

東京弁護士会所属。東京都出身。
弁護士になる前、私は公務員として自治体業務に携わってきました。その経験から、法的な正しさだけでなく、社会的な公平性や、一人ひとりの生活に寄り添うことの重要性を深く理解しています。
立ち退き問題は、住まいや事業所といった生活の根幹に関わる問題であり、そこには多大な不安やストレスが伴います。私は「弁護士は敷居が高い」というイメージを払拭し、何でも気軽に話せる相談相手であることを常に心がけています。
複雑な法律用語を分かりやすく整理し、今後の見通しを丁寧にご説明した上で、依頼者様が「相談して良かった」と心から思える解決を目指します。公務員時代から大切にしている「誠実に向き合う」姿勢を貫き、皆様の正当な権利を守るために全力で取り組んでまいります。

借主には、退去時に自分の故意や過失、不注意などによる物件の損傷を原状回復する義務があります。
一方で、通常の生活で自然に発生する汚れや経年劣化などは原則として貸主が負担するため、自分の負担とはなりません。
国交省のガイドラインなどを参照し、借主負担の範囲を超える退去費用を請求されたときはすぐに合意せず、弁護士に減額交渉を依頼しましょう。
本記事では、賃貸物件で借主負担となる原状回復費用や高額請求を受けたときの対処法などを解説します。
賃貸物件の借主には、民法400条の善管注意義務や民法621条の原状回復義務が課せられます[注1]。
部屋を良好な状態で管理する義務を怠って生じた汚損などは、退去時に借主負担として区分されます。
たとえば換気を怠り、室内の広範囲にカビを発生させたケースでは、除去費用を自己負担しなければなりません。
通常の生活で自然に発生する傷や摩耗の原状回復費用は貸主が負担します。
[注1]民法/e-Gov
民法
後述する最高裁2005年12月16日判決[注3]では、通常の生活で発生する損耗の補修費などは毎月の家賃に含まれており、貸主負担と判示されました。
家賃で回収されているにも関わらず、退去時に通常損耗の修繕費用を借主に請求する行為は不当な二重請求と言えるでしょう。
不当な請求を見抜くためには、見積書の請求項目が通常損耗にあたるかを法的にチェックする必要があります。
国交省の公表する原状回復ガイドラインでは、エアコンやクロスなど、室内の主要な設備や部位ごとに借主と貸主の負担区分を定めています。
㎡単価や部位にわけた詳細な明細書を要求すれば、ガイドラインの負担区分と照合した上で借主への請求として妥当かどうか判断できます。
具体的にどのような汚損が自分の負担になるのか、実務上の基準を項目ごとに確認していきましょう。
原状回復ガイドラインの負担区分の一例は以下の通りです。
| 項目 | 貸主負担 | 借主負担 |
|---|---|---|
| 床 | 畳の表替え、ワックスがけ、家具の設置跡、日照による変色など | 手入れ不足によるカビやシミ、不注意で雨が吹き込んだための変色など |
| 壁紙 | 電気ヤケ、画鋲の跡、日照による変色など | 結露の放置によるカビ、タバコのヤニや臭いの付着、下地ボードの張替えが必要なネジ穴など |
| 建具や柱 | 網戸の張替え、自然発生したガラスの亀裂など | ペットによるひっかき傷や臭いの付着、落書きなど |
損耗などの原因や性質によって貸主負担と借主負担が区分されます。
通常損耗のクリーニング代やエアコン洗浄は、原則貸主負担です。
一方で、以下に該当する場合は借主負担となるケースもあります。
「クリーニング費用一式」など金額や作業内容が曖昧なときや、金額が暴利的なときは消費者契約法10条[注2]により無効となる可能性があります。
特約とは別に「カビ除去特別費用」などの項目で二重請求されるケースもあるため注意しましょう。
借主には以下のような善管注意義務があるため、守らないときは特約の有無に関わらず自己負担を求められる恐れもあります。
[注2]消費者契約法/e-Gov
消費者契約法10条
壁紙(クロス)の残存価値は耐用年数の6年でほぼ0円となるため、過失で汚したとしても新品交換を全額負担しなければならないケースは稀でしょう。
たとえば3年住んでいたときは、借主負担は壁紙の残存価値(約50%)に限定されます。
クッションフロアやカーペットの耐用年数も、壁紙と同様に6年です。
床にうっかり焦げ跡を作った場合などは、補修実費に1万5,000円から5万円ほどかかり、減価償却による割引は適用されない可能性があるため注意しましょう。
浴室やキッチンなどの水回りは、カビや汚れが発生しやすい場所の1つです。
日常的な掃除を怠った善管注意義務違反があれば借主負担ですが、配管の水漏れや建物の構造が原因であれば大家の維持修繕義務に基づき貸主負担となります。
注意すべき点として、借主が貸主への通知を怠って物件の被害を拡大させたときは借主に責任が問われるケースもあります(民法615条)[注1]。
たとえば、カビの発生を知りながら放置して下地の腐食が広範囲になった場合、修復工事や防カビの施工費用を請求される可能性があるでしょう。
通常損耗を借主負担とする補修特約について、具体的な範囲や内容が明記されていなかったため成立が認められなかった最高裁判例があります。
判例から、管理会社の言い値通りの請求をそのまま認める必要はなく、不当な一括請求には減額交渉の余地があると言えます。
大家(貸主)都合の一方的な全面張替え請求があっても、カビや傷が発生した最小の㎡単位面積や壁1面での部分張替えを交渉しましょう。
事例[注3]事件名:敷金返還請求事件
裁判所・部:最高裁第二小法廷
判決日:2005年12月16日
事件番号:平成16(受)1573
出典:裁判所判例検索
退去費用を抑えるには、入居直後の撮影で物件の状態を記録する、小まめな清掃を行う、契約書の特約をしっかりと確認するなどの対応が重要です。
退去時の立ち会いで合意書にサインを求められても一旦書面を持ち帰り、専門家である弁護士などに相談しましょう。
入居した直後に、最初から存在していた傷やカビを撮影して管理会社へ報告しておくと、自分の過失が発生原因ではないと客観的に証明できます。
チェックしておきたいポイントは、タバコのヤニで壁紙が汚れていないか、床に傷がついていないか、カビやシミはないかなどです。
物があると壁や床の傷が見つけにくくなるため、家具や家電を運び入れる前に撮影してください。
賃貸借契約書には、自分に不利益な特約が設けられているケースが少なくありません。
借主の利益を一方的に害する特約は、消費者契約法10条[注2]により無効とされています。
特約が有効に成立するには、国交省のガイドラインに基づき主に以下の要件を満たさなければなりません。
請求された費用項目に納得できないときは、国土交通省のガイドラインと照らし合わせて確認してください。
参考:「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再訂正版)」(国土交通省)
賃貸物件では、ペットの飼育や共用部分の利用方法、ゴミ出しなどで特有のルールが定められているケースもあります。
禁止事項を破ってしまうと高額な退去費用を請求される可能性があるため、事前に確認しておきましょう。
汚れが広範囲になると、退去時に追加のハウスクリーニング費用を請求される可能性があります。
窓際の結露を小まめに拭き取り、サーキュレーターで空気を循環させて換気するなど、日頃から丁寧な清掃を心がけるとカビやシミを予防できます。
汚れの原因を放置すると善管注意義務違反として請求を受ける原因となるため、小まめに清掃する習慣が最大の自己防衛となるでしょう。
消費生活センターでは、高額な退去費用など国民の消費トラブルについて無料相談や事業者とのあっせんなど交渉支援を実施しています。
一方で、貸主との交渉や訴訟手続きなどは弁護士法72条により弁護士資格を持たない者は代理できません。
弁護士に依頼するとすべての支払督促や交渉などの窓口は弁護士に一本化されるため、自分の労力や精神的負担は大幅に軽減されます。
弁護士は法的な知見に基づいて敷金返還請求を行い、過剰な請求項目を指摘して不当に高額な退去費用を排除します。
善管注意義務違反で賃貸物件を汚損したときの原状回復費用は自己負担しなければなりませんが、通常使用の範囲内であれば貸主負担です。
室内のクリーニング代も、契約書で金額や範囲などが明記され、通常損耗を超える負担を借主が明確に合意しなければ有効となりません。
壁紙は耐用年数の6年で価値はほぼ0円となり、自分の負担は残存価値に限られるため、請求明細を確認しましょう。
VSG弁護士法人では、退去費用や敷金返還トラブルの解決実績が豊富な弁護士が不当な請求を排除し、問題解決をサポートします。