

東京弁護士会所属。東京都出身。
弁護士になる前、私は公務員として自治体業務に携わってきました。その経験から、法的な正しさだけでなく、社会的な公平性や、一人ひとりの生活に寄り添うことの重要性を深く理解しています。
立ち退き問題は、住まいや事業所といった生活の根幹に関わる問題であり、そこには多大な不安やストレスが伴います。私は「弁護士は敷居が高い」というイメージを払拭し、何でも気軽に話せる相談相手であることを常に心がけています。
複雑な法律用語を分かりやすく整理し、今後の見通しを丁寧にご説明した上で、依頼者様が「相談して良かった」と心から思える解決を目指します。公務員時代から大切にしている「誠実に向き合う」姿勢を貫き、皆様の正当な権利を守るために全力で取り組んでまいります。

法律上、故意は「結果をわかっていながらわざと行う」、過失は「不注意によって引き起こしてしまう」行為を指します。
賃貸物件から退去するときの原状回復費用では、故意や過失で生じた損傷は原則として借主が負担しなければなりません。
一方で、日常生活で自然と発生する損傷や経年劣化は原則として貸主負担です。
高額な退去費用を請求されたときはすぐに合意書へサインせず、一旦持ち帰って弁護士に相談しましょう。
本記事では、故意や過失による退去費用や例外的に自己負担を免れるケース、高額請求を受けたときの対処法などを解説します。
目次

故意や過失があると、民法400条の善管注意義務や民法415条の賠償責任などの義務違反として法的な責任を問われる根拠となります[注1]。
退去時の費用負担も、故意や過失、重過失の有無などで責任の範囲が異なるため、違いを把握しておきましょう。
故意とは、発生する結果を十分認識しながら、わざと室内に損傷や汚損を加える行為です。
たとえば、わざと壁を殴って穴をあけた、ペット禁止物件で犬を飼育して床や壁を傷だらけにしたなどのケースです(民法621条・通常損耗等を除く損傷=特別損耗[注1])。
故意に物件を損傷させた場合、経年劣化などを主張しても賠償責任は免れません。
過失とは、一般的な注意を払えば結果の発生を防止できたにも関わらず、注意義務を怠って結果を発生させた場合を指します。
たとえば、不注意によって物を落としたときの床の傷や、家具を運んでいるときにできたクロスの破れなどです。
わざとではない場合でも、通常求められる注意を払わなかったときは民法400条[注1]の善管注意義務違反として賠償責任が発生します。
故意は結果をわかりながらわざと行われた行為、過失はうっかりした不注意からの行為ですが、重過失はわずかな注意すら払わなかった著しい怠慢による行為を指します。
以下の例は、単なる不注意ではなく、借主の著しい怠慢として重過失が認められる可能性があるでしょう。
重過失があると借主の法的責任は極めて重くなり、賃借人賠償責任保険なども適用されない恐れがあります。
貸主からは、賃貸借契約の善管注意義務違反として即時解除を言い渡されるケースもあるでしょう。

原状回復費用は、故意や過失によるときは借主負担ですが、通常損耗や経年劣化によるときは原則貸主負担です。
不当な請求を見抜くために、費用の負担先を決める判断基準を確認していきましょう。
賃貸物件の原状回復費用は、傷や汚れの原因によって負担先が異なります。
故意・過失による損傷の場合の修繕費は借主に請求されますが、通常使用で生じる損耗や経年劣化による損傷は、貸主負担が原則です。
| 損傷事由 | 負担先 |
|---|---|
| 故意・過失 | 借主 |
| 通常使用・経年劣化 | 貸主 |
2020年民法改正では、民法621条[注1]で通常の使用及び収益によって生じた損耗や経年劣化は借主が原状回復義務を負わないと明文化されました。
一方で、故意や過失による損傷と、通常使用や経年劣化の損傷では判断が付きにくいケースもあります。
それぞれに該当する例を詳しく確認しておきましょう。
賃貸物件の原状回復で故意にあたる代表的な例は以下の通りです。
借主が意図的に付けた傷や汚れは、通常使用や経年劣化で発生するとはみなされません。
故意や重大な善管注意義務違反として実費負担を請求されます。
過失にあたる例は、以下の通りです。
わざとではなくても、不注意によって付けた傷や損傷は通常損耗ではなく過失とみなされる可能性があります。
一方で、過失の中でも不注意の程度が大きく、損傷が拡大している以下のケースは重過失と判断される恐れがあるでしょう。
冬場の窓の結露など、発生自体は自然現象でも放置により損傷が拡大したときは重過失による善管注意義務違反とみなされます。
日常生活の中で自然に付いた傷や、長年住み続けたために生じる劣化は、借主の故意や過失にはあたりません。
以下の通常損耗や経年劣化による損傷の原状回復費用は、原則貸主負担です。
通常生活で自然に発生する損傷で、修繕費用は貸主が物件を維持管理するための支出とみなされます(民法606条[注1])。
自分に故意や過失がある場合でも、実際の退去費用の算定では経年劣化や補修範囲によって負担が割引されるケースが多いです。
特別損耗でも借主負担は耐用年数に基づく残存価値に限られる可能性もあるため、自分が負担する範囲の算定方法などを確認しましょう。
過失による損傷は原則借主負担ですが、新品に交換するための費用全額を負担する必要はありません。
設備の経年劣化による損傷の修繕費は、通常、家賃に含まれているとみなされます。
経年劣化を無視して借主が新品交換費用を負担すると、家賃と合わせて二重払いとなるため、貸主は民法703条[注1]の不当利得に抵触する可能性があります。
過失によって損傷が発生しても、経過年数による価値の減少が考慮されるため、借主は修繕費を全額負担する必要はありません。
実務上、原状回復の費用負担は、入居期間に応じた借主の負担割合を減額して計算します。
たとえば国土交通省の原状回復ガイドラインによると、クロスの耐用年数は6年です。
耐用年数とは設備ごとに定められる使用可能期間であり、経過年数に応じて価値が減少します。
新築から3年住んで退去する場合、クロスの価値は50%まで減少しているため自己負担も50%を超えません。
6年以上入居していた場合、たとえクロスをうっかり破いても価値がほぼ0円に減少しており、張替え費用は全額貸主負担の可能性が高いです。
修繕が借主負担となる場合でも、自分が損傷させた範囲を超える修繕費用を負担する必要はありません。
たとえば、過失によってクロスの一部のみ破れたケースでは、借主負担も一部に限定されます。
原状回復ガイドラインでは、傷をつけた最小の「㎡単位の面積」または「毀損箇所を含む壁一面」が借主の原状回復義務の範囲とされています。
管理会社から「部分張替えでは色ムラができるため全面張替え費用を請求する」と主張されても、過剰請求として拒否しましょう。
原状回復の請求範囲が広すぎる場合は、明細や補修範囲の妥当性を確認するのが重要です。
請求された退去費用に納得できないときは、合意書にサインをする前に一旦持ち帰り、詳細な内訳の開示を請求しましょう。
自分が負担する費用について、契約書の定めや原状回復ガイドラインの負担区分と照合し、判断が難しいときは弁護士への相談がおすすめです。
貸主からの不当な請求を見抜くために、まずは契約書の特約や退去費用の精算明細、入居時の写真などを確認しましょう。
契約書や重要事項説明書には、一般的に原状回復の特約や精算方法などが定められています。
契約書の特約と、退去費用の精算明細にある計算や項目、金額などに矛盾があるときは修正を依頼しましょう。
入居時の写真や動画、状態チェックシートなどは、借主によってつけられた損傷でないと証明する資料となります。
前入居者の過失による傷にもかかわらず自分が請求を受けたときは、入居時の客観的な資料を用いた反論が重要です。
退去費用として請求されたエアコン洗浄費やカビ清掃などの各項目は、国土交通省の原状回復ガイドラインと照合しましょう。
原状回復ガイドラインは、費用負担を巡る争いがあったときの判断基準として実務上や裁判で採用されています。
たとえば原状回復ガイドラインの負担区分表によると、エアコン洗浄費は貸主負担とされています。
貸主負担に区分されている費用が自分に請求されているときは原状回復ガイドラインに基づいて修正を要求しましょう。
請求された退去費用の各項目について、そのまま合意せず負担区分や補修範囲などを確認すると不当な請求の抑止につながります。
高額な退去費用の請求を受けた場合や、貸主との交渉が難しい場合は、できるだけ早く弁護士に相談しましょう。
弁護士に相談すると請求項目が妥当か確認できるため、故意や過失の判断、原状回復の範囲などに納得できないときは特に有効です。
弁護士は、弁護士法72条[注2]に基づく代理人として借主の窓口となり、強硬な取り立てや支払督促の連絡は弁護士に一本化されます。
貸主との交渉や合意書の作成なども代行してもらえるため、自分の労力や精神的負担は大幅に軽減されるでしょう。
貸主からの不当な請求を無効化し、適切な敷金の返還を勝ち取るためには、法律交渉のプロである弁護士に一任するのがおすすめです。
[注1]民法/e-Gov
民法
[注2]弁護士法/e-Gov
弁護士法72条
退去費用が妥当かどうかは、故意や過失の有無、善管注意義務や経過年数による減額など、複雑な法律上のルールに基づいて判断されます。
故意や過失による損傷の原状回復は原則として借主負担ですが、全額ではなく一部の負担が妥当なケースも珍しくありません。
高額な請求を受けたときは合意書へのサインを拒否し、契約書の特約や原状回復ガイドラインの負担区分表との照合を行いましょう。
退去費用の請求にお悩みの方は、VSG弁護士法人の無料相談窓口にご連絡ください。
VSG弁護士法人では、原状回復や敷金返還トラブルに強みを持つ弁護士が不当な請求を無効化し、お客様の正当な権利を守ります。