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相続人なしの賃借人が死亡したらどうなる?大家の残置物処分リスクと適切な手続き

弁護士 中野和馬

この記事の執筆者 弁護士 中野和馬

東京弁護士会所属。東京都出身。 弁護士になる前、私は公務員として自治体業務に携わってきました。その経験から、法的な正しさだけでなく、社会的な公平性や、一人ひとりの生活に寄り添うことの重要性を深く理解しています。
立ち退き問題は、住まいや事業所といった生活の根幹に関わる問題であり、そこには多大な不安やストレスが伴います。私は「弁護士は敷居が高い」というイメージを払拭し、何でも気軽に話せる相談相手であることを常に心がけています。
複雑な法律用語を分かりやすく整理し、今後の見通しを丁寧にご説明した上で、依頼者様が「相談して良かった」と心から思える解決を目指します。公務員時代から大切にしている「誠実に向き合う」姿勢を貫き、皆様の正当な権利を守るために全力で取り組んでまいります。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/nakano/

この記事でわかること

  • 相続人のいない賃借人が死亡したときの手続きの流れと注意点
  • 必要な手続きを弁護士に依頼するメリット

賃借人が死亡した場合でも、原則として賃貸人から賃貸借契約を一方的に解除できません。
賃借人の地位は相続財産として扱われ、相続人が承継するためです。
相続人がいないときは、裁判所に相続財産清算人選任の申立てを行わなくてはなりません。
相続財産清算人が残置物の処分や債権者への弁済などを完了した後、明け渡しの手続きを進める必要があります。
室内の残置物を勝手に処分すると、損害賠償の請求や器物損壊罪などの刑事罰が科される可能性もあるため注意しましょう。

今回は、相続人がいない賃借人が死亡したときの手続き方法や残置物を処分したときのリスクなどを解説します。

相続人なしの賃借人が死亡するとどうなる?

賃借人が死亡したときは、相続人の有無によって賃貸人のとる行動は大きく変わります。
相続人がいない場合でも、賃貸人が勝手に残置物などを処分すると罰せられる恐れもあるため注意しましょう。
ここでは、相続人がいるケースといないケースに分けて、賃借人の死亡後に賃貸人がとるべき対応と手続きの流れを解説します。

相続人がいるときは交渉が必要となる

賃借人の死亡後、賃貸借契約は賃借人の死亡によって終了せず、遺産として承継されます。
遺産の分割方法は相続人間の協議などで定められ、賃貸借契約や残置物の所有者が決まります。
相続人のうち特定の一人が所有しないときは、相続人全員からの同意が必要となるため、手続きが煩雑になる恐れがあるでしょう。

賃貸人が残置物の処分や賃貸物件の明け渡し、滞納家賃の回収などを望む場合、所有者となった相続人と交渉をしなければなりません
相続人と連絡がとれない場合、契約解除ができないまま滞納家賃が増えていく恐れがあるでしょう。

相続人がいないときは相続財産清算人を選任する

相続人がいないときは、裁判所の手続きで相続財産清算人を選任し、財産の管理や処分を依頼します。
相続財産清算人とは、相続人の存否が明らかでないときに利害関係者の申立てによって裁判所から選任される相続財産の管理や清算を行う者です。
相続財産清算人は利害関係者への弁済も行うため、滞納家賃があるときは換金された相続財産から充当を受けられる可能性があります。

賃貸借契約を解除して再び入居者を募集するには、相続財産清算人による財産の処分や契約解除が完了した後でなければなりません
賃貸借契約が解除されると、物件が正式に賃貸人へ明け渡されます。

相続人なしの賃借人が死亡した後の手続きの流れ

死亡した賃借人に相続人がいないとき、物件を明け渡してもらうための残置物の処分や契約解除は以下の流れで行います。

  • 物件の状況や契約内容を確認する
  • 相続人や特別縁故者の有無を調査する
  • 相続財産清算人選任の申立てを行う
  • 清算人による残置物の処分や物件の明け渡しが行われる

それぞれの内容について解説します。

物件の状況や契約内容を確認する

まずは、物件の残置物や損傷状況、賃貸借契約の締結内容などを確認します。
物件にある残置物の量が多いときや、賃借人の故意や過失による損傷が著しいときは退去時に必要となる修繕費用などが増えるでしょう。

賃貸借契約書には、契約時の合意内容や条件などが記載されているため、賃貸人は後に相続人や裁判所とやりとりをする際に把握しておかなければなりません。
「借家人が死亡したら賃貸借は終了する」旨の特約があっても、承継される権利を正当事由なく終了させるものとみなされ、借地借家法で無効となる可能性があるでしょう。

相続人や特別縁故者の有無を調査する

相続人の有無を調査するには、被相続人の出生から死亡まで戸籍を漏れなく調査する必要があります。
収集や調査には手間や時間がかかり、見落としがあると手続きがやり直しになる可能性があるため、弁護士に依頼するのがおすすめです。

相続人がいないときでも、内縁の妻や特別に親しかった方などが特別縁故者と認定され、財産の承継を受けられる可能性があります。

なお、賃借人に身元引受人がいる場合でも、原則として法律上の遺産相続権や賃借権の継承権はありません。
連帯保証人は賃料の支払い義務がありますが、賃貸借契約を解除する権限はないため、最終的な契約解除には相続財産清算人の選任が必要です。

相続財産清算人選任の申立てを行う

相続財産清算人は、以下の要件を満たすときに家庭裁判所から選任されます。

  • 相続が開始している
  • 相続財産が存在する
  • 相続人の存否が不明である

たとえば、賃借人が死亡しており、かつ、戸籍を調査しても相続人がいないケースや、相続人の全員が相続放棄をしたケースなどです。
相続財産清算人の選任後に相続人が見つかった場合、相続財産清算人の職務は終了します。

相続財産清算人選任の申立てができるのは、以下のように賃貸人を含む取引先や債権者といった利害関係者などに限られます。

  • お金を貸していた人や取引先などの債権者
  • 遺言により財産の承継人として指定されている受遺者
  • 内縁の妻などの特別縁故者
  • 相続財産の管理責任を免れるために相続放棄をした相続人
  • 市町村長(空き家や所有者不明土地の管理が必要なとき)
  • 検察官

相続財産清算人として選任される人に法律上の決まりはありません。
ただ、法的な知見が不可欠であるため弁護士が選任されるのが一般的です。

相続財産清算人を選任するときは、以下の支払いが必要となります。

  • 官報広告費用や収入印紙など数千円
  • 相続財産を管理するための予納金としての100万円前後

相続財産清算人による残置物の処分や物件の明け渡しが行われる

裁判所から選任された相続財産清算人は、以下のような職務を行います。

  • 相続財産を管理する
  • 相続財産を処分し、相続債権者や受遺者などへ弁済を行う
  • 特別縁故者への相続財産の分与を行う

相続財産の管理には、預貯金口座の解約や払戻し、建物の修繕、不動産登記申請などの保存行為も含まれます。
一方で、財産の処分や廃棄、売却、債務の弁済などの保存行為を超える権限外行為をするときは裁判所の許可が必要です。

賃貸人も債権者として弁済を受ける権利があるため、滞納家賃や原状回復費用などの債権があるときは相続財産から回収できる可能性があるでしょう。
債権者への弁済が完了した後、残った財産は最終的に国庫へ帰属します。

相続人なしの賃借人死亡後の注意点

賃借人が死亡した後の対応は、法的な手続きによって行わなければなりません。
賃貸人や管理会社が対応すると、手続きが無効になるケースや損害賠償リスクを負うケースもあります。

ここからは、特に注意したいポイントを解説します。

賃貸人による自力救済は禁止されている

自力救済とは、法的な手続きによらず私人が実力行使によって権利や債権の回収などを実現しようとする行為です。
賃貸人が勝手に残置物を処分したり、鍵を交換したりする行為は自力救済として住居侵入罪や器物損壊罪などの刑事罰に問われるリスクがあります。

民事上でも、たとえば賃貸人が勝手に家財を処分した後に遠縁の親族が現れて、多額の損害賠償を請求されるリスクがあるでしょう。
賃借人に相続人がいないとわかっている場合でも、残置物に他人の所有物がある場合は注意しなければなりません。
残置物を勝手に処分してトラブルになるケースもあるため、適法な手続きを踏むようにしましょう。

管理会社による対応は非弁行為に該当するリスクがある

管理会社が遺産の調査や相続人との未払い家賃の交渉などを行うと、非弁行為に該当する恐れがあります。
非弁行為とは、弁護士資格を持たない者が報酬を得る目的で弁護士の独占業務である法律事務などを業とする行為です。
非弁行為に該当すると、弁護士法により2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科せられる恐れがあります。

直接の報酬がなくても、手数料や管理料など間接的な利益全般も報酬とみなされる可能性があります。
違反が認められると合意内容が無効になるなどトラブルに発展するリスクが高いため、対応は弁護士に依頼しましょう。

連帯保証人の責任範囲に注意する

連帯保証人がいる場合、賃借人が死亡すると滞納家賃や原状回復費用について支払う義務を負います。
一方で、死亡日以降に発生した債務は支払い義務を負わず、残置物についても処分する権限はありません
賃借人の地位や残置物の承継、死亡日以降の債務は相続人が承継します。

相続人なしの賃借人が死亡したときは弁護士に相談

賃借人の死亡後の対応を適切に行うには、専門家である弁護士への依頼がおすすめです。
弁護士に依頼するメリットと、依頼する弁護士の選び方を解説します。

弁護士に相談するメリット

弁護士に依頼すると、以下のようなメリットがあります。

法的な手続きを一任できる

契約関係や相続人の確定などについて判断を間違ってしまうと問題が複雑になり、解決までに時間がかかってしまうケースもあります。
弁護士に依頼すると、賃借人死亡後の法的な判断から相続財産清算人の手続きなどを適切に行ってもらえるため安心です。

トラブル発生時に対応を代行してもらえる

相続人不在で手続きを進めて、遠縁の親戚にあたる者や特別縁故者を主張する者などが現れてトラブルに発展する可能性があります。
賃貸人が対応しようとすると労力や精神的負担がかかりますが、弁護士に依頼すると対応を一任できるため大幅な負担軽減につながります

相続財産清算人を選任するときは、100万円前後の予納金が必要になるケースが多いです。

しかし、放置すると賃貸借契約を解除できず、その間の家賃収入が得られなくなります。

そのため、予納金を支払ってでも早期に手続きを進めた方が経済的なメリットは大きくなるケースがほとんどでしょう。

弁護士の選び方

一般的に、弁護士事務所では所属する弁護士の実績などを紹介しています。
賃貸トラブルや相続手続きに精通した弁護士に相談しましょう。

特に、借地借家法や相続財産清算人の手続きに精通しているかは重要なポイントです。
弁護士事務所によっては初回無料相談を実施しているケースもあるため、以下のような点を確認しておくとよいでしょう。

  • 不明点を質問したときのレスポンスが丁寧で早い
  • 手続きをしたときのリスクなども隠さずに説明してくれる
  • 弁護士費用を明確に提示してくれる

無料相談を積極的に利用し、弁護士の対応や提案内容などを納得がいくまで確認しましょう。

相続人なしの賃借人が死亡したときのよくある質問

ここからは、賃借人が死亡したときの対応として、賃貸人からのよくある質問と回答を4つご紹介します。

Q1:賃借人が死亡したときは当然に契約解除となる特約は有効か?

賃貸借契約の締結時に「賃借人が死亡したら賃貸借は終了する」旨の特約を定めていても、原則として無効とされます

建物の賃貸借を賃貸人から解約や更新拒絶する場合、賃貸人からの退去要求がやむを得ないという正当事由が必要です。
賃借人の居住権は借地借家法により保護されており、賃借人やその相続人を一方的に不利な立場とする特約は公序良俗に反するとして無効となるためです。

Q2:賃貸人が残置物を法的な手続きによらず処分できる?

賃貸借契約書の特約で「家賃の滞納や賃借人の死亡により、賃貸人は建物に立ち入って残置物などを処分できる」と定められていても、原則として無効となります
建物への立ち入りや残置物の処分には賃借人の承諾が必要です。
また緊急性など特段の事情がない限り、このような定めが賃借人の承諾とはみなされないためです。

一方で、賃貸借契約終了の直前や直後に残置物の処分について承諾書を取得した場合、賃貸人による処分が適法となるケースもあり得ます。

Q3:賃借人が死亡したときに連帯保証人の義務はどうなるのか?

連帯保証人がいる場合、賃借人が死亡したときの連帯保証人の責任は一定の範囲に限定されています。
連帯保証契約は賃貸人と連帯保証人の直接契約であり、賃借人の死亡後も滞納家賃や原状回復費用などを保証する義務はなくなりません
賃借人の死亡時に「すでに確定していた債務」の支払い義務は継続し、連帯保証人が全額支払う義務を負います。

一方で、連帯保証人が賃借人の死亡を知った時点で保証する債務の元本は確定し、死亡日以降に発生する家賃や損害金などは支払いの義務を負いません。

相続人が物件に居住し続けたい場合、新たな連帯保証人の設定を求められるケースもあるでしょう。

Q4:警察が介入したときはどう対応したらよいのか?

賃貸人が賃借人の死亡について第一発見者となったときは、事件性の有無を調査するために警察への通報が必要です。
警察が事件性の調査のために室内の検視などを行うため、警察の許可が下りるまでは残置物の処分や異動などは避けましょう。
通常、警察は所持品などから身元を特定し、遺族へ連絡します。

賃貸人は事情聴取などの協力を求められる可能性もあります。
必要に応じて警察の捜査に協力しながら連帯保証人や管理会社への連絡を行いましょう。

まとめ

賃借人が死亡したときは、賃貸人が勝手に残置物を処分すると器物損壊罪などの刑罰に問われるリスクもあるため注意しましょう。
残置物の処分や賃貸借契約の解除は、賃借人の地位を承継した相続人との交渉が必要です。
相続人がいないときは、裁判所に相続財産清算人の選任を申立てなければなりません。

相続人との交渉や相続財産清算人の選任の申立てをするときは、弁護士への依頼がおすすめです。
弁護士に依頼すると、トラブル発生時の対応や法的な手続きなどを代行してもらえるため、賃貸人の負担を大幅に軽減できます。
賃借人が死亡したときの対応にお困りの方は、賃貸トラブルなどの解決実績が豊富なVSG弁護士法人にご相談ください。

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