少ない書類や手続きで相続登記の申請義務を果たしたとみなされ、過料の適用を回避できる点です。
申し出をする相続人自身が、亡くなった登記名義人の相続人であることが分かる戸籍謄本等を提出するだけで事足ります。
相続人が複数存在する場合でも、法定相続人の全員を把握したり法定相続分の割合を確定させる必要なく、自分ひとりの意思で申し出ができます。
相続人申告登記のデメリット
ただし、相続人申告登記をしたからといって、遺産分割が成立した場合の相続登記の義務を免れるわけではないことに注意が必要です。
相続人申告登記は所有権があることを示すものではなく、あくまで自分が相続人であることの記録に過ぎません。
土地を賃貸したり売却する場合は相続登記が欠かせませんので、結局は相続登記を行う必要があります。3年以内に一発で相続登記する場合と比べると、相続人申告登記の手続きを一度経ることは余分な手間がかかっているとも言えるでしょう。
相続人申告登記の手続きの流れ
相続人申告登記は、不動産を取得した相続人本人が申請義務の履行期間内(3年以内)に法務局の登記官に申し出ることにより行います。
申し出る内容は次の2点です。
- 登記簿上の所有者が亡くなって相続が開始したこと
- 自らがその相続人であること
相続人が複数いる場合であっても、特定の相続人が単独で申し出ることができます。その際、他の相続人の分も含めた代理申出をすることもできます。
遺産分割協議でもめている場合でも自分だけの意思で実行できますし、法定相続人の範囲や法定相続分の割合が確定していなくても申し出が可能です。
相続人申告登記の必要書類と費用
相続人申告登記を申し出るのに必要な資料と費用について解説します。
相続人申告登記を申し出る際に必要な資料
- 相続人申告登記の申出書
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍)謄本
- 申出人が相続人であることがわかる戸籍謄本
- 相続人の住民票
以上の書類を不動産を管轄する法務局に提出して行います。
次に費用についてですが、相続登記とは異なり、権利の公示ではないため登録免許税はかかりません。そのため上記の必要書類の発行手数料のみが実費としてかかります。
相続人申告登記を申し出る際に必要な費用
- 戸籍謄本 450円
- 除籍謄本 750円
- 住民票の写し 約300円(自治体により異なる)
相続登記の手続き
相続登記の申請方法
相続登記の申請方法には大きく分けて次の3つの方法があります。
相続登記の申請方法
- ①法務局の窓口で申請する方法
- ②郵送で申請する方法
- ③オンラインで申請する方法
法務局の窓口で申請する
法務局の窓口申請のメリットとデメリットは下記の通りです。
窓口申請のメリット |
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窓口申請のデメリット |
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平日の法務局の窓口が開いている時間に手続きできる人や、わからない箇所や不安な点を窓口担当者に確認したい人におすすめの方法です。
手続きの流れは以下の通りです。
法務局の窓口で申請する流れ
- ①必要書類を用意する
- ②法務局の不動産登記係窓口へ行く
- ③書類の確認をしてもらう
- ④登記完了予定日の通知を受ける(1週間~10日)
- ⑤登記完了予定日後に登記完了の書類を受け取りに行く
登記完了予定日に次の3種類の書類を受け取ることができます。
登記識別情報通知書 | 土地や建物の不動産ごとに1通ずつ発行される書類 |
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登記完了証 | 登記が完了したことを証明する書類 |
原本還付書類一式 | 登記が完了したことを証明する書類 |
戸籍謄本なども返却してもらえるため、別の手続で使用する書類を何度も取得しなくても済むようになっています。
相続登記完了証を受け取ったら、変更された登記事項証明書を取得し、新しい所有者の名前や住所などに誤りがないか、確認しておきましょう。
郵送で申請する
郵送申請のメリットとデメリットは以下の通りです。
郵送申請のメリット |
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郵送申請のデメリット |
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郵送での相続登記の手続きは以下の流れです。
郵送で申請する流れ
- ①必要書類を用意する
- ②書留郵便で郵送する
- ③法務局のホームページで登記完了予定日を確認する
- ④法務局で登記完了書類を受け取るor郵送で受け取る
登記完了書類を郵送で受け取りたい場合は「完了書類を郵送で送ってほしい旨を記載した紙」と「切手が貼られた返信用封筒」を同封しましょう。
オンラインで申請する
自宅からオンラインを利用して相続登記の申請を行うことができます。
オンライン申請のメリットとデメリットは主に以下の通りです。
オンライン申請のメリット |
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オンライン申請のデメリット |
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自宅からできるだけでなく、申請する時間帯もご自身の都合にあわせてできるため、特に忙しい人や平日休めない人におすすめの方法です。
ただし、パソコンの扱いに慣れていなければ難しいため、不安な方は別の方法で申請する方が安心かもしれません。
オンライン申請の方法は法務省のホームページから確認しましょう。
相続登記の必要書類
相続登記には下記の書類が必要です。
必要書類 | 取得できる場所 |
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登記申請書 | 法務局 |
不動産の登記事項証明書(登記簿謄本) | 法務局 |
被相続人の住民票の除票 | 被相続人が最後に住んでいた市町村役場 |
被相続人の死亡時から出生時までの戸籍謄本 | 各市町村役場 |
相続人全員の戸籍謄本 | 各市町村役場 |
遺産分割協議書または遺言 | 相続人全員で作成 |
相続人全員の印鑑証明書 | 各市町村役場 |
固定資産評価証明書 | 土地や建物が所在する市町村役場 |
自分で相続登記を行う際には、必要書類を早いうちに準備しておくといいでしょう。
ただし、書類によっては「取得日から3か月以内」などとする有効期限が定められている場合もあるため、無効とならないように気をつけましょう。
相続登記にかかる費用
相続登記には主に下記の諸費用がかかります。
相続登記に必要な費用
- 登録免許税
- 必要書類の発行手数料
- 司法書士報酬
実際にどのくらいの費用がかかるのか、確認してみましょう。
登録免許税
登録免許税は法務局に支払う税金の一種です。
実際には、収入印紙を登記申請書類に貼付する形で支払います。
登録免許税の計算式は相続の場合「不動産の価額×1,000分の4」です。
不動産の価額とは、固定資産税評価額のことで毎年市町村から送付されてくる固定資産税課税明細書でその金額を確認することができます。
例えば、固定資産税評価額が3,000万円の土地と1,000万円の建物を相続登記した場合の登録免許税は以下のようになります。
計算例
(3,000万円+1,000万円)×0.4%=16万円
登録免許税の額は、不動産の価額が高いほど高くなります。
しかし、相続登記の登録免許税に適用される1,000分の4という税率は、売買や贈与の際に適用される登録免許税の1,000分の20という税率の5分の1で済みます。
登録免許税がもったいないからといって相続登記を後回しにしないようにしましょう。
必要書類の発行手数料
相続に関する手続きの必要書類は、亡くなった方の出生から死亡までの連続した戸籍謄本や、住民票、印鑑証明書など多岐にわたります。
1通あたりの手数料は数百円ですが、すべて集めると5,000円程度あるいはそれ以上かかることも珍しくありません。
司法書士報酬
相続登記の手続きを代行してもらう場合は、司法書士に依頼することとなります。
一般的には、自宅の建物と敷地の相続登記を依頼して7万円~15万円程度が司法書士報酬の相場と言われています。(登録免許税が別途かかる)
不動産の件数や所在地などによっても報酬の額は変わるため、相続登記が必要な物件の概要を伝えたうえで依頼前に報酬金額を確認するようにしましょう。
相続登記を自分でやるか、司法書士に任せるか
相続登記を司法書士に依頼するか、自分でやるかはどのように判断すれば良いでしょうか?
不動産を相続した方が独身・子無しで兄妹もおらず、親族での揉め事が起こらないと断言できる場合でかつ、平日日中に時間が取りやすい方は、自分でやることを検討してみてください。7~15万円程の出費を抑えることができます。
上記のケースに該当しない方はぜひ司法書士への依頼をご検討ください。少なくとも無料相談に足を運ぶ価値はあります。
司法書士に依頼するメリットは、登記手続きがスムーズに進むこと、必要な書類の取得や作成をまとめて依頼できることです。
特に相続人が全国各地に点在している場合や、相続した不動産が多くある場合には、よりそのメリットを実感できるでしょう。
また、手続きミスによる登記の誤りを防ぐだけでなく、遺言書作成や相続税対策など、提携の専門家の知識を活用することで将来的な問題解決まであわせて相談できるからです。
将来的な相続対策が一切必要なく、時間と知識が十分にあって、費用をできるだけ抑えたいという方は法務局のホームページなどを参考に、ミスなく手続きを進めるようひとつずつ確認してから進めていきましょう。
相続登記義務化に関連するその他の不動産登記法の改正
所有者不明土地等の発生予防と利用の円滑化を進める目的で、2021年4月の民事基本法制が見直されました。
相続登記の申請義務化はそのなかの一つに位置づけられており、同じ目的のなかで実施された別の法改正についても確認してみましょう。
相続土地国庫帰属制度とは
2023年4月27日に始まった相続土地国庫帰属制度とは、相続(または遺贈)により取得した土地を、その相続人が手放して国に引き渡すことができる制度です。
相続により、望まずに土地を取得した所有者の固定資産税や管理の負担が重いことで、管理がおそろかになる土地が増えています。
そういった土地が将来的に所有者不明化し、管理不全になることを予防するためにこの制度が創設されました。
ただし、何でもかんでも国に引き渡すことができてしまうと、管理コストを国に押し付けるためだけに制度を利用するモラルハザードが起きてしまいかねません。
そのため、引き渡せる土地には一定の要件を設定し、法務大臣による承認を受けることや、申請者が10年分の土地管理費相当額の負担金を納付することが必要となります。
相続登記の登録免許税の免税措置
不動産の価額が100万円以下の土地について、2025年3月31日までの間に行われる相続登記に関しては登録免許税を課さないこととされました。
登録免許税の免税措置の適⽤を受けるためには、免税の根拠となる法令の条項を申請書に記載する必要があります。
相続登記の登録免許税の免税措置については、「租税特別措置法第84条の2の3第2項により⾮課税」と申請書に記載してください。記載がない場合、免税措置は受けられません。
所有不動産記録証明制度の新設(令和8年4月1日施行)
所有者不動産記録証明制度とは、ある人が登記簿上の所有者として記録されているすべての不動産を一覧的にリスト化して、それを証明書として発行する制度で、2026年4月までにスタートします。
この制度で、所有不動産記録証明書の交付を求めることができるのは以下の範囲となります。
- 請求した本人が所有者として記録されている不動産
- 請求した人が相続人である場合には、その被相続人が所有者として記録されている不動産
登記名義人の死亡等の事実の公示(令和8年4月1日施行)
不動産の所有権の登記名義人が死亡した場合でも、相続登記がなされない限り、死亡の事実を登記上から確認することはできません。もし、登記名義人の死亡の事実を登記上で確認できれば、土地利用の計画段階で所有者との交渉が困難な土地や地域を避けることができ、スムーズな土地活用が可能となります。
このような目的で、法務局の登記官が住基ネットなど他の公的機関から死亡等の情報を取得した場合は、職権で登記に表示するという制度が2026年4月までにスタートします。
この制度を「所有権登記名義人の死亡情報についての符号表示制度」と言い、これによって登記上で登記名義人の死亡の有無の確認ができるようになります。
まとめ
2024年4月1日から施行される相続登記義務化について詳しく解説しました。
今後、不動産を相続した人は3年以内に相続登記を行わなければ10万円以下の過料の適用対象となってしまいます。
そうでなくても、相続登記を放置することは、ご自身の不動産活用に支障をきたすだけでなく、社会問題化している所有者不明土地問題に悪影響を与えてしまいます。
スムーズに遺産分割を済ませて相続登記を進めるか、あるいはそれがどうしても難しい場合は相続人申告登記の制度を利用して、義務を果たしましょう。
親族間のトラブルが懸念される場合などに備えて、司法書士やその他の専門家に相談することも前向きにご検討ください。