

東京弁護士会所属。東京都出身。
弁護士になる前、私は公務員として自治体業務に携わってきました。その経験から、法的な正しさだけでなく、社会的な公平性や、一人ひとりの生活に寄り添うことの重要性を深く理解しています。
立ち退き問題は、住まいや事業所といった生活の根幹に関わる問題であり、そこには多大な不安やストレスが伴います。私は「弁護士は敷居が高い」というイメージを払拭し、何でも気軽に話せる相談相手であることを常に心がけています。
複雑な法律用語を分かりやすく整理し、今後の見通しを丁寧にご説明した上で、依頼者様が「相談して良かった」と心から思える解決を目指します。公務員時代から大切にしている「誠実に向き合う」姿勢を貫き、皆様の正当な権利を守るために全力で取り組んでまいります。

借主が賃貸物件から退去するとき、故意や過失による設備の損傷などを原状回復する義務があります。
原状回復義務の範囲は、国土交通省の原状回復ガイドラインにある区分や算定基準が共通のルールとなっています。
請求額が相場より高額な場合、本来は貸主負担である費用が含まれているかもしれません。
弁護士に依頼すると、不当な請求項目について減額交渉を行い、請求額を大幅に減らせる可能性があります。
ここでは、原状回復費用の相場や減額交渉するためのポイントなどを解説します。
目次
原状回復は、室内を入居時の状態に戻すのではなく、借主の故意や過失で生じた損傷などを回復させる行為です。
2020年の民法改正では、通常損耗や経年劣化による損傷は借主の原状回復義務の対象外であると明記されました。
まずは借主と貸主の負担義務の範囲を確認しましょう。
民法第621条は、賃貸借契約の終了時、通常損耗や経年劣化を除く損傷について借主が原状回復を負担する義務を定めています。
引用:
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
通常損耗や経年劣化とは、一般的な日常生活で賃貸物件を使用するときに自然と生じる損傷や汚損などです。
民法第621条[注1]では、通常損耗や経年劣化の原状回復費用は原則として借主負担から除くため、貸主が負担しなければなりません。
具体的な修繕範囲や費用負担の線引きは、実務上、国土交通省の原状回復のガイドラインが一般的に使用される基準となっています。
原状回復ガイドライン(正式名称:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン)は、法的な拘束力はありませんが、実務上は裁判規範に近い基準です。
貸主と借主に費用負担を巡る争いがある場合、ガイドラインの区分や算定基準が唯一の公的な物差しとなります。
1998年に初版が策定され、2024年の改訂では費用負担の範囲をより具体的に判別するための別表などが拡充されました。
同時に、通常損耗や経年劣化による損傷は貸主負担、故意や過失による破損は借主負担という原則があらためて強調されています。

ガイドラインの考え方によると、原状回復の負担者は「誰の責任で生じた損傷か」で判断されます。
借主負担の範囲は、以下のように借主が日常生活の不注意や故意でつけた傷や汚れなどです。
一方、貸主負担の範囲は、以下のように経年劣化や自然災害などの損傷や破損です。
特約によって異なる負担方法を合意できますが、借主を一方的に不利にする特約などは無効となる可能性があります。

クロスなどの内装には通常の使用期間である耐用年数が定められており、年数の経過とともに価値が減少します。
原状回復費用を算定するとき、経年劣化による価値の減少分は借主負担となりません。
使用期間が長いほど価値は減少し、耐用年数経過後はほぼゼロ(1円)となります。
原状回復費用の相場は、修繕する場所や物件の間取り、居住する地域、管理会社の判断などで大きく異なります。
前章で整理した借主負担・貸主負担の考え方を前提に、交渉時の客観的な指標となる場所別・間取り別の原状回復費用の目安を解説します。
請求額が妥当かを判断する基準として確認していきましょう。

原状回復費用は、修繕する場所や内容によって料金の相場が異なります。
実際の金額は、施工範囲や材質、経年劣化によってどれだけ損傷が進んでいるかの判断などにより増減します。
経年劣化や通常損耗に該当する場合は、借主への請求自体が認められないケースもあるでしょう。
金額だけでなく、請求理由や施工範囲が妥当かどうかをあわせて確認するのが重要です。
たとえば、クロスの一部の損傷にも関わらず施工範囲が全面張替えのときは、本来借主負担ではない範囲まで請求に含まれている可能性があります。

原状回復費用は、物件の間取りによってもおおよその目安が異なります。
一般的に間取りが広くなるほど施工範囲は広がるため、原状回復費用はより高額です。
例外的に、居住年数が長い場合や、経年劣化が大きい場合には、実際の負担額が相場より低くなるケースもあります。
間取りが広いからといって必ず高額になるわけではありません。
請求額がこれらの目安を大きく超える場合は、次章で解説する特約などが原因となっていないか確認しましょう。
原状回復費用が相場を大きく超える場合、以下のように算定方法に問題がある場合があります。
不動産会社が慣習としてこれらの算定方法を行い、全額借主負担としているケースもあるため注意しましょう。
特約で原状回復費用の負担方法を定めているときは、当事者間の合意として一般原則より特約の負担方法が優先されます。
たとえば、ハウスクリーニング費用やクロスの張替え費用を全額借主負担とする特約などです。
一方で、消費者契約法第10条[注2]により以下のような特約は無効となります。
賃貸契約書に署名捺印している場合でも特約は無効となる可能性があり、必ずしも諦める必要はないため、まずは弁護士に相談しましょう。
耐用年数は、設備が通常使用できる年数であり、原状回復ガイドラインに設備ごとに年数が定められています。
設備は使用年数に応じて経年劣化し、耐用年数が経過した後の価値はほぼゼロ(1円)です。
高額な原状回復費用の典型例として、経年劣化による価値の減少分が控除されずに借主へ請求されているケースがあります。
たとえばクロスは耐用年数が6年であり、入居から6年経過していると借主には張替え費用などの負担義務はありません。
借主が負担するのは現在の残存価値に留まるため、経年劣化した設備の原状回復について新品交換を請求されたときは見積もりの修正を要求しましょう。

原状回復費用は、請求された金額をそのまま支払う必要はありません。
相場やガイドラインを踏まえて内容を確認し、適切に主張すれば減額できるケースもあります。
ここでは、実務上特に重要な減額交渉のポイントを解説します。
原状回復費用の見積書をもらったときは、速やかにガイドラインと照らし合わせて貸主負担が含まれていないかチェックしましょう。
見積書に「原状回復工事一式」などと記載されている場合は、場所や単価などを具体的に確認できる明細を要求します。
貸主からの原状回復費用を鵜呑みにすると、敷金と相殺されて本来返還されるはずの金額が減ってしまいます。
誤って貸主負担の修理費用が見積もりに含まれている場合も多いため、見積書が届いた段階ですぐに確認しましょう。
通常損耗や経年劣化を主張するときは、以下のように具体的な根拠を提示できると交渉が有利に進みます。
入居時の写真を提示する
たとえば設備の損傷が最初からあった場合、入居時の写真があると借主の故意や過失による損傷ではないと証明できるでしょう。
設備の使用年数や使用状況がわかる資料を提示する
設備の購入日など、使用年数がわかる資料があると耐用年数から残存価値を具体的な数値で提示できます。
耐用年数や残存価値の計算は、原状回復ガイドラインの算定基準を参照すると価値の減少分として認めてもらえる可能性が高くなるでしょう。
貸主から高額な請求を受けてトラブルになりそうなときは、弁護士への依頼がおすすめです。
弁護士に依頼すると、以下のようなメリットがあります。
法的な根拠から減額交渉できる
弁護士は過去の判例やガイドラインなど、法的な根拠から減額交渉を行います。
貸主が交渉に応じない場合、少額訴訟や民事調停を視野に入れた減額交渉ができるでしょう。
交渉を代行してもらえる
弁護士は借主にかわって貸主や管理会社と交渉を行うため、交渉に不安があるときでも専門家に代行してもらえます。
交渉にかかる労力や精神的負担が大幅に軽減されるのは大きなメリットとなるでしょう。
通常損耗や経年劣化による価値の減少は借主負担となりませんが、貸主からの請求に含まれるケースは少なくありません。
原状回復費用が相場より明らかに高額な場合、弁護士に交渉を依頼すると大幅に減額できる可能性があるでしょう。
借主負担の範囲は国土交通省の原状回復ガイドラインに基準があり、必ずしも貸主の言い値で支払う必要はありません。
原状回復ガイドラインを基に再計算すると大幅な減額の余地が生まれる可能性があるため、できるだけ早く弁護士に相談しましょう。
高額な原状回復費用を請求されてお困りの方は、賃貸トラブルに強い弁護士が多数在籍するVSG弁護士法人にご相談下さい。
[注1]民法/e-GOV
民法第621条(賃借人の原状回復義務)
[注2]消費者契約法/e-GOV
消費者契約法10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)