

東京弁護士会所属。東京都出身。
弁護士になる前、私は公務員として自治体業務に携わってきました。その経験から、法的な正しさだけでなく、社会的な公平性や、一人ひとりの生活に寄り添うことの重要性を深く理解しています。
立ち退き問題は、住まいや事業所といった生活の根幹に関わる問題であり、そこには多大な不安やストレスが伴います。私は「弁護士は敷居が高い」というイメージを払拭し、何でも気軽に話せる相談相手であることを常に心がけています。
複雑な法律用語を分かりやすく整理し、今後の見通しを丁寧にご説明した上で、依頼者様が「相談して良かった」と心から思える解決を目指します。公務員時代から大切にしている「誠実に向き合う」姿勢を貫き、皆様の正当な権利を守るために全力で取り組んでまいります。

賃貸物件からの立ち退きを巡る争いがあるときは、貸主から借主へ立ち退きを求める正当事由が認められるかが重要なポイントとなります。
正当事由とは、借地借家法28条に定められており、借主に物件からの退去を求めるのにやむを得ないと認められる正当な理由です。
たとえば、建物が老朽化して倒壊の危険があり建て替えの必要がある場合や、貸主に事情があり自己使用をしなければならない場合などです。
立ち退きの正当事由が認められるかは、建て替えの必要性や借主の生活状況など個別の事情が考慮されるため、ケースによって異なります。
ここでは、立ち退きの正当事由が認められるケースと認められないケースや、立ち退き料を受け取るまでの流れなどを解説します。
賃貸物件の借主は、一般的に貸主に対する立場が弱くなりやすく、生活や事業の基盤となる居住を安定させるには、法的な保護が必要です。
借主の居住を保護するため、借地借家法では借主に不利益を及ぼすような契約内容の無効化などを規定しています。
特に立ち退き交渉では、借地借家法第28条に定められた正当事由の認定が重要なポイントとなるため、まずはその内容を確認していきましょう。
借地借家法28条では、入居者保護のために以下の場合には、正当な事由がなければ認められないと定めています。
<借地借家法28条>
(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
第二十八条 建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
貸主が物件を自己使用する必要性が強いほど、正当事由として認定されやすい傾向にあります。
一方で、借主の物件の利用状況として引っ越しが困難な事情があるときは、立ち退き料が増額されるケースもあるでしょう。
正当事由として認定されるには、主に次の4つの要素が考量されます。
それぞれの具体的な内容を見ていきましょう。
貸主がその物件を使用しなければならない必要性があるときは、正当事由として考慮されます。
単に借主がその物件を使用したいだけでは、原則として正当事由として認められません。
たとえば、以下のような事情があるときに、自己使用の必要性が高いと判断される可能性があるでしょう。
貸主の必要性とともに、借主の物件の利用状況も考慮されます。
たとえば、以下のような事情があると立ち退き料の算定などで加算される可能性があります。
借主がすでに生活の拠点を移しているケースや、引っ越しが容易であるケースなどは立ち退き料の算定に影響する場合もあるでしょう。
貸主と借主の事情のみでなく、賃貸借契約を締結した後の取引や物件の状況なども総合的に考慮されます。
従前の取引状況からすでに貸主と借主の信頼関係が破壊されていると判断された場合、貸主の正当事由が認められる一つの要因となるでしょう。
立ち退き料とは、貸主の都合で借主が退去するときに引っ越し費用や移転にかかる初期費用、迷惑料など、発生する損害を補償するための金銭です。
貸主の自己使用の必要性が弱いと判断された場合でも、十分な立ち退き料の提示があると正当事由として認められるでしょう。
立退料はあくまで正当事由の補完の役割を果たします。
立ち退き料の提示のみで退去を要求するのは原則として認められない点に注意しましょう。
借地借家法は、当事者で定められた合意よりも法律が優先する強行法規です。
民法には賃貸借契約の一般原則が定められていますが、実務上、居住用や事業用の建物を賃貸するときは特別法である借地借家法が優先的に適用されます。
たとえば、民法617条では期間の定めのない賃貸借契約はいつでも解約の申し入れができ、建物は申入れから3カ月経過後に契約が終了すると定めています。
<民法617条1項>
(期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ)
第六百十七条 当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合においては、次の各号に掲げる賃貸借は、解約の申入れの日からそれぞれ当該各号に定める期間を経過することによって終了する。
一 土地の賃貸借 一年
二 建物の賃貸借 三箇月
三 動産及び貸席の賃貸借 一日
一方で、借地借家法が適用される建物賃貸借では民法617条ではなく借地借家法38条が適用され、貸主から解約するときは原則6カ月前の通知が必要です。
<借地借家法38条6項>
(定期建物賃貸借)
第三十八条 6項
第一項の規定による建物の賃貸借において、期間が一年以上である場合には、建物の賃貸人は、期間の満了の一年前から六月前までの間(以下この項において「通知期間」という。)に建物の賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができない。ただし、建物の賃貸人が通知期間の経過後建物の賃借人に対しその旨の通知をした場合においては、その通知の日から六月を経過した後は、この限りでない。
引用:e-GOV法令検索 借地借家法38条
民法の契約自由の原則を建物賃貸借のケースでそのまま適用すると、借主に不利益なを及ぼしてしまう可能性があるでしょう。
借地借家法は、民法に優先する特別法として契約の更新や解約の制限などを定め、貸主の不当な要求から借主を法的に保護しています。
借地借家法28条の正当事由が認められるかは、貸主が退去を求める必要性の強さや妥当性から判断されます。
貸主に正当事由がある場合でも、必要性が100%認められるのは稀です。
通常は立ち退き料の金額によって正当事由が補完されるケースが多いでしょう。
正当事由は、居住用か事業用かによっても妥当とされる判断基準が変わります。
正当事由として認められた事例と、認められなかった事例をそれぞれ確認していきましょう。
貸主に強い必要性があるときは、正当事由を構成するものとして認められる可能性があります。
事例事件名:家屋明渡請求
裁判所・部:最高裁判所 第三小法廷
判決日:1965年9月21日
要旨: 貸主が事業に失敗して借金返済のため住居を売却し、自己が居住するために所有する賃貸物件の借主へ明け渡しを求めた。
出典:裁判所判例検索(最高裁 1965/9/21 判決)PDF
通常、貸主の単なる自己都合による退去要求は認められません。
退去を求めるのにやむを得ないと認められる正当事由や、相当の立ち退き料の支払いが必要です。
一方で、貸主に強い必要性があるときは、正当事由として認められます。
判例は、貸主が事業失敗による借金弁済のため現住居を売却し、住宅に困窮して借主に明け渡しを求めた事例です。
この場合、貸主が物件を使用できなければ生活に困窮するという事情もあり、必要性が高いとして退去の正当事由が認められました。
貸主が退去を求める理由が軽微であるとして、正当事由が認められなかったケースです。
事例事件名:建物明渡等請求
裁判所・部:最高裁判所 第二小法廷
判決日:1965年1月22日
要旨:借主による建物の無断建築について、経緯やその他の事実関係から義務違反が軽微であるため貸主の退去を求める正当事由が否定された。
出典:裁判所判例検索(最高裁 1965/1/22 判決)PDF
建物の借主が店舗を建築する経緯や店舗の構造、その他の事実関係において、借主の義務違反が軽微であると認定されました。
そのため、無断建築であっても貸主が退去を求める正当事由としては成立せず、賃貸借契約の解除が否定されました。
退去を要求されてから立ち退き料を受け取るまでの流れは、以下の通りです。
それぞれの内容を見ていきましょう。
貸主が何らかの事情で借主に退去してもらいたい場合、立ち退きを求める通知が送付されます。
貸主と借主の関係によっては、あらかじめ口頭で立ち退きの旨を伝え、後日正式に通知書を送付するケースもあるでしょう。
通常、通知書には貸主が退去を求める理由が記載されているため、弁護士に相談するときは持参をおすすめします。
貸主から立ち退き料の提示を受けても、条件を交渉するために一旦は保留またはお断りをしましょう。
条件交渉では、借主に引っ越しが困難な事情などがあると立ち退き料に加算される可能性もあります。
立ち退き条件の交渉は、当事者同士では感情的になってしまい、話し合いを進められなくなるケースが珍しくありません。
弁護士に依頼すると、貸主の代わりに交渉を代行してもらえるため、労力や精神的負担の大幅な削減に繋がるでしょう。
立ち退きの条件がまとまったら、「言った」「言わない」のトラブルを避けるために合意書を作成して内容をまとめます。
合意書には、以下のような事項を記載しましょう。
合意書を2部作成したら、貸主と借主が記名押印をしてそれぞれが1部ずつを保管します。
立ち退き料が支払われるタイミングは、物件の明け渡しと同時か、もしくは明け渡しの後になるケースがほとんどです。
物件の明け渡し前に立ち退き料を支払うと、支払ったにも関わらず借主が退去しないなどのトラブルになる恐れがあるためです。
借主によっては、引っ越し費用の支払いが難しいために退去までに時間がかかる場合もあるでしょう。
貸主との条件交渉によっては、一部の立ち退き料を先に振り込んでもらい、引っ越し費用に充当して退去するようなケースもあります。
受け取った立ち退き料は、課税対象となって確定申告が必要になるときもあり得ます。
詳しくは税務署の相談窓口や弁護士、税理士などの専門家に相談しましょう。

立ち退きを巡ってトラブルが起きそうなときは、専門家である弁護士への相談がおすすめです。
貸主と借主のそれぞれのケースを見ていきましょう。
貸主が立ち退き交渉を行う場合、立ち退きの正当事由にどれだけの必要性があるのかを訴求できるかがポイントです。
たとえば物件の倒壊リスクが著しい場合など、正当事由が強いと判断されたときは立ち退き料が不要になるケースもあります。
弁護士に依頼すると、過去の判例などを参照しながら正当事由として主張する根拠の立証支援を行ってくれます。
結果として立ち退き料を抑えられる可能性が高くなるでしょう。
立ち退きの正当事由に不備があると、補完するためにより高額な立ち退き料を求められる可能性があります。
借主の場合は立ち退き料を増額交渉するために貸主の主張する正当事由の内容を精査し、立ち退き料の最大化をめざしましょう。
要介護者が同居しているなど、借主側に引っ越し困難な事情があるときも立ち退き料の増額として考慮される可能性もあります。
借地借家法28条の規定にある正当事由は、立ち退き交渉の結果に大きな影響を与える重要なポイントです。
立ち退きを求めるための正当事由が強いと認定されるかどうかによって、立ち退き料の額は数百万円~数千万円単位で変わります。
立ち退き問題では、トラブルが発生する前に弁護士へ相談し、判例に基づいた戦略的な立ち回りによって解決をめざしていきましょう。
立ち退き料を巡るトラブルは、立ち退き問題に強いVSG弁護士法人にご相談ください。