

東京弁護士会所属。埼玉県出身。
建物の老朽化や売却に伴う「立ち退き」は、これまで大切にしてきた生活やビジネスの基盤を揺るがす大きな出来事です。突然の通告に対し、「いつまでに、いくらで立ち退くのが正当なのか」という不安を抱えるのは当然のことです。
立ち退き交渉を円滑に進めることは、いわば「目的地へ向かうための線路を、専門家と一緒に安全に敷き直すこと」に似ています。脱線(法的なトラブル)を防ぎつつ、適正な「立ち退き料」という切符を手に入れ、安心して次の場所へ移動できるようサポートするのが私の役割です。
私はこれまで不動産問題を中心に、数多くの交渉現場で依頼者様の権利を守ってきました。法律の壁は高く感じるかもしれませんが、難しい言葉を使わずに、一つひとつ丁寧に進むべき道をお示しします。まずはあなたの今の状況をお聞かせください。最善の解決策を共に導き出しましょう。

札幌で立ち退きを求められる経路は、大きく分けて3つあります。北海道新幹線の札幌延伸を見据えた札幌駅周辺の大型開発、大通・すすきの・新札幌などの都心部と副都心の再開発、そして個別のビルの売却や建替えです。
あなたの店舗や住まいがどの経路に当たるかによって、適用されるルールが変わります。法定の市街地再開発事業であれば、都市再開発法の手続きに沿って、新しいビルに戻るか転出して補償を受けるかを選ぶことになります。一方、民間の建替えや売却であれば、借地借家法に基づいて、退去そのものに応じる必要があるのかを争える余地があります。
※本章の情報は執筆時点(2026年10月)のものです。計画は今後変更される可能性があるため、最新の状況は札幌市やJR北海道の公表資料で確認してください。
新幹線の札幌開業は延期されていますが、札幌駅周辺の再開発や改修工事は、新幹線とは別のスケジュールで進んでいます。新幹線のニュースだけを見て、自分の退去時期を判断しないようにしましょう。
北海道新幹線の札幌開業は、当初、2030年度末を予定していました。現在は、国土交通省の有識者会議が2025年3月にまとめた報告書で、おおむね2038年度末ごろの見込みとされています。ただし、これはあくまで見通しであり、正式な開業目標年度が決まったわけではありません。
一方、駅周辺の工事は着実に進んでいます。札幌駅南口の北5西1・西2地区第一種市街地再開発事業は、建設費の高騰を受けて、一体開発から2段階整備とする見直し方針が示され、都市計画変更の手続きが進められています(2026年11月に札幌市都市計画審議会への諮問が予定されています)。旧エスタの本体の解体工事は2025年9月に着手されています。撤去の完了時期は2027年度中と報じられていますが、札幌市やJR北海道の公表資料では確認できません。
JR北海道は、2026年7月の定例記者会見で、見直し後の計画の概要を明らかにしました。それによれば、西2街区は2030年度、西1街区は2034年度の竣工を目指すとされています。総事業費は、2023年3月に認可された事業計画の約2,500億円から、2026年7月時点で4,000億円超に膨らむ見通しです。なお、この事業の施行者は札幌駅交流拠点北5西1・西2地区市街地再開発組合で、JR北海道は参加組合員です。
出典:新たな都心空間調査特別委員会資料(令和8年8月31日)|政)都心まちづくり推進室 札幌駅交流拠点推進担当
また、札幌駅高架下の旧パセオの区画でも、新幹線とは別にリニューアルが進められています。2025年4月のJR北海道の発表では、2028年冬ごろの開業が予定されています。
新幹線の開業が遅れたからといって、自分の立ち退きも先延ばしになるとは限りません。加えて、駅構内や高架下の店舗では、出店時に「改修工事が始まったら退去する」と約束しているケースもあります。こうした契約が定期借家契約や一時使用目的の賃貸借(借地借家法40条)に当たるかどうかで、退去を求められたときの結論は大きく変わります。詳しくは「3-4. 定期借家契約でも争える場合がある」で解説します。
札幌駅周辺以外でも、都心部と副都心では再開発が進んでいます。ただし、外から見ると同じ「再開発」でも、法律上の仕組みは一つではありません。
札幌都心地域は、都市再生緊急整備地域と特定都市再生緊急整備地域に指定されています。この地域では、都市再開発法に基づく第一種市街地再開発事業が複数動いています。札幌駅周辺の北5西1・西2地区、北4西3地区のほか、大通でも大通西4南地区が2022年12月に都市計画決定され、2025年10月に新築工事に着手しました。このうち北4西3地区は、2024年1月に組合設立が認可され、同年7月に権利変換計画の認可を受けて、2025年3月から新築工事に入っています。
出典:都市再生特別措置法に基づく都市再生緊急整備地域の指定|札幌市、都市再生緊急整備地域及び特定都市再生緊急整備地域一覧|内閣府地方創生推進事務局、大通西4南地区|札幌市、北4西3地区|札幌市
すすきのでは、南4条西4丁目の一部(約1.0ha)について、2020年7月に南4条西4丁目南地区地区計画が決定されています。新札幌(新さっぽろ駅周辺地区)は、1971年の札幌市長期総合計画で「副都心」と位置づけられ、2013年度のまちづくり戦略ビジョンでは、重点的にまちづくりを進める「地域交流拠点」とされました。札幌市は現在、「第3次都心まちづくり計画」を指針として、都心のまちづくりを進めています。
出典:札幌圏都市計画地区計画の決定(札幌市決定、令和2年7月31日(告示第4341号))、新さっぽろ駅周辺地区まちづくり概要版|札幌市、都心まちづくりの計画|札幌市
ここで押さえておきたいのは、再開発には、都市再開発法に基づく市街地再開発事業のほかに、地区計画などの都市計画の制度を使い、個々の地権者が建替えを進める開発もあるという点です。
地区計画が決まっても、それだけであなたに退去の義務が生じるわけではありません。地区計画はその地区に建てられる建物のルールを定めるものであり、借主を立ち退かせる効力は持たないからです。この場合に退去を求めてくるのは個々のビルオーナーであり、適用されるのは借地借家法です。
これに対して、市街地再開発事業では、権利変換という手続きによって、施行地区内の権利関係が一斉に新しいビルへ移されます。借家人の権利もこの手続きの中で扱われ、最終的には施行者から明渡しを求められます。
自分のビルが法定の再開発事業の施行地区に含まれているのか、それとも単にオーナーが建替えを考えているだけなのかーーこの違いによって、正当事由を争えるのか、補償の手続きに乗るのかが分かれます。退去を求められたら、返事をする前に、まずこの点を確かめておきましょう。
ビルの所有者が代わったというだけで、あなたに出ていく義務が生じることはありません。新しいオーナーから退去を求められても、まずは法的な根拠を確かめることが先決です。
建物の引渡しを受けている借主は、その後に建物を取得した人に対しても、賃貸借を主張できます(借地借家法31条)。賃貸人の地位も、原則として新しい所有者に移ります(民法605条の2第1項)。旧オーナーに預けた敷金を返還する義務も、新しい所有者に引き継がれます(同条4項)。
再開発を見込んでビルを取得した買い手が、「建て替えるので退去してほしい」と求めてくるケースは珍しくありません。しかし、普通借家契約であれば、貸主が更新を拒絶したり解約を申し入れたりするには、正当事由が必要です(借地借家法28条)。
売却を機に一方的に退去が決まるわけではないため、求めに応じる前に「3. 民間の再開発で立ち退きを求められたら応じなければならない?」を確認してください。
都市再開発法に基づく第一種市街地再開発事業では、借家人も、再開発後の新しいビルに入居する権利を得るか、転出して補償を受けるかを選ぶことになります。民間の立ち退きのように、正当事由の有無を争う場面ではありません。
再開発と聞くと、追い出されるしかないと考えてしまいがちです。しかし、制度上は、借家人も新しいビルで借家権を得られるのが原則です。そのうえで、戻るか出ていくかを選ぶのはあなた自身だという点を押さえておきましょう。
注意したいのは、借家人は再開発組合の組合員にならないという点です。組合員になるのは、施行地区内の宅地について所有権または借地権を持つ人です(都市再開発法20条1項)。あなたには事業の意思決定に参加する議決権がないため、補償額や入居条件は、個別の協議や不服申立ての手続きの中で、自分から主張しなければ反映されません。
もう一つ重要なのが、事業の段階の見極めです。準備組合の段階、つまり都市計画決定や組合設立の認可を受ける前の段階では、都市再開発法に基づく手続きはまだ始まっておらず、強制的な明渡しの効力もありません。この段階で「再開発が決まったので退去を」と言われても、それは任意の交渉にすぎず、適用されるのは借地借家法です。法定の手続きが始まっていると思い込んで応じてしまわないよう、まずは再開発事業が今どの手続きの段階にあるのかを確認しましょう(「5-1. 契約書と再開発の手続きの段階を確認する」参照)。
権利変換計画では、もとの建物の借家人に、新しいビルの一部について借家権が与えられるよう定めなければなりません(都市再開発法77条5項)。あなたが希望しない旨を申し出た場合を除き、新しいビルに戻る道は制度上確保されています。
ただし、戻れる権利があることと、戻ることが事業上有利であることは別の問題です。新しいビルの家賃は再開発後の水準で決まるため、従前の家賃より上がることがあります。また、工事期間の数年間は仮店舗や仮住まいで過ごすことになり、その間に常連客が離れてしまうおそれもあります。なお、仮店舗や仮住まいにかかる費用は、明渡しに伴う損失として補償の対象になり得ます(「2-4. 転出や明渡しに伴う損失は補償の対象となる」参照)。
戻るか転出するかは、補償額や税金の扱い(「7-3. 立ち退き料に税金はかかる?」参照)にも関わる重要な判断であり、一度申し出た後は原則として変更できません。例外として、転出の申出期間が過ぎてから6カ月以内に権利変換計画の縦覧が始まらない場合は、その6カ月の経過後30日以内に、申出を撤回したり新たに申し出たりできます(同法71条4項)。事業が長期化した場合にやり直せる余地はありますが、それを前提にせず、家賃の見込みや仮移転の負担などの検討材料をそろえてから決めることが大切です。
新しいビルの家賃などの借家条件は、権利変換によって新しいビルの一部(区画)を取得する家主と、あなたとの協議で決まります(都市再開発法102条1項)。協議がまとまらなければ、裁定や訴訟で決着をつける仕組みが用意されています。
協議の相手方は、原則として施行者ではありません。もとの家主が権利変換によって新しいビルの区画を取得する場合は、その家主が協議の相手方です。一方、もとの家主が転出してその区画を施行者が所有することになった場合は、施行者があなたの賃貸人となり(同法77条5項ただし書)、施行者が協議の相手方になります。
協議が一定の時期(同法100条2項の公告の日)までにまとまらない場合、施行者は、当事者の一方または双方の申立てにより、審査委員の過半数の同意を得るなどして、家賃の額や支払方法、敷金の額などを裁定します(同法102条2項)。つまり、協議がまとまらないまま放置されるのではなく、あなたの側から裁定を求めることもできます。家賃の額を裁定する際には、家主が適正な範囲で得るべき利潤なども考慮されます(同条3項)。
もっとも、裁定に持ち込まれると、あなたの個別の事情は反映されにくくなります。協議の段階で、近隣の賃料水準、従前の家賃との差、営業規模などの根拠を示しておくことが重要です。それでも裁定に納得できない場合は、裁定の日から60日以内に、協議の相手方を被告として訴えを起こし、その変更を求めることができます(同条6項・7項)。
家主が転出して施行者が賃貸人になるケースでは、入居時に示される家賃は概算であり、工事完了後に施行者が確定して通知します(同法103条1項)。概算額だけを見て戻るかどうかを判断すると、想定と異なる負担を負うおそれがあります。
なお、2026年5月27日に公布された改正法(令和8年法律第23号)により、102条に新しい規定が加わります。改正後は、権利変換計画が定められる前の段階から、家主とあなたが互いに借家条件の協議を求められるようになります。施行は公布から1年以内(2027年5月26日まで)とされ、執筆時点ではまだ施行されていません。協議を早く始められるようになれば、根拠をそろえて協議に臨む準備の重要性はさらに増します。
新しいビルに戻らず転出したい場合は、決められた期限内に申し出なければなりません。組合が施行する事業であれば、組合設立の認可の公告があった日から30日以内です(都市再開発法71条1項・3項)。
申出の起算点は、施行者の種類によって異なります。組合施行の場合は組合設立の認可の公告(同法19条1項)、個人施行者や再開発会社の場合は施行の認可の公告、地方公共団体などの場合は事業計画の決定や認可の公告から数えます。札幌駅南口の北5西1・西2地区のように組合が施行する事業であれば、組合設立の認可の公告が起算点です。
なお、自宅や自社ビルの敷地を所有している場合や借地権を持っている場合も、権利変換を希望しない旨を同じ30日の期間内に申し出ることができます(同法71条1項)。
この期限を過ぎると、原則として、新しいビルで借家権を得る前提で手続きが進みます。30日という期間は短く、しかもこの段階では、具体的な補償額がまだ示されていないことも珍しくありません。判断材料がそろわないまま期限を迎えることになるため、転出するつもりでいたのに、気づいたときには期限が過ぎていたということも起こり得ます。
転出を申し出ると、借家権の価額に相当する補償金(同法91条)の対象になります。補償金の算定の基準となるのは、この30日の期間を経過した日です(同法80条1項)。申出の期限と補償額の基準日が同じ日に設定されているため、30日以内の判断は、そのまま補償額の前提を決める判断でもあります。
転出する場合には借家権の価額に相当する補償金が、明渡しによって通常受ける損失には損失補償が支払われます。ただし、十分な額が自動的に計算されるわけではなく、あなたが資料を出さなければ反映されにくい項目があります。
権利変換を受けない借家人には、借家権の価額に一定の利息相当額を付けた補償金が支払われます(都市再開発法91条)。また、施行者は、明渡しによって通常受ける損失を補償しなければなりません(同法97条)。移転費用や営業補償、仮店舗・仮住まいの費用などがこれに当たります。
施行者は、期限を定めて建物の明渡しを求めることができます。その期限は、請求した日の翌日から起算して30日を経過した後の日でなければなりません(同法96条)。明渡しに応じない場合、制度上は、施行者の請求により都道府県知事などが行政代執行法に従って代執行をすることができます(同法98条2項)。代執行に要した費用には、あなたが受け取るはずだった補償金が充てられることもあります(同条3項)。実際に代執行まで至る例は限られますが、明渡しに応じないまま居座っても有利には働かない、という制度の構造は理解しておきましょう。
補償額の算定では、公共用地の取得に伴う損失補償基準に準じた運用がされることがあります。注意したいのは、休業期間や得意先の喪失による損失といった営業補償の項目は、あなたが申告し、決算書などの資料を提出しなければ、算定に十分に反映されにくいという点です。施行者側の算定は、手元にある資料の範囲で行われます。自分の損失を自分から示さなければ、その分は最初から補償の外に置かれてしまいます。具体的な算定要素は「4. 再開発による立ち退き料・補償金はどのように決まる?」で解説します。
権利変換計画で定められた補償額を収用委員会で争うには、権利変換計画の縦覧期間(2週間)内に意見書を提出しておく必要があります。この期間に意見書を出していなければ、後から収用委員会に補償額の裁決を申請することはできません。
施行者は、権利変換計画を定めようとするときに、計画を2週間公衆の縦覧に供します(都市再開発法83条1項)。施行地区内の土地や建物に権利を持つ人は、借家人も含め、この期間内に意見書を提出できます(同条2項)。施行者が意見を採択しないときは、その旨が意見書を出した人に通知されます(同条3項)。
権利変換計画で定められた価額について収用委員会に裁決を申請できるのは、この不採択の通知を受けた人に限られます。申請の期限は、通知を受けた日から30日以内です(同法85条1項)。北海道の事業であれば、北海道収用委員会が担当します。また、明渡しに伴う損失補償(同法97条)についても、協議が整わない場合は収用委員会の裁決で決まります。
ただし、裁決を申請しても、再開発の事業はそのまま進みます(同法85条2項)。また、裁決や訴えによって変わり得るのは補償の金額だけです。新しいビルのどの区画が誰に与えられるかといった内容は、変わりません(同条4項)。
権利変換処分そのものに不服がある場合は、審査請求や取消訴訟を検討することになります。審査請求は処分があったことを知った日の翌日から3カ月以内(行政不服審査法18条1項)、取消訴訟は処分があったことを知った日から6カ月以内(行政事件訴訟法14条1項)という期間の制限があるため、通知を受け取った時点で動き出す必要があります。
収用委員会の手続きでは、あなたが決算書、内装への投資額、顧客データなどの根拠資料を示さなければ、施行者側の算定がほぼそのまま採用されることもあります。この手続きは専門性が高いため、どの資料をどのように示すかについて、早い段階で弁護士や不動産鑑定士のアドバイスを受けておくと安心です。
都市再開発法の手続きによらない民間の建替えや売却では、あなたが直ちに退去に応じる義務はありません。普通借家契約であれば、貸主が退去を求めるには正当事由が必要です(借地借家法28条)。
貸主には、手続き上の期限も課されています。期間の定めのある契約では、貸主は期間満了の1年前から6カ月前までの間に更新しない旨を通知しなければ、従前と同じ条件で更新したものとみなされます(同法26条1項)。期間の定めのない契約では、解約の申入れから6カ月を経過しなければ契約は終了しません(同法27条1項)。
裁判所は、再開発や土地の高度利用を貸主側の事情として考慮はしますが、それだけで正当事由を認めるわけではありません。重視されるのは、その計画がどこまで具体的に進んでいるかです。
計画の具体性を判断する際には、建築確認の見通し、資金の手当て、周辺の地権者や他のテナントとの調整状況などが見られます。準備組合の段階や構想段階の「再開発予定」は、具体性に乏しいと評価されることがあります。
札幌駅南口の北5西1・西2地区は法定の市街地再開発事業であり、そもそも正当事由を争う場面ではありません。しかし、こうした大規模な事業でさえ、建設費の高騰を受けて整備の進め方が見直されています。まして民間のビルオーナーが単独で進める建替え計画であれば、資金や時期の裏づけがあるのかが厳しく問われることになります。
もしあなたのビルのオーナーが「再開発の話がある」と言うだけで具体的な計画を示さないのであれば、その必要性は高く評価されない可能性があります。計画の内容と進み具合を書面で示すよう求めることが、交渉の第一歩です。
正当事由があるかどうかは、貸主が建物を使う必要性と、あなたがその建物を使い続ける必要性を比べて判断されます。あなたの事情を資料で示せるかどうかによって、判断の結果は変わります。
借地借家法28条は、正当事由を判断する際の考慮要素として、次の4つを挙げています。
このうち中心となるのは、1つ目の双方の必要性です。貸主の「建て替えて高度利用したい」という必要性と、あなたの「この場所でなければ営業や生活が成り立たない」という必要性が比べられます。
あなたの側で重く評価され得る事情としては、次のようなものがあります。
一方、貸主側の事情としては、耐震性の不足、修繕費の過大さ、具体的な建替え計画などが挙げられます。ただし、老朽化を理由にする場合でも、耐震診断の結果(Is値など)といった客観的な資料がなければ、重視されにくいのが実態です。
なお、4つ目の「財産上の給付」が、いわゆる立ち退き料です。条文上、立ち退き料は独立した要件ではなく、考慮要素の一つとして位置づけられています。
立ち退き料は、正当事由がそれだけでは足りない場合に、その不足を補う要素として考慮されます。立ち退き料を払えば必ず正当事由が認められる、というものではありません。
貸主側の必要性がそもそも弱い場合は、立ち退き料をいくら積み上げても、明渡しが認められないことがあります。立ち退き料は、双方の必要性を比べたうえで、貸主側に足りない部分を補う位置づけだからです。
一方で、貸主側にもある程度の必要性が認められる場合は、立ち退き料の額が結論を左右します。そして、その額は貸主が提示した金額にとどまるとは限りません。実際に、裁判所が貸主の申し出た額を増額したうえで、その立ち退き料の支払いと引換えに明渡しを認めた判例があります(最高裁昭和46年11月25日判決、民集25巻8号1343頁)。この事案では、貸主が、申し出た額と格段の相違のない範囲で裁判所が決める額を支払う意思を示していました。
また、解約を申し入れた後に立ち退き料の提供や増額を申し出た場合でも、事実審の口頭弁論が終わるまでにされたものであれば、原則として正当事由の判断で考慮できるとした判例もあります(最二小判平成3年3月22日判決、民集45巻3号293頁)。
この判例からも分かるとおり、貸主側が訴訟の途中で立ち退き料を引き上げてくることもあります。最初に提示された金額は、交渉の出発点にすぎないことも少なくありません。提示額にその場で返事をせず、算定の根拠を確かめることが大切です。立ち退き料がどのような要素で決まるかは「4. 再開発による立ち退き料・補償金はどのように決まる?」で解説します。
定期借家契約は、更新がなく期間満了で終了するのが原則です。ただし、契約の手続きに不備がある場合や、契約の実質が定期借家ではない場合は、争える余地があります。
定期借家契約は、公正証書などの書面(または電磁的記録)で契約しなければなりません(借地借家法38条1項・2項)。さらに貸主は、契約の前に、更新がなく期間満了で終了することを記載した書面を交付して説明しなければならず(同条3項)、この説明をしなかった場合は、更新しないという定めが無効になります(同条5項)。
この説明書面は、契約書とは別個独立の書面であることが必要とされています(最一小判平成24年9月13日判決、民集66巻9号3263頁)。つまり、契約書に「更新はない」と書かれているだけでは足りないということになります。
また、期間が1年以上の定期借家契約では、貸主は期間満了の1年前から6カ月前までの間に終了する旨を通知しなければ、契約の終了をあなたに主張できません(同条6項)。ただし、この期間を過ぎてから通知した場合でも、通知の日から6カ月が経過すれば終了を主張できる点には注意が必要です。
特に確認したいのは、「改修工事までの期間限定」「再開発の着工までの暫定利用」と説明されて入居した場合です。この場合、契約の実質が定期借家なのか、一時使用目的の賃貸借(同法40条)なのか、普通借家なのかによって結論が変わります。
一時使用と認められるのは、賃貸借の目的や動機などの事情から、短期間に限って存続させる趣旨であることが客観的に判断できる場合に限られます。契約書に「一時使用」と書かれていても、実態が伴わなければ普通借家として扱われることがあります。普通借家と判断されれば、正当事由と立ち退き料をめぐって交渉できる余地が生まれます。
契約書に「再開発が決まったら無条件で退去する」「立ち退き料は請求しない」と書かれていても、普通借家契約では、その特約の効力が否定されることがあります。
借地借家法30条は、更新や正当事由などに関する規定(同法26条~29条)に反する特約で、借主に不利なものは無効と定めています。正当事由の制度を実質的に否定するような条項は、この規定によって無効となる可能性があります。
ただし、すべての特約が無効になるわけではありません。たとえば、造作買取請求権(同法33条)を排除する特約は有効です。借主に不利な特約を無効とする同法37条は、対象として31条・34条・35条を挙げており、33条を含めていないからです。
もっとも、造作買取請求権が排除されていても、内装への投資を回収する道が閉ざされるわけではありません。内装工事費などは、立ち退き料の算定の中で主張することになります(「7-4. 店舗の内装や設備の費用も請求できる?」参照)。
「どうせ無効だろう」「サインしたからもう何も言えない」と自己判断せず、条項ごとに有効性を確認することが大切です。
立ち退き料や補償金は、法律で計算式が決まっているわけではありません。移転実費、営業補償、借家権価格などを積み上げ、交渉や手続きの中で決まります。
ただし、算定の土俵は再開発の種類によって異なります。
法定の市街地再開発事業(「2. 市街地再開発事業で立ち退きを求められたらどうなる?」参照)では、公共用地の損失補償基準に準じて補償額が算定されます。
一方、民間の立ち退き(「3. 民間の再開発で立ち退きを求められたら応じなければならない?」参照)では、立ち退き料は、正当事由がどの程度あるかに応じて増減します。貸主側の必要性が強ければ低く、弱ければ高くなり得るという関係です。
移転実費は、あなたが別の場所に移るために実際にかかる費用です。見積書などで金額を示しやすく、立ち退き料や補償額の土台になります。
主な項目は次のとおりです。
札幌では、冬季に移転する場合、積雪で工期が延びたり運搬の手間が増えたりして、費用がかさむことがあります。また、都心部で同じ条件の空き物件が見つからない場合は、家賃差額が大きくなることもあります。こうした地域の事情は、移転の時期や補償の対象期間を決める交渉で主張できます。
引越業者や内装業者から見積書を複数取り、根拠となる資料を自分で用意しておくと、交渉で金額の裏づけになります。
営業補償は、移転によってあなたの事業が受ける損失の補償です。金額が大きくなりやすい一方で、資料による裏づけがなければ低く見積もられやすい項目でもあります。
主な項目は次のとおりです。
これらを立証するには、決算書、確定申告書、月次の売上資料などが必要です。帳簿が整っていないと損失を裏づけることができず、補償額が低く見積もられてしまうことがあります。
飲食店や小売店のように立地への依存度が高い業態では、移転によってどれだけ客を失うかが争点になります。常連客の割合や来店経路などのデータがあれば、得意先の喪失についての主張を補強できます。
借家権価格とは、その建物を今の条件で借り続けられることの経済的な価値です。たとえば、今の家賃が周辺の相場より低い場合は、その差額の分だけ、借り続けられること自体に価値があると評価されます。
借家権価格がどの程度重視されるかは、再開発の種類によって異なります。法定の市街地再開発事業で転出する借家人に支払われる補償金(都市再開発法91条)は、借家権の価額をもとに算定されます。
一方、民間の立ち退きでは、借家権価格の全額が立ち退き料として認められるとは限りません。貸主側の正当事由がどの程度認められるかに応じて、裁判所が金額を調整することがあります。
借家権の評価方法は不動産鑑定評価基準に定められており、専門的な評価は不動産鑑定士が行います。交渉や裁判では、不動産鑑定士の意見書を示すことで、主張の裏づけを強めることができます(「6-4. 不動産鑑定士や税理士と連携した対応が期待できる」参照)。
なお、借家権価格の計算方法については、関連記事『借家権価格とは?割合や計算方法、立ち退き料の算出方法をわかりやすく解説』で詳しく解説しています。
公共用地の損失補償基準は、法定の市街地再開発事業では補償額を算定する際の基準として用いられます。民間の立ち退きでも、目安の一つとして参考にされる場合がありますが、この基準どおりに算定することが、あなたにとって有利とは限りません。
「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」(昭和37年6月29日閣議決定)とその細則は、国や自治体が公共事業のために土地を取得する際の補償の基準です。市街地再開発事業の補償の実務でも参照されています。民間の立ち退きに直接適用されるものではありませんが、交渉や裁判の場で、算定の目安として使われることがあります。
注意したいのは、基準には、補償の対象期間や金額に上限が設けられている項目があることです。実際の損失がその上限を超えていても、基準どおりに算定すると、補償額は上限で頭打ちになってしまいます。
そのため、法定の再開発事業では、基準の枠内で自分の損失が漏れなく算定されているかを確認することが重要です。一方、民間の立ち退きでは、基準を目安の一つとしつつ、基準にない事情も積み上げて主張できます。自分がどちらの場面で交渉しているのかによって、主張の組み立て方を変える必要があります。
回答や署名をする前に、まずは「契約の種類」と「再開発の手続きの段階」を確認し、「自分の損失を示す資料」をそろえておきましょう。最初の対応を誤ると、後から取り返しのつかない不利益を受けることがあります。
まず、自分の契約の種類と、再開発がどの段階にあるかを確認します。この2つによって、使えるルールと守るべき期限が決まります。
契約書では、次の点を確認しましょう。
法定の再開発事業は、おおむね次の順序で進みます。
都市計画や事業計画の内容は、札幌市のウェブサイトや窓口で確認できます。ただし、計画が変更されてもウェブサイトに反映されるまで時間がかかることがあるため、最新の状況は担当部署に確認するのが確実です。
特に、次の2つの期限は、過ぎてしまうと原則として取り戻せないため注意してください。
移転先の候補を探し、費用の資料をそろえておくことは、交渉の材料にも補償額の根拠にもなります。ただし、移転先と契約するタイミングには注意が必要です。
民間の立ち退きにおいて、代わりとなる物件を探しても条件に合うものが見つからないという事実は、あなたがその建物を使い続ける必要性が高いことを示す材料になります。見つかった物件の家賃や初期費用は、移転実費を算定する根拠になります。あわせて、見積書、内装工事の領収書、売上資料などを早めにそろえておきましょう。
注意したいのは、補償の合意がまとまる前に移転先と契約してしまうことです。先に契約すると、あなたが自分の都合で退去したと受け取られ、補償や立ち退き料の交渉で不利になるおそれがあります。移転先との契約は、補償の合意と時期をそろえて進めることが大切です。
署名を求められた書面は、その性質と文言を確かめてから署名しましょう。一度署名すると、後から取り消すのは容易ではありません。
準備組合から求められる「再開発への同意書」と、オーナーから求められる「明渡し合意書」は、性質が異なります。前者は事業への賛同にとどまる場合もありますが、文言によっては、明渡しを承諾したと読める条項が含まれていることがあります。「同意しないと不利になるのでは」と考えて、内容を確かめないまま署名することは避けてください。
また、合意書に「本合意書に定めるもののほか、何らの請求もしない」といった清算条項が入っていると、後から営業補償などを追加で請求することは難しくなります。
署名した後でも、錯誤(民法95条)や詐欺(同法96条)に当たる場合は、合意を取り消せることがあります。しかし、錯誤や詐欺があったことはあなたの側で立証しなければならず、実務上はハードルが高いのが実態です。後から悔やむことのないよう、内容は署名する前に確認しておきましょう。
立ち退くかどうかを決める前に、金額の話に入らないことが重要です。何気ない一言で、退去すること自体には同意していると受け取られるおそれがあるからです。
やってしまいがちなのが、相手から提示された低い金額に対して、「これでは移転費用に足りないので、もう少し上乗せしてもらえませんか」と自分で返答してしまうことです。
一見すると、補償の増額を求める自然な交渉に見えます。しかし、この一言は、退去すること自体は受け入れていると受け取られかねません。そうなると、話し合いは金額の条件だけに移ってしまいます。民間の立ち退きであれば、本来は「そもそも出ていく必要があるのか」という正当事由から争えたはずの交渉が、「いくらで出ていくか」という話にすり替わってしまうのです。
相手方は、こうしたやり取りを記録していることがあります。メールやLINEのメッセージ、説明会での発言が、後の訴訟で、明渡しの合意があったことや、あなたの使用の必要性が低いことを示す証拠として使われることがあります。一度このような発言をすると、後から「この場所でなければ営業できない」と主張しても、自分の発言と矛盾してしまいます。
相手から金額を提示されたときは、その場で返答せず、「検討のうえ、書面で回答します」と伝えて保留するのが有効な方法の一つです。この初動の段階で弁護士に相談しておけば、何を書き、何を書かないかを整理したうえで回答できます。
交渉がまとまらない場合は、民間の立ち退きであれば民事調停や訴訟、法定の再開発事業であれば収用委員会の裁決などで解決を図ります。
民間の立ち退きの場合、民事調停は札幌簡易裁判所などに申し立てます。明渡しの訴訟は、通常、貸主が原告となって起こすものです。状況によっては、あなたの側から賃借権の確認などを求めて訴えることもありますが、退去を拒むために必ず自分から訴えを起こさなければならないわけではありません。貸主が裁判所の判決などを得ない限り、あなたが強制的に退去させられることはありません。「訴訟になったら自分で起こさなければならない」と考えて、交渉で妥協する必要はないのです。
また、明渡しの訴訟が始まった後でも、和解によって立ち退き料が上積みされることがあります。ただし、そのためには、正当事由や損失についての立証の準備ができていることが前提です。
一方、法定の再開発事業では、「2-5. 補償の内容に納得できない場合は不服を申し立てられる」で解説した収用委員会の裁決や審査請求などで争うことになります。
なお、交渉が長引いている間も、家賃は必ず払い続けてください。滞納すると、債務不履行による解除の口実を相手に与えてしまいます(「7-2. 家賃を滞納していても立ち退き料は受け取れる?」参照)。
再開発による立ち退きでは、適用されるルールの見極め、補償額の根拠づくり、交渉、紛争になった場合の手続きまで、法律の判断が必要な場面が続きます。弁護士に相談すれば、初動の段階から一貫して対応を任せることができます。
補償や立ち退き料の交渉をあなたに代わって行うことは、弁護士の職務です。弁護士でない者が報酬を得る目的でこうした交渉を代理すると、非弁行為(弁護士法72条)に当たるおそれがあります。「立ち退きの交渉を代わりに引き受ける」と声をかけてくる人がいた場合は、依頼する前に、その人が弁護士かどうかを確かめましょう。
ここからは、2章~5章で解説したリスクごとに、自分で対応した場合につまずきやすい点と、弁護士に相談することで何が変わるかを解説します。相談を検討するタイミングの目安としても参考にしてください。
弁護士に相談すれば、あなたの立ち退きがどの法律の手続きによるものかを見極めたうえで、それに合った方針を立てられます。この見極めを誤ると、使うべき手続きや守るべき期限を取り違えるおそれがあります。
都市再開発法に基づく市街地再開発事業であれば、権利変換を受けるか転出するかの選択、補償額の協議、収用委員会への裁決申請(都市再開発法85条)という流れになります。民間の建替えや売却が理由であれば、借地借家法28条の正当事由と立ち退き料の問題になります(「2章」および「3章」参照)。
同じ「再開発」でも、事業の段階によって使える手段と期限は変わります。弁護士は、公表されている都市計画や事業計画の資料などから事業の段階を確認し、今やるべきことを整理します。
自分で対応する場合につまずきやすいのが、期限の管理です。弁護士に相談すれば、次のような期間制限のある手続きを見落とさずに済みます。
あわせて、契約が定期借家契約に当たるかどうか、特約が有効かどうか(借地借家法38条・30条)も、契約書から判断できます(「3-4. 定期借家契約でも争える場合がある」「3-5. 借主に不利な特約は無効になり得る」参照)。
弁護士に依頼すれば、あなたの損失を算定要素ごとに整理し、資料の裏づけのある主張として立ち退き料や補償額を求めることができます。根拠を示した主張は、相手の提示額を見直させる交渉の土台になります。
具体的には、まず「4章」で解説した移転実費、営業補償、借家権価格のそれぞれについて、決算書、確定申告書、内装工事の契約書や領収書、移転先の見積書など、主張の裏づけとなる資料を整理します。
そのうえで、相手から提示された金額については、その算定の前提を確認します。たとえば、休業期間を何カ月とみているか、どの項目を補償の対象にしているかを確かめ、漏れている項目や前提の違いを指摘します。金額の大小を感覚で比べるのではなく、算定の中身を検証できる点が、弁護士に依頼する大きなメリットです。
さらに、交渉がまとまらずに訴訟になった場合の見通しも踏まえて、交渉を進めることができます。民間の立ち退きでは、裁判所が申出額と格段の相違がない範囲で立ち退き料を増額し、明渡しを認めることがあります(「3-3. 立ち退き料は正当事由を補う要素として考慮される」で紹介した最高裁昭和46年11月25日判決)。弁護士は、こうした裁判例をもとに、提示額が訴訟になった場合と比べて妥当かどうかを判断できます。
これに対して、自分だけで対応した場合は、自分の事情を資料で示せないまま、相手の算定がそのまま基準になってしまうことがあります。
弁護士が代理人として窓口になれば、あなたが相手方と直接やり取りする必要がなくなります。発言や書面のリスクを管理しながら、交渉を進められます。
「5-3. 合意書や承諾書は内容を確かめてから署名する」「5-4. 明渡しを承諾したと受け取られる発言を控える」で解説したとおり、合意書や承諾書への署名や、明渡しを前提とした条件交渉の発言は、取り返しのつかない結果を招くことがあります。代理人を通せば、相手からの書面に即答せず、内容を確認してから回答する流れにできます。
相手方である再開発組合、デベロッパー、新しいオーナーは、再開発や用地取得の手続きに慣れた担当者や代理人を立てていることがあります。自分だけで対応すると、情報量や交渉経験の差がそのまま結果に表れやすくなります。
また、営業や日常生活を続けながら交渉を任せられるため、時間的にも精神的にも負担を減らせます。交渉がまとまらない場合も、民事調停、訴訟、収用委員会の手続きまで、同じ代理人が一貫して対応できます(「5-5. 交渉がまとまらない場合は調停・訴訟での解決を検討する」参照)。
借家権価格の評価や補償金の税務など、弁護士以外の専門家の判断が必要な場面でも、各専門家が連携して対応を進められる場合があります。
不動産の鑑定評価は、不動産鑑定士の業務です(不動産の鑑定評価に関する法律36条)。借家権価格や新しいビルの家賃水準について鑑定書や意見書を用意できれば、主張の裏づけになります(「4-3. 借家権価格|借り続けられる地位の経済的価値」参照)。
また、立ち退き料や補償金は、内訳によって税金の扱いが変わることがあります(「7-3. 立ち退き料に税金はかかる?」参照)。合意した後に内訳を変えることは難しいため、合意書の内訳を決める前に、税理士と連携して確認しておくことが望ましいでしょう。
当事務所の拠点は東京と大阪ですが、法律相談は対面のほか、お電話やオンラインでもお受けしています。札幌にお住まいの方も、事務所に足を運ばずにご相談いただけます。初回のご相談は無料で、お電話(9:00~19:00、土日祝も対応)、LINE、お問い合わせフォームからお申し込みいただけます。
説明会を欠席しただけで、法的に不利な効果が生じるわけではありません。ただし、縦覧期間内に意見書を出さないことは、決定的に不利になり得ます。
説明会では、権利変換の申出期限や補償の考え方など、重要な情報が示されることがあります。欠席する場合でも、配布された資料は必ず入手しておきましょう。
再開発の手続きには、意見を伝えるための縦覧が2種類あり、その性質は異なります。
特に重要なのは後者です。権利変換計画の縦覧期間内に意見書を出さなければ、収用委員会に補償額の裁決を申請できなくなります(同法85条1項)。
なお、説明会に出席した場合は、発言が記録されることがあります。金額や退去の条件について、その場で発言することは控えましょう(「5-4. 明渡しを承諾したと受け取られる発言を控える」参照)。
滞納があっても、直ちに立ち退き料を受け取れなくなるとは限りません。ただし、滞納の程度によっては、立ち退き料の話し合いに入ることすらできなくなるおそれがあります。
賃貸借契約では、滞納が貸主との信頼関係を破壊する程度に至ったときに、債務不履行による解除が認められます(信頼関係破壊の法理。最三小判昭和39年7月28日判決、民集18巻6号1220頁)。解除が認められれば、正当事由や立ち退き料の議論を経ずに、明渡しを求められることになります。
交渉中の滞納は、あなたの交渉力を大きく下げます。再開発をめぐる交渉の中で、貸主が家賃の受け取りを拒むこともありますが、その場合でも支払いを止めてはいけません。貸主が受け取りを拒むときは、法務局に家賃を供託することで、債務不履行を避けることができます(民法494条1項1号)。
受け取る立ち退き料や補償金には、その性質に応じて税金がかかります。内訳によって課税の扱いが変わるため、具体的な判断は税理士に確認してください。
借家人が受け取る立ち退き料のうち、借家権の消滅の対価にあたる部分は、譲渡所得の収入金額とされます(所得税基本通達33-6)。休業補償など収益の補償にあたる部分は事業所得、それ以外の部分は一時所得となる場合があります。
法定の市街地再開発事業に伴う補償金については、収用等の場合の課税の特例の適用が問題になることがあります。たとえば、転出して補償金を受け取る場合には、5,000万円の特別控除(租税特別措置法33条の4)の適用が検討されます。一方、土地や建物を所有している方が権利変換によって新しいビルの一部を取得する場合には、課税を繰り延べる特例(同法33条の3)が問題になります。戻るか転出するかの選択は、税金の面でも扱いが変わるということです。
消費税については、借家権の消滅の対価としての立ち退き料は、原則として課税の対象外とされています(消費税基本通達5-2-7)。
合意書の内訳の書き方によって税負担が変わることがあるため、内訳を決める段階から税理士と連携して確認することが望ましいでしょう。
移転先での内装工事費は移転実費として、まだ回収できていない内装投資は損失として、補償や立ち退き料の算定に含めて主張できます。
貸主の同意を得て設置した造作であれば、契約終了時に時価での買取りを求められる場合があります(造作買取請求権。借地借家法33条)。ただし、この権利は特約で排除できるため、契約書で排除されていることも珍しくありません。その場合でも、内装投資は立ち退き料の算定要素として主張する余地があります(「3-5. 借主に不利な特約は無効になり得る」参照)。
金額以外の交渉項目として、原状回復義務の免除を求めることも検討しましょう。店舗をスケルトンの状態に戻す工事には、大きな費用がかかることがあります。原状回復を免除してもらえれば、受け取る立ち退き料を増やすのと同じ効果が期待できます。
これらを主張するために、内装工事の契約書や領収書、減価償却資産の台帳を保存しておいてください。
札幌の再開発で立ち退きを求められたときは、まず、法定の市街地再開発事業によるものか、民間の建替えや売却によるものかを確かめましょう。前者では都市再開発法の権利変換と補償の手続きが、後者では借地借家法の正当事由と立ち退き料が問題になり、使えるルールが大きく異なります。
法定の再開発事業には、短い期限が2つあります。転出を希望する場合の申出期限(組合施行であれば組合設立の認可の公告から30日以内)と、補償額を争うための前提となる権利変換計画の縦覧期間(2週間)です。いずれも、見落とすと原則として後から取り戻すことはできません。
そして、どちらの場面でも、金額の話に入る前に、退去するかどうかを見極める必要があります。「もう少し上乗せしてもらえれば」という一言や、内容を確かめないままの署名が、その後の交渉を大きく左右します。
「VSG弁護士法人」では、再開発に伴う立ち退きの交渉、補償額の算定と主張、合意書の確認、調停・訴訟や収用委員会の手続きまで、立ち退きに関するさまざまな問題に対応しています。
「再開発を理由に退去を求められた」「説明会で権利変換の話を聞いたが、どう判断すればよいか分からない」「提示された補償額が妥当なのか知りたい」。このようなお悩みがある方は、書面に署名する前、そして相手に返事をする前に、まずは当事務所の初回相談をご活用ください。契約内容と事業の段階を確認し、あなたの状況に合った進め方を弁護士がご提案します。