東京弁護士会所属。
「専門性を持って社会で活躍したい」という学生時代の素朴な思いから弁護士を志望し、現在に至ります。
初心を忘れず、研鑽を積みながら、クライアントの皆様の問題に真摯に取り組む所存です。
この記事では、会社倒産の際の従業員への対応方法や、会社として従業員に説明・案内すべき内容や、倒産によって解雇となった従業員がその後に取るべき手続きについても解説し、従業員が法律上の保護を受けるための流れやポイントについても解説しています。
倒産の場合は、従業員が原則として解雇となりますが、一部の場合によっては、直ちに解雇とはならず、一定期間雇用が継続される場合があります。
その場合についてもこの記事では触れています。
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会社倒産の場合、従業員は解雇となるため、従業員に対しての説明が求められます。
破産に至った経緯の説明はもちろん、破産管財人が選任され会社の管理を行うようになるまでは、従業員に対して、会社の財産を勝手に持ち出さないようにしておく必要があります。
解雇にあたっては、離職票や源泉徴収票を交付し、その他預かり物(年金手帳など)がある場合は、それらも返却します。
逆に、従業員に貸与していた物品については返却を受けます。
また、清算手続きにおいては、手続きを円滑に進めるため、会社の財務を管理していた経理担当者は直ちに解雇せずに協力を依頼する場合もあります。
場合によっては、解雇理由証明書など、従業員側が解雇(失業)に至った経緯や原因を書面で求められる場合があります。
会社側はこれらの求めについても誠実に対応することが求められます。
会社が従業員を解雇しようとする場合は、少なくとも30日前にその旨を従業員に予告しなければなりません。
これを「解雇予告」といいます。
30日前までに予告をしない場合は、会社側は解雇日までの期間が30日に足りなかった分の平均賃金を支払わなければなりません。
解雇予告が必要なのは、倒産による解雇の場合においても例外ではありません。
したがって、倒産による解雇の場合でも、従業員を無条件で直ちに解雇できるわけではありません。
従業員にかかる賃金・退職金については、しっかりと支払う義務があります。
会社が倒産(破産)し、免責許可が下りたとしても、従業員への賃金や退職金の支払いを免れることはできません。
従業員は会社からの賃金で生計を立てている場合が多く、賃金が十分に支払われないということは、従業員の生活に大きな影響を及ぼします。
しかし、倒産するということは、会社の財務状況が著しく悪く、従業員に対して十分や賃金の支払いができないことも考えられます。
その場合は、従業員に対して「未払賃金立替払制度」という制度の利用を案内するのが得策です。
「未払賃金立替払制度」とは、会社倒産により十分な賃金の支払いを受けられなかった従業員に対して、その未払賃金の一部を労働者健康福祉機構が事業主に代わって支払う制度です。
制度の利用には、使用者(会社)や従業員(労働者)に対して一定の条件があるものの、十分な支払いができないとき・受けられないときはこの制度の利用を促すとよいでしょう。
次に、解雇された従業員の社会保険(失業保険・健康保険・年金)について解説します。
失業保険とは、従業員が退職(失業)した際に、一定期間、所得に応じた金額を受給することができる制度です。
失業保険は「自己都合退職」「会社都合退職」の2つに大別され、自己都合退職か会社都合退職かによって、受給開始時期が異なります。
失業保険が受給できる期間は、雇用保険の被保険者として保険料を納めてきた期間に比例します。
また、失業手当を受給できる期間を一定期間以上残した状態で再就職をすると、再就職手当を受け取ることができます。
「自己都合退職」は従業員が自らの意思で退職することです。
民法では、従業員が退職しようとする場合は、退職の2週間前に会社側にその旨を通知しなければならないとされています。
通知とは、具体的には退職願・退職届を提出することです。
自己都合退職の場合、失業手当を受給できるまでに3か月間の待期期間が発生するため、手当の受給は申請から3か月後となります。
「会社都合退職」とは、会社の都合によって従業員が退職することです。
この場合、従業員にとっては望まない退職である場合が多く、会社側から退職を伝えられているため、退職願などの提出は不要です。
逆に、会社都合退職に合致するにも関わらず、退職願など「従業員が自発的に退職の意思を示した」と解釈されるような行動をとると、自己都合退職として見なされる場合がありますので、注意が必要です。
会社都合退職の具体例としては、倒産による退職・雇止め・パワーハラスメントによる退職強要などが考えられます。
この場合、手当受給までに必要な待期期間は7日で、自己都合退職の場合よりも早く手当を受給することができます。
会社都合退職は「不本意な退職」という意味合いが比較的強いため、自己都合退職よりも法律上手厚く保護されるべきであるためです。
倒産による解雇は「会社都合退職」に当てはまるため、解雇された従業員は早期に失業手当を受給することができます。
倒産によって退職した従業員は、その後に加入できる健康保険制度として、「国民健康保険」「任意継続」のいずれかを選択することができます。
任意継続とは、会社に在籍中に加入していた健康保険に継続して加入できる制度です。
会社に在籍中は保険料の半分を会社が支払いますが、任意継続した場合は全額を個人が支払います。
65歳以下の場合は、離職理由が解雇であれば国民健康保険の保険料の減免制度が利用できます。
そのため、健康保険任意継続保険料よりも、国民健康保険料の方が低額になることが多いようです。
会社に勤めていた時点の賃金等によって保険料は変わってきますので、退職後に加入する健康保険を決めるにあたっては、両方の保険料の試算が必要です。
退職すると厚生年金の対象から外れ、国民年金の対象となります。
失業中の国民年金の保険料支払いは、納付書を利用して失業者自らが行う必要があります。
再就職後については、再就職先が厚生年金加入事業所の場合は、再度厚生年金に加入することになります。
倒産による失業の場合、国民年金保険料の減免申請が可能です。
減免は本人からの減免申請で減免の実施・不実施が決定します。
退職した時点で、自動的に減免申請の審査が始まるわけではありません。
破産手続が開始されると、従業員は原則、解雇となります。
ただし、会社の財産の清算に経理担当者などの協力が必要な場合は、破産手続き開始後も一部の従業員は解雇とならず、破産管財人が会社の財産の管理を行うようになるまでの間、雇用が継続されます。
雇用が継続された従業員の賃金は、月給としてではなく日当として支払うのが一般的です。
あくまで、破産管財人が選定・会社の財産を管理するまでの、短期の臨時的な雇用にとどまるためです。
いずれは裁判所から選定された破産管財人が会社の財産の管理・競売・債権者への分配を行うため、雇用が継続されていても、近い将来にはその役目は破産管財人に引き継がれます。
破産管財人が会社の財産を管理するようになった時点で、雇用を継続していた従業員は解雇されます。
この記事では、会社倒産のときの従業員への対応や、解雇となった従業員がその後に取るべき手続きについて解説しました。
会社倒産は、従業員をはじめとする多くの関係者の人生に影響を及ぼします。
そのために、倒産する際には、それぞれの関係者に対して誠意ある対応が求められます。