

東京弁護士会所属。東京都出身。
弁護士になる前、私は公務員として自治体業務に携わってきました。その経験から、法的な正しさだけでなく、社会的な公平性や、一人ひとりの生活に寄り添うことの重要性を深く理解しています。
立ち退き問題は、住まいや事業所といった生活の根幹に関わる問題であり、そこには多大な不安やストレスが伴います。私は「弁護士は敷居が高い」というイメージを払拭し、何でも気軽に話せる相談相手であることを常に心がけています。
複雑な法律用語を分かりやすく整理し、今後の見通しを丁寧にご説明した上で、依頼者様が「相談して良かった」と心から思える解決を目指します。公務員時代から大切にしている「誠実に向き合う」姿勢を貫き、皆様の正当な権利を守るために全力で取り組んでまいります。

築年数が数十年以上経っているなど、老朽化したアパートを建て替えるために大家から入居者へ退去を求めるケースがあります。
一方で、入居者は生活の拠点を失ってしまうため、単に築年数が経っているのみでは原則として建て替えの正当事由は認められません。
建て替えなければ倒壊のリスクがあるケースや、正当事由を補完するために入居者へ十分な立ち退き料の支払いが必要となるケースが多いでしょう。
ここでは、老朽化したアパートを建て替えるときの正当事由や認定基準、立ち退き料の相場などを解説します。
目次
正当事由とは、大家が入居者へ退去を求めるのにやむを得ないと認められる正当な理由のことをいいます。
アパートの建て替えによる退去では、アパートの現況や大家と入居者の双方の事情などから総合的に判断されます。
具体的な内容について確認していきましょう。
借地借家法28条では、大家が賃貸借契約の更新拒絶や解約申入れをする際は正当な事由がなければ認められないと定めています。
<借地借家法28条>
(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
第二十八条 建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
大家と入居者の双方が抱える事情や建物の現況、立ち退き料の金額などが比較考量され、正当事由として認定されるかが判断されます。
以下のような事情がある場合、建て替えの必要性があり、正当事由が強いと判断される傾向にあります。
建て替えを行う必要性が弱い場合でも、十分な立ち退き料の支払いによって正当事由として補完される可能性があります。
入居者にその場所で生活や営業を続けなければならない事情がある場合は、建て替えの要否や立ち退き料の金額に考慮されます。
たとえば、以下のような事情です。
入居者の事情によっては、新しい賃貸物件の入居審査に通るのが困難な可能性もあるでしょう。
引っ越しが困難な事情があるときは、補償としての立ち退き料に反映されます。
アパートの建て替えは、単に築年数が経っているのみでは正当事由として認められにくい傾向にあります。
以下のように、倒壊リスクについての客観的な根拠や十分な立ち退き料の支払いが必要です。
建物の倒壊リスクは、単なる築年数や外観の状態だけでなく、客観的な資料による根拠がなければ原則として認められません。
客観的な資料を準備する場合、以下のような団体に調査報告書の発行を依頼しましょう。
特に1981年(昭和56年)以降に建設された物件は、旧建築基準法に基づいて建築されています。
近年発生・予測されている大地震に対する耐性が低く、建て替えの必要性が認められやすい傾向にあります。
築年数は経っているが、外観の劣化のみに留まる場合でも、十分な立ち退き料の支払いで建て替えの正当事由が補完される可能性があります。
建物の倒壊リスクが低いほど貸主が退去を求める正当事由は弱くなり、補完に必要な立ち退き料も多く求められるでしょう。
大家が代替物件のあっせんや費用を負担するなど、立ち退き料以外の事情によって建て替えの正当事由が認められやすくなるケースもあります。
竣工後50年以上経過した賃貸物件について、正当事由が認められず、立ち退き料の支払いを条件に建て替えを認めた判例があります。
事例<判例の概要>
裁判所・部:東京地裁
判決日:2012年11月1日
要旨:竣工後50年以上経過した賃貸物件について、耐震性の点でも危険を否定できないとされた。
裁判所は一定の不利益を補う立ち退き料311万円の支払いを条件に明け渡しを認めた。
参照:⑻−正当事由と立退料−
入居者は本物件でゴルフ会員権の販売営業を行っており、近隣顧客への販売活動から本物件を利用する必要があることは認められました。
一方で、裁判所からは「本物件を利用しなければ営業できないとまでは言えない」と認定されています。
入居者が事業利用する必要性はあったものの、建物の老朽化が著しく、建て替えの必要性と比較考量したときに耐震性能が乏しく危険を否定できなかった点がポイントです。
耐震補強を行うには相当の費用がかかるために現実的ではないと判断され、結果として建て替えが認められました。
入居者には立ち退き料の支払いを行うことが条件として出されています。
アパートを建て替えるときの立ち退き料は、様々な事情などが考慮されます。
具体的な算定根拠について確認していきましょう。
住居の立ち退き料を算定するときは、一般的に賃料の6カ月~1年分ほどが多いと言われますが、実務上は個別の事情で大きく変わります。
入居者の引っ越しが困難な事情が強いときは、慰謝料や迷惑料などの項目で増額されます。
一方で、アパートの倒壊リスクが非常に強く、補修も困難なときは立ち退き料が減額され、支払われないケースもあるでしょう。
店舗の立ち退き料は、事業内容や営業状況などで大幅に変動します。
小規模な店舗では賃料の1年~2年分ほど、大規模な店舗では賃料の2年~3年分以上が目安です。
主に以下のような算定根拠が考慮されます。
一般的には、住居の立ち退きよりも高額になるケースが多いでしょう。

アパートの建て替えを成功させるには、建て替えの検討や新しいアパートの企画のみを考えればよいわけではありません。
入居者との戦略的な交渉やスケジュールの確保が重要です。
入居者からの反対により、交渉が長期化するケースも珍しくないためです。
ここからは、建て替えの流れと成功させるポイントを解説します。
アパートを建て替える際のスケジュールは、主に以下の通りです。
新しいアパートを建築するために、周辺の賃貸需要などの市場調査を行います。
建築するアパートの規模や工期、事業計画から見込まれる利益、資金計画などを立て、場合によっては金融機関へ融資を依頼します。
入居者にアパートの建て替えを伝える前に、建て替えの正当事由や入居者に通知する内容などを弁護士と相談しておくのが望ましいです。
倒壊のリスクなど、建て替えの必要性を入居者に納得してもらえれば、トラブルを抑えて交渉を進められる可能性が高くなるでしょう。
弁護士へ事前に相談しておくと、立ち退き料として必要な金額も把握できます。
借地借家法26条1項では、以下の通り期間の定めがある普通借家契約を解除するときの通知期限について定めています。
<借地借家法26条1項>
(建物賃貸借契約の更新等)
建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。
引用:e-GOV法令検索 借地借家法26条
新しいアパートに建て替えるときは、通常、契約更新の6カ月~1年前に文書で建て替えの理由や契約解除を通知します。
一方で、入居者の事情によっては1年~数年に及ぶ交渉期間を要するケースも珍しくありません。
6カ月前の通知は法律上の最低ラインであり、実務上はそれ以前からの個別交渉によって入居者の状況や意思を確認する必要があるでしょう。
入居者からの反対や条件交渉などがあったときは、弁護士に相談して対応方法を検討します。
一部の入居者からの合意が得られない場合、最終的には建物明渡し訴訟を提起し、裁判上で建て替えの可否や立ち退き料の金額を決定します。
入居者から建て替えの合意を得られたら、現アパートの解体工事と新アパートの建築工事に着工します。
最後の入居者が退去した後、施工業者と請負契約を締結し、現アパートの解体工事と新アパートの建築工事を進めます。
新アパートの建物検査後、引き渡しや法的な登記手続きなどを完了させると、新アパートに希望者が入居できる状態になります。
アパートの建て替えを円滑に進めるためには、特に以下2つのポイントが重要です。
それぞれについて解説します。
老朽化による建て替えの正当事由について、数値化や言語化などで入居者に伝えられれば交渉を円滑に進められる可能性が高くなるでしょう。
たとえば、過去の判例から裁判上で認められる立ち退き料を算定する、耐震診断により入居者に危険が及ぶリスクを説明するなどの方法があります。
単なる大家側の都合のみでなく、入居者の個別事情への対応や十分な金銭的補償があると入居者の納得感に繋がります。
弁護士と相談して、戦略的に立ち退きを進めるための方法を策定しましょう。
入居者との立ち退き交渉が難航した場合、合意までに数年かかるケースや、立ち退き料が想定より高額になるケースもあります。
スケジュールの途中で資金が尽きてしまわないよう、特に入居者に退去が困難な事情がある際は余裕を持った資金計画を設定しましょう。
大家に事情があり早急に建て替えをしたい場合も、交渉に時間を掛けられてしまい、焦って不利益な条件で合意せざるを得ないリスクがあります。
交渉が長期化した場合に備えて、時間的な余裕も確保しておきましょう。
アパートの建て替えを成功させるには、入居者へ強引に退去を迫るのではなく、納得感のある法的な正当事由の構築や戦略的な交渉が必要です。
立ち退きを巡って入居者とトラブルになると、お互いが感情的になってしまい、話し合いを進められないケースが少なくありません。
建て替えを巡るトラブルが深刻になる前に、できるだけ早いタイミングで弁護士に相談しましょう。
弁護士に相談すると、立ち退き料を最小限に抑えつつ、入居者との交渉を円満に解決するためのロードマップを策定できます。
アパートの建て替え問題でお困りの方は、トラブルの解決実績が豊富なVSG弁護士法人にご相談ください。