先日、父が亡くなりました。母は既に亡くなっており、相続人は私一人です。
ちなみに、父の父母も既に他界しており、父には兄弟姉妹はいませんでした。つまり、私が唯一の親族であり相続人ということになります。
ところで、父はここ数年闘病しており3年ほど前に、終活と相続税対策をかねて財産の整理を行い、自宅の土地・建物を私に生前贈与しました。現在、私の家族はその家に居住しており、父も亡くなる直前まで同居していました。
父が亡くなってから遺産の整理をしていたところ、父がサラ金から多額の借金をしていることが判明しました。このことを私はまったく知りませんでした。
そこで、私はこの債務を免れる為に相続を放棄しようと考えています。ただ、その場合、3年前に現在居住している土地・建物の生前贈与を受けていたことが何か影響しないでしょうか。具体的には、
司法書士 田中千尋
まずは「①生前贈与によって相続放棄が制限されることはないでしょうか。」についてお答えします。
生前贈与と相続放棄は、それぞれ異なる制度として存在しています。
生前贈与を受けていたことが原因となって、相続放棄できないということはありません。
そのため、相続放棄をする際の手続きをきちんと行えば、相続放棄することはできます。
なぜこのようにいえるのかというと、相続放棄が成立するための要件は「相続開始を知ってから3か月以内に家庭裁判所へ申立てを行うこと」と「単純承認が成立していないこと」の2つだからです。
ここにいう単純承認とは、被相続人が保有していたすべての財産・財務を相続人が相続することです。
特別な手続きをしなければ単純承認が成立するのですが、いったん単純承認が成立すると、後から相続放棄ができなくなるため問題となることがあります。
例えば、相続財産を売却した場合や、その一部でも隠して自分のものにした場合は単純承認が成立したものとみなされ、その後の相続放棄は原則できません。
一方、生前贈与を受けていた場合については単純承認が成立しないため、相続放棄をすることも可能なのです。
続いて「②生前贈与を受けたこと自体が否定されることはないでしょうか。」についてです。
生前贈与を行ったうえで、亡くなった時の財産を放棄する相続放棄ができるのであれば、生前に財産を他人に移しておく一方で、借金だけ亡くなった時に帳消しにしてしまおうと考える人が現れるかもしれません。
こうなると、借金を貸し付けた側からすれば、本来回収できたはずの債権を回収できなくなる可能性があります。
そこで、貸付けを行った債権者は、贈与を取り消すことができる権利があります。
この権利を詐害行為取消権といいます。
基本的には、相続放棄を行った相続人が生前贈与を受けていた場合に、債権者が詐害行為取消権を主張することはできないと考えられています。
しかし、被相続人が債務超過であることを相続人が知っていて生前贈与を受けた場合には、生前贈与について詐害行為取消権を行使して取り消すことができるとされているため、注意が必要です。
あなたの場合、お父様が生前に借金をしていたことをまったく知らなかったわけですから、生前贈与を否定されることはないと考えられます。
司法書士 田中千尋
相続サポートセンター(ベンチャーサポート司法書士法人) 代表司法書士。昭和62年生まれ、香川県出身。
大学卒業後、司法書士事務所の勤務を経て、ベンチャーサポート司法書士法人の代表司法書士に就任。相続登記や民事信託、成年後見制度の業務に従事。相談者に親身になって相談を受けることを心がけている。
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昭和55年うまれ、大阪府出身。
大卒後、税務署に就職し国税専門官として税務調査に従事。税理士としても10年を超えるキャリアを積み、現在は「相続に精通した税理士としての知識」と「元税務調査官としての経験」を両輪として活かした相続税申告を実践中。
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