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役員報酬をいくらにすべきか検討しているか

森 健太郎

この記事の執筆者 税理士 森健太郎

ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネルを運営。

PROFILE:https://vs-group.jp/tax/startup/profile_writing/#p-mori
YouTube:会社設立サポートチャンネル【税理士 森健太郎】
書籍:プロが教える! 失敗しない起業・会社設立のすべて (COSMIC MOOK) ムック

▼目次

個人事業主の方が法人化を行うメリットとして、法人と個人で所得を分配できるということがあります。

具体的には、経営者やその家族が役員報酬という形で法人からお給料を受け取っている形にします。

日本では所得が小さい人ほど税率が低くなりますから、事業から発生する収益はできる限り分散させた方が税金対策上有利ということになるためです。

以下では法人化に当たって役員報酬をいくらにするか検討する際の注意点について解説させていただきます。

役員報酬設定が節税につながる仕組み

個人事業主として活動する場合には、事業から社長が生活費を受け取った場合にも、その生活費を経費として処理することができませんでした。

事業を法人化して社長個人の生活費は役員報酬として支給する形をとると、その役員報酬の金額については会社の経費として処理することができます。

会社の経費が増えると会社の利益が減りますから、それに応じて法人税の負担も小さくなることになります。

あとで述べるように、役員報酬に応じて生じる社会保険料についても、その半額は会社の経費として処理することが可能になります。

ただし、社長個人が受け取る役員報酬には所得税と住民税がかかりますから、あまりにも高額な役員報酬を設定してしまうとトータルで見た時に税負担が大きくなってしまうことも考えられます。

また、個人として持っているお金というのは管理があまくなってしまうものですから、その点でも大きすぎる金額の役員報酬を設定するのは慎重になるべきです。

役員報酬の金額は社長個人としての生活費がどのぐらい必要なのか?をベースに考えるのが基本です。

役員報酬・役員賞与を経費として計上するためには以下の3点を満たしていることも求められます。

  • ①客観的に見て妥当な金額であること
  • ②支払い方法を規定通り守っていること
  • ③金額の決定や変更は、定められたルールに基づいて実施すること

経費として狙い通りに計上して法人税を節税するためにも、これらの条件から外れてしまわないように注意をしておきましょう。

法人にキャッシュが足りなくなったときはどうする?

役員報酬は1年間変更することができませんから、法人側の利益が予想外に落ち込んだ場合には、法人の預金口座にキャッシュがない(社長の個人口座にはある)という状況になってしまうことが考えられます。

このような場合には社長個人のお金を会社に戻さざるを得ないことになりますが、このような処理があまりにも頻繁になされると、税務署や融資を受けている金融機関から会社のお金と社長のポケットマネーが分離していない、という判断をされてしまう可能性があります。

そうなると税務調査の際のチェックが厳しくなったり、新たに融資の審査を受けるときに不利な扱いをされてしまうことも考えられます。

役員報酬の金額をいくらにするか?は当期の事業損益をできる限り正確にシミュレーションしながら計算していく必要があります。

社会保険料に注意

会社の役員として役員報酬を受け取る場合、社長は一般的な従業員と同様に健康保険と厚生年金に加入することになります。

健康保険と厚生年金の保険料は、「役員報酬の金額(標準報酬月額)×保険料率」という計算式で計算しますから、役員報酬の額が大きくなるほど保険料の負担も大きくなることになります。

その保険料率の目安は役員報酬の30%程度です。(ただし、保険料率には上限があります)。

保険料の半分は会社の経費とすることができますが、あまりにも金額が大きくなると会社から出ていくお金が大きくなりすぎて、前述のようにキャッシュが足りなくなるということにもなりかねません。

役員報酬の金額を決める時には社会保険料の負担も合わせて、そのバランスをどのように取るかを慎重に考慮するようにしましょう。

役員報酬を決める際のルール

最初に役員報酬を決める際は、どのような形で決めることができるのでしょうか。

その方法は会社法で定められており、「定款または株主総会の決議によって定める」ということになっています。

まず定款を作成する際に記載をしておくことができます。

定款によって定めていない場合は、株主総会で決議を取る形になります。

株主総会で役員報酬の総額を決定し、各役員の内訳を取締役会または代表取締役で決めるよう一任するという流れです。

中小企業では代表者がそのまま株主である例がほとんどですから、実際は形式上だけの株主総会ということにはなりますが、このような形に則って決定したことがわかる記録を取っておく必要があります。

役員報酬の支払いルールは法律で決まっている

役員報酬として支払う金額は、1年間に1回しか変更することができず、しかもどのような形で支給するのかを決めておかなくてはなりません。

もちろん、社長がオーナーでもある場合には会社のお金をどれだけとっても文句はいわれることはないかもしれませんが、そのお金を会社の経費として処理できなくなってしまうことがあるということですね。

役員報酬の支給の形としては以下の3つから選択する必要があります。

一般的には定期同額給与が選択されることが多いです。

1. 定期同額給与

定期同額給与とは、「その支給時期が1か月以下の一定期間ごとである給与で、当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの」のことです。

端的に言えば、毎月の固定給という形での報酬ということになります。

2. 事前確定届出給与

事前確定届出給与とは「固定給とは別のボーナスを支給する際に、事前に税務署へ届出をしておくことで損金計上を認められたボーナス」のことです。

その届出の期限は

  • ・株主総会などでその旨を定めた日から1か月以内
  • ・その会計期間開始から4か月以内

のうちのどちらか早いほうとなっています。

この事前の届出がなかったり、金額と期日を勝手に変更してしまうとその全額が損金不算入となってしまうので注意しましょう。

3. 利益連動給与

利益連動給与とは「利益に関する指標、または売上高に関する指標に基づいて支給される給与」のこと。つまり、成果報酬型の給与ということです。

ただし、この方法は「同族会社ではない法人が業務執行役員に対して、利益に関する指標を基礎として算定して支給される給与であること」という条件があるため、同族会社であることが多い中小企業ではあまり有効な方法ではないといえるでしょう。

役員報酬は年に1度だけ変更できる

役員報酬は1年に1回、事業年度開始の月から3ヶ月以内のタイミングでのみ、変更できるというルールになっています。

これは法人税の脱税行為を防止するためのルールで、例えば「今期はたくさん利益が出たから、決算直前に役員報酬を一気に増やす」というようなことはできないということですね。

1年に1回のタイミングで変更した役員報酬については、形式上は定時株主総会を開いて決めた、ということになりますから、その議事録を作成して保管しておかなくてはなりません。

実際には株主=社長やその家族となっていることが多いですから、書類だけの処理になりますが、定時株主総会議事録が残されていないと税務調査があった場合に不都合が生じる可能性があるので注意が必要です(具体的には、変更した役員報酬の経費としての処理が否認される可能性があります)。

事業年度開始の月から3か月が経過した後に変更できるケース

役員報酬が変更できる3か月を過ぎて「事業年度途中」で役員報酬を増やしてしまうとどうなるのでしょうか。

変更して増やした額は、損金として計上することができなくなります。

つまり、報酬増額分に対しても法人税がかかってしまうということです。

そこに報酬を受け取った個人としての所得税もかかってくるわけですから、重なって課税されてしまうことになります。

損金計上が目的である場合は、このような事態にならないよう細心の注意が必要です。

しかし、このような事業年度途中での報酬額変更でも損金計上が可能なケースが存在します。

それぞれ詳しく見てみましょう。

・増額できるケース:新規で役員になる

新しく役員になった場合は、その経費増額部分を損金計上することができます。

  • ①既存の従業員が役員になる場合
  • ②外部から役員を迎え入れる場合

上記①②のどちらのケースでも、損金計上が可能です。

・増額できるケース:役職が上がる

新しく役員になる場合に加え、既存の役員の職務上の地位がランクアップする際は報酬が増加することは当然に考えられますから、このケースでも増額分の損金計上が可能です。

ただし、形式だけの役職変更で業務実態が伴っていない場合など、変更の適用が適切と見なされないこともあります。

くれぐれも節税対策のためだけにこのような変更を行うことのないよう注意しましょう。

・減額できるケース:業績が不振である

増額できるケースに比べて、減額できるケースは少し判断基準がシビアです。

経営状況・業績が著しく悪化し、第三者である利害関係者との関係上、報酬を減額せざるを得ない状況だと認められた時に可能になります。

単に経営状況・業績が不振に陥っただけでは認められません。

第三者である利害関係者への影響が出ることが想定され、それを回避するための減額でなければならないのです。

また、これらの流れで減額を実施する場合は、第三者である利害関係者と協議をした結果も、記録として残しておくことが必要になります。

・減額できるケース:役員ではなくなる

新規で役員になる場合に増額が認められるのと同様に、役員でなくなる場合の減額も認められます。

・減額できるケース:役職が下がる

役職が上がって報酬が増える際と同様に、役職が下がって減額される場合も認められています。

いくらに設定すべきなのか

役員報酬に関するルールや注意点をお伝えしてきましたが、それらを踏まえて一体いくらに設定すればいいのでしょうか。

その狙いをどこに設定するかで、報酬設定の方法をいくつかに分類することができます。

それぞれの特徴を詳しく見てみましょう。

損益計画から決定する方法

役員報酬を考慮せずに、まず事業の損益計画を作成し、残った利益から報酬額を決定する方法です。

正確性・実現性の高い損益計画を作成できているかが大事なポイントになります。

裏付けのない願望だけの売上見込みになっていたり、それに伴った売上原価や販売促進費の見込みが甘かったり、結果的に大きく利益が変動してしまう要素をできるだけ取り除きましょう。

大きく下方修正することになっても、報酬減額を簡単に実施できない以上、予定通りの報酬が受け取れないのにその分の所得税が加算されてしまう事態に陥ります。

希望額から決定する方法

損益計画作成の前に、事前に役員報酬を決めるケースでは、利益を「会社に残す」か「役員に支払う」かということがポイントになり、具体的には以下の3つを考慮することになるでしょう。

①役員報酬を高く設定する場合

役員報酬を高めに設定し、会社に残る利益を少なくすれば、法人税を減らすことができます。

一方で、その個人の所得が増えることになり、所得に対する所得税・住民税・社会保険料の額が増える面もあります。

②役員報酬を低く設定する場合

逆に役員報酬を低く設定をすれば、個人にかかる所得税・住民税・社会保険料の額が減ります。

会社に利益を残すことになり、資金を残せるので資金繰りの安定は狙えますが、利益部分にはその分法人税がかかることになります。

節税という観点において、この①と②のどちらを選択すればいいということはなく、個人と法人のどちらの税金を減らすことで、総じて手元に残る金額を増やせるのかという観点が必要になります。

③社員からの反感を買わない額にする

役員報酬だけを高く設定しすぎて、社員の給与設定が低いまま、または昇給が十分に行われないなどの状況であれば、社員の反感を生み、結果的に会社全体の仕事のパフォーマンス低下にもなりかねません。

世間一般での相場も考慮しつつ、報酬額を決定する必要もあるので、その点も注意しましょう。

個人も法人も得する2つのテクニック

役員報酬を決定する際に合わせて考慮しておきたい「会社の利益を減らしつつも、結果的に手元に残るキャッシュを多くするためのテクニック」もいくつかあります。

それぞれの特徴を詳しく見てみましょう。

共済を活用する

共済をうまく活用することで、個人と法人の利益・所得を引き下げることができます。

民間の保険と比べて、共済は非営利で運営されているという特徴から掛金が安く設定されていたり、加入者の職業によって条件が不利になることもなく、事業者が非常に活用しやすい制度です。

具体的な例を見てみましょう。

①小規模企業共済制度

小規模企業共済制度とは

  • ・個人事業をやめた時
  • ・会社役員を退職した時
  • ・共同経営者を退任した時

などの収入がなくなる際に備えて、生活資金を積み立てておく制度です。

この掛け金の全額を所得控除にすることができるので、個人の所得税・住民税を軽減することができます。

②倒産防止共済

倒産防止共済(経営セーフティー共済)とは、取引先の倒産によって連鎖的に倒産や経営難に陥るのを避けるために、共済金の貸し付けをしてくれる制度です。

この掛け金の全額を損金計上することができるので、役員報酬を下げたことによって上がってしまう法人税を軽減することができます。

③個人型確定拠出年金

個人型確定拠出年金(iDeCo)とは、自分で作る年金制度のことです。

毎月一定の金額を掛金として積み立てて、各金融機関で用意された金融商品で運用することで、60歳以降に年金または一時金として受け取ることができます。

この掛金の全額を所得控除にすることができるので、個人の所得税・住民税を軽減することができます。

社宅制度を活用する

社宅制度とは、会社が契約して所有または賃貸している物件を、その役員や従業員に貸与する制度のことです。

個人で住んでいる自宅を福利厚生の一環で社宅として扱うことで、その賃料を会社の損金に計上することができます。

ただし、その節税効果を発揮させるためには、役員や従業員から1か月あたり一定額の家賃(賃貸料相当額)以上を受け取ることが前提とされています。

その一定額の計算方法には以下の2つの方法があります。

①賃貸料相当額の半分以上を徴収する

特に難しい計算の必要がなく、会社で半分負担・本人が半分負担という形を取っておけば条件を満たすことができます。

②3つの計算から算出した額を徴収する

  • 1.当該年度の建物の固定資産税の課税標準額×0.2%
  • 2.12円×(その建物の総床面積㎡/3.3㎡)
  • 3.(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%

賃貸物件の建物と敷地の固定資産税の課税標準額を貸主に確認を取る必要があり、その分の手間がかかりますが、ケースによっては本人負担が1割程度で済むこともあり、役員個人として大きくメリットを享受できる可能性があるので、一度検討してみると良いでしょう。

まとめ

今回は、税金対策上有利になる役員報酬の設定の仕方について解説させていただきました。

役員報酬は年に1度しか改定することができませんから、もっとも有利な金額の役員報酬を設定するためには、事業損益についてのできる限り正確な予想を行う必要があります。

実際に役員報酬の設定を行う際には、税理士などの専門家にアドバイスを受けるようにするのが適切と言えます。


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