最終更新日:2025/7/3
定款を紛失したらどうしたらいい?定款の種類別に解説します!

ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネルを運営。
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YouTube:会社設立サポートチャンネル【税理士 森健太郎】
書籍:プロが教える! 失敗しない起業・会社設立のすべて (COSMIC MOOK) ムック
この記事でわかること
- 定款を紛失した場合の対応方法
- 公証役場や法務局での閲覧請求の手順
- そもそも定款とは何か
会社を運営するなかで、定款が手元にないことに気づくことがあります。
定款は、会社の基本ルールを記載した重要な内部文書であり、金融機関や税務署、許認可の手続きなど、さまざまな場面で提出を求められます。
この記事では、紙定款と電子定款、原始定款と現行定款などの種類別に紛失時の対応を詳しく解説します。また、公証役場や法務局での閲覧請求方法、定款の再作成手順など、定款紛失への実務的な対応策をまとめました。
目次
定款を紛失した場合の対応
会社を運営するなかで、定款が必要になることがあります。ですが「定款が見つからない」「見当たらない」ということもあります。
ここでは、紙定款・電子定款・原始定款・現行定款に分けて、それぞれ紛失時の対応を解説します。
紙定款
紙定款とは、紙の書類として作成した定款のことです。最近では、電子定款の利用が多いのですが、以前は紙定款が主流でした。
紙定款として保管していた定款を紛失した場合、公的な機関で再発行してもらうことはできません。定款は公的書類ではなく、あくまで会社の内部文書なのです。紛失した場合は、自分で内容を確認して作り直すという作業が必要です。
会社設立時に作成した原始定款は、定款認証をした公証役場で20年間保管されているため、写しをもらうことができます。
紙定款をなくした場合は、原始定款を確認し、紙に印刷して定款を作り直して新しい定款として保管することになります。
電子定款
電子定款とは、定款を電子データで作成・保管したものです。紙定款との違いは保管方法のみで、法的な意味合いや効力は同様です。
電子定款には、保管・送付上の利便性があり、定款認証時の費用を節約できるというメリットもあるため、利用が進んでいます。
紙定款と同様、電子定款を紛失した場合も公的機関で再発行できる制度はありません。ただし、作成したデータが残っていれば、それを新たな定款として再作成して保管します。
データ自体を削除してしまったという場合やデータを壊してしまったという場合は、定款認証を受けた公証役場に対して謄本の交付を申請して再作成することができます。
原始定款を紛失した場合
原始定款とは、会社設立時に作成した「最初の定款」を指します。株式会社の場合は、設立の手続きとして公証人の認証を受けています。
原始定款は、認証を受けた公証役場で20年間保管されるため、紛失してしまった場合は、原始定款の写しを交付してもらうことができます。
ただし、原始定款の写しは、あくまで写しですので、写しを原本にすることはできません。写しを元に定款を再作成します。
ここで注意したいのが、公証役場で確認できるのはあくまで「原始定款」であるという点です。会社設立後の定款変更を反映した「現行定款」とは内容が異なります。
現行定款を紛失した場合
現行定款とは、変更したあとの最新の定款のことです。会社設立後に定款変更をした場合、原始定款と現行定款は内容が異なるということになります。現行定款も原始定款と同様、会社で管理・保管していることが前提です。
現行定款とは、定款変更の決議を行った株主総会の議事録を原始定款と一緒に保管したものです。
現行定款を紛失した場合には、以下の対応が必要です。
- 株主総会議事録を確認する
- 登記事項証明書を確認する
- 再作成する
また、設立時や定款変更時に専門家に依頼していた場合は、その専門家が控えを保管している可能性があるため、問い合わせをしましょう。
現行定款に関しては、公証役場では保管されていないため、法務局の登記事項や株主総会の議事録を確認して再作成することになります。
原始定款は公証役場で20年保管されている
株式会社を設立する際に認証された定款は「原始定款」と呼ばれ、公証役場に原則として20年間保管されることになっています。
そのため、紛失してしまった場合でも、原始定款を確認できます。
公証役場に謄本(写し)の交付を申請
会社設立時に公証役場で定款認証を受けている場合は、認証を受けた公証役場で原始定款の写しの交付を受けられます。
保管期間は20年間で、会社の株主や取締役、利害関係者のみ交付を請求できます。公証役場で保管されているのは原始定款のみで、定款変更をした場合は変更箇所は反映されていません。
法務局では登記の内容のみ確認できる
法務局でも定款の内容を確認できます。ですが、公証役場と違って交付はされません。法務局で確認した内容をメモして、定款の再作成を行います。
できるのは閲覧のみで、保管期間も10年と公証役場より短くなっています。
定款は再発行してもらうものではない
定款は、会社の本店もしくは支店で保管するべき書類です。公的な書類ではないため紛失した場合の「再発行」という制度はありません。
公証役場では、あくまで写しを交付されるのみであり、法務局では閲覧ができるだけです。
仮に紛失した場合は、写しの交付や閲覧の手続きで確認できる情報や、依頼した専門家のところに残っているデータを元に「再作成」をします。


会社設立時に依頼した士業に問い合わせをする
定款を紛失してしまった場合、会社設立時に依頼した専門家に連絡をして、原始定款のデータを保存していないかを確認する方法もあります。司法書士などに会社設立を依頼した場合、定款や登記書類一式の控えを一定期間保管していることがあるのです。
定款を紛失して再作成する場合に、この保存しているデータを利用して再作成するという方法もあります。
閲覧請求の方法
定款を紛失して閲覧請求をする場合の流れや書類について解説します。
公証役場
公証役場では、原始定款が20年間保管されています。定款認証をした公証役場で手続きをすれば、この保管されている原始定款のデータを写しとして交付してもらえます。
定款の閲覧を請求できるのは以下の人に限られています。
- 当該公正証書の作成又は当該定款の認証の嘱託人:公正証書の契約当事者等、定款の署名又は記名押印者(発起人など)
- 嘱託人の承継人:相続人、債権譲受人など
- 当該公正証書又は当該定款について「法律上の利害関係」のある人
謄本交付には謄本の用紙1枚ごとに250円の手数料を支払います。
公証役場に閲覧請求の申請をする申込用紙があるため、その用紙に記入をして閲覧請求と謄本の写しの交付を受けます。
参考:同一の情報の提供の請求|法務省
参考:公正証書・定款の謄本の交付・原本の閲覧|神戸公証センター
法務局
法務局で登記簿に記載されている定款の情報を閲覧する場合は法務局に出向いて「附属書類閲覧申請書」という書類に必要事項を記載します。
そして、450円分の収入印紙とともに閲覧申請をします。閲覧請求をする人が発起人や役員でない場合は、定款を閲覧する会社との利害関係の証明が必要です。
利害関係の証明は、本人確認書類(運転免許証など)、もしくは閲覧することに「正当な理由」があることを証明する書面を提出します。
また、電子定款の場合は、法務省の電子認証制度のオンラインシステムから、電子定款の謄本を請求することができます。
参考:商業登記規則 第二十一条|e-Gov 法令検索
参考:登記・供託オンライン申請システム 登記ねっと 供託ねっと|法務省
参考:令和5年4月1日から登記簿の附属書類(登記申請書及び添付書面)の閲覧請求の手続が変わります。|法務局
定款が必要になる場面
定款は、会社の基本を明文化した重要書類です。会社設立時だけでなく、会社を運営するなかで提出を求められる場面があります。
ここでは、定款が必要になる主なケースについて解説します。
金融機関から提出を求められる
法人名義の口座を開設するときや融資を受けるときに定款の提出が必要になることがあります。金融機関は、融資や口座開設にあたって、会社の実態や事業内容を確認するため、会社の定款で以下のような内容をチェックします。
- 事業目的
- 商号や本店所在地
- 代表者の氏名
- 発行可能株式総数や資本金
たとえば、事業目的が曖昧だったり多すぎてはっきりしない場合、実際の業務内容と違いがあるという場合は、口座開設を断られたり、融資が通らないケースもあります。
このとき「定款のコピー」や「定款の写しに原本証明の代表者印を押印したもの」を提出するのが一般的です。
原本証明については、以下の記事で解説しています。
税務署への届出
会社設立後には税務署に「法人設立届出書」を提出する必要があります。この届出の際には定款の写しの提出が求められます。
提出する定款は「コピー」ですが、設立届に添付される正式な書類のひとつです。
許認可申請
建設業、古物商、宅建業、介護など、許認可を申請する場合に、定款の写しの提出を求められることがあります。
定款を確認することで、申請している会社の事業の正当性や法令との整合性、事業目的に該当業種の明記があるかを確認します。
許認可申請の場合は、申請先のフォーマットに合わせた形で提出する必要があるため事前にチェックしておきましょう。
各種助成金
国や自治体、民間団体が提供する助成金や補助金の申請をするときにも、定款の写しの提出が求められることがあります。
公的な助成金の申請ですので、会社の信頼性、設立経緯、事業内容を確認する書類として定款の提出が求められます。
定款の再作成とは?
定款の再作成とは、定款を紛失した場合にさまざまなデータを元に新たに定款を作り直すということです。
定款は会社の内部文書ですので、公的機関から再交付されるものではなく、紛失したら自社で作り直して保管します。
定款の再作成の手順
再作成する場合は、原始定款の謄本や保存データを入手し、それを元に新しい定款を作成します。
定款の記載事項のうち、商号や目的、会社所在地などについては「履歴事項全部証明書」から情報を拾ってくることができます。
ここに記載されていない事項に関しては、過去に開催された株主総会の議事録や取締役会議事録から情報を集めつつ、埋めていきましょう。
こうして定款を再作成した場合、これを会社の定款として認めてもらうために、株主総会の特別決議で承認を得なくてはいけません。特別決議では、その会社の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上の賛成を得る必要があります。
そもそも定款とは?
ここからは、そもそも定款とは何かという基本を解説します。
定款は会社設立時に作成するルールブック
定款とは、会社の目的・組織・運営のルールを定めた基本的な文書です。いわば「会社のルールブック」であり、会社の憲法のような役割を果たします。
定款には、会社の目的や商号、本店所在地、発行する株式の内容などが記載されており、この内容は法人として権利や義務を負うための「法人格」の基礎となります。
会社を設立する際には必ず定款を作成し、株式会社の場合は公証人の認証を受けなければなりません。
定款は会社で保管するもの
定款は、会社法で会社内に備え置くことが義務付けられています。
定款は会社の内部文書であり、社内で保管する重要書類です。公的な書類ではなく関係者や利害関係者でなければ閲覧できません。
定款は、会社が存続している限り必ず保管すべき書類です。
定款紛失に気づいたらできるだけ早く対応しましょう
定款は、会社運営において極めて重要な書類です。
万が一、定款を紛失した際には、まず原始定款の謄本や登記情報、保管してある保存データを確認しましょう。定款は会社の内部文書であり、再発行という制度はありません。
そのため、紛失した場合は公証役場や法務局などでデータを確認し、再作成を行い、株主総会で承認を得る必要があります。
金融機関や行政の手続きで定款の提出が求められる場面も多いため、定款を紛失したら早めの対応が大切です。