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リノベーション物件を中心に中古住宅の売買を手がける株式会社惠桜不動産。代表取締役舩江修様は、デベロッパー、投資用物件、仲介など不動産業界を幅広く歩んできた末、「お客様と顔を向かい合わせられる近い距離で家づくりをお手伝いしたい」との思いから2016年に惠桜不動産を設立しました。
不動産業界に入られたきっかけやこれまでの取り組み、近年の不動産販売におけるトレンドなどについて、舩江様にお聞きしました。
元々「地図に残る仕事したい」という思いから関東の大学で建築を学びましたが、徐々に都市計画や不動産に興味が移るようになりました。
25歳のときに地元香川のデベロッパーに就職し、マンション開発、戸建て開発など、20代後半は事業部系の仕事に取り組みました。その後30歳になる年に関東に戻ってからは、不動産仲介、新築販売、リノベ再販など、多岐にわたる不動産物件の取り扱いを経験します。
主に法人向けの販売畑を長年歩み、投資先としての物件なども多く扱ってきた一方で、「純粋に暮らしのための住宅を扱いたい」という気持ちが自分の中で次第に膨らんでいくのを感じていました。「居住されるお客様と顔を向き合あわせて仕事がしたい」「つくる楽しみをお手伝いをして喜んでもらいたい」という思いの元、7年前に1人で立ち上げたのが株式会社惠桜不動産です。
生き残りの厳しい売買仲介の世界で数年にわたって事業を続けてこられたのは、提携企業・協力企業として加盟しているリノベーション会社様に支えられている部分がとても大きいと思います。表参道のリノベる株式会社様、MUJI HOUSE様はじめ、加盟会社様にお力を借りながら成長してきました。
当社を設立してすぐのころ、リノベる株式会社様に施工していただいたお客様とお会いいたしました。その時のお客様が、私が新築マンションを販売していたときとは別格の喜び方をされていたことがすごく印象的でした。
リノベーションはその方だけの希望に合わせたオリジナルで、マンションで言うところの注文住宅をつくるのに似ています。「お客様はこんなにも強くこだわりを持たれていて、実現したときこんな風に感動してくださるんだ」と心を打たれました。
それまでは、「新築っぽくきれいにつくったものが良いに違いない」と不動産会社視点での「自己満足」的にお客様の満足を測っていたかもしれません。お客様の満足度を優先する仕事があるんだとこのとき感動したことは、今の当社のあり方にもつながっていると思います。
「MEGUReE」は住宅を購入をする方に向けたブランドです。当社としてはもちろん今後も売却まで手がけていきますが、MEGUReEは購入のみという点で異なります。「自分らしい住まいを自分でつくっていく」そういった思いを持つ方々がお住まいにめぐり会うためのお手伝いをすることをしたいという思いから設立しました。
惠桜不動産を設立した当時、「○○不動産」と社名を漢字表記にしている会社が多く、当社でも漢字の社名にしましたが、事業が軌道に乗ってきたころに顧客層を見直してみると少し固すぎるように思えました。メインとなっていたリノベーション物件の販売は、20代後半から30代のお客様が8割だからです。
顧客層に合うようにブランド名を新しくしたいと思ったとき、響きとロゴを気に入ったのが、「いい家に巡り合いたい」という意味を込めた「MEGUReE」でした。
新築に取り組もうとしている理由は、中古物件特有の仕組みに違和感を抱いてきたことにあります。たとえば、アフターサービス保証がその一例です。
仮に10年保証付きの新築を買ってから3年後に売却したとします。そうすると、中古になったその物件を次に買われた方には残る7年分のアフターサービスは適用されません。名義が変わっただけにもかかわらず、その中古物件を仲介する場合には、また瑕疵担保の保険に仲介会社が入る手続きが必要になります。私としてはそういった中古物件の仕組みが不思議で、変えたいと考えてきました。
これまで仲介で販売をさせていただいてきた中古戸建に関しては、買主さんのご負担が多くなるため、こういった構造を変えることができませんでした。
そこで今後は当社自身が売主となることで解決していこうと考えています。最初に10年と約束された保証について、名義が変わろうが残りの期間分は保証できるように仕組みを整えていくつもりです。
フルスケルトンとは、住居の内装や設備をすべて解体し、柱・梁・床といった建物の要となる「躯体」だけに解体した状態のことです。
通常リノベーションを行う際は、購入前に壁などの内側の状態を確認することはできません。解体してみると、入っていないと思っていたアスベストが出てきたり、図面上なかった壁が出てきたりということがあります。そうすると、リノベーションが実現できるかはまるっきりプランが変わってしまいますよね。
最近は不動産会社がきれいに直してから再販することも多いのですが、完全にスケルトンにしてから見えないところまできちんと直すのか、多少カビや腐食があろうが残せるものは残して表面を隠してしまうのかは、残念ながら会社によるというのが実態です。
フルスケルトン販売会は、そういった状況の中で、お客様に安心して購入いただくために続けている取り組みです。毎年開催していて今年の南千住が5棟目になります。「ぜひ安心して自分の好きなものをつくってください」とお伝えすると、お客様には非常に喜んでいただけています。
新型コロナウイルス感染症の影響を受けて進んだ主な変化には、「リモートワーク化」と「お客様のご案内方法の変化」の2つを挙げることできます。
まず、リモートワークに関してですが、少なくとも当社のような客付企業に限って言うなら、不動産会社でもリモートワークは完全に可能だと感じましたね。交渉も案内もオンラインでできてしまうので、わざわざ店舗にお越しいただく必要性はありません。
われわれがスマートフォンで撮影した映像の中から本当に気になった1、2件にしぼって物件を見ていただくという方法に変えたことで、お客様と当社双方にとって時間の短縮になるだけでなく、移動中の感染リスクを抑えることにもつながりました。
また、お客様をご案内する方法も変えました。具体的には、お客様のご自宅から車で送迎をし、公共の交通機関を極力使っていただかないようにご案内するようにしたのです。もちろん安全への配慮が目的でしたが、移動中のお車の中でお話しできる時間を以前より作り出せたことは結果的にポジティブな変化になったと思います。「こんな思いを大切にしていますよ」ということをお伝えしてからご案内させていただくことで、お客様の反応も変わってくるように思います。
リモートワークもご案内方法の変更も感染症に対応しての取り組みでしたが、結果的には、社員にとってもお客様のご負担も減らすことができ、ポジティブな変化も得られました。各社方針や状況は異なるので、不動産業界全体で働き方の変化がどう向かっていくかについては分かりませんが、少なくとも当社はこの変化を今後も受け入れていこうと思っています。
私個人としては、まだまだ発展途上で厳しい現状があるというのが率直なところです。
「ここにキッチンができて、こういう色になります」ということをVRなどでお見せする技術自体は普及してきていますが、デジタルと本物ではまだ大きな開きがあります。やはり最後は「実物を見に行ってみないとわからない」という感覚がまだ一般的です。
賃貸の場合は皆さんある程度割り切られているので、バーチャルで確認できる範囲で契約される方も多いですが、売買となると金額も住む期間も異なりますからね。
さらに言うと、お客様にとって気になる点は物件の中だけではありません。マンションであれば管理体制や、周辺にどのような施設があるのか、駅からの道順はどんな様子か、子どもも歩きやすいか、街灯はあるか、スーパーは何時までやっていて品揃えはどうか……。そういう暮らしの様子は、どうしても現地に行かないとわからないものです。
テクノロジーの導入についてリノベーション会社さんもさまざまに工夫されていますし、当社でも360度カメラで中を撮影して、採寸ができたりといった機能もつくりましたが、買うまでを完結するという意味ではまだ課題が残っているという印象です。
元々、世間ではでは「首都圏の新築物件の値段はオリンピックが終わったら安くなるんじゃないか」という予想がされていました。一方、金融機関の予測は「オリンピック後も変わらずむしろ上がっていく」であり、私もそう考えていました。
価格高騰の理由には、「そもそも新築が建つ場所がない」「新築を建てられる企業が少ない」の2点が挙げられます。供給が減れば、当然値段は高くなります。「人口が減って需要が下がる」「金利が上がる、あるいは金融機関の融資が厳しくなり買い手が減る」など需給のバランスに変化が起こらない限りは、現在の高値は続くでしょう。
新築が高騰すると、次に値段が上がるのは中古です。元々新築マンションを作っていた企業が、建設費の高騰などで新築を建てられないとなると、中古の再販事業に移ります。すると、それまで個人の方が普通に買えてたはずが、個人と不動産会社と競争になるため、中古物件の値段は上がっていきます。
さらには、これまで新築に住み替えていた方も、新築が足りなくなれば中古に流れてきます。そのため、新築の値段が下がってこない限りは、中古でも高値安定が続くのではないでしょうか。
空き家対策について一番手っ取り早い方法は「登記の義務化」でしょう。中古物件を取り扱う私たちが一番困るのは、空き家があったものの、法務局で所有者を調べてみたら亡くなっていて相続人がわからない、もしくは所有者の住所が違っていて追いかけられないといったケースです。
住所変更や所有者変更は100%義務化すれば、不動産会社が所有者に連絡できるようになり、売買は活性化するはずです。
さらには、空き家の場合、更地と同等に固定資産税を上げるといった法改正も有効でしょう。高い固定資産税がかかるとなれば処分したり運用したりと空き家の活用は進むでしょう。いずれにしても法律整備を進めてもらわないと難しい部分が多いかなと思います。
実際に当社でも影響も感じています。特に、ヨーロッパからの商品はやはりなかなかない状況です。空輸は足らず、船で運ぶ場合もかなり時間がかかるようになりました。
外国からの資源不足に直面してみると、国内の資源不足をより一層痛感しますね。国内での林業従事者は本当に少なくなってしまいましたし、国内産木材を使いたくても規制が厳しくてなかなか使えない状況があります。
よく食料において国内自給率の問題が議論されることがありますが、木材資源においても似たような状況があるように感じます。
我々小さな不動産会社が今一番困っていることは、販売できる物件が少ないことです。販売される物件の9割はトップ20に入る大手不動産会社さんが占めていて、そこで流通が止まってしまうと、私たちは紹介できる物件が足りません。
そういった状況は、購入希望のお客様をご案内しているだけだとどうしても変えられません。今後は、私たち自身が売主側、分譲主側に立つことで、紹介できる物件が足らないという問題を解決することにチャレンジしていきたいと考えています。2022年から進めている新築戸建てがその一つです。
なお、一口に新築戸建てと言っても、大手ハウスメーカーさんのものとは少しテイストや素材の異なるものにしていこうと考えています。大手さんにはもちろん数は及びませんが、それぞれのこだわりに丁寧に寄り添った家づくりをメインとしていきたいですね。
これまで「家に合わせて暮らす」が当たり前でしたが、「自分たちの生活に合わせてお家を考えていく」という考え方が徐々に広がりつつあります。今はまだ1割ぐらいの方にしか広がっていないかもしれませんが、2割3割に広げていけたらいいなと思っています。そういったこだわりに寄り添った家づくりをこれからも進めていきたいです。
舩江 修 様
株式会社惠桜不動産 代表取締役
■ 企業プロフィール
社名:株式会社惠桜不動産
所在地:東京都渋谷区渋谷2-10-15 エキスパートオフィス渋谷202
事業内容:売買や賃貸・開発・仲介、不動産コンサルティング等
TEL:03-5766-3388