80歳の母が遺言書を書きたいと言っています。
しかし母は5年ほど前から認知症が酷く、娘の顔を見ても名前が思い出せないような状態です。
認知症の人が書いた遺言書に効力はあるのでしょうか。
母の書いた遺言書でトラブルになることは避けたいのですが、どのように対策するべきでしょうか。
行政書士 本間剛
まず、遺言書を作成することができる人について、民法ではどのように定められているのでしょうか。遺言ができる人について、法律上は15歳に達した者、そして遺言応力のある者が、遺言ができる人であるとしています。
この遺言能力とはそもそも何か、という点が大きな問題となるところですが、認知症である人からといって必ずしも遺言能力がないと判断されるわけではありません。
本来、認知症だけでなく精神障害などの理由で法律行為が制限されている人は、単独で法律行為をできない代わりに、成年後見人、保佐人、補助人といった人をつけて法律行為を行うように定められています。しかし、遺言に関しては成年後見人や保佐人、補助人をつけて行うことはできないとされています。つまり、遺言の作成はその本人が単独で行わなければならないとされているのです。
ただ、どのような人でも遺言書の作成ができるわけではなく、判断能力があると認められなければなりません。判断能力が一時的に回復した状態であれば、遺言をすることも認められていますが、医師2人以上の立ち会いのもとで遺言をすることが求められます。
このように、認知症の人でもその判断能力に問題がない状態であれば遺言書の作成ができるのですが、本当に遺言能力があったといえるのか、後から問題になる可能性はあります。そこで、認知症が疑われる人が遺言書を作成する際には何をすべきか、以下にまとめてみました。
①公正証書遺言を作成する
公証役場へ出かけたり、公証人に自宅や病院まで出張してもらったりして遺言書を作成します。遺言者本人が自筆で遺言書を作成しなくても、公証人が遺言書を作成してくれ、かつ判断能力の有無も確認してくれるため、原則その有効性が問題になることはありません。
②判断能力を示す資料を保管しておく
公正証書遺言を作成しても、その遺言者が認知症などで遺言能力がないと判断された場合、作成した公正証書遺言が無効となる可能性はあります。そのため、遺言書を作成した際の状況について別に記録を残しておくようにします。例えば、日記を書いて遺言者の日々の記録を残しておく、日常生活や会話の様子を撮影して残しておく、病院に通っている場合のカルテの写しなどをもらっておく、といったことをしておいて、少しでも後に争いとなることを防いでおきましょう。
認知症であっても、遺言能力があると判断されるケースは意外に多くあります。そのため大事なのは、遺言者について、遺言能力があることを客観的に示した証拠書類を残しておくことです。そうすれば、後から遺言書の有効性が問題になる可能性は低くなるでしょう。
行政書士 本間剛
相続サポートセンター(ベンチャーサポート行政書士法人) 代表行政書士。昭和55年生まれ、山形県出身。
ベンチャーサポート行政書士法人の代表行政書士。行政書士の手続き業務全般に精通。特に相続や遺言には専門知識を持つ。相続手続き業務は多くの書類作成が必要になり、お客様のお話を聞き、法律に則った形式の書類作成を心がけている。
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大卒後、税務署に就職し国税専門官として税務調査に従事。税理士としても10年を超えるキャリアを積み、現在は「相続に精通した税理士としての知識」と「元税務調査官としての経験」を両輪として活かした相続税申告を実践中。
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