先日、90歳の母親が預貯金約1億円と自宅不動産を残して死亡しました。
母には長男の私のほか、長女と次女がいましたが、長女は3年前に2人の子どもを残して死亡しているため、相続人は、私、長女の子ども2人、次女の4名です。母は認知症で判断能力が低下しており、私の妹である次女が面倒を見てくれていました。
遺産分割協議書を作成するために長女の子どもたちと次女に連絡をとったところ、長女の子どもたちから、次女がお金を使い込んでいたのではないかという指摘を受けました。
長女の子どもたちの主張は、母が認知症を患い判断能力が低下していたのを利用して、次女が勝手に現金を引き出し、自分で使っていたのではないかというものです。
たしかに母の預金通帳を見ると、認知症が進行した5年前から頻繁に引き出しが行われており、約8000万円減少していることがわかりました。
次女は、「預金の引き出しは母が自分の意思で行ったか、母の依頼で自分が行った。医療費や介護施設への支払いかさんでおり、お金がかかる状況だった」と説明しています。
私としては、晩年の母を介護してくれた次女への感謝の気持ちがありますし、そのためにお金がかかったことはやむを得ないと考えていますが、長女の子どもたちにどうやって納得してもらえばいいのかわかりません。
このまま話し合いが不調のまま進んだ場合、手続はどのように進むのでしょうか。
また、次女が実際に使い込みをしていたのかどうかはどうやって調査すればよいのでしょうか。
お母様の相続にあたって、生前のお金の使われ方についての問題が発生しているようですね。
まずは亡くなる前に減少していた8,000万円の預金について、本当に次女の方が自分で使っていたのか、医療費や介護のために使われたのか、お母様の生活費として使われた金額がどれくらいあるのかを確認する必要があります。この点、あなたはやむを得ないとのお気持ちがあるようですが、このままでは長女のお子様たちが納得しないでしょうから、はっきりさせておくべきでしょう。
医療費や介護施設への支払いについては、請求書や領収書によりその支払い金額を確定させます。場合によっては、医療機関や介護施設へ問い合わせて、その金額を確認する必要があるかもしれません。
生活費については、きっちりと金額を計算することは難しいと思いますが、公共料金の支払いや電話代などの固定費などはある程度予想ができると思います。また、口座振替になっているものやカード払いとなっているものもある可能性があるため、通帳の記載やカード会社からの明細を確認する必要があります。
これらを調査した結果、使途不明となっている金額については、次女やほかの方にお金が移動している可能性があります。お金を受け取っている人の通帳の動きと照らし合わせて、贈与とみなされる金額がないか確認しましょう。
また、医療費や介護施設への支払いを調べている過程で、逆に次女がそれらの費用を負担しているケースもあるかもしれないため、そのような金額も確認しておきます。
これらをふまえて、相続の際に考慮すべき内容は以下のようになります。
①相続開始前3年以内に被相続人から相続人に対して贈与があった場合、その贈与した金額は、贈与を受けた相続人が相続をしたものとして相続財産の額に含まれます。また、その贈与を受けた財産について贈与税を負担している場合には、計算された相続税の額から控除します。今回のケースでは、事前に贈与税の申告を行っていないと思われますが、次女が相続した相続財産に含めて相続税の計算を行います。
②次女に対する生前贈与があると認められ、その金額が「特別受益」に該当する場合、特別受益の金額を相続財産の額に加算して各相続人の具体的な法定相続分を計算します。また、次女については特別受益の額を計算上の相続分から控除した残りの金額しか相続できないこととなります。
この特別受益については、相続開始前3年以内とする期限はないため、過去の贈与金額すべてが対象となります。
③特別受益がある場合には、遺留分の計算においても相続財産に含めて計算しなければなりません。その結果、実際の相続分が遺留分の額より少なくなる場合には、遺留分減殺請求を次女に行うことができます。
④次女がお母様の医療費や介護に関する支払いをしていると認められる場合は、寄与分として認められる可能性があります。寄与分に該当すると、その金額を相続財産に加算して受け取ることができます。
以上のような点に気を付けて、法定相続分や遺留分の計算をしてみてください。実際に遺産分割協議が成立しない場合には、家庭裁判所での調停や審判の手続きに進まなければならなくなりますが、非常に時間と手間がかかるため、まずは相続人間の話し合いで解決することを第一に考えておきましょう。
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