この記事でわかること
- トラブルのもとになる遺言書の例がわかる
- トラブルを防止できる遺言書の書き方がわかる
- 相続トラブルを防止するために専門家を頼るメリットがわかる
終活が1つのブームになっている現在、相続に備えて遺言を書く人も増えているようです。
自分が所有する財産を誰よりもよく知っている家族などに譲るわけですから、普通に考えれば問題など起きそうにもありません。
ところが、よかれと思って作成した遺言が仇になり、本人の意図とは異なる相続が行われたり、相続人同士の争いにも発展しています。
さて、一体なぜでしょう?
法律文書となる遺言書には厳格なルールがあり、相続に対して強制力をもつ反面、条件を満たしていなければ無効となります。
ブームに乗ってはみたものの、相続に関する基礎知識がなく、寄せ集めの情報で作成した遺言書はトラブルを引き起こすかもしれません。
今回は、争いの火種になるダメな遺言の例を紹介し、何がダメだったのか、どうすればよかったのかを解説します。
目次
遺言書が無効になったケース|何がダメだった?
さっそくダメな遺言の例を紹介しますが、遺言の条件を満たしていないものや、相続のルールがわかっていなかったための失敗例が多くなっています。
誰にでも起こり得るミスなので、原因や対応策も参考にしてください。
ケース1.付け焼刃の知識で作成した遺言の失敗例
父親の遺言(自筆証書遺言)には以下のように書かれていました。
- 家と土地はお母さんに譲る
- A銀行の通帳は○○ちゃん(長女のニックネーム)に譲る
- B町の土地は○○くん(長男の名前)に譲る
- 令和3年8月吉日 遺言者 ○○ ○○ 印
結論から言うとこの遺言書は無効です。
まず受遺者(遺言によって財産を取得する人)の名前がニックネームは不可であり、お母さんや○○ちゃん、○○くんは誰を指しているのか第三者にはわかりません。
また銀行口座や不動産情報も不明瞭なため「家ってどこの家?」「B町の土地ってどこ?」など、突っ込みどころ満載の遺言です。
さらに「吉日」は遺言書の作成日として認められません。
失敗の原因と対応方法
上記の失敗例は遺言書の形式に従わなかったことが原因なので、以下の要領で書けば問題ありません。
- 土地:所在や地番、地目や地積(面積)を記載
- 建物:所在や家屋番号、建物の種類や構造、床面積を記載
- 名前:遺言者の妻 ○○ ○○(1950年1月1日生)など、遺言者との関係や氏名・生年月日を記載
- 預貯金口座:銀行名、支店名、預金種別、口座番号のすべてを記載
- 作成日:カレンダー上の日付どおりに記載
誰が見ても「人」「モノ」「権利」などが特定できるようにしておきましょう。
ケース2.遺産の評価タイミングを誤ったことによる失敗例
次の失敗例は預貯金口座の相続であり、長男に相続させるため以下のように書かれていました。
・A銀行 ○○支店 口座番号1234567 普通預金 2,000万円を相続させる
預金残高は変動するため、金額まで書いてしまうと、2,000万円以上になっている場合の差額が誰のものになるのかわかりません。
金額を明記している以上、2,000万円を下回っていた場合は、長男とって納得できない遺言となってしまいます。
有価証券も同様で、株価は常に変動するため、遺言の作成タイミングで評価額を書いてしまうと相続人を混乱させる結果になります。
失敗の原因と対応方法
預貯金を相続する場合、死亡時の残高が相続財産となります。
有価証券は相続発生時の時価なので、口座や証券を特定できる情報だけ記載しておきましょう。
ケース3.相続させたくない人に財産が渡ってしまった失敗例
遺言者であるAさんの相続人は妻と弟のみ。
両親はすでに他界し子どももいませんが、浪費家の弟に財産を渡したくないと考えたAさんは、以下のような遺言を作成しました。
・一切の財産を遺言者の妻 ○○ ○○(○年○月○日生)に相続させる
相続人の兄弟姉妹には遺留分(後半で解説します)がないため、遺言が実行されれば妻が全財産を取得します。
ところがAさんよりも先に妻が亡くなり、遺言書を書き直す前にAさんも亡くなってしまったため、弟に財産が行き渡る結果となりました。
失敗の原因と対応方法
年齢が近い夫婦の場合、どちらが先に亡くなるかわかりません。
妻に先立たれた場合は寄付に切り替えるなど、予備的条項(条件付きの遺言)を加えておくべきでした。
ケース4.代襲相続を知らずに遺言を作成した失敗例
Aさんは妻と2人の子ども(B、C)に財産を相続させる予定でしたが、子どもBが先に亡くなったため、妻と子どもCに対して遺言書を作成しました。
ところが子どもBにも子(Aさんからみた孫)がいたため、代襲相続が発生しています。
Aさんは代襲相続の制度を知らなかったため、孫を無視する形で遺言を作成しています。
Aさんの孫は祖母や叔父(または叔母)へ遺留分を請求することになり、今後の親族関係にしこりを残す結果となりました。
失敗の原因と対応方法
被相続人の子どもが死亡していても、孫がいれば第1順位の相続人に繰り上がります。
つまりAさんの法定相続人は3人であり、孫には財産の1/4を取得する権利があります。
しかし相続人全員の同意がなければ遺言が優先されてしまうため、Aさんの孫は遺留分(法定相続分の半分)しか取得できませんでした。
ちなみに、代襲相続は廃除や欠格がある場合でも発生しますが、遺言書を作成する場合はこのような知識も必要となります。
ケース5.遺言執行者を指定していなかったことによる失敗例
夫に先立たれたB子さんには2人の相続人(長女、次女)がいます。
高齢で体も不自由になったB子さんですが、長女が同居して世話をしたため、長女に遺産のほとんどを相続させる遺言書を残しました。
次女は以前から親との仲が悪く関係も疎遠でしたが、遺留分相当額の財産は譲るようにしています。
ところが、長女が母親名義の預金通帳を解約しようとしたところ、銀行から次のように言われてしまいます。
「遺言執行者の指定がないため、相続人全員の署名・捺印がある同意書および印鑑証明書が必要」
次女の協力が必要なため連絡を取りましたが、わずかな遺産しかもらっていない次女は非協力的であり、電話や手紙も無視されてしまいます。
長女は母親の預貯金から相続税を払う予定だったため、申告・納税期限に間に合わない可能性が出てきました。
失敗の原因と対応方法
遺言の内容が実現されるよう、各種手続きを行う人を遺言執行者といい、未成年者や破産者以外であれば誰でもなれます。
長女を遺言執行者に指定していれば相続手続きもスムーズだったでしょう。
なお、遺言の執行には専門知識も必要なので、弁護士や司法書士を指定することが現実的です。
こんな遺言書はトラブルのもと!ルール無視の遺言書とは
相続の際に一方的な有利・不利が生じたり、権利が侵害されたりしないよう、民法では様々様々なルールを定めています。
その一つが「遺留分」であり、遺言内容に関係なく最低限保障されている法定相続人の取り分です。
たとえば老後の世話をしてくれた家族がいたとして、感謝の気持ちを込めて「○○に財産のすべてを譲る」といった遺言を残すとどうなるでしょうか?
その他の相続人は遺留分を侵害されるため、親族を相手に「私の遺留分までもらっているのだからきちんと返して」と請求することになってしまいます。
遺言書の形式ばかりではなく、相続全体のルールも把握しておく必要がありますね。
相続トラブル対策で専門家を頼るメリット
遺言書には相続トラブルを防止する役割もありますが、不慣れな方が作成すると「災いの元凶」になる可能性もあります。
早めに専門家を頼っておけば、相続人の時間、労力、費用に加え、良好な人間関係も失わずに済むでしょう。
もちろん遺言者の労力やストレスも軽減されます。
単純に金額換算はできませんが、相続内容によっては数千万円~数億円のロスを防止できる可能性もあるため、専門家の意見を参考にしない手はありません。
まとめ
遺言書の書き直しは何度でもできますが、実際に使われる遺言は一つだけ。
しかも実行されるタイミングに遺言者本人はいないため、不平不満をなだめることもできません。
悩んだ末に書きあげた遺言書でもちょっとしたミスが争いの火種になり、最悪の場合は一族の崩壊にも繋がりかねません。
遺言書の作成は誰もが初心者なので、まずは弁護士や司法書士、行政書士などへ相談し、プロフェッショナルの意見は必ず聞いておきましょう。
本人が気付いていなかったトラブルの元凶や、将来的に有利な相続方法も見抜いてくれるので、誰もが納得できる遺言書を作成できます。
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