最終更新日:2022/6/13
【公的融資】10年間返済不要な資本性ローン(挑戦支援資本強化特例制度)とは?条件やメリット・デメリットを解説
ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
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この記事でわかること
- 10年間返済不要の公的融資について理解できる
- 資本性ローン(挑戦支援資本強化特例制度)の内容がわかる
- 資本性ローンを受ける条件がわかる
創業して間もない企業にとって、事業を軌道に乗せるまでの資金確保、資金調達には大きい関心があるのではないでしょうか。
金融機関や公的機関などから融資を受ける際には、受けようとする融資制度について、融資金額、返済期間、利息、保証人や担保の有無など、様々な情報を検討する必要があります。
どのような融資が企業にとって有利かは、企業の事業計画や代表者の考えによって異なります。
いくつかある融資や特例制度の中には、特殊な性質をもった「10年間返済不要な公的融資」というものがあります。
事業が軌道に乗る前の企業にとって、10年間返済不要というのは魅力的ですが、この融資・特例制度を利用するためには条件もあります。
本記事は、「10年間返済不要な公的融資」の詳細から、利用するための条件、メリット・デメリットについて解説していきたいと思います。
目次
10年間返済不要の公的融資とは
「10年間返済不要」というフレーズには、大きなインパクトがありますので、様々なコンサルティング会社や資金調達セミナーなどで集客目的に使われることがありますが、この融資は日本政策金融公庫の融資における特例制度のことを指します。
この制度は「資本性ローン」と呼ばれるもので、正式名称は「挑戦支援資本強化特例制度」といいます。
日本政策金融公庫にある「国民生活事業」と「中小企業事業」両方の事業部で利用することができます。
「国民生活事業」は、ベンチャー企業や創業後間もない企業などの小規模企業、個人企業へ向けた小口資金融資が中心となり、融資限度額は4千万円で、融資額の平均は約700万円です。
一方、「中小企業事業」は、中小企業向けの事業資金を融資していて、新規事業や企業再建に取り組む比較的規模の大きい中堅企業が中心となっています。
融資限度額は3億円で、融資額の平均は約1億円です。
資本性ローン(挑戦支援資本強化特例度)は、大まかにいうと無担保・無保証人で受けられる融資で、返済期間5年1ヵ月以上15年以内、返済期間の返済は元本分は不要(期限一括返済)というメリットの大きい特例です。
ただし、返済期間の返済は不要といっても、毎月利息は支払う必要があります。
この利息は、融資1年毎に業績に応じて変動します。
業績が低調の場合は利率も低く、業績が好調となれば利率も上がって利息負担が重くなります。
資本性ローンはメリットの大きい融資特例制度ですが、利用するためには条件があります。
挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)を受ける条件
資本性ローンを受けるためには、いくつか条件があります。
ここでは、ベンチャー企業や創業後間もない企業を対象としている「国民生活事業」での資本性ローンについて説明していきます。
適用できる融資制度
資本性ローンは融資制度に対する特例です。
この特例を受けるためには、以下の融資制度の対象となっていることが必要です。
- ・新規開業資金
「技術・ノウハウ等に新規性がみられる」「独立行政法人中小企業基盤整備機構が出資する投資事業有限責任組合から出資を受けている」「事業に新規性及び成長性がみられる」のいずれかに該当する方に限定されます。 - ・女性・若者/シニア起業家支援資金
- ・再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)
- ・食品貸付
- ・生活衛生新企業育成資金
「技術・ノウハウ等に新規性がみられる」方に限定。 - ・中小企業経営力強化資金
「新商品・新サービスの事業化に向けた研究・開発、試作販売を実施するため、商品の生産やサービスの提供に6ヵ月以上の期間を要し、かつ3事業年度以内に収支の黒字化が見込める方」のうち、「新事業を始める方や事業開始後約7年以内の方」にかかる資金に限定されます。 - ・海外展開/事業再編資金
「海外直接投資(転貸資金を除く)」に必要な資金に限定。 - ・事業承継/集約/活性化支援資金
「中小企業経営承継円滑化法」の規定に基づく中小企業者の代表者と、認定を受けた事業を営んでいない個人についての資金は除かれます。 - ・企業再建資金
「シンジケートローン特例」を適用しないものに限定されます。 - ・新事業活動促進資金
- ・一般貸付(食品貸付対象者にかかる運転資金に限る)
- ・生活衛生起業再建資金
- ・生活衛生事業承継/集約/活性化支援資金
ほとんどの融資制度で資本性ローンの特例が利用できるように見えますが、補足に入っている条件を満たす必要があり、実際はかなり限定的なものとなっています。
特に「技術・ノウハウ等の新規性」については、成長新事業育成審査会が審査基準に基づき判断しますので、事前に十分対策をとっておくことが必要です。
また、合わせて以下にあげる条件をいずれも満たす必要がありますので、ご注意ください。
- ・地域経済の活性化にかかる事業を行うこと
- ・原則として所得税等を完納していること(税務申告を1期以上行っている場合)
事業計画書の提出と経営状況報告を行う
資本性ローン(挑戦支援資本強化特例制度)には、独自の事業計画書の提出と、経営状況の定期報告が必要となります。
事業計画書は、融資を申し込む際に提出が必要で、融資の特徴から最大15年にわたる長期経営計画を記載する必要があります。
記入例については、日本政策金融公庫のホームページに掲載されていますので、参考にして作成することができます。
また、資本性ローンの特徴として、直近決算の業績に応じた1年毎の金利適用があります。
業績に応じた金利設定となりますので、業績が低調なときは、金利も小さく設定されます。
そのような特徴から、四半期ごとの経営状況の報告等を含む特約を締結する必要があります。
ちなみに、この融資は無担保・無保証人で利用できます。
挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)のメリット
まず資本性ローンのメリットについて説明しましょう。
長期間返済不要の期日一括返済
5年1ヵ月以上15年以内と長期間にわたって返済する必要がありません。
毎月利息の支払いはありますが、返済期間の最終回に元本を一括返済すればよいので、長期での安定的な資金調達が可能です。
特にキャッシュフローが不足しがちな新規事業の立ち上げ時や、企業再生に取り組む時、また大規模な設備投資を行う時などに、元本の償還負担がない借入金というのは大きなメリットとなります。
無担保・無保証人
融資要件をクリアし、長期事業計画書の提出なども必要となりますが、無担保・無保証人で融資を受けることができます。
また法人の場合でも代表者個人の連帯保証は必要ありません。
業績悪化時は利息負担が軽減
資本性ローンを利用すると、直近の業績によって利率が設定されます。
業績が悪化した時は、利率も低くなり支払う利息の負担も軽減されます。
また、業績が好調の時は、利率も上がりますが、株式発行のような配当は必要ではありませんので、キャッシュアウトの負担は軽減されます。
このため、無理のない返済計画を立てやすいということも大きなメリットです。
自己資本とみなすことができる
金融機関から、新規に融資を受けようとする場合、金融機関によって債務者区分判定が行われます。
この債務者区分判定において、資本性ローンによる借入金は、借入金ではなく自己資本とみなすことができるため、財務内容が改善しますので新規融資が受けやすくなります。
ただし、債務者区分判定において自己資本とみなすことができる範囲は、償還期限の5年前までは債務残高の100%ですが、以降1年毎に20%ずつ自己資本とみなせる金額が少なくなりますので、ご留意ください。
既存株主への影響がない
資本性ローンの特例を利用した借入金は資本性資金でありながら株式とは異なりますので、資本性資金を増強しても、新たな株式発行をしたことにはなりません。
ですから、既存株主の持株比率を低下させることがありません。
挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)のデメリット
資本性ローンは、融資条件を満たすためのハードルが高い代わりに、利用者のメリットが多い特例制度と言えますが、当然デメリットもあります。
ここでは、資本性ローンを利用するデメリットについて説明していきましょう。
審査に時間がかかる
通常の日本政策金融公庫の融資に比べて、審査に相当の時間を要します。
事業の新規性なども審査されますし、長期間の経営計画を提出しますので、通常の審査よりも厳しく最低でも1ヵ月程度はかかります。
業績好調時の利息負担が重くなる
企業の業績によって、利率が変動しますので、業績が低調なときは利息負担が軽い代わりに、業績好調となった場合は、利息負担が重くなります。
直近の決算業績における売上高原価償却前経常利益率と、貸付期間に応じて利率が設定されています。
業績が低調で経常利益率が0%未満、つまり赤字となるような場合は、利率も低く1.05%となります。
ですが業績が好調な場合は、貸付期間によりますが、最大利率6.20%となりますので、他の融資制度と比較しても高利率の利息を負担しなければなりません。
返済期限を繰り上げて一括返済できない
資本性ローンは、返済期限を繰り上げて一括返済することができません。
好業績が続いた場合、ずっと重い利息負担も続きます。
本来であれば、会社の業績が好調に推移すれば、借入金を返済し、利息負担をなくすことができますが、資本性ローンの場合、それができません。
ですから、早い段階で好業績となった会社は、制度利用を後悔するケースもあります。
経営状況の定期報告が必要
融資申し込み時に、最長15年間の長期経営計画を提出する必要がありますが、融資を受けた後も定期的に経営状況報告を日本政策金融公庫に行う必要があります。
報告頻度は、四半期に1回です。
融資金額や返済期間や利息を確認
資本性ローン(挑戦支援資本強化特例制度)の概要について、まとめてみました。
こちらの概要は、ベンチャー企業、スタートアップ企業などの融資を行っている「国民生活事業」についての説明となりますのでご注意ください。
融資限度額
融資限度額は4,000万円です。
ただし、「事業承継・集約・活性化支援資金」および「生活衛生事業承継・集約・活性化支援資金」の融資制度については、別枠4,000万円となります。
返済期間
返済期間は、5年1ヵ月以上15年以内です。
期限一括返済となっており、返済最終回に一括で支払うことになります。
それまでの間は、利息の支払いのみです。
ですから、融資期間中は元金の返済負担がありません。
また、期限前に一括返済することはできませんので、注意が必要です。
利率
返済は期限一括返済ですが、利息は毎月支払う必要があります。
支払う利息については、融資を受けた後1年ごとに、直近の決算の業績に応じて利率設定されます。
直近決算の業績は、売上高原価償却前経常利益率によって判断されます。
また、この利率は貸付期間によって3区分に設定されていますので、詳しくは下表をご確認ください。
売上高減価償却前経常利益率 貸付期間 5年1ヵ月以上7年以内 7年超9年以内 9年超12年以内 12年超15年以内 5%超 5.30% 5.60% 5.95% 6.20% 0%以上5%以下 3.20% 3.35% 3.50% 3.65% 0%未満 1.05% 1.05% 1.05% 1.05% 引用:日本政策金融公庫
こちらの利率は、令和2年10月に日本政策金融公庫ホームページで公表されている内容です。
利率や条件は変更される可能性がありますので、利用を検討される際は、ホームページもしくは日本政策金融公庫担当者にご確認ください。
まとめ
資本性ローンは、日本政策金融公庫からの公的融資で、返済期間が最長で15年となる超長期の借入金です。
しかも借入金でありながら、返済期間中は利息のみの支払いで、その利率も業績に応じて変動しますので、出資受け入れに近い融資といえます。
また、資本性資金でありながら株式発行ではありませんので、既存株主の持株比率は低下せず、株の希薄化を抑えつつ資金調達できるというメリットが大きい制度です。
しかしよい面ばかりではありません。
業績によって利率が変動しますので、好業績の場合は他の融資制度よりも利率が高くなってしまうリスクがありますし、返済期限前には一括返済することができませんので、好業績が続くと高い利率を払い続けるというデメリットもあります。
資本性ローンは、申込時にも事業の将来性を問われるハードルの高い特例制度ですが、創業時や新規事業を始める時にまとまった資金が必要で、かつ事業が軌道に乗って資金回収するのに相当な時間を要すると予測される場合は、非常にメリットの大きいものといえます。