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不要な不動産の明け渡しをする意義としては、納税額の軽減・圧縮、心労から解放が挙げられます。
古い貸家や貸地であっても、都心部エリアの不動産は、固定資産税や都市計画税、相続税の租税公課の負担が大きいでしょう。
収益物件として保有していても、納税額などに見合っていないのが実情です。
このような状況では、古い貸家や貸地の所有者の生活を圧迫させる可能性も高まり、所有しているために精神的なストレスを感じる方もいらっしゃいます。
そのため、不動産を処分するか、有効活用を行って収益性を向上させる必要があるでしょう。
また、不動産を売却するなどによって処分すれば、翌年以降の固定資産税や都市計画税を納税する必要がなくなるうえ、相続税の軽減にもつながる可能性があります。
不動産を渡すときには「明け渡し」「引き渡し」を使います。
不動産を渡す同じ行為をするのにも関わらず、違う言葉があるのはそれぞれで内容が異なるからです。
ここでは、不動産を渡すときに使う言葉の違いをそれぞれ解説します。
明け渡しとは、借りていた建物や土地を、大家さんなどの賃貸人に返す行為をいいます。
一般的に、水道光熱費の精算や部屋の原状回復、鍵の返却などをする必要があります。
原状回復は工事費用を賃貸人に渡し、工事自体は賃貸人が行う場合も多くあります。
明け渡しの際は、部屋の状況を確認するために本人の立ち会いが必要になるケースが一般的です。
引き渡しとは、土地や建物の占有権を相手に渡す行為をいいます。
一般的に、賃貸の場合は賃貸人が賃借人に鍵を渡す作業をもって引き渡しが行われます。
不動産売買の場合は、所有権移転登記をする方法によってなされます。
立ち退きとは、賃貸人の要求に応じて、賃貸物件を賃貸人に明け渡す行為をいいます。
賃貸人が建物を取り壊す、建て替えるなどの理由により、賃借人へ賃貸借契約の解約を請求したり、更新をしない旨を通知して賃貸借契約の終了を要求したりします。
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明け渡し要求とは、貸地、貸家の賃貸借契約を終了させ、賃貸物件の返却を求める行為です。
契約が終了する類型として、「合意解約」「解除」「更新拒絶」「解約申し入れ」の4つの類型に分かれます。
それぞれ明け渡しの状況が異なるため、ひとつずつ紹介します。
賃貸借契約の解約合意とは、貸主と借主がお互いの条件を調整した上で賃貸借契約を終了させる行為です。
引き渡しする期限や引っ越し先の斡旋、退去時の費用精算などの条件について話し合い、合意した内容をもって賃貸借契約は終了します。
賃貸借契約の解除とは、一方の当事者の意思表示によって賃貸借契約がはじめから存在しなかったのと同様の状態にする行為を指します(民法540条1項)。
契約解除権には、以下の2種類があります。
賃貸借契約の解除権は、契約書の内容によって適用される約定解除権と、法律で定められている法定解除権があります。
具体的にどのようなケースが解除の条件に該当するのか、次の項で詳しく紹介します。
借主が家賃を滞納した場合は、貸主は賃貸借契約の解除ができます。
ただし、解除するうえでは、貸主と借主の信頼関係が破壊されるほどの滞納である必要があります。
1カ月程度の滞納であれば、信頼関係が崩れたとは言い切れません。
半年程の滞納があった場合、今後も継続的に家賃が支払われる可能性も低いと判断でき、賃貸借契約の解除が認められるケースもあります。
また、滞納だけでなく、賃借人側の態度や不払いの金額などの諸事情も判断材料です。
ただし、近年の賃貸借契約は、滞納時に備えて家賃を家主側へ立て替え払いする家賃保証会社との契約を行うケースが増えています。
家賃滞納をしていても、保証会社による代位弁済が継続している場合、解除の根拠となる債務不履行がありません。
信頼関係を破壊するものとはいえない可能性もあります。
賃貸人の許可なく賃借人が第三者に賃借権を譲渡したり、賃借物を転貸した場合は、賃貸借契約を解除することができます。(民法612条2項)。
民法612条1項では、「賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。」と定められています。
賃借権の譲り渡しとは、借主とは異なる人が入居者となる状態です。
転貸とは、第三者に貸し出し、使用収益(家賃収入)を得る行為を指します。
つまり、借主を勝手に変更させたり、他の人に貸し出して家賃を得るなどはできません。
ただし、賃貸人に不利益にならないといった場合は、契約の解除が認められない例外もあります。
「借主が不在の期間だけ、留守番として入居していた」「賃借人と転借人が実質的に同一である」などです。
賃貸人の許可がなく賃借人が借家を無断増改築した場合は、賃貸借契約を解除ができます。
「民法400条」(e-GOV法令検索)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089
すなわち、部屋を増設したり、別の建物を建設したりするなどは賃貸人の許可を得ずに行えません。
また、大規模な増改築や原状回復が難しい程の工事など、貸主と借主の信頼関係が破壊するほどの背信的である場合は無催告の契約解除をすることができます。
賃貸借契約で定めた借家の用途とは異なる用法で使用した場合、用法違反に該当し契約の解除ができます。
建物の用途制限は、「居住用」か「事業用」に分かれます。住居兼店舗のように、一体化された物件もありますが、一般的には2つに分かれます。
居住用として賃貸借契約を締結したものの、その物件で作業しており、会社の本店所在地に登記した場合、用法違反もしくは転貸に該当する可能性が高まります。
賃貸人に影響を及ぼさない場合であれば、背信行為とはいえないとして解除が認められないケースもあるため一概には言えないものの、事業の内容(飲食店など)によっては 信頼関係が破壊されたとして契約を解除できます。
賃借人が借家の保管義務違反を行った場合、賃貸借契約の解約ができます。
賃借人は民法400条で、賃借物を返還するまでの間、善良な管理者の注意力をもってその賃借物を保存する義務を負うとされています。
しかし、賃借人の不注意によって貸家を損壊させた場合などは、保存義務違反と判断される可能性もあります。
貸主と借主の信頼関係が著しく破壊された場合は賃貸借契約の解約ができます。
家賃の滞納だけではなく、騒音やごみの出し方に関するルール違反などが例です。
賃貸人のみならず近隣住民にも迷惑をかけ、改善の余地がない場合などは契約の解除が認められるケースがあります。
賃貸借契約の更新拒絶とは、賃貸借契約の期間満了の1年前から6カ月前の間に、賃貸人から賃借人に契約更新を行わない旨を通知する行為です。
更新の拒絶ができる場合は、「正当な事由がある場合」と借地借家法26条第1項で定められています。
具体的な正当事由としては以下のような理由が挙げられます。
容易に物件を追い出されては借地人を保護できないため、更新の拒絶をする場合は、正当な自由が必須です。
解約申入れとは、貸主もしくは借主の一方的な意思表示によって将来に向かって賃貸借契約を終了させる行為です。
期間の定めのない賃貸借契約では、各当事者はいつでも解約の申入れができます(民法617条)。
しかし解約の申入れにおいては借地借家法で、賃貸人が解約申し入れする場合は6カ月の猶予期間をおく必要があり、6カ月を過ぎた場合は解約の効力が生じます。
また、賃貸人が解約申し入れする場合、更新拒絶と同様に正当事由が求められます。
明け渡しの強制執行とは、法律上の手続きにより、入居者を退去(明け渡し)させる行為です。
執行官が借地人の不動産などの占有を解除し、賃貸人に取得させる(返還する)方法で行われます。
ここでは具体的に明け渡しの強制執行の条件や流れ、期間について紹介します。
明け渡しにおける強制執行を行うためには、明け渡し請求の訴訟で勝訴する必要があります。
家賃滞納などで強制執行する場合は、一定期間の家賃の督促を行い、賃貸借契約の解除の意思表示をする必要があり、一般的に内容証明郵便を送ることで行われます。
明け渡しにおける強制執行の流れは以下の手順で進めます。
正しい手順で進めないと、強制執行に時間がかかるため、ここではひとつずつ詳しく紹介していきます。
判決を得た裁判所で「判決送達証明書の交付および判決正本への執行文付与申立」を行い、その後必要書類を用意して地方裁判所に強制執行の申立てを行います。
申立てが受理されると翌日以降に執行官と面接する流れです。
明け渡し催告日は、執行官が現地に行って賃借人に明け渡しを求めると同時に、明け渡し期限についても説明します。
また、明け渡し期日が記載された公示書を建物内に貼りつけ、入居者には催告書を交付します。
なお、明け渡し催告はやむを得ない事由がある場合を除き、申立てがあった日から2週間以内に実施するものと定められています。(民事執行規則第154条の3)
明け渡し期日までに賃借人が明け渡さなかった場合、執行官が再度現地に行って、強制的に建物内の荷物が搬出される明渡しの断行が行われます。
執行官が手配した運送会社が賃借人の家財などを運び、保管場所まで搬送します。保管場所を家主が用意できない場合、執行業者が依頼する倉庫に保管します。
なお、明け渡し催告から3週間以内に断行が行われます。
保管した残留物は、借地人が回収する場合に備えて、1カ月間保管されます。
この際の執行業者が用意した保管場所を利用する場合、費用がかかるため注意が必要です。
1カ月経っても荷物の引き取りがない場合は、売却が行われ、保管費用と相殺も可能です。
ただし、金銭的価値がないようなものに関しては、廃棄されます。
明け渡しにおける強制執行が完了するまでの期間は、2カ月半ほどです。
もちろん賃借人が高齢な方や健康状態が悪い人などの場合は、福祉事務所などへ相談する配慮が必要となるため、さらに期間を要する場合もあります。
明け渡しには様々な注意点があります。
この注意点を項目ごとに解説していきます。
明け渡しをするときには、賃貸契約書で決められた明け渡しの条件を守る必要があります。
賃貸契約書には、明け渡すときには原状回復工事をするように定められている場合もあります。
通常通り利用して付いた傷・汚れ以外は、ハウスクリーニングや簡易的なリフォームをしてから賃貸人へ返します。
もし、賃貸借契約書の原状回復項目に「明け渡しするときにはスケルトン状態にして返還しなければならない」と記載がある場合には、その旨に従います。
このように原状回復する範囲が決められているときは、決められた範囲の工事を行わなければいけません。
そのため、明け渡しを請求された場合は、まず賃貸借契約書の内容を見て原状回復の範囲を確認しておく必要があります。
賃借人と賃貸人とでは、原状回復を求める意識の差が出やすく、トラブルに発展する場合が多いです。
そのため、原状回復工事の見積もりを取得するときは、賃借人・賃貸人・工事業者の3名で原状回復をする箇所を確認しながら進めていくのをおすすめします。
このようにしておけば、工事のやり直しや保証金の減額などを賃貸人から求められなくなるでしょう。
また、原状回復工事の見積もり中に賃貸人から「この機材はやはり残して欲しい」などと言われるケースもあります。
賃貸借契約書で決めた原状回復工事よりも範囲が狭くなれば、そのぶん工事費用も少なくなる場合があります。
賃貸物件の原状回復工事をするときには、工事前に備品や家具を撤去しておく必要があります。
そのため、原状回復工事期間以外にも、備品や家具の撤去に必要な期間を考慮しておかなければなりません。
さらに、売却する場合は買取業者の立ち合いが必要になるケースもあるため、スケジュール管理には注意が必要です。
原状回復工事の見積もり取得が遅れると、原状回復工事のスケジュールが退去日ぎりぎりになってしまう場合があります。
工事には準備や後始末の時間がかかるため、工事スケジュールが詰まってしまうと退去日を超えてしまうかもしれません。
工事期間が退去日を超えないよう、余裕を持ったスケジュールで進めましょう。
退去日までに原状回復工事が終わっていない場合は、賃貸人から賃貸借契約違反を問われてしまう可能性があります。
スケジュール管理はしっかりと行うのが重要です。
賃貸物件を返還するときには、様々な問題が生じることがあります。
この中で賃貸物件を返却するときには、原状回復工事をしなければならない場合もあるため注意が必要です。
賃貸契約書に原状回復の範囲を決めますが、言葉で決めておくだけでは賃貸人と賃借人の間で認識の違いが生まれてしまいます。
原状回復工事の見積もりを取得するときには、賃貸人・賃借人・工事業者の3名で立ち合い、工事範囲を確認しながら取得しましょう。
原状回復工事には工事準備期間や備品、家具撤去期間など本工事期間以外にも時間が必要になります。
スケジュール管理もしっかりと行うのが重要です。