何らかの理由によって、テナントビルなど建物から立ち退かなければならない場合があります。
立ち退きをする賃借人は、退去によって多くの損失を受けることになり、その損失の補填として支払われるのが立ち退き料です。
そのため、立ち退き料には、移転の補償・営業の補償・賃借権の譲渡の対価などの様々な意味があります。
どのような補償のために立ち退き料を支払っているのかによって、税金が課税されるか否かが決まります。
また、受取人が個人なのか法人なのかによっても、課税される税金の種類が違います。
本記事では、立ち退き料を受け取った側に対して、どのような場合にどのような税金が課税されないのか、課税されるのかを解説します。
目次
結論から言うと、特定の条件を満たした場合には消費税が課税されます。
そこでここでは、消費税が課税される条件について解説します。
国税庁によると消費税の課税条件は、以下の通りです。
「消費税の課税対象は、国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡、貸付けおよび役務の提供と外国貨物の引取り(輸入取引)」とされています。
つまり、以下の4つの条件すべてに該当した場合に、消費税が課税されます。
立ち退き料は、①から④に該当するケースと、該当しないケースがあります。
どのようなときに消費税が課税され、あるいは課税されないのかをケースごとに紹介します。
立ち退き料を営業の補償として支払う場合、消費税は課税されません。
立ち退いてほしい場所で賃借人が事業を行っている場合は、移転による事業の売り上げ減少などによる補償金を支払わなければなりません。
この営業に対する補償金には、④の資産の譲渡が該当しないため、④が発生しない支払金として消費税は課税されないということです。
立ち退き料を移転の補償として支払う場合、消費税は課税されません。
賃借人に立ち退いてもらうと、賃借人は新たな住まいや店舗に移ります。
新居への移転には費用がかかるため、この費用の補填として立ち退き料を支払います。
この移転に対する補償金には④の資産の譲渡がないため、④が発生しない支払金として消費税は課税されません。
立ち退き料を賃借権の譲渡対価として支払う場合は、消費税が課税されます。
賃借人が別の人に転貸をしている場合で、賃貸人から立ち退きを求められた際に、賃借人は転借人に立ち退き料を支払い、立ち退きさせなければいけません。
わかりづらいため、例を挙げて説明します。
想定するのは以下の事例です。
大家である賃貸人Aが賃貸人Bに立ち退きを要求した場合、賃借人Bは実際に賃貸物件を使用している転借人Cに立ち退いてもらわなければなりません。
賃貸人Aから立ち退き料を受け取った賃借人Bは、転借人Cに立ち退き料を支払う必要があります。
この賃借人Bが転借人Cに立ち退き料を支払うのは、転借人Cに対する賃借権の譲渡を依頼するという意味があります。
この場合は①から④すべての条件を満たすため、消費税が課税されることになります。
立ち退き料は、消費税の他にも課税される税金があります。
立ち退き料に課税される税金を紹介します。
個人が立ち退き料を受け取った場合には、所得税が課税されます。
受け取った立ち退き料の補填内容により、所得の計上方法が変わります。
譲渡所得
資産の消滅の対価補償として立ち退き料を受け取ったときには、譲渡所得として計上します。
借りている賃貸物件は、賃貸借契約に基づいて借りるという権利を取得しており、この取得した権利を立ち退くことで放棄することになります。
この権利放棄の対価として受け取った立ち退き料は、これに該当します。
事業所得
営業の補償としての対価で立ち退き料を受け取った場合は、事業所得となります。
店舗や事務所として賃貸物件を借りていた場合、立ち退くことにより売り上げが減少する可能性があります。
この売り上げ減少に対しての補償が、営業の補償に該当します。
一時所得
譲渡所得と事業所得に該当しない内容の補填であれば、一時所得として計上します。
立ち退きに伴う引っ越し費用や、新居の賃貸借契約にかかる費用などが該当します。
法人の受け取った立ち退き料は、どのような内容のものであってもすべて益金となり、他の所得金額と合算し計上します。
ある賃貸物件の賃貸人であったA社は、賃借人に対しておよそ3億円の立ち退き料を支払い、物件の明け渡しを受けました。
支払った立ち退き料について、消費税に相当する分を控除したうえで消費税申告を行ったところ、原処分庁から認められず、訴訟へと発展したという事例があります。
訴訟を起こした賃貸人としては、立ち退き料の支払いによって借家権という資産を賃借人から取得したことになるため、消費税控除の対象となるはずだと主張しました。
しかし、判決ではこの主張は認められず、立ち退き料の支払いはあくまで賃借人が退去に合意するためのものであり、借家権を取得するための課税仕入れではないと判断されます。
そのため、賃貸人は立ち退き料から消費税に相当する分を控除することはできず、1つの判例となりました。
立ち退き料は、立ち退きに関わる様々な損失を補填するために支払われます。
立ち退き料に消費税が課税される要件は、①日本国内の取引②事業者による事業(消費税課税業者)③対価を得ている④資産の譲渡、貸し付けおよび役務、の4つの要件を満たしている場合です。
また、立ち退き料を営業の補償として支払う場合、消費税は課税されません。
つまり、消費税は損失を補填する内容により課税されるか、課税されないかが決まります。
また、立ち退き料を受け取る場合には、個人か法人かによって、課税内容が決定します。
計上方法は複雑なので、税務署の見解によっては再申告や追徴課税を要求されるケースがあります。
適切に計上し、税金を納めるよう弁護士などの専門家に相談しながら進めてください。