

東京弁護士会所属。東京都出身。
弁護士になる前、私は公務員として自治体業務に携わってきました。その経験から、法的な正しさだけでなく、社会的な公平性や、一人ひとりの生活に寄り添うことの重要性を深く理解しています。
立ち退き問題は、住まいや事業所といった生活の根幹に関わる問題であり、そこには多大な不安やストレスが伴います。私は「弁護士は敷居が高い」というイメージを払拭し、何でも気軽に話せる相談相手であることを常に心がけています。
複雑な法律用語を分かりやすく整理し、今後の見通しを丁寧にご説明した上で、依頼者様が「相談して良かった」と心から思える解決を目指します。公務員時代から大切にしている「誠実に向き合う」姿勢を貫き、皆様の正当な権利を守るために全力で取り組んでまいります。

賃貸物件の退去時のクリーニング代は原則貸主負担ですが、契約書に特約で明記されているときは敷金から控除される可能性があります。
一方で、ハウスクリーニング特約があるときでも相場より極端に高額な場合や、事前説明が不十分な場合は無効を主張できる余地があります(消費者契約法10条)[注1]。
特約やクリーニングの内容によっても負担の要否は異なるため、退去の立ち会い時にサインを求められても安易に応じず、弁護士に相談しましょう。
本記事では、退去時のクリーニング代の相場や負担者、特約が有効になる要件などを解説します。
目次
クリーニング代は役務提供の対価ですが、契約書に借主負担とする特約がある場合に限り敷金から控除される可能性があります。
敷金とは、賃料滞納や原状回復費用を担保するために入居時に預ける金銭です。(民法622条2)[注2]。
敷金は退去費用の担保として貸主(大家)に預ける金銭であり、主に以下のケースで利用されます。
原状回復費用とは、借主の故意や過失で生じた損傷を修復するための費用です。
「家具をぶつけて壁に穴を開けてしまった」「タバコを落として床のビニールクロスを溶かしてしまった」などのケースが一例として挙げられます。
敷金はあくまで担保として預けるお金であるため、退去後に必要な修繕費用を敷金から差し引いた残額が後日返還されるのが一般的です。
入居者が賃貸物件を退去した後、次の入居者を迎えるためのクリーニング代が敷金の返還と相殺されるケースがあります。
公的な指針である「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を含め、クリーニング代を敷金から控除する明確な決まりは特に存在しません。
実務上、別途クリーニング代を振り込む手間を省くための処理として利用されています。
一方で、敷金返還トラブルを防止するため、契約の特約が適法でなければ相殺は有効となりません。
貸主(大家)の方針によっても敷金の返還方法は異なるため、契約前に敷金やクリーニング代の精算について契約書の記載を確認しておきましょう。
入居時に敷金がない場合や、敷金より退去費用が高額な場合は、退去時に別途支払いが必要になる可能性があります。
敷金がない物件では、クリーニング代などが別途の請求書として直接支払いを求められるケースもあるでしょう。
入居時に敷金がない物件は初期費用を抑えられるメリットがありますが、退去時に高額な実費を請求されると退去後の資金計画に影響する恐れがあります。
一方で、敷金がなくても貸主から要求されるままに不当な退去費用を支払う必要はありません。
契約書や特約の内容と請求書に記載された明細を照合し、正当な負担かどうかを精査しましょう。

最高裁の判例では、日常生活の家具の設置跡や日焼けなどの修復費用は家賃に含まれているため、退去時の費用負担は貸主(大家)とされています。
事例事件名:敷金返還請求事件
裁判所・部:最高裁判所第二小法廷
判決日:2005年12月16日
事件番号:平成16(受)1573
出典:裁判所判例検索(最高裁2005年12月16日判決)
一方で、故意や過失による損耗は借主負担の可能性があるため、誰がどのような割合でクリーニング代を負担するかケースごとに確認しましょう。
原状回復ガイドラインの基準によると、通常の生活で発生する損耗や経年劣化は原則として貸主負担とされています。
上記の修復費用は次の入居者を迎えるのに必要な営業コストであり、すべて毎月の家賃に含まれているため、貸主(大家)が負担するのが原則です。
契約書に有効な特約がない限り、自分が負担する必要はないでしょう。
自分の故意や過失で発生した汚損などのクリーニング代は、原則として自己負担となります。
借主が賃貸物件を使用するときは、社会通念上、良識を持って綺麗に管理や使用をする善管注意義務が課せられています(民法400条)[注3]。
最終的には個別の事例によって判断されますが、通常の生活の範囲を超えた怠慢や過失による汚損がある場合、善管注意義務違反を理由としてクリーニング代の全額自己負担を求められる可能性があります。
原状回復ガイドラインによると、通常使用の範囲内であれば原則としてクリーニング代を負担するのは貸主(大家)です。
一方で、以下3つの条件を満たしていれば、通常損耗の場合でも借主がクリーニング代を負担する特約は有効であると定めています。
「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(国土交通省)
これらの条件を満たした特約は通常有効とされるため、敷金とは別のクリーニング代の請求は法的に問題ありません。
予想外の費用負担を避けるためにも、契約前に必ずクリーニング代の特約の有無について確認しておきましょう。
クリーニング代の借主負担は、契約書に負担額や範囲を明記して、通常損耗の負担を説明し、借主が認識して合意した場合のみ有効です(最高裁判決2005年12月16日等)。
契約書に明記がなく、暴利的な金額を請求されたときは消費者契約法10条[注1]で特約が無効になる可能性もあります。
特約の有効性の判断基準を確認していきましょう。
退去時のクリーニング代を借主負担とする特約が契約書に記載されていても、直ちに有効になるわけではありません。
消費者契約法10条[注1]により、消費者の利益を一方的に害する条項などは無効とされているためです。
個人である借主と、プロである大家や管理会社には情報や交渉力で大きな格差があり、強行法規によって不当な特約の効力は制限されています。
自分の契約書の特約が、法的に有効か無効かを判断するための具体的なチェック項目は以下の通りです。
単に「退去時にクリーニング代を借主が負担する」のみ記載され、金額が空欄の場合、借主が支払う金額を認識できません。
借主保護の観点から、特約は無効となる可能性があるでしょう。
契約時の説明不足や合意内容の不明確さがある場合、特約の有効性が争点になります。
宅地建物取引業法上、契約時の重要事項説明において、金銭の負担に関する事項は口頭かつ書面で説明しなければなりません(宅地建物取引業法35条[注4])。
重要事項説明書の特約欄にチェックを入れたのみでは、口頭での説明がないため、手続きに瑕疵があるとみなされる可能性があるでしょう。
退去時に初めて高額請求を知った場合や、金額の明細が「クリーニング代一式」など不明瞭な場合も無効となり得ます。
契約書の文言のみでなく、契約時の説明状況や明細についても確認しておきましょう。
クリーニングにかかる時間や労力は広さによって大きく変わるため、クリーニング代は間取りで変動します。
ワンルームや1Kの単身用物件で約1万5,000円~3万円、1LDK~2LDKのファミリー向け物件で約3万5,000円~6万円ほどが目安です。
ここからは、費用相場を間取り別に解説していきます。
クリーニング代の目安となる金額が、1㎡あたり1,000円程度です。
業者や地域によって異なりますが、総床面積15㎡〜30㎡程度の単身用物件では約1万5,000円~3万円が適正な相場となるでしょう。
特にクリーニング代が実費請求される場合、実際の費用は物件の汚れの程度によっても異なります。
一方で、相場を大幅に超えるときは単価が不当に高く設定されていたり、不要なオプションが含まれているケースも少なくありません。
クリーニング代の単価や対象となる面積、オプションの有無が不明瞭なときは明細の提示を要求しましょう。
1LDK〜2LDKやファミリー物件では、単身用と比べて面積のみでなく部屋数や設備面からクリーニング代が高額になるケースがあります。
1LDKから2LDK以上のファミリー向け物件(面積40㎡〜60㎡程度)の相場は、約3万5,000円から6万円ほどです。
費用が高額な場合、通常のクリーニングのみでなくエアコンの内部洗浄やタバコの消臭消毒費用などが追加されている可能性が高いといえます。
清掃項目の詳細が見積書に記載されていないときは、業者に明細を依頼しましょう。
具体的な清掃項目がわかると、不当な追加請求にあたる項目が明確になり、交渉をしやすくなります。
請求額が相場より高額かどうか判断するときは、クリーニングする面積に1㎡=1,000円前後の単価を乗じた金額から著しく乖離していないかを確認しましょう。
次に、契約書の特約の有無や見積書にある明細の具体性、著しい汚れやオプションなど追加作業の有無を整理します。
「クリーニング代一式15万円」など一式で表記されている場合、上乗せのオプションを含めているケースが珍しくありません。
内訳の開示の依頼によって、大家からの不当な上乗せを抑止できる効果もあるでしょう。
クリーニング代の請求額に納得できないときは、すぐに同意せず、契約書や請求明細を確認するのが重要です。
同意書にサインしてしまうと、合意したとみなされて後日の交渉が困難になります。
原状回復ガイドラインの基準と照合し、減額交渉などをするときは専門家である弁護士に相談しましょう。
敷金の返還額が少ないときは、契約時の賃貸借契約書から事前に預けた敷金と精算明細書に記載された金額が一致しているか確認しましょう。
契約書に控除項目や一定の償却額、敷引率などがあるときは、差引項目の計算に矛盾がないかを確認します。
管理会社によっては、敷金の記載ミスや控除額の誤りなど、ずさんな計算によって過剰な退去費用を請求しているケースがあります。
記載された数字について、根拠となる契約書からファクトチェックを行い、過剰な請求を抑止しましょう。
原状回復ガイドラインには、退去時の清掃費用ごとに負担区分の基準が記載されています。
たとえば、エアコンの内部洗浄などは特別な喫煙汚れなどがない限り、原則として貸主(大家)負担です。
原状回復ガイドラインは法的な拘束力を持つ法令ではありませんが、業界の標準ルールとして交渉時の重要な判断材料となります。
大家負担で区分された清掃費用が自分への請求項目に含まれていないか照合し、原状回復ガイドラインを不当請求からの防衛手段に利用しましょう。
賃貸住宅の退去時に関するトラブルは多く、2025年には国民生活センターに14,711件の敷金やクリーニング代に関する相談が寄せられました。
「賃貸住宅の原状回復トラブル」(独立行政法人国民生活センター)
事例トラブル例(1)
娘が一年間入居した築25年の賃貸アパートを退去する際、壁や床の補修費用と清掃代で敷金を上回る合計13万5,000円を請求された。
追加請求に納得がいかず不動産屋に確認したところ、入居時の壁や床は新品だったと言われたが娘は指摘されたシミや傷を付けていないと主張している。
事例トラブル例(2)
賃貸マンションの入居時にルームクリーニング代を支払った際、「退去時のルームクリーニング代は不要」と言われたにもかかわらず、退去時に請求され納得できない。
弁護士に依頼すると、大家への交渉を代行して敷金の適正な返還や不当請求の取り下げを行い、法的な手段でトラブルの早期解決を図ります。
[注1]消費者契約法/e-Gov
消費者契約法10 条
[注2]民法/e-Gov
民法622条2
[注3]民法/e-Gov
民法400条
[注4]宅地建物取引業法/e-Gov
宅地建物取引業法35条
退去時のクリーニング代は敷金と相殺されるケースもありますが、通常損耗による汚損などは原則貸主(大家)負担です。
クリーニング代を借主負担とする場合、契約書に金額や範囲を明記し、大家の説明で借主が通常範囲を超える負担を認識した上で合意しなければなりません。
自分が退去時のクリーニング代を負担するときは、契約書の特約にある計算方法と照合して適正な請求額かどうか確認しましょう。
一般的な相場を超える場合、記載ミスや二重請求など不当に費用が上乗せされているケースが少なくありません。
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