長期にわたって入院・闘病していた夫が亡くなりました。
知人から、預金者が亡くなったときは、銀行や郵便局の預貯金が凍結されるから、夫名義の預貯金は早く引き出しておいた方がいい、ということを教えられました。
また、私自身は十分な蓄えがなかく、葬式の費用や、治療費を支払うだけの手持ちがなかったため、その費用も準備する必要がありました。
そこで、夫が亡くなってすぐに、私が保管していた夫のキャッシュカードを使って夫の預金から200万円を引き出し、これで葬式の費用や、入院治療費の支払いなどを行いました。
夫の葬儀も終わって一段落した後、夫の遺産を調査したところ、夫が多額の借金をしていたことが判明しました。
そこで、この借金の負担を免れるために、相続を放棄しようと思っていますが、夫の死後に夫の貯金を引き出したことから、相続放棄はできないのではないかと指摘されました。
本当でしょうか。
司法書士 田中千尋
相続放棄は、相続が発生してから3か月以内に家庭裁判所に申立てをしなければならないとされているなど、非常に条件が厳しく定められています。
そして、相続放棄をする前に預金を引き出したり財産を処分したりしてしまった場合には、相続放棄ができなくなることがあります。
これは、相続放棄がプラスの財産もマイナスの財産もすべて放棄しなければならないものだからです。
借金は放棄するが、プラスの財産だけは受け取るということは認められません。
裏を返せば、財産を受け取ったり処分したりした場合には、財産を相続することを承認した(このことを単純承認といいます)とみなされ、その後の相続放棄が認められなくなるのです。
とは言っても、預金を引き出したからといって絶対に相続放棄できなくなるとは限りません。
預金を引き出したもののそのまま現金として保管していれば、財産は減っていないため、相続放棄は可能とされるケースはあります。
今回のご質問の場合は、預貯金から引き出したお金を葬式費用の支払や入院治療費の支払いなどにあてています。
すでに亡くなった人の財産を使ってしまっているため、単純に引き出しただけという場合とは異なり、相続放棄が認められない可能性もあります。
ただし、葬式費用や入院費用として支払いを行うのは残された相続人としては当然の行為であり、その金額が不相当に高いものでなければ単純承認には該当しないとする考え方もあります。
相続放棄が認められる方法を考える余地はあると思われます。
司法書士などの専門家に相談しながら、今後の対応を検討してください。
司法書士 田中千尋
相続サポートセンター(ベンチャーサポート司法書士法人) 代表司法書士。昭和62年生まれ、香川県出身。
大学卒業後、司法書士事務所の勤務を経て、ベンチャーサポート司法書士法人の代表司法書士に就任。相続登記や民事信託、成年後見制度の業務に従事。相談者に親身になって相談を受けることを心がけている。
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大卒後、税務署に就職し国税専門官として税務調査に従事。税理士としても10年を超えるキャリアを積み、現在は「相続に精通した税理士としての知識」と「元税務調査官としての経験」を両輪として活かした相続税申告を実践中。
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