相続財産を譲渡する事情は実にさまざまです。
まず考えられるのは、相続税の納付です。
相続税は金銭による申告期限(相続開始の日から10か月以内)に納付しなければなりません。
その日までにまとまったお金を用意しなければならないのです。
次に考えられるのは、相続財産の分割です。
相続人には法定相続分に応じた権利が認められており、相続財産は共同相続人全員の協議に基づき分割しなければなりません。
相続財産が被相続人の持ち家だけという場合は代償分割も容易ではなく、持ち家を処分せざるを得ないケースも多いようです。
その他にも生活費の補填、事業資金への充当が目的の譲渡もあるでしょう。
一方で、相続財産を譲渡したらその譲渡益に対し、所得税が課されます。
相続・遺贈により取得した財産に対して相続税が課されたばかりなのに、です。
財産の譲渡には譲渡所得税が課される
土地、建物などを譲渡した場合には、その譲渡所得に対して所得税が課されます。
譲渡所得は以下の算式により計算されます。
<算式>
譲渡収入-取得費-譲渡費用-特別控除
譲渡収入とは
譲渡収入は一般的に、譲渡に伴う対価として受け取った金銭の額を意味します。
ただし、法人に対して無償又は著しく低い価額(時価の1/2未満)で譲渡した場合には、収入=時価となります。
取得費とは
売却した土地・建物などの取得時における購入代金・建築費用(建物については減価償却累計額を控除後の金額)の他、購入手数料、取得後に生じた設備費・改良費を加えます。
その他、取得時に要した不動産取得税・登録免許税、立ち退きに伴う立退料、土盛り・地ならし等の土地造成費用、取得時に支払った土地の測量費用(境界線の確定等のため)・古家の取り壊し費用等を含みます。
ちなみに減価償却累計額は、建物の取得から売却までの経過年数に応じ毎年の減価償却費を累計します。
ただし非事業用資産については、減価償却累計額を1.5倍圧縮できる特例が設けられています。
譲渡費用
譲渡費用とは譲渡に伴い直接に払った費用で、仲介手数料・印紙税の売主負担分・借家人に支払った立退料(貸家の場合)・古家を取り壊した時の取壊費用と建物の損失額、借地権売却に伴い地主に支払った承諾料などが含まれます。
相続財産を譲渡した場合の特例
株式・土地・建物などを相続により取得した場合において、その相続財産を一定期間内に譲渡したときは、相続税のうち一定額を取得費に加算できます。
ただし、この規定は譲渡所得にのみ適用され、営利目的で継続的に売買する株式の譲渡による事業所得・雑所得は含まれません。
適用条件
相続税取得費加算の適用を受けるには、以下の条件全てに該当しなくてはなりません。
- ・その財産を相続・遺贈により取得していること
- ・相続税がその財産を取得した人に課されていること
- ・相続開始日の翌日から相続税の申告期限後3年を経過する日までにその財産を譲渡していること
取得費加算される相続税額
基本的には取得した財産ごとに、相続税の総額のうちその財産の価額に対応する部分の金額が取得費加算の対象です。
<算式>
取得費加算の額=譲渡した財産の価額÷(その者の相続税の課税価格+その者の債務控除額)
土地等に関しては相続税総額のうち、その者が取得したすべての土地などの価額に対応する部分を取得費加算の対象としてきました。
が、平成27年の税制改正により土地等に関しても他の財産と同様に取り扱われることになりました。
ただし、平成26年以前に相続された土地等に関しては、従前の取り扱いがなされます。
売却先は親族や同族会社でもOK
居住用不動産を譲渡した場合の3,000万円特別控除は、夫婦・内縁関係・いわゆる愛人関係・一族が経営する同族会社に売却した場合は適用を受けることができませんが、相続税取得費加算に関してはそうした縛りを受けません。
譲渡所得がマイナスとなる場合
取得費加算できる相続税の上限は、このルール適用前の譲渡益を上限とします。
つまり相続税を取得費に加算して譲渡所得がマイナスになるようなら、譲渡所得はゼロとしてカウントされます。
まとめ
相続財産を譲渡した場合には、譲渡益に対して所得税が課されます。
ただし一定期間内であれば相続税のうちその財産に対応する部分の金額を取得費に加算できます。
不動産など売却に一定の時間を要する資産については、ぎりぎりになって慌てることのないよう、早めの検討が望まれます。