この記事でわかること
- 公正証書遺言のメリットとデメリットがわかる
- 公正証書遺言は遺留分の優先権に負ける
遺言には自筆証書遺言と秘密証書遺言と公正証書遺言の3種類があります。
公正証書遺言は、公証人が作成し公証役場に保管されるため、安心・確実です。
ただし、作成依頼をすると時間と手間がかかります。
必要書類はそれほど多くないため収集は楽ですが、証人を探さなくてはなりません。
法制度にはメリットとデメリットがあるため、それぞれを十分知っておくことが必要です。
保管が厳重なため被相続人である遺言者の生存中は、各相続人の誰もが内容を知らないということになります。
誰もが知らないからこそ遺言は守られますが、知らないからこそ遺言内容の意図や遺志がどう書かれているか不安にもなります。
この記事では、公正証書遺言のメリット・デメリットや作成時の注意点についてわかりやすく解説します。
公正証書遺言とは
公正証書遺言とは、公証人が作成する公正証書によって行う遺言のことをいいます。
公証人が作成する書類として、公正証書遺言は強制執行ができるなど法的な力が強いのが特徴です。
また、公証人を騙して作成させた場合、公証人は嘘だと知る由もない状態で書類を作成するので、依頼した側(遺言者)が虚偽行為を行えば罪に問われます。
遺言者は、虚偽の公正証書遺言を作成したら罪になるということを必ず頭に入れておきましょう。
公正証書遺言については以下の記事でも詳しく解説していますので参考にしてみてください。
公正証書遺言のメリット・デメリット
公正証書遺言には、メリットとデメリットがあります。
公正証書遺言のメリットは、遺言書が公正役場に保管されているため偽造防止になること、さらに相続手続きのときに検認が不要であることなどです。
一方で公正証書遺言のデメリットは、手続きに時間と費用がかかること、公証人や証人に遺言内容を話さなくてはならないことなどが挙げられます。
それでは以下で公正証書遺言のメリット・デメリットをそれぞれ詳しく確認してみましょう。
公正証書遺言のメリット
まずは公正証書遺言のメリットを5つご紹介します。
公正証書遺言のメリット
- 遺言が無効にならない
- 遺言証書を紛失しない
- 偽造防止ができる
- 自筆する必要がない
- すぐに遺産相続開始ができる
それでは1つずつ見ていきましょう。
遺言が無効にならない
遺言内容には無効とならないために必要な条件が設定されています。
法的に無効になれば、何のための遺言証書かまったく意味をなさなくなります。
自筆証書遺言書の最高裁判例(昭和54年5月31日)において、日付の有効性が争われた裁判ですが、「七月吉日」と書かれた自筆証書遺言書は無効と判断されています。
理由は日付の記載を欠くとされ、「吉日」は無効となり、有効にするならば数字の日を記載しなければならないとされているからです。
公正証書遺言は、法律知識を持つ公証人が書く証書ですから、無効になることは無いといってよいでしょう。
また、自筆証書遺言は遺言者が1人で作成するため、作成時の状況や判断力などが疑われ、遺言無効訴訟に発展する可能性も考えられます。
例えば、誰かにそそのかされて作成した遺言書や、認知症により十分な判断力がないまま作成した遺言書が考えられるでしょう。
一方、公正証書遺言は遺言者・公証人・証人の三者が関わるため、遺言者が認知症だった、誰かにそそのかされた、などの遺言無効訴訟を回避しやすくなります。
遺言証書を紛失しない
保管場所を忘れてしまったら、家中を探し回らなければならず、どこで紛失したのかわからなくなります。
公正証書遺言は、公証役場に保管されるため紛失するリスクがなく、そういった事態を心配する必要はありません。
偽造防止ができる
遺言書は偽造される心配がありますが。その点、公正証書遺言は公証役場に保管されていますから安心です。
自筆する必要がない
自筆する必要がないのは、極めて楽でしょう。
公正証書遺書は公証人が書いてくれますから、法的書式に則った遺言書になります。
しかも、病気などの理由により、文章が書けない人にとって、公証人が代筆してくれますから安心です。
自筆の場合は、文章の一部分でも他人の手が入ったら筆跡鑑定などでわかりますから、法的に無効とされるため公証人の役割と責任は強力に信用されています。
すぐに遺産相続開始ができる
公正証書遺言があれば、相続が発生したとき、家庭裁判所が相続人に説明する検認が不要になります。
そのため、相続人はすぐに相続開始に入ることができます。
すみやかで迅速なる相続手続きは相続人にとってはメリットです。
公正証書遺言のデメリット
次に、公正証書遺書のデメリットを3つご紹介します。
公正証書遺言のデメリット
- 手続きに時間がかかる
- 手続きに費用がかかる
- 公証人や証人に遺言内容を話さなくてはならない
それでは1つずつ見ていきましょう。
手続きに時間がかかる
証人を探さなくてはならないため、手続きに時間がかかります。
公正証書遺書を成立させるためには、公証人と証人2人以上の立ち会いが必須です。
公証人は公証役場にいるためまだ見つけやすいですが、2人以上の証人をどう探すかが問題になります。
手間暇が多くかかりますが、面倒くさいからといって避けては通れません。
法的に有効な書類だからこそ、手間暇をかけて作成しなければならないと考えておいた方がよいでしょう。
手続きに費用がかかる
公証人の立場は公務員だからといって、無料で仕事をしてくれるわけではありません。
公正証書遺言作成には、受遺者1人に対して譲り受ける財産価額に応じて公証人に手数料を支払う必要があります。
受遺者1人あたりの財産価額 | 手数料 |
---|---|
100万円まで | 5,000円 |
200万円まで | 7,000円 |
500万円まで | 11,000円 |
1,000万円まで | 17,000円 |
3,000万円まで | 23,000円 |
5,000万円まで | 29,000円 |
1億円まで | 43,000円 |
3億円まで | 5,000万円ごとに13,000円加算 |
10億円まで | 5,000万円ごとに11,000円加算 |
10億円超 | 5,000万円ごとに8,000円加算 |
金額としては思うほど高くないと感じられるでしょうが、ノー・コストで書類作成はやってくれないということです。
公証人は法務大臣から任命された公務員の身分ですが、いわゆる月給取りではなく手数料収入を受け取っている職業です。
公証役場にも収入源がなかったら運営できない事情があるわけです。
なお、相続手続きで必要になる正本や謄本を交付する場合は、1枚につき250円の手数料がかかります。
また遺言者が病気などで公証役場に直接行くことができない場合は、出張費として公証人の日当が追加で発生することにも注意しましょう。
公証人や証人に遺言内容を話さなくてはならない
1つ目のデメリットで説明したとおり、公正証書遺言は公証人と証人2人以上が必要です。
証書作成段階に立ち会う証人と公証人は、遺言内容を知らなければ証書作成ができません。
また、推定相続人(将来相続人になるであろう人)は証人になれないので、第三者に証人を依頼することになります。
一般的には遺言者の友人、または司法書士や弁護士に依頼しますが、身近に適任者がいなければ、公証役場でも証人を紹介してくれます。
遺言内容をどうしても知られたくないなら、公正証書遺言の法的有効性をあきらめて別の方法を選択するしかないです。
他に自筆証書遺言と秘密証書遺言がありますが、いずれにしても他人が介在すると遺言書執筆段階および後で知られてしまう危険性があります。
自筆証書遺言は法務局で保管ができますが、遺言内容の有効性まではチェックしてくれません。
作成段階でチェックを入れるならば、専門家として弁護士が内容を知ってしまいます。
一方、秘密証書遺言は文書を入れた封筒の上に、公証人と証人の署名押印するだけでいいため、内容のチェックはされません。
しかし、自筆証書遺言と秘密証書遺言は法的に有効かどうかまでチェックできないということに注意しましょう。
自筆証書遺言・秘密証書遺言と比較した際のメリット・デメリット
メリット | デメリット | |
---|---|---|
自筆証書遺言 | ・費用がかからない ・自分一人ですぐ書ける |
・書き方の不備で無効になることがある ・他人による改ざん・紛失の可能性がある ・遺言の存在を気づかれないことがある ・開封時に検認の手続きが必要 |
公正証書遺言 | ・確実に有効なものが作れる ・改ざん、紛失の心配がない ・遺言を自筆しなくてもよい ・遺言の存在の有無を確認できる ・開封時の検認が不要 |
・公証役場手数料がかかる ・公証役場とのやりとりに手間がかかる ・証人2名(他人)が必要 |
秘密証書遺言 | ・内容を秘密にしておける ・遺言を自筆しなくてもよい ・改ざんの心配がない ・遺言の存在の有無を確認できる |
・書き方の不備で無効になることがある ・11,000円の費用がかかる ・紛失することがある ・公証役場とのやりとりに手間がかかる ・証人2名(他人)が必要 ・開封時に検認の手続きが必要 |
詳細はこちらの記事をご覧ください。
公正証書遺言の作成方法と流れ
公正証書遺言の作成と手続きは、順序立てて進めていきます。
公正証書遺言の作成当日は、公証人が遺言者本人、2人以上の証人の本人確認を行い、一緒に公証役場に行きます。
公証人に遺言の内容を口述し、公証人が作成します。
遺言者が亡くなったら最寄りの公証役場に行き、遺言書の内容を確認し、相続手続きを行うことになります。
遺言作成完了までは相当の期間が必要となるため、公正証書遺言のデメリットにもなっていますが、弁護士など専門家を介在すると期間短縮はできます。
遺言書作成完了までは約1ヶ月間を要すると考えておきましょう。
公正証書遺言の詳しい作成手順については、以下の記事を参考にしてください。
公正証書遺言の必要書類
公証役場に提出する書類には、どのようなものが必要なのでしょうか。
遺産相続手続きに必要な書類と同じですが、すべての書類はそれほど多くはありません。
提出する必要書類は下記のとおりです。
- (1) 戸籍謄本と印鑑証明書
- (2) 遺言者との関係がわかる戸籍謄本と住民票
- (3) 固定資産税の納税通知書(固定資産税評価証明書)
- (4) 不動産登記簿謄本(登記事項証明書)
- (5) 預貯金通帳のコピー
- (6) 財産内容がわかる資料
必要書類の提出や作成は、もちろん弁護士・司法書士・行政書士に依頼して代行してもらってもかまいません。
ただし、当然のことながら報酬は支払わなければいけませんから、その分の費用負担を念頭に入れておく必要があります。
詳しくは以下の記事で説明していますので、必要書類についてもっと知りたい方はぜひ参考にしてみてください。
公証役場とは?
公証役場に出向く機会は少ないため、場所や役割はあまり知られておらず、市町村役場と混同されていることも多いです。
公証役場は法務省管轄で全国約300個所に設置されていますが、都市部に集中しているため、人口の少ない県は2~3個所しかありません。
主な役割は公正証書作成をはじめとする公証事務であり、出張地以外は管轄の概念がないので、公正証書遺言はどこの公証役場でも作成してもらえます。
ただし、途中で公証役場を変えてもそれまでの手数料はかかるので、職場や自宅の近くなど利便の良さで選ぶとよいでしょう。
また、公証人手数料は現金払いが原則であり、振込みには応じてもらえないので、公正証書遺言が完成したときは必ず現金を用意してください。
公証役場の所在地は以下のリンクから検索できますが、雑居ビルに入っているケースも多いので、車を使う場合は近隣の駐車場もチェックしておくと良いでしょう。
公正証書遺言を作成するときの注意点
公正証書遺言を作成する際の注意点は、証人が2人以上必要になることです。
そのため、自分で証人を探すには時間がかかる場合があり、費用と手間がかかります。
結局は、公証役場に依頼して証人を用意してもらっても構いませんが、いずれにしろ必要費用を支出しなければならなくなります。
公正証書遺言は安心・確実が最大のメリットで法的有効性は強力です。
しかし公正証書遺言の注意点として、公正証書遺言は万能ではなく弱点もあるということを覚えておく必要があります。
以下では、こういった公正証書遺言の注意点について詳しく説明していきます。
公正証書遺言は遺留分に負ける
完全に作成された公正証書遺言であっても、その優先順位は遺留分には及びません。
遺留分の優先権は法律によって強力に守られています。
遺留分とは、相続人が最低限としてもらえる財産権であり、被相続人の兄弟姉妹は除外されています。
同時に相続欠格事由に該当する者は、当然相続人になれず遺留分も存在しません。
公証人は公正証書を作成するとき、遺留分について遺言者に説明することができます。
よって、遺言者は公正証書遺言を作成する際の注意点として遺留分をよく知っておき、遺産分与の計画を組み立てる必要があります。
公正証書遺言は、遺留分を侵害できませんが、だからといって直ちに無効になるというわけではありません。
しかし問題は、もっと次の段階があるということです。
遺留分侵害額請求権が相続人にある
相続人の中で遺留分の権利を持っている者は、遺留分を侵害されたとしてもらえる財産を金銭で請求することができます。
通常、遺留分侵害の請求権を行使する段階、被相続人はすでに死亡しているため、公正証書に基づいた財産を譲り受けた相続人に請求されることになります。
遺留分侵害請求権が行使され、折り合いがつかなかったら、裁判へと発展し無効の訴えを起こされる場合があるということを注意点として覚えておきましょう。
そのため被相続人は遺言を遺すとき各相続人の遺留分計算をしておき、遺言書作成にあたることが大切です。
遺産相続は一度こじれたら大変なことになりかねないので、事前にしっかり対策しておきましょう。
遺言者の権限で遺す遺言書ですから、各相続人に対する配慮を欠いていれば、後で相続人間の揉めごとになってしまいます。
相続をできるだけ円滑に進めてもらうように、遺言者が配慮して公正証書遺言を作成するようにしましょう。
遺留分確認のため、公正証書遺言を閲覧・検索したい場合
公正証書閲覧はデータベース化されていますから、必要な手続きをすれば閲覧・検索できます。
閲覧は窓口で原本閲覧・検索、写しはそれぞれ必要な金額を支払えば閲覧・交付してくれます。
ただし、謄本などの証明書を持参しなければならないため、必要書類を集めるのに苦労します。
しかも本人がまだ存命中ならば、いくら身内や相続予定者であっても、一切照会はされず、完全に秘匿されています。
結局、各相続人が公正証書遺言の内容を確認できるようになるのは、被相続人が死亡した後だということに注意してください。
【参考】公正証書遺言を書き換えたいと思ったら
公正証書遺言を書き換えたいと思ったら、面倒でも一からやり直さなければいけなくなります。
新たに作成するわけですから、手続きは同じと考えてください。
2人の証人を集め、証明書など必要書類を収集し公証役場で作成しなければなりません。
そのとき、遺言方式を変更することは可能です。
自筆証書遺言に切り替えることはできます。
自筆証書遺言は、原本に直接修正できますが公正証書遺言はできません。
自筆証書遺言にした場合、法務局保管にしたほうが賢明だと考えられます。
つまり保管場所を、公証役場にするか法務局にするかという選択肢になってきます。
自宅保管は何かと危険が生じやすいので、あまり勧められない保管場所といえます。
なお、秘密証書遺言は法的に認められている遺言制度ですが、現在の日本ではあまり利用されていません。
遺言書が存在する確認だけしか効果がないため、封筒に公証人と証人の署名がされていても、内容チェックまでできないためです。
その点、自筆証書遺言は多くの人に利用されています。
書類手続きなどは代理人を選任したほうが、ずいぶんと楽になります。
信頼のおける弁護士などに相談・依頼すれば報酬の支払いが必要になりますが、検討の余地はあるでしょう。
まとめ
公正証書遺言は、法務大臣から任命された公証人が公証役場で作成する遺言書です。
書類は公証役場において厳重に保管されるため、安全で確実な法的有効遺言です。
ただし、2人以上の証人を探さなくてはならず、少し時間と費用がかかるデメリットもありますが、証人が見つからなければ公証役場に依頼して設定してもらうことはできます。
必要書類は相続関連手続きと類似していますが、謄本や証明書などの書類の数はそれほど多くありません。
最も重要なことは、公正証書遺言は相続人の権利である遺留分に弱いことです。
遺留分を排除した遺言書は、遺留分侵害請求権を行使され相続人の間で揉めごとを発生させます。
そのため、被相続人である遺言者は遺留分のことまで配慮して、遺言書を遺す必要があります。
専門性が高い対処法ですから、遺言者は正しい情報をキャッチしていく必要があると考えられます。
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