一定の契約期間を定めて建物を賃借する契約を、定期借家契約といいます。
定期借家契約は、原則として契約期間が満了すると更新ができず、賃借人は退去しなければなりません。
たとえば、期間が決まっている単身赴任や進学などで居住するときに利用されるケースが多いです。
賃借人が中途解約したい場合でも、定められた契約期間が満了するまでは原則として中途解約が認められません。
一方で、解約権留保特約がある場合や家主の承諾がある場合は認められるケースもあります。
一般的には違約金の支払いなどが条件になるケースが多いため、中途解約するときは契約書の内容を事前に確認しておきましょう。
ここでは、定期借家契約を中途解約するときの条件や違約金の支払いなどを解説します。
目次
定期借家契約とは、あらかじめ契約期間が決まっている賃貸契約の方式です。
契約時に決めた期間を満了した場合、賃借人は原則として退去しなければなりません。
定期借家契約には、以下の特徴があります。
普通借家契約の場合、定められた契約期間を満了しても賃借人が更新を希望すると原則として住み続けられます。
定期借家契約の家賃が割安な理由は、賃借人が希望しても再契約できない場合があり、入居希望者が少ないためです。
家主側より再契約の打診があり、賃借人が同意した場合には再契約できます。
定期借家契約と普通借家契約の違いは下表の通りです。
普通借家契約 | 定期借家契約 | ||
---|---|---|---|
契約方法 | 口頭でも可 | 書面・電子交付のみ | |
契約期間 |
任意 (1年未満は期間を定めない契約となる) |
任意 (1年未満でも有効) |
|
更新・再契約 | 可 | 不可 (双方の合意で可) |
|
賃料の減額請求を禁止する特約 | 不可 | 可 | |
中途解約 | 賃借人から | 可 |
不可 (要件満たせば可) |
家主から | 正当事由が必要 |
普通借家契約は家主の権利がより保護されています。
一方で、定期借家契約は良質な物件に割安で住める場合もあり、どちらが適しているかはケースバイケースです。
原則として、定期借家契約は中途解約ができません。
中途解約が認められると家主側が不利になってしまうためです。
定期借家契約は家主側の都合で期間を決めて貸し出しており、賃料は割安に設定されています。
賃借人による中途解約が容易にできると、賃料が割安な上に安定した収入も確保できず、家主の収支計画が狂う可能性があるでしょう。
定期借家契約は原則として中途解約できませんが、次の場合は例外的に認められます。
それぞれのケースについて詳しく解説します。
解約権留保特約とは、定期借家契約で一定の条件を満たした場合に中途解約できる権利を定めた特約です。
解約権留保特約がある場合、通常は同時に解約できる条件も定められています。
たとえば、遠方への転勤が決まった場合や病気療養で契約の継続が困難になった場合などです。
解約権留保特約について確認したいときは、定期借家契約を締結したときの契約書を確認しましょう。
契約書の定めによっては、解約権を行使するときに家主の承諾や違約金の支払いなどが必要になるケースもあります。
賃借人が中途解約権を行使すると、契約書に特約の記載がなくとも中途解約できるケースがあります。
中途解約権を行使するには、以下の3つの要件を満たさなければなりません。
店舗兼住宅の場合、生活の本拠としており、店舗部分を含めた面積が200㎡未満であれば居住目的とみなされます。
やむを得ない事情とは、自らの意思ではなく不可抗力によって起きた場合、もしくは部屋を借りる時点で予測ができない場合です。
たとえば「仕事で遠方に転勤が決まった」「親が病気を患い、介護のため実家に戻らなければならない」などです。
やむを得ない事情として認められるかどうかに明確な基準はなく、個別的な事情を考慮して判断されます。
話し合いをしても家主側が合意できない場合、最終的には裁判所の判断を求めます。
残存期間分の賃料を違約金として支払えば、中途解約が可能です。
残存期間が6カ月で家賃10万円であれば、60万円を一括で支払います。
具体的な違約金の金額は、家主側との交渉次第です。
一般的に賃借人側が難しい立場での交渉となるため、家主側とは良好な関係を保ちつつ話し合いを進めましょう。
定期借家契約は、あらかじめ期間が決まっている単身赴任や通学、仮住まいなどの場合にメリットがあります。
定期借家契約は契約期間が限定される代わりに家賃が低く設定されているケースが多く、良質な物件に割安で居住できる可能性があります。
家賃だけでなく、敷金や礼金などの初期費用も割安に設定されているケースも多いです。
短期間のみ居住する場合、転居回数が増えると初期費用もその都度必要になりますが、定期借家契約を利用すると費用を抑えられるでしょう。
定期借家契約は家主側にとってもリスクの少ない方法であり、入居の際に必要な審査も普通借家契約と比べて通りやすい傾向があります。
定期借家契約は原則として契約の更新ができず、家主側から合意を得たとしても再契約が必要です。
再契約をするとき、地価の上昇などで周辺の家賃相場が変わっていると家賃の増額を求められる可能性もあるでしょう。
定期借家契約を結んだときは予定していなくての、結婚や出産、転職など、生活環境の変化で住居を変えたい場合もあるかもしれません。
住居を変えるために定期借家契約を中途解約すると、想定していたよりも高額な違約金を求められるケースもあります。
契約期間が明確に定められているため、柔軟に住居を変えにくくなる点がデメリットといえるでしょう。
飲食店が家賃滞納を理由として定期借家契約を中途解約された後、特約に定められた違約金を巡って争い、家主側が勝訴した判例があります。
争点となった特約の抜粋は以下の通りです。
飲食店側は、特約に定められた違約金は著しく不利益を与える内容であり、公序良俗に違反するとして争いました。
結果として、契約終期までの賃料相当額の違約金は家主の逸失利益相当額を損害賠償の内容とした合意であり、公序良俗に反しないと判断されました。
本件は3カ月間のフリーレントがある契約でしたが、フリーレント期間に相当する賃料分の敷金からの控除も認められています。
定期借家契約でどうしても中途解約できない場合には、契約期間満了まで賃料を支払い続けるしかありません。
この場合、新たに借りる住宅の賃料と両方を負担します。
ここからは、賃料負担を少しでも減らすための効果的な対策について解説します。
フリーレントとは、当初数カ月分の賃料が無料の物件です。
ただし、フリーレントは契約期間が決まっているケースが多いため、継続的な使用には向いていません。
中途解約すると違約金が発生するため、契約期間を考えた上で物件を選びましょう。
定期借家契約では賃料の減額請求を禁止する特約が認められるため、多くのケースで特約が設けられています。
ただし、特約がある場合でも家主側の合意があれば賃料の減額や支払いの猶予も可能です。
たとえば、次のような内容で丁寧に事情を説明し、家主側との交渉を行いましょう。
定期借家契約のよくある疑問は、以下の通りです。
それぞれの質問について回答します。
定期借家契約を結んでいる場合でも、家主と賃借人の双方の合意があれば再契約をして現住居に住み続けられます。
一方で、普通借家契約と異なり、家主側の事情によっては退去を求められる可能性もあるでしょう。
一般的に、契約満了が近づいたタイミングで家主側から契約終了と再契約の可否について記載された通知が届きます。
現住居に住み続けたい場合、できるだけ早いタイミングで家主側と再契約について相談しておくのが望ましいです。
定期借家契約の期間が満了した場合、賃借人は家主側に正当事由がない場合でも立ち退き料の支払いなく退去しなければなりません。
例外的に、契約期間がかなり残っている場合は立ち退き料を請求できる可能性があります。
たとえば、10年間の定期借家契約にもかかわらず3年目に退去となった場合、賃借人は残り7年間の使用を放棄しなければなりません。
本来は使用できるはずだった期間や退去による経済的な損失を補填するため、立ち退き料が認められるケースがあります。
定期借家契約は原則として中途解約をできませんが、違約金の支払いなどで家主から同意を得られれば認められる可能性もあります。
家主が定期借家契約の中途解約に同意してくれないときは、賃料の減額などを交渉しましょう。
交渉を個人で行う場合、家主と普段から良好な関係を築いていない限り、話を聞いてもらえないケースが多いかもしれません。
家主との関係が良好であっても、家主側の事情によっては交渉が難しい場合もあるでしょう。
家主との話し合いが難しい場合、弁護士へ相談し、交渉の代行を依頼するのがおすすめです。
弁護士に交渉の代行を依頼すると、判例など法的な根拠に基づいて主張できるため、交渉が円滑に進む可能性が高くなるでしょう。