先日、父が90歳で亡くなりました。
父は、伝統工芸品の職人で、長年にわたり職人として事業を行っていました。
ただ、私は一人っ子だったのですが、どうしてもほかにやりたいことがあり、家業は継がずに、現在、会社員をしています。
ただ、私の息子(父からすれば孫に当たります)が父(本人からすれば祖父に当たります)の職人の仕事に憧れ、大学卒業後に父に弟子入りして、家業を継いでくれました。
そんな中での父の死でした。
既に母は他界しており、相続人は私一人です。
ただ、私は、家業から離れているので、父の遺産はすべて家業を継いでくれた息子に相続させたいと考えています。
そこで、父の遺産をすべて息子に相続させる方法として、私が相続を放棄するということで、息子に遺産を相続させることは可能でしょうか。
もし、私が相続放棄するという方法では、息子に相続させることができないとしたら、どの様な方法であれば息子に財産を相続させることができるでしょうか。
司法書士 田中千尋
お父様が亡くなられ、相続人はあなた一人だけとのことですから、通常であればあなたがお父様のすべての財産を相続することとなります。
しかし、あなたの息子さんにそれらの財産を相続させたいとお考えのようですから、どのようにすべきか考えてみましょう。
ご質問にあるようにあなたが相続放棄を行うと、あなたはお父様の財産を相続する権利を失います。
この時、あなたが相続しない代わりにあなたの息子さんが相続できるのではないかとお考えになられているようですが、息子さんはあなたの代わりにお父様の財産を相続することはできません。
相続人が被相続人より先に亡くなっている場合、その相続人の子供が代わりに相続することができます。
このことを「代襲相続」といいますが、相続放棄の場合は代襲相続が認められません。
あなたが相続放棄を行った場合、最初から相続人でなかったものとみなされて、第2順位の法定相続人である父母や第3順位の法定相続人である兄弟姉妹に相続権が移ります。
そのため、第1順位の法定相続人である子供の子供(亡くなった人の孫)が代襲相続することはできないのです。
それでは、どのようにしたら孫が祖父の財産を相続することができるのでしょうか。
実は、お父様がご健在の間であれば、いくつかの方法から選択することが可能でした。
これらの方法によって、お孫さんに財産を渡すことが可能となります。
一方で、お父様が亡くなった後に法定相続人以外の人が相続財産を相続することは不可能です。
もしどうしてもあなたの息子さんに財産を引き継いでもらいたいと考えるのであれば、いったんあなたが全財産を相続した後、その財産を息子さんに贈与する方法が考えられます。
ただしこの場合、相続税と贈与税がともに発生するため、税負担が大きくなりすぎます。
また、贈与税の税率は相続税より高くなるため、必ずしもいい方法とはいえません。
現実的には、無理に財産を息子さんのものとするのではなく、あなたが相続した財産を息子さんがタダで使わせてもらう(使用貸借といいます)という形で考えるのがいいのではないかと思います。
司法書士 田中千尋
相続サポートセンター(ベンチャーサポート司法書士法人) 代表司法書士。昭和62年生まれ、香川県出身。
大学卒業後、司法書士事務所の勤務を経て、ベンチャーサポート司法書士法人の代表司法書士に就任。相続登記や民事信託、成年後見制度の業務に従事。相談者に親身になって相談を受けることを心がけている。
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昭和55年うまれ、大阪府出身。
大卒後、税務署に就職し国税専門官として税務調査に従事。税理士としても10年を超えるキャリアを積み、現在は「相続に精通した税理士としての知識」と「元税務調査官としての経験」を両輪として活かした相続税申告を実践中。
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