賃貸物件を退去するとき、次の入居者が生活できるように室内の修繕やクリーニングなどの退去費用がかかります。
室内がカビだらけになり、カビが浸透した壁やフローリングなどを張り替える場合、退去費用は高額になるケースもあるでしょう。
カビの発生が借主の故意や過失による場合、退去費用は借主が負担しなければなりません。
ただし、建物の老朽化や不備でカビが発生したときは、貸主も費用を負担します。
退去費用が不当に高額である場合、貸主との交渉によって費用を抑えられる可能性もあるでしょう。
ここでは、カビだらけの賃貸物件を退去する際の費用や、退去費用を抑える方法などを解説します。
目次
カビの除去費用は、カビが発生している範囲やクリーニングが必要な掃除場所によって変わります。
費用相場は1㎡あたり2,000円~3,000円ほどで、間取りごとの費用相場は以下の通りです。
間取り | 広さの目安 | 費用相場 |
---|---|---|
1K | 25㎡ | 5万円~7万円 |
1LDK | 40㎡ | 8万円~12万円 |
2LDK | 55㎡ | 12万円~15万円 |
3LDK | 70㎡ | 15万円~20万円 |
掃除場所ごとの費用相場は以下の通りです。
掃除場所 | 費用相場 |
---|---|
トイレ | 1万円~2万円 |
エアコン | 1万円~2万円 |
キッチン | 1万円~3万円 |
フローリング | 2万円~3万円 |
浴室 | 2万円~3万円 |
建材の内部までカビが浸透した場合や、天井裏など作業が困難な場所にカビが発生した場合、費用はさらに高額になる可能性もあります。
カビの除去費用は、発生原因が借主の故意や過失による場合は借主が負担し、建物の経年劣化などが原因の場合は貸主が負担します。
ケースごとに、借主と貸主のどちらが負担するのかを確認していきましょう。
借主には、物件を退去する際に借りたときの状態に戻して返還しなければならない「原状回復義務」があります。
たとえば以下のように借主の故意や過失でカビを発生させた場合、借主が退去費用を負担する可能性が高いでしょう。
原状回復義務の範囲や退去費用の計算方法は、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に定められています。
通常の使用の範囲内による損耗であれば、退去費用を借主が負担する必要はありません。
カビが広範囲に発生している場合、借主が掃除せずに放置した結果であると判断され、除去費用を求められるケースが多いでしょう。
貸主には建物の修繕義務があるため、以下のように建物の老朽化などでカビが発生した場合、除去費用は貸主の負担となります。
建物自体がカビの発生原因になっているときは、カビによる汚染は借主の原状回復義務の範囲外となります。
他の入居者の室内も同様にカビが発生している場合、建物自体がカビの発生原因になっていると認められやすくなるでしょう。
退去費用を抑えるには、退去前に借主がカビの除去をするか、退去費用の請求を受けた後に貸主と交渉をする必要があります。
退去費用を抑えるための具体的なステップを確認していきましょう。
まずはカビの発生場所や発生原因などを調べましょう。
これらを明確にすることで、どういう対処をするかが決まります。
退去前に借主がカビを除去できれば、カビの発生を理由とした退去費用は請求されません。
手間や時間はかかりますが、市販の漂白剤などでカビを除去できれば大幅に退去費用を削減できる可能性があります。
カビの発生原因が建物自体の構造や老朽化などにある場合、前述の通り貸主にも除去費用の負担を求められる可能性が高くなります。
建物自体の原因は、老朽化のほかに設計ミスや地震などの自然災害によるケースもあります。
貸主との交渉で減額を求める根拠を説明するためにも、建物を調べてカビの発生原因がないか確認しておきましょう。
カビの除去費用を請求されたときは、まず除去にかかる費用の内訳について説明を求めましょう。
内訳では、以下のように具体的な項目を提示してもらいます。
貸主には説明義務があるため、借主からの求めに応じて退去費用の詳細を説明しなければなりません。
相場と比べて不当に高い項目がある場合や、カビが発生していない場所も清掃に含めている場合、減額を求めましょう。
賃貸借契約では、退去時の費用負担や計算方法などの特約を定めているケースがあります。
たとえば「清掃費用は貸主負担」や「清掃代は1㎡あたり1,000円」など費用負担を定めた項目がないか確認しましょう。
賃貸借契約上の費用負担と退去費用の内訳に相違がある場合、貸主に再見積もりを依頼できます。
退去費用の内訳や賃貸借契約の内容を確認したら、貸主との交渉を行いましょう。
交渉では、単に減額を求めるだけでなく、貸主が負担すべき理由や、相場と比較した場合の価格差などを説明しなければなりません。
前述の調査により、カビの発生原因が建物にある場合や退去費用の計算が間違っている場合、貸主との交渉はスムーズに進むでしょう。
貸主との交渉が難しい場合、交渉を弁護士に依頼するのもよい方法です。
貸主との交渉や妥当な退去費用の計算などは、個人では難しい場合もあるかもしれません。
当事者同士の話し合いは感情的になりやすく、冷静な話し合いができない可能性もあります。
弁護士に交渉を依頼した場合、弁護士は第三者として介入しつつ、依頼人の利益を最大化するために交渉を進めてくれるでしょう。
カビが発生する原因は、「湿度」「汚れ」「温度」の3つといわれています。
室内では、日常的に水を使う場所や汚れの溜まりやすい狭い所などは特にカビが発生しやすくなります。
ここからは、賃貸物件でカビが発生しやすい場所を確認していきましょう。
キッチンのシンクは日常的に水を使用する場所であり、食品などの汚れが溜まりやすいため、カビが発生しやすいポイントです。
シンクの周りだけでなく、排水口や周辺の部品も食べかすなどが溜まり、カビの温床となります。
カビを予防するためには、キッチンの使用後に掃除をしてゴミを残さず、フィルターやパッキンなども含めて塩素系漂白剤をスプレーしてぬめりなどを落としましょう。
キッチンでは、冷蔵庫もカビの栄養となる食品が豊富にあるため、カビが発生しやすい場所です。
ドアポケットや野菜室、冷蔵庫下の水受けなどは、カビの発生がないか定期的に点検しておきましょう。
エアコンを使用すると、結露によって内部に水分が溜まるため、カビが発生しやすくなります。
エアコンは室内の高所など掃除がしにくい場合に設置されているため、気付かないうちに大量のカビが発生しているケースもあります。
カビを予防するためには、こまめに掃除や室内の換気をしましょう。
エアコンに送風機能がある場合、運転後に2~3時間ほど送風を行うとエアコン内部が乾燥するためカビ予防として有効です。
内部クリーン機能があるエアコンでは、設定をすると使用後に自動でエアコン内部の湿気を除去してくれます。
浴室は湿気が溜まりやすく、せっけんや皮脂汚れなどもカビの栄養であるため、発生の原因となります。
特に排水口や床、ドア下のパッキン、浴槽のフタなどはカビが発生しやすいポイントです。
浴室のカビを予防するためには、お風呂上りにお湯を抜き、防カビ剤などをスプレーして湿気などが残らないようにしましょう。
浴室内をできるだけ換気しておくため、浴室を利用しないときはドアや窓を開け、換気機能などを利用しましょう。
押入れやクローゼット、シューズクロークなどは密閉された空間であり、日当たりも悪いため湿気がこもりやすくなります。
収納物を動かさないまま置いておくと、埃が溜まりカビの発生原因となります。
カビを予防するためには、定期的に扉を開けて換気を行い、収納物を外に出して汚れが溜まらないように掃除をしましょう。
収納物が多い場合、頻繁に出し入れするのが難しい場合もありますが、除湿剤などを入れておくと湿気の発生を抑えられます。
トイレには常に水があり、空間としても密閉されているため、カビが発生しやすくなります。
便器のふちや排水口だけでなく、トイレタンクや床、壁なども掃除をしないままだとカビが発生するケースがあります。
予防には定期的な掃除が欠かせませんが、タンクの中なども含めて汚れを取り除き、窓を開けて湿気を減らすように心がけましょう。
便器のフタを開けたままにすると湿気が溜まりやすくなるため、使用後はフタを閉めた状態にしておくとカビの予防になります。
窓枠は結露がたまりやすいため、カビが発生しやすい場所です。
結露は室内の暖かい空気が窓の冷気で冷やされ、空気中の水蒸気が水滴としてあらわれる現象です。
結露の水分と、窓枠に溜まった埃などが栄養となり、カビが発生しやすくなります。
特に冬は窓枠に結露が発生しやすいため、こまめに拭きとるか、結露を防止するためのシートやスプレーなどを利用するとよいでしょう。
室内の風通しをよくするため、サーキュレーターなどで空気を循環させるのも有効な方法です。
大型の家具の裏側や下部は、風通しが悪く、汚れが溜まりやすい場所です。
家具を設置場所に固定している場合、掃除ができない裏側や下部に汚れが溜まり、大量のカビが発生するケースもあります。
重い家具などは、下にキャスターを付けて移動しやすくすると、普段の掃除で狭い場所の埃なども取り除きやすくなるでしょう。
カビは通常の拭き掃除などでは除去できないケースが多く、除菌液や漂白剤などの使用が必要です。
カビの原因となる埃などの汚れは放置すると蓄積されていくため、こまめな掃除を心がけましょう。
ここからは、賃貸物件にカビが発生してしまった場合の除去方法を解説します。
アルコール除菌液や除菌シートなどは、カビを除去するために有効です。
アルコールはカビの細胞膜に浸透するため、強力な殺菌効果があります。
アルコール除菌をするときは、アルコール濃度を70%~80%に保ちましょう。
アルコール濃度が適切でない場合、十分な殺菌効果を得られない可能性があります。
カビを除去するとき、カビの胞子が空中に飛散するため、マスクやゴム手袋を着用して体内に入らないようにします。
アルコールは強い除菌力がありますが、使用する素材によっては傷める可能性があるので注意しましょう。
キッチンやエアコン、窓枠などに発生したカビを除去するときに利用するのがおすすめです。
中性洗剤はカビだけでなく、様々な場所の掃除に使用できますが、カビの除去にも有効です。
雑巾などに中性洗剤を含ませ、カビが発生しているところを水拭きしましょう。
水拭き後は乾拭きなどで洗剤が残らないように拭き取り、しっかりと乾燥させます。
使用する素材を傷めるリスクも低いのがメリットですが、アルコール除菌などの方法と比べてカビの分解作用は弱くなります。
デリケートな素材にカビが発生した場合や、カビの発生が少ない場合には中性洗剤を利用しましょう。
カビは熱湯で死滅するため、熱湯をかけて除去する方法もあります。
カビの種類によって耐熱性は変わりますが、50度~80度以上の熱湯でカビ全体にしっかりかけると死滅するケースが多いです。
人体に有害な薬液を使用する必要がないのがメリットです。
熱湯の使用後は、高温多湿な状態が続くのを防ぐために窓を開けて換気を行いましょう。
建物の素材によっては熱に弱い場合もあるため、熱湯を使用するときは注意しなければなりません。
エアコンや天井の窓枠など、高所にあるため掃除が難しい場合は、クリーニング業者に依頼するのもよい方法です。
クリーニング業者に依頼した場合、専門的な技術を使って落ちにくいカビも除去してくれます。
カビを長期間放置するほど除去するのが難しくなりますが、クリーニング業者に依頼すると除去できる可能性が高いでしょう。
クリーニング業者には、カビの除去だけでなく、カビの発生を抑制するコーティングも依頼できます。
費用はかかりますが、自分でカビを除去するよりもきれいな状態な長持ちする効果も期待できるでしょう。
カビをこすって除去しようとすると、菌糸などが素材の奥に入り込み、落としにくくなってしまう場合があります。
こすったときに菌糸についている胞子が空中へ飛び、周辺にカビが広がってしまう恐れもあるでしょう。
カビを除去するときはこすらず、除去剤などを吹きかけた後に時間をおいて軽くふき取るようにすると効果的です。
カビを放置すると、生活環境が悪くなるだけでなく、退去時に高額な費用を請求される可能性があります。
退去費用を抑えるためには、普段から掃除や換気をしてカビの発生原因となる汚れや湿気を取り除きましょう。
物件から退去するときに高額な退去費用を請求された場合、弁護士に相談する方法のもおすすめです。
建物にカビの発生原因があるときなど、交渉によっては退去費用を抑えられる可能性があります。
当事者同士では話し合いが難しいときもありますが、弁護士に依頼すると交渉が円滑に進む可能性が高くなるでしょう。