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賃料の一方的な値上げは違法?正当な理由や借主側の対処法について

弁護士 中野和馬

この記事の執筆者 弁護士 中野和馬

東京弁護士会所属。東京都出身。 弁護士になる前、私は公務員として自治体業務に携わってきました。その経験から、法的な正しさだけでなく、社会的な公平性や、一人ひとりの生活に寄り添うことの重要性を深く理解しています。
立ち退き問題は、住まいや事業所といった生活の根幹に関わる問題であり、そこには多大な不安やストレスが伴います。私は「弁護士は敷居が高い」というイメージを払拭し、何でも気軽に話せる相談相手であることを常に心がけています。
複雑な法律用語を分かりやすく整理し、今後の見通しを丁寧にご説明した上で、依頼者様が「相談して良かった」と心から思える解決を目指します。公務員時代から大切にしている「誠実に向き合う」姿勢を貫き、皆様の正当な権利を守るために全力で取り組んでまいります。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/nakano/

賃料の一方的な値上げは違法?正当な理由や借主側の対処法について

この記事でわかること

  • 一方的な値上げ通知自体は違法ではない
  • 物価高だけで言い値どおりにはならない
  • 受け取りを拒まれたら供託で対応する

大家から突然、家賃の値上げを通知されて戸惑っている方もいるでしょう。
値上げの通知が届いても、請求された金額がそのまま新しい家賃になるわけではありません。
納得できない場合は、請求された金額にすぐ応じる必要はなく、交渉の余地があります。

この記事では、一方的な家賃の値上げが違法か、値上げが認められる理由、納得できないときの対処法を説明します。

大家からの一方的な家賃値上げは違法ですか?借主は拒否できますか?

一方的な値上げの通知そのものは違法ではありませんが、請求額をそのまま払う義務もありません。
ここでは、値上げ通知の法的な位置づけと、借主が拒否した場合の扱いを説明します。

通知だけで言い値には決まらない

借地借家法は、家賃が不相当になった場合に、大家が増額を請求できると定めています[注1]。
ただし増額が認められるのは、税負担や周辺相場の変化などで今の家賃が不相当になった場合に限られます。

通知に書かれた金額が、そのまま新しい家賃に決まるわけではありません。
もっとも、法律の要件を満たす増額請求であれば、借主が同意しなくても請求時から相当な範囲で家賃が上がります。
相当な額は話し合いや調停、訴訟で確定し、請求後に払った額との差額を精算します。

増額しない特約があれば値上げできない

賃貸借契約書に「一定期間は家賃を増額しない」という特約がある場合、その期間中は増額を請求できません[注1]。
値上げの通知を受けたら、まず契約書の家賃に関する条項を確認しましょう。

一方で、定期借家契約に家賃の改定方法を定めた特約がある場合は、特約の内容が優先されます[注2]。
特約に沿った値上げであれば、借主が拒否するのは難しくなります。
普通の賃貸借か定期借家かで扱いが変わるため、契約の種類もあわせて確認が必要です。

争っている間は相当と考える家賃を払う

値上げについて話し合いがまとまらない間は、借主が相当と考える額を払います[注1]。
従来の家賃が相当だと考えている場合は、その額を払い続けるのが一般的です。

ただし、裁判で家賃の額が最終的に確定し、払っていた額を超える家賃が相当とされた場合、不足分に年1割の利息を付けて払う必要があります。
また、支払額が物件にかかる税金など(公租公課)を下回ると知っていた場合は、適切な支払いと認められないことがあります。
値上げを拒否する場合は、将来の精算に備えて差額分を手元に確保しておくと安心です。

[注1]借地借家法/e-Gov法令検索「借地借家法」(第32条)

[注2]借地借家法/e-Gov法令検索「借地借家法」(第38条第9項)

裁判や借地借家法において、家賃値上げが認められる正当な理由とは?

値上げが認められるかは、以下の事情によって今の家賃が不相当になったかで判断されます[注3]。

  • 土地や建物にかかる税金などの負担の増加
  • 土地や建物の価格の上昇、その他の経済事情の変動
  • 近隣の同じような建物の家賃との比較

ここでは、それぞれの事情がどのように判断されるかを説明します。

税金や物件価格の上昇は理由になる

固定資産税や都市計画税が増えると、大家の負担が重くなります。
土地や建物の価格が大きく上がった場合も、家賃を見直す理由として考慮されます。
借地借家法では、税負担や価格の変化によって家賃が不相当になった際に、増額の請求を認めています。

ただし、税金が少し上がっただけで、直ちに値上げが認められるわけではありません。
税負担の増加だけでなく、前回家賃を決めた時から事情がどの程度変わったかが判断の基準になります。

周辺の家賃相場との差も判断材料になる

長く住み続けている部屋では、新しく募集されている部屋より家賃が低いことも珍しくありません。
近隣にある同じような条件の物件と比べて、今の家賃が低すぎるかも判断材料になります。

値上げの通知を受けたら、借主の側でも近隣の似た物件の家賃を調べておきましょう。
大家の示す相場が実態とかけ離れていないかを確かめる材料になります。

物価高だけで言い値どおりにはならない

物価の上昇も、経済事情の変動の一つとして考慮される可能性があります。
管理費や修繕費の増加も、経済事情の変動に関連する事情として大家側が挙げる理由の一つです。
しかし、裁判所は税負担や地価、周辺相場などの事情を総合的に見て、相当な家賃を判断します。
物価が上がったことだけを理由に、請求額どおりの値上げが認められるわけではありません。

裁判では、不動産鑑定士による鑑定をもとに、複数の計算方法を組み合わせて適正な家賃が算定されることがあります。
大家の提示額に納得できないときは、値上げの根拠となる資料を示すよう求めましょう。

[注3]借地借家法 / e-Gov法令検索「借地借家法」(第32条第1項)

大家側の家賃値上げ請求に対して、裁判所が妥当性を判断した過去の判例は?

家賃の増減をめぐる裁判では、相当な家賃の決め方や、争っている間の支払い方が問題になってきました。

直近に合意した家賃が判断の基準になる

最高裁判所第二小法廷平成20年2月29日判決(平成18年(受)第192号)は、家賃の判断基準を示しました[注4]。
この事件は、家賃の自動改定特約がある建物賃貸借で、借主が減額を求めた事案です。
判決は、当事者が実際に合意した直近の家賃をもとに、その後の経済事情の変動などを考慮するとしています。
自動改定特約で機械的に上がった家賃は、直近に合意した家賃とは扱われないという判断です。

値上げを求められた場合も、前回合意した家賃から何が変わったのかを問うことが重要になります。

税金を下回る支払いは未払いになりうる

値上げを争っている間の支払額について判断した事件があります(最高裁判所第二小法廷平成8年7月12日判決[注5])。
この事件では、地主が地代の増額を求めた後も、借主が従来の地代を払い続けていました。
判決は、支払額が土地の固定資産税などを下回ると知りながら払った場合、原則として適切な支払いにあたらないとしました。

旧借地法が適用された土地の賃貸借の事案ですが、現在の借地借家法にも同じ趣旨の規定があります。
建物の家賃をめぐる争いでも、支払額を決める上で参考になる考え方です。

[注4]最高裁判所第二小法廷平成20年2月29日判決/裁判所「裁判例結果詳細」

[注5]最高裁判所第二小法廷平成8年7月12日判決(民集50巻7号1876頁)/裁判所「判決全文」

一方的な家賃値上げ通知に納得できないときはどのように対処すべきですか?


値上げに納得できない場合でも、感情的に対応せず、手順を踏んで対応することが大切です。
ここでは、値上げ通知を受けてから取るべき対応を順番に説明します。

値上げの合意書にすぐ署名しない

値上げの通知と同時に、合意書や更新契約書への署名を求められることがあります。
一度署名すると新しい家賃に合意したものと扱われ、後から争うのは難しくなります。
署名する前に、大家や管理会社へ、値上げの理由と金額の根拠を書面で説明するよう求めましょう。

あわせて、契約書の特約や近隣の家賃相場を確認し、請求された金額が妥当かを自分でも検討します。
後で争いになったときに備えて、やり取りは記録に残る形で行うのがおすすめです。

受け取りを拒まれたら供託する

従来の家賃を払おうとしても、大家が値上げ後の額でなければ受け取らないと拒むことがあります。
その場合は、法務局に家賃を預ける「供託」という手続きを利用できます[注6]。
供託が認められるのは、値上げを理由に受け取りを拒否された場合や、受け取らないことが明らかな場合です[注7]。

要件を満たして供託すれば、家賃を支払ったのと同じ効果が生じます。
反対に、受け取りを拒まれたまま何もしないでいると、未払いを理由に契約を解除される恐れがあります。
受け取りを拒まれている間は、支払日が来る度に供託を続けるのが一般的です。

協議が調わなければ調停で話し合う

家賃の額について話し合いがまとまらない場合、大家が裁判所の手続きで値上げを求めることがあります。
家賃の増減をめぐる争いでは、訴訟の前に原則として調停の申立てが必要です[注8]。

調停では、裁判官と調停委員が間に入り、双方の言い分を聞きながら解決を図ります。
不動産鑑定士などの専門家が調停委員として加わり、適正な家賃について意見を示すこともあります。
訴訟で家賃の額が判断されるのは、調停で合意できなかった場合です。

普通借家は値上げ拒否だけで退去させられない

値上げに応じない借主に対し、大家が更新拒否や退去を求めることがあります。
しかし、普通借家契約で大家が更新を拒絶あるいは解約を申し入れるには、正当事由が必要です[注9]。
値上げに応じないことだけを理由に、正当事由が認められる可能性は低いと言えます。

所定の期間内に更新しない旨の通知がなければ、契約期間以外の条件が従来と同じ条件で更新されます。[注9]。

一方、定期借家契約は期間が満了すると更新されずに終わる点に注意が必要です。
値上げ拒否の後に退去を強く迫られた場合は、立ち退き料の交渉も含めて、早めに弁護士へ相談しましょう。

[注6]法務省「供託手続」

[注7]民法/e-Gov法令検索「民法」(第494条第1項第1号)

[注8]民事調停法/e-Gov法令検索「民事調停法」(第24条の2第1項)

[注9]借地借家法/e-Gov法令検索「借地借家法」(第26条第1項・第28条)

まとめ

大家からの値上げ通知は違法ではありませんが、通知だけで請求額どおりの家賃に決まるわけではありません。
納得できない場合は合意書にすぐ署名せず、自分が相当と考える家賃を払いながら、値上げの根拠を確認しましょう。

受け取りを拒まれたときは、法務局への供託で家賃の未払いを防げます。
普通借家契約では、値上げを拒否した後に大家が退去を迫るには正当事由が必要です。

退去を求められた段階で、対応を検討することがおすすめです。

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