私の父は2年前に83歳で他界して相続が起こりました。
父の財産は相続税がかかるほどあったので、近くの税理士事務所に、相続税の申告書の作成を依頼して申告期限までに相続税の納付も行いました。
ところが先日、母の住む自宅で税務調査が行われました。
申告書を作成した税理士は高齢ですでに亡くなっており、税務調査の立会いを母一人に任せるのも不安だったので、私は会社を休んで2日間の税務調査の応対をすることになりました。
税務調査で指摘を受けたのは、父が25年前に預けていた地方信用金庫の普通預金があり、この普通預金を相続財産に計上するべきだということでした。
この普通預金は、遺族の誰も知らなかったものです。したがって、改めて遺族で遺産分割協議書を作成し、預金の全額を母が受け取ることになりました。
ただ、税務調査で指摘を受けたため、相続税の修正申告書を作成し追加の相続税を納付することになりそうです。
今回、お伺いしたいのは、修正申告の場合でも配偶者控除が使えるかどうかです。
配偶者が相続により財産を取得した場合には、配偶者の税額軽減という制度があり、最初の相続税の申告時にはこの制度を使って母の相続税はゼロとなりました。
母が取得する相続財産は今回見つかった普通預金を含めて1億円です。
税理士 古尾谷裕昭
ご相談の内容は、税務署の税務調査により見つかった預金について、税務署への修正申告を行う際に、配偶者の税額軽減制度を利用することができるかを確認したいということかと思います。
はじめに、相続税における配偶者の税額軽減制度について確認しておきます。この制度は、被相続人の相続財産を配偶者が相続や遺贈により取得した金額が、①1億6,000万円か②配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い方の金額以内であれば、配偶者に相続税がかからないというものです。
配偶者の税額軽減制度の適用を受けるためには、いくつかの要件があります。原則として、相続税の申告期限(相続開始から10か月以内)までに分割されて配偶者が取得すると確定しているものであること、そして相続税の申告書を申告期限内に税務署に提出していることです。通常、相続税の額がゼロとなる場合は相続税の申告を行う必要はないのですが、配偶者の税額軽減制度によって相続税額がゼロとなる場合は、申告書を提出しなければなりません。
また、遺産分割が相続税の申告期限内にまとまらないこともあります。そのような場合は、相続税の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」という書類を添付し、申告期限から3年以内に分割した場合に限って、税額軽減の対象とすることができます。
あなたのお母様の場合、当初の相続税の申告においては配偶者の税額軽減制度を利用して税額がゼロになったとのことですから、申告期限内に遺産分割が行われ、適切に申告されていたものと思われます。
ところで、ご質問のように後から相続財産が発見された場合にも配偶者の税額軽減制度の適用を受けることはできるのでしょうか。
この配偶者の税額軽減制度の対象となる相続財産は、原則として相続税の申告期限までに分割されて配偶者が取得したものとされていますが、相続人の誰もが存在を認識していなかった財産については、その財産についての修正申告を行うタイミングで、配偶者の税額軽減制度を適用することができます。一方、相続人の中に仮装や隠蔽を行った者がいて、意図的に相続財産から除外されていた財産については、修正申告において配偶者の税額軽減制度を適用することはできません。
なお、本来は修正申告を行うことができるのは、納税額が増加する場合に限られます。今回のご質問のケースでは、新たに発見された預金について全額を配偶者が取得すること、そして取得後の相続財産の額が1億円になるということですから、配偶者の税額軽減制度を適用すると相続税の納税額が増加しないケースも考えられるため、修正申告ができるのかどうかという疑問が生じてしまいます。しかし、当初の申告において配偶者の税額軽減制度を適用して相続税がゼロとなっていた者が、修正申告においてさらに財産を取得したものの、この制度を利用すれば依然として相続税額が発生しない場合には、修正申告を行って配偶者の税額軽減制度を適用することができます。この制度を利用しなかった場合の相続税額が当初の申告における相続税額を超えるのであれば修正申告書を提出することができるとされているためです。
税理士 古尾谷裕昭
相続サポートセンター(ベンチャーサポート相続税理士法人) 代表税理士。昭和50年生まれ、東京都浅草出身。
東京、大宮、横浜、名古屋、大阪の5拠点で年間の相続税申告1000件を超える実績。きめ細かいフォローでお客様の心理的な負担や体力的な負担を最小にすることを心がけている。監修『プロが教える!相続・贈与のすべて』 コスミック出版
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相続サポートセンター(ベンチャーサポート税理士法人 相続部門)税理士。
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相続サポートセンター(ベンチャーサポート税理士法人 相続部門)税理士。
昭和55年うまれ、大阪府出身。
大卒後、税務署に就職し国税専門官として税務調査に従事。税理士としても10年を超えるキャリアを積み、現在は「相続に精通した税理士としての知識」と「元税務調査官としての経験」を両輪として活かした相続税申告を実践中。
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