横領が発覚した従業員、2度にわたり懲戒処分を行ったらどうなる?
社員がとんでもなく悪いことをした時、他の社員の手前、何もしないわけにはいきませんね。
でも、何の根拠もなしにその場限りで懲戒をすることは、法律上できないことになっています。
では社員を懲戒する時は、どうやってすればいいのでしょうか。
社員の横領が発覚し、懲戒処分
ある社員が、会社のお金を横領したことが発覚したとします。
横領なんて、とんでもない悪事ですよね。
そして、この社員を懲戒することになりました。
懲戒内容は、無給の出勤停止と諭旨懲戒です。
どのようにして懲戒すればよいのでしょうか。
懲戒の根拠
日本では、罪刑法定主義という原則があります。
これは、法律で定めたものだけ罪になる、というものです。
つまり、法律で定められていないものについては、罰することができないのです。
労働法にも、それと同じような取り扱いをするという規定があります。
労働者を懲戒するには、法律と同じように根拠が必要とされています。
労働における根拠とは、就労規則や労働契約にあたります。
社員を懲戒するには、まずは、就労規則や労働契約の中に、懲戒規定があることが前提となります。
適正な手続き
就業規則に懲戒規定があるのなら、その次は、その規定にのっとった適正な手続きを行います。
懲戒をする場合には、必ず、本人に弁明の機会を与える必要があります。
会社が一方的に勝手に懲戒できるものではなく、きちんと本人の言い分も聞かなければならないのです。
また、本当にその人が横領したのかどうか、事実確認をしっかりしておかないと、横領した人がその人でなかった場合、会社は損害賠償を請求される可能性があります。
就業規則にのっとった適正な手続きを行わなかったとして、懲戒が無効とされた判例もあります。
その後に懲戒解雇をしたら?
さて、横領した社員を就業規則にのっとって懲戒しましたが、どうも反省した態度を見せなかったため、出勤停止と諭旨だけでは甘かったと思い、懲戒解雇にしました。
二度目の懲戒は、可能なのでしょうか。
日本では、一事不再理という原則が憲法で定められており、同じ罪で2回懲戒することはできないという原則があります。
一度懲戒をしているので、同じ悪事で二度目の懲戒はできないのです。
もし、重ねて二度懲戒してしまったら、二度目の懲戒は無効になります。
そうなると、懲戒された社員から損害賠償請求をされる可能性もあります。
ただし、横領して懲戒した後に反省せずにもう一回横領した場合は、二度目の横領に対して懲戒することは可能です。
「一事不再理」とは?
憲法にも規定されている一事不再理とは、どのような原則でしょうか。
二重処罰の禁止
憲法39条に規定されています。
一事不再理とは、同じ罪で二回処罰されないという意味です。
例えば、窃盗で逮捕され、罰金刑になったとします。
罰金を払って終わったけれど、反省していないからと言って、懲役1年にするということはできないのです。
労働での懲戒においても、同じ原則が適用されます。
一度横領して懲戒し、反省していないからと言って、さらに懲戒することは一事不再理の原則に反することになります。
一事不再理とされた判例
昭和38年に大阪地裁で出た判例では、会社の懲戒が一事不再理の原則に反して無効とされました。
社員のある悪事に対して懲戒を行ったものの、その後、再び別の懲戒を行ったという事例で、一事不再理にあたり許されない行為とされました。
一方で、ある悪事のすぐあとにまた別の悪事をはたらいた場合は、情状として考慮することは可能とされました。
一度目は許したけれど二度目は許さない、といったところでしょうか。
横領など社員がとんでもない悪事をした時、会社は懲戒することができます。
懲戒は人に対する処罰なので、根拠が必要になります。
懲戒をする場合は、就業規則にのっとって適正な手続きと、一事不再理などの原則に反しないようにしましょう。