

東京弁護士会所属。東京都出身。
弁護士になる前、私は公務員として自治体業務に携わってきました。その経験から、法的な正しさだけでなく、社会的な公平性や、一人ひとりの生活に寄り添うことの重要性を深く理解しています。
立ち退き問題は、住まいや事業所といった生活の根幹に関わる問題であり、そこには多大な不安やストレスが伴います。私は「弁護士は敷居が高い」というイメージを払拭し、何でも気軽に話せる相談相手であることを常に心がけています。
複雑な法律用語を分かりやすく整理し、今後の見通しを丁寧にご説明した上で、依頼者様が「相談して良かった」と心から思える解決を目指します。公務員時代から大切にしている「誠実に向き合う」姿勢を貫き、皆様の正当な権利を守るために全力で取り組んでまいります。

賃貸物件に発生したカビの除去費用は、原因が結露の放置など自分に責任があれば自己負担となる可能性があります。
カビによる汚損が深刻化した後、貸主への通知義務を怠ったり、壁の下地補修まで必要になったときは高額請求になる恐れもあるでしょう。
一方で、不当な上乗せによって請求が高額になっているケースもあるため、納得いかないときは支払いに同意する前に弁護士へ相談しましょう。
ここでは、カビを除去するために高額な除去費用を請求されたときの対処法や相場などをご紹介します。
目次

カビによる退去費用の相場は、以下のようにカビの範囲や深さ、補修内容などで変わります。
それぞれの内容を確認していきましょう。
軽いクリーニングで済む場合とは、カビが表面にうっすら発生しており、特殊なリフォームが不要な程度の清掃をいいます。
軽度のカビが発生しやすいのは、たとえば風呂場や窓枠、クローゼットなどが多いでしょう。
拭き取りや一般の表面清掃で除去できるときは、範囲や処理内容で変動しますが、1カ所あたり約5,000円から2万円ほどが相場です。
表面清掃で除去できるにも関わらず、壁紙の全面張替えなどを要求する管理会社は過剰請求をしている可能性が高いと言えます。
表面のみでなくカビが内部まで浸食しているときは、次章のクロスの張替えなどが必要となります。
クロスの張替えは、カビが内部まで浸食して表面清掃のみでは除去できず、変色やにおいが残る場合などです。
費用相場は1㎡あたり約1,000円~1,500円ほどで、補修範囲によって大幅に変動します。
補修範囲が小さく部分張替えで済むときは、部屋全体の全面張替え費用まで支払う必要はありません。
管理会社から「部分張替えができないため全体を張り替える」と主張された場合でも、過剰な面積分の負担は拒否しましょう。
入居年数が長いときは、後述する減価償却で残存価値が減少しているため、借主負担は張替え費用から価値の減少分を控除した部分のみとなります。
カビが下地まで達している場合や広範囲に広がっている場合は、クロス張替えでは済まず、補修や工事を要するため高額になります。
費用相場は、下地ボードの張替え、除菌・防カビ特別工事など1部屋あたり約15万円〜30万円以上かかるケースもあるでしょう。
下地ボードの張替えが必要になるのは、借主が結露を放置して壁を腐食させたなど、明らかな善管注意義務違反がある場合です。
通常、日常生活での経年劣化は貸主負担ですが、善管注意義務違反による躯体の損傷は経年劣化とみなされず、借主負担が高額になります。
一方で、下地の腐食や管理会社の工事見積書の妥当性などは精査する必要があるでしょう。

カビの除去費用は、換気不足や結露放置など借主の善管注意義務違反が原因であれば借主負担となります(民法400条、621条)[注1][注2]。
一方で、建物の構造上の欠陥や雨漏りなど、経年劣化や貸主の維持義務違反によるときは貸主負担です(民法606条1項)[注3]。
ケースごとの負担区分を確認していきましょう。
次のように借主の注意義務違反でカビが拡大した場合、費用負担を求められる可能性が高いです。
原状回復義務の範囲や退去費用の計算方法は、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」[注4]に定められています。
結露の発生後の拭き取りや換気は、部屋を良好に保つための最低限の義務とみなされます。
壁の内部までカビを侵食させたのに通知しない場合も、通知義務違反として責任を課せられるでしょう。
設備の不具合など、次のように建物側に原因がある場合は、原則として貸主負担です。
建物の通常損耗の修繕費用は、原則として貸主負担です。
壁内部の断熱材に欠陥があり、どれだけ入居者が換気をしても物理的に結露を防ぐのが難しいケースもあるでしょう。
建物の基本構造の欠陥による損耗も借主の原状回復義務の対象外であり、貸主が修繕費用を負担します。
カビの除去費用の負担区分は、場所のみでは決まらず、以下のように原因や管理状況などで判断されます。
| カビの場所 | 負担区分 | |
|---|---|---|
| 借主負担の例 | 貸主負担の例 | |
| 風呂 | 黒カビを何カ月も放置してタイルを完全に腐食させた | 一般的な風呂掃除用洗剤で落ちるピンクカビが発生した |
| 窓際 | 借主が結露を放置したために窓枠が腐食して壊れた | 建物の構造から結露が生じやすく、借主が拭き取れない場所にカビが発生した |
| クローゼット | 壁に家具を寄せて換気を一切していなかったためにカビが拡大した | 外壁に面した壁の断熱不足が原因でカビが増殖していた |
日常的な管理や建物の欠陥の有無などが判断基準となります。
カビの除去費用が高額になる代表的な原因は、主に以下の3つです。
該当すると見積りが跳ね上がる可能性があるため、早急に対処しましょう。
長期間の放置によりカビの浸食が拡大し、表面清掃のみでなくクロス張替えや下地補修まで必要なときは除去費用が高額になります。
通常は、軽微なカビの時点で拭き取りや貸主への報告を行えば、壁の下地までの浸食は避けられるケースがほとんどでしょう。
放置による浸食の拡大は、借主の善管注意義務や通知義務の違反とみなされ、高額な交換費用や工事費用が自分の負担となります(民法400条、615条)[注1][注5]。
この場合、通常の経年劣化による減額も適用されない可能性があるため注意しなければなりません。
カビの範囲が広く、壁や天井全体など補修の範囲が広くなるほど作業量や張替え面積が増えて高額になります。
部屋全体にまでカビが広がっているときは、日常生活による通常損耗とは認められません。
一方で、壁紙の張替え費用などは入居年数に応じた経年劣化の割引が受けられます。
国土交通省のガイドラインでは、特別損耗のときも借主負担は入居年数から計算した耐用年数に基づく残存価値に限られます。
壁紙の耐用年数である6年の経過後は借主負担がほぼ0円となり、新品交換代を支払う必要はありません。
契約書にクリーニング費用や原状回復に関する特約があると、請求額に加算されて高額になる傾向にあります。
たとえば「退去時のエアコンや壁紙のカビ清掃費用は一律借主負担とする」などの特約があると、通常使用でも一定の支払いを要求されます。
一方で、クリーニング特約は負担範囲が明確であり、金額や算定根拠が明示され、借主の認識と合意がある場合でなければ有効となりません。
特約と原状回復による2重請求や、消費者の利益を一方的に害する特約も無効となる可能性があります(消費者契約法10条)[注6]。
賃貸物件に数年から数十年などの長期間居住した場合、壁紙の価値は減価償却によって減少し、退去時の負担から控除されます。
退去時の新品交換費用の請求は不当であるため、経年劣化のルールに基づいて拒否しましょう。
物件の設備には、価値を保ちながら使用できる期間として耐用年数が原状回復ガイドラインに定められています。
たとえばクロスの耐用年数は6年であり、6年で残存価値がほぼ0円となります。
原状回復では借主負担が残存価値に限られるため、入居期間が6年を超えていると故意や過失があるときでも張替え費用の負担はありません。
10年から20年ほど居住したときも、自分の負担はほぼ0円となるケースが多いです。
一方で、耐用年数を超えていても善管注意義務違反による損傷などは借主負担となる可能性があります。
クロス張替えの人件費やカビの清掃費用も減価償却が適用されず、一定の支払いを求められるケースがあるでしょう。
最高裁判所の判例では、通常損耗の補修費用は特段の合意がない限り貸主負担であると明示されました。
通常損耗とは、通常の使い方をしている中で自然と生じる劣化や損耗などです。
判例によると、賃貸住宅における経年劣化や通常損耗は毎月の家賃に含まれているため、退去時に支払う必要はないとされています。
日照によるクロスの色褪せや一般的な日常生活での軽微なカビの清掃代を請求するのは二重請求にあたるため、原則として拒否できます。
費用負担を巡る争いでは、カビが通常使用の範囲内か、掃除不足や結露放置で拡大したかなどが争点となるでしょう。
クロスの耐用年数である6年以上居住し、壁紙の価値がほぼ0円になっていても、借主の善管注意義務違反があるときは自己負担となります(民法400条)[注1]。
居住年数よりも、居住している間の管理状況を問われるケースが多いでしょう。
たとえば結露の放置で壁の内部の石膏ボードを腐食させた場合や、故意に壁に穴を開けた場合などは、自分で修復費用を負担しなければなりません。
クロスの耐用年数である6年は、あくまで壁紙のみが対象です。
建物の躯体や下地の石膏ボードの耐用年数は10年~20年ほどになるため、下地まで損傷させた場合は修理費用がかかる可能性があります。
高額な除去費用を請求されたときは、見積書の内訳と補修範囲を確認し、契約書やガイドラインにある減価償却などの基準と照合しましょう。
退去の立ち退き時にサインを求められても安易に応じず、まずは弁護士や消費生活センターに相談するのが重要です。
カビの除去費用を請求されたときは、まず以下のような費用項目について具体的な説明を求めましょう。
貸主は借主の求めに応じて退去費用の詳細を説明する義務を負います。
「カビの原状回復工事一式15万円」のように一式での請求を受けたときは、面積や単価が記載された明細の提出を求めてください。
相場と比べて高すぎる項目がある場合や、実際に発生したカビと見比べて対象範囲が広すぎる場合、減額を求めましょう。
請求内容が妥当かを判断するために、賃貸借契約書の特約と、原状回復ガイドラインの基準を照合しましょう。
賃貸借契約では「清掃代は借主負担とする」「清掃代は1㎡あたり1,000円とする」など退去時の費用負担や計算方法などを特約で定めているケースがあります。
一方で、原状回復ガイドラインによると、次の要件を満たす場合でなければ特約は有効と認められません。
消費者契約法10条[注6]でも、借主に一方的に不利益を与える暴利的な内容は無効となる可能性があるため、弁護士に確認しましょう。
高額請求に対しては、貸主にカビの発生原因や借主の過失の証明を求め、減額や負担区分の変更を交渉しましょう。
民事訴訟上の原則として、原状回復費用を請求するときの証明責任は貸主にあります。
結露放置や掃除不足が原因なのか、雨漏りや断熱不足、換気設備の不具合など建物側の問題が背景にあるのかによって負担区分は変わります。
原因が曖昧なまま高額請求されている場合は、根拠を確認し、建物の不具合や経年劣化の可能性があるときは減額や再検討を求めましょう。
写真や入居時の記録、過去のやり取りが残っていれば、交渉材料として活用できます。
たとえば、入居中に結露の拭き取りや換気扇を回している様子を撮影する、入居時にカビが発生していた事実を提示するなどの方法があります。
話し合いで解決できない場合は、消費生活センターや弁護士などへの相談がおすすめです。
消費生活センターでは、商品やサービスの契約トラブルなどについて一般的な助言を行う無料相談窓口を設けています。
費用負担を巡る争いや高額な請求を受けたときの交渉代行などは消費生活センターで対応できないため、弁護士に依頼しましょう。
弁護士に依頼すると法的な手続きや交渉などを代行してもらえるため、自分で行うより労力や精神的負担を大幅に軽減できます。
不当請求の排除や敷金返還請求は、少額訴訟などの手続きが必要になるケースも少なくないため、弁護士の介入によって解決するのが望ましいです。
[注1]民法/e-Gov
民法400条
[注2]民法/e-Gov
民法621条
[注3]民法/e-Gov
民法606条1項
[注5]民法/e-Gov
民法615条
[注6]消費者契約法/e-Gov
消費者契約法10条
カビの除去費用は、原因が結露の放置など自分の善管注意義務違反のときは自己負担ですが、経年劣化や建物の構造上の問題によるときは貸主負担です。
費用相場は、除去作業が軽微な清掃で済む場合から下地補修を要する場合など内容により変わりますが、数千円〜数十万円ほどかかります。
高額な請求を受けた場合、除去が必要な範囲や単価などの内訳を確認し、契約書や特約の内容と照合するのが重要です。
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