

東京弁護士会所属。イギリス(ロンドン)出身。
立ち退きは、人生という演劇における「幕間のセットチェンジ」のようなものです。次の新しいステージへスムーズに、かつ最良の状態で進むためには、適切な準備とプロフェッショナルによる調整が欠かせません。
私は都内の大規模・中堅法律事務所で培った高度な法的知見を活かし、居住用から事業用まで、数多くの「立ち退き料増額交渉」や「建物明渡し」の問題に取り組んできました。
「どれくらいの金額が妥当なのか」「いつまでに明け渡すべきか」といった不安に対し、法律の専門家として明確な見通しをスピーディーに提示いたします。皆様が正当な権利を守り、納得して次の一歩を踏み出せるよう全力でサポートいたします。ぜひ一度ご相談ください。

内容証明郵便とは、郵便局が「いつ・誰が・誰に・どのような内容の文書を送ったか」を証明してくれるサービスです。相手に送った文書の内容を後から確認できるため、重要な通知や請求などを行う際に利用されます。
内容証明郵便は郵便法48条1項に基づく制度です。配達証明(同法47条)を付ければ、相手に配達された日付も証明できます。
立ち退きの場面で内容証明郵便を使う前に、その効力と限界を正しく理解しておきましょう。
内容証明郵便で証明されるのは、その内容の文書を送ったという事実だけです。書いた内容が真実であることや、法的に正しいことまでは証明されません。
たとえば、あなたが「立ち退き料として〇〇万円を請求します」と内容証明郵便で送っても、貸主にその金額の支払義務が生じるわけではありません。内容証明郵便に強制力はなく、相手が応じなければ、調停や訴訟などの手続きに進むことになります。
それでも立ち退き交渉で内容証明郵便が重視されるのは、後の調停や訴訟で「いつ、どのような主張をしたか」を客観的に示せるからです。裏を返せば、書いた内容は後から「送っていない」とは言えない証拠として残り続けます。この点は「6-1. 送付した内容証明郵便は撤回できない」で詳しく解説します。
相手が内容証明郵便を受け取らなかった場合でも、事情によっては到達したものとして扱われます。「受け取らなければ効力はない」と相手が考えていても、その対応に意味がない場合があるということです。
意思表示は、相手に到達した時から効力を生じます(民法97条1項)。受け取らなかった場合の扱いは、次の2つの場面で考え方が異なります。
不在返送について、最判平成10年6月11日(民集52巻4号1034頁)は、到達とは相手方が書面を直接受け取ったり内容を知ったりすることまでは必要なく、「相手方の了知可能な状態に置かれることをもって足りる」との一般論を示しました。そのうえで、この事案では、遅くとも保管期間が満了した時点で到達したと判断しています。
もっとも、この判例は遺留分減殺の意思表示に関する事案であり、立ち退きの事案ではありません。また、この事案では、相手が不在配達通知書によって内容証明郵便の存在を知り、内容もある程度推知でき、受け取ることも容易だったという事情がありました。立ち退き交渉の内容証明郵便でも必ず同じ結論になるわけではないため、相手が受け取らない場合は、特定記録郵便などで同じ内容を別途送るといった対応も検討しましょう。ただし、特定記録郵便で残るのは差出しと配達の記録であり、相手が内容を知り得る状態に置かれたことまで証明できるわけではありません。相手が受け取りを避け続けている場合は、早めに弁護士に相談してください。
立ち退き交渉では、貸主側から先に更新拒絶通知や解約申入れの書面が内容証明郵便で届くケースが多く見られます。そのため、あなたが送る内容証明郵便は、立ち退き料を請求する書面というより、貸主の通知に対する「回答書」や「反論書」としての性格を持つことが多いのが実態です。
貸主側の通知は、弁護士が作成していることも少なくありません。そのような通知に自分で返信する場合、何に反論し、何を認めないのかを整理しないまま書くと、相手の主張を部分的に認めた書面になってしまうおそれがあります。通知が届いた段階で、何を書くかだけでなく、そもそも返信するかどうかから慎重に判断することが大切です。
立ち退き料を求める余地が大きいのは、普通借家契約で、貸主の都合によって更新拒絶や解約申入れを受けた場合です。また、すでに合意した立ち退き料が支払われていない場合は、契約上の請求権として支払いを求められます。
立ち退き料は、法律上当然に認められる請求権ではありません。貸主都合の明渡し請求に対し、交渉上の条件として求めるものです。
たとえば、普通借家契約で貸主が更新を拒絶したり、解約を申し入れたりするには、正当事由が必要です(借地借家法28条)。正当事由の判断では、貸主・借主それぞれの建物を使用する必要性や、これまでの契約の経緯、建物の利用状況などが考慮されます。さらに、貸主が明渡しの条件として財産上の給付を申し出た場合には、その内容も考慮されます。
つまり、建て替え、老朽化、自己使用、売却などを理由に貸主から退去を求められた場合、借主はすぐに退去に応じるのではなく、「立ち退き料の支払いを条件に明渡しに応じる」という形で交渉できる余地があります。
なお、期間の定めのある契約では、貸主は期間満了の1年前から6カ月前までの間に更新拒絶の通知をしなければ、従前と同一の条件で更新したものとみなされます(同法26条1項)。期間の定めのない契約の解約申入れでは、申入れの日から6カ月を経過しなければ契約は終了しません(同法27条1項)。
一方、次のような場合は、原則として立ち退き料を求めることは難しくなります。
正当事由があるかどうかは、貸主がその建物を使う必要性と、あなたがその建物を使い続ける必要性を比較して判断されます。立ち退き料は、その判断を補う要素にすぎません。
借地借家法28条は、正当事由を判断する際の考慮要素として、次の4つを挙げています。
裁判所がまず重視するのは、1つ目の双方の必要性です。たとえば、自分の店舗が長年その場所で営業し、常連客や近隣の取引先に支えられて生計を立てているのであれば、あなたの使用の必要性は強く評価され得ます。反対に、貸主の建て替え計画が具体性を欠いていれば、立ち退き料をいくら積み上げても正当事由が認められないことがあります。立ち退き料は、双方の必要性を比べたうえで貸主側に足りない部分を補う位置づけです。
裁判所が立ち退き料の額を判断した判例として、最判昭和46年11月25日(民集25巻8号1343頁)があります。店舗の明渡しが争われたこの事案では、貸主が「300万円もしくはこれと格段の相違のない一定の範囲内で裁判所の決定する金員」を支払うと申し出ていました。裁判所は、500万円の支払いと引き換えに明渡しを認めています。
もっとも、これは貸主が裁判所の判断に委ねる形で申出をしていた事案です。黙っていても裁判所が立ち退き料を増額してくれるという意味ではありません。貸主の申出の仕方や双方の事情によって、裁判所が相当と考える額を定めることがある、と理解しておきましょう。
「定期借家契約だから立ち退き料は請求できない」と言われても、すぐにあきらめる必要はありません。契約時の手続きや終了通知の時期に不備があれば、争える場合があります。
定期借家契約を結ぶには、貸主はあらかじめ、契約の更新がなく期間満了で終了することを記載した書面を交付して説明しなければなりません(借地借家法38条3項)。この説明をしなかった場合、更新がないこととする定めは無効になります(同条5項)。その場合は普通借家契約として扱われるため、正当事由と立ち退き料をめぐって交渉できる余地が生まれます。
また、期間が1年以上の定期借家契約では、貸主は期間満了の1年前から6カ月前までの間に終了の通知をしなければ、契約の終了をあなたに対抗できません(同条6項)。貸主から適切な時期に終了通知がされていなかった場合には、退去時期や立ち退き料を含めた条件を貸主と交渉できる余地があります。ただし、この期間を過ぎてから通知した場合でも、通知の日から6カ月を経過すれば終了を主張できる点には注意が必要です。
「定期借家だと言われたが、契約時にそのような書面をもらった記憶がない」という方は、契約書類一式を確認したうえで弁護士に相談することをおすすめします。
契約書に「更新はしない」「立ち退き料は請求しない」と書かれていても、その特約が無効になる場合があります。
借地借家法30条は、建物賃貸借契約の更新等に関する規定(同法26条から29条まで)に反する特約で、借主に不利なものは無効とすると定めています。普通借家契約で「貸主の求めがあれば正当事由の有無を問わず明け渡す」「明渡しの際は立ち退き料その他一切の金銭を請求しない」といった条項があっても、正当事由の制度を実質的に否定するものであれば、無効となる可能性があります。
「契約書にサインしてしまったから、もう何も言えない」と思い込まず、その条項が法律上有効かどうかを確認することから始めましょう。
立ち退き料の金額と支払時期がすでに合意書で決まっているのに支払われない場合、あなたは契約上の請求権として支払いを求めることができます。この場面は、内容証明郵便が最も典型的に使われるケースです。
内容証明郵便で支払いを催告すれば、時効の完成猶予の効果も生じます(民法150条1項)。詳しくは「立ち退き料を請求した事実を証拠として残せる」で解説します。
内容証明郵便は、郵便局の窓口から出す方法と、インターネットの電子内容証明サービス(e内容証明)で出す方法があります。どちらの方法でも、書式よりも重要なのは中身です。何を書き、何を書かないかによって、書面の法的な意味は大きく変わります。
書面には、差出日、差出人・受取人の住所氏名、物件の特定(所在地、部屋番号、契約日)、通知の趣旨を記載します。そのうえで、自分の立場をどう書くかが最も重要なポイントです。
書き方で分かれ目になるのは、主に次の2点です。
留保を入れずに立ち退き料の話だけを書くと、明渡しを前提に金額を交渉しているように読まれかねません。また、書面に具体的な金額を書くと、その金額が交渉の上限として扱われやすく、後から増額を求めにくくなりがちです。
宛先にも注意が必要です。建物が売却されて貸主が変わっている場合は、現在の所有者である新しい貸主宛てに送る必要があります。また、管理会社宛てに送っても、貸主本人への意思表示としては足りないことがあります。重要な意思表示は、貸主本人宛てに送るのが基本です。
内容証明郵便を取り扱う郵便局の窓口に、同じ内容の文書3通(相手送付用、郵便局保管用、差出人控え)と、受取人の住所氏名を書いた封筒を持参して差し出します。以下、内容証明送付時の注意点です。
字数・行数の制限や料金は改定されることがあるため、差し出す前に日本郵便公式サイトで最新の内容を確認してください。配達された日付を証明できるよう、配達証明は付けておくことをおすすめします。
e内容証明は、Wordなどで作成した文書をインターネット上でアップロードして差し出すサービスで、24時間いつでも利用できます。郵便局に行く手間がなく、控えは電子データで保存されます。
ただし、紙の内容証明郵便とは異なるレイアウトの規定があり、初めて利用する場合は書式の不備で手続きが進まないこともあります。
注意したいのは、手軽に送れる分、推敲が不十分なまま差し出してしまいやすい点です。一度相手に届いた書面を取り消せない点は、紙の場合と変わりません(詳しくは「6-1. 送付した内容証明郵便は撤回できない」で解説します)。
ここでは、よく使われる2つの場面の文例と、送ってはいけないNG例を紹介します。文例は書面の骨格を示すものです。契約内容、通知の経緯、営業の実態に応じて書き分ける必要があり、そのまま使うとかえって不利になる箇所もあります。実際に送る前に、弁護士に文面を確認してもらうことをおすすめします。
貸主から更新拒絶通知が届いた場合は、明渡しに合意していないことを明確にしたうえで、協議の意思を示します。金額には触れません。なお、次の文例は店舗などの事業用物件を想定しています。住居として使用している場合は、「上記建物において〇〇を営んでおり」の部分を「上記建物を住居として使用しており」などに置き換えてください。
回答書 貴殿より令和〇年〇月〇日付で受領いたしました、下記建物の賃貸借契約について更新をしない旨のご通知につきまして、以下のとおり回答いたします。 【物件の表示】 1 当方は、上記建物において〇〇を営んでおり、現在も同建物を使用する必要があります。ご通知に記載された事情のみをもって、借地借家法28条所定の正当事由が具備されているとは考えておりません。 2 したがいまして、当方は、現時点において上記建物の明渡しに同意するものではありません。 3 もっとも、貴殿のご事情についてはお伺いする用意がございますので、建替え計画の具体的な内容等をお示しいただいたうえで、協議の機会を設けていただきますようお願い申し上げます。なお、協議に応じることは、明渡しに合意する趣旨ではないことを申し添えます。 以上 令和〇年〇月〇日 |
1では、正当事由について「具備されているとは考えておりません」と、自分の見解として述べる表現にとどめています。貸主の主張を強い言葉で全面的に否定すると、交渉の余地がないと受け止められ、貸主に明渡請求訴訟を決断させるきっかけになることもあるためです。どの程度の強さで反論するかは、貸主の必要性の具体性や交渉の経緯を踏まえて調整する必要があります。
合意書で立ち退き料が決まっているのに支払われない場合は、合意の日付、金額、支払期限を特定し、期限を定めて支払いを求めます。
催告書 当方と貴殿は、令和〇年〇月〇日付「〇〇合意書」(以下「本合意書」といいます)第〇条において、下記建物の明渡しに関し、貴殿が当方に対し立ち退き料として金〇〇〇万円を令和〇年〇月〇日限り支払う旨合意しました。 【物件の表示】 しかしながら、上記支払期限を経過した現在に至るまで、上記立ち退き料のお支払いがありません。 【振込先】 金融機関名 〇〇銀行 以上 令和〇年〇月〇日 |
合意書の内容によっては、立ち退き料の支払いと明渡しが引換え(同時履行)とされていることがあります。その場合は、自分の側の明渡しの準備状況も含めて書き方を検討する必要があります。なお、この文例のように、支払いがない場合に法的手続きを検討する旨を伝えることは、正当な権利行使の範囲内であり、問題ありません。
立ち退き料に関する書面で最も避けたいのは、金額次第で退去すると読める一文です。たとえば、「提示された金額では移転費用に足りないため、あと〇〇万円上乗せしていただければ退去いたします。」という表現は使わないのが無難です。
一見すると、立ち退き料の増額を求める交渉として自然な文面に見えます。しかし、この一文によって、あなたが明渡し自体を承諾していると評価される余地が生まれます。その結果、本来は「そもそも出ていく必要があるのか」という正当事由から争えたはずの交渉が、「いくらで出ていくか」という金額だけの話にすり替わってしまいます。
一度このような書面を送ると、後から「営業を続ける必要があるので明け渡せない」と主張しても、自分の書面と矛盾することになります。この点は「相手方に有利な証拠を与えてしまうこともある」で詳しく解説します。
立ち退き料の請求を内容証明郵便で送る主なメリットは「証拠を残せること」「意思を明確に伝えられること」「相手に心理的な効果を与えられること」の3点です。ただし、いずれも文面が適切であることが前提です。
いつ、どのような主張をしたのかを、後の調停や訴訟で客観的に示すことができます。
口頭や電話でのやり取りは、「言った・言わない」の争いになりがちです。たとえば、管理会社の担当者から「立ち退き料はきちんと出すと大家さんが言っている」と聞いていても、書面がなければ後で否定されるおそれがあります。内容証明郵便でその発言内容を確認する書面を送っておけば、口約束を記録として残すきっかけになります。
合意済みの立ち退き料の支払いを催告した場合は、時効の完成猶予の効果も生じ、催告の時から6カ月を経過するまでは時効が完成しません(民法150条1項)。ただし、効果が続くのはこの6カ月間だけです。その間に訴訟の提起などの手続きを取らなければ、時効の完成を防げません。
また、催告によって時効の完成が猶予されている間に再度催告しても、完成猶予の効果は生じません(同条2項)。「とりあえずもう一通送っておけば時効は延びる」と考えるのは誤りです。時効が迫っている場合は、早めに法的手続きを検討する必要があります。
交渉の条件と自分の立場を、誤解の余地がない形で貸主に伝えられます。
管理会社を通じて交渉している場合、あなたの意向が貸主本人に正確に伝わっていないことは少なくありません。立ち退きに応じる気がないのに、「借主は立ち退きに前向きです」と伝わっているケースも珍しくありません。貸主本人宛てに書面を送ることで、こうした情報のずれを防ぐことができます。
内容証明郵便が届くと、貸主は法的手続きも視野に入れていると受け止めやすく、交渉に真剣に向き合うきっかけになり得ます。
同じ内容でも、あなた個人の名義で送るか弁護士名義で送るかによって、相手の受け止め方が大きく変わる場合があります。弁護士名義で書面が届けば、貸主側も弁護士を立てて、法的な論点に沿った協議の場が整うことが多くなります。
ただし、強硬な文面は、貸主に明渡請求訴訟の提起を決断させるきっかけになることもあります。相手に交渉の席についてもらうことが目的なのか、訴訟も辞さない姿勢を示すことが目的なのかによって、書くべき内容は変わります。
立ち退き料の請求を内容証明郵便で送る主なデメリットは「撤回できないこと」「自分に不利な証拠になり得ること」「表現次第で刑事責任を問われる可能性があること」の3点です。いずれも、メリットと表裏一体の関係にあります。
相手に到達した意思表示は、原則として一方的に撤回することはできません。後から訂正の書面を送っても、最初の書面は証拠として残り続けます。
訴訟では、あなたの主張が一貫しているかどうかも見られます。最初の書面と後の主張が矛盾していれば、それ自体があなたの主張の信用性を下げる材料になりかねません。
典型例は、貸主の通知に腹を立て、感情的に「こんな所すぐに出ていく」と書いて送ってしまうケースです。その後、「この場所でなければ営業を続けられない」と使用の必要性を主張しても、最初の書面と整合しなくなります。内容証明郵便は、送る前に一晩おいて読み直すくらいの慎重さが必要です。
立ち退き料の金額を示したり、「支払われれば退去する」と書いたりすると、その書面は貸主側に有利な証拠として使われるおそれがあります。
「正当事由は貸主と自分の必要性の比較で判断される」で解説したとおり、正当事由の判断では、あなたがその場所を使い続ける必要性が貸主側の必要性と比較されます。金額次第で退去すると書面で示せば、あなたの使用の必要性はお金で代替できる程度のものだと評価されやすくなります。
また、自分から示した金額は、交渉の上限として扱われやすくなります。本来であれば、移転費用、営業補償、借家権価格などを積み上げて、より高い額を主張できた可能性がある事案でも、自分で天井を作ってしまうことになりかねません。
ここで知っておきたいのが、前述の最判昭和46年11月25日(「正当事由は貸主と自分の必要性の比較で判断される」で紹介した判例)のもう一つの判示です。この判決は、立ち退き料について、「明渡によって借家人の被るべき損失のすべてを補償するに足りるものでなければならない理由はない」とも述べています。
裁判所は、あなたが被る損失を自動的にすべて立ち退き料に反映してくれるわけではありません。移転費用や休業による損失、得意先を失う損失などは、あなた自身が根拠を示して主張しなければ、金額に反映されにくいのが実態です。そうした主張を積み上げる前に、自分から低い金額を書面で示してしまうと、その金額が交渉の基準になり、本来主張できたはずの損失が最初から切り捨てられてしまいかねません。全額が補償されるとは限らないからこそ、金額を示すのは、損失の根拠を整理してからにすべきです。
通常の立ち退き料の請求であれば、刑事上の問題になることはまずありません。ただし、正当な請求であっても、表現を誤ると犯罪が成立し得る点には注意が必要です。
問題になり得る主な犯罪と法定刑は、次のとおりです。
権利行使と恐喝罪の関係について、最判昭和30年10月14日(刑集9巻11号2173頁)は、権利を実行することは、その範囲内であり、かつ方法が社会通念上一般に忍容すべき程度を超えない限り違法の問題は生じないとしています。一方で、その範囲や程度を逸脱すれば恐喝罪が成立することがあるとしました。この判例は債権の取立てに関する事案ですが、権利行使一般についての判断枠組みとして、立ち退き料の請求を考える際にも参考になります。
たとえば、次のような表現は避けてください。
こうした文言は刑事告訴の材料や交渉上の材料として使われ、あなたの立場を大きく悪化させることになります。感情が高ぶっているときほど、送る前に第三者の目で文面を確認してもらうことが大切です。
合意書で金額と支払期限が明確に決まっている立ち退き料を単純に催告する場合などでは、自分で内容証明を送っても問題が生じにくいケースもあるでしょう。
一方、貸主から更新拒絶や解約申入れの通知が届いている場合や、これから立ち退き料の額を交渉する場合は、書面の一文が結果を左右することがあります。内容に迷ったら、取り返しがつかなくなる前に弁護士に相談すると安心です。
弁護士に確認してもらえば、明渡しの承諾と読まれるおそれのある表現や、刑事上問題となる表現を送付前に取り除けます。
弁護士は、文面の確認だけでなく、あなたに有利な事情がないかを先に検討します。たとえば、貸主の更新拒絶通知が期間満了の1年前から6カ月前までの期間内に届いているか(借地借家法26条1項)、期間満了後も使用を続けた場合に貸主が遅滞なく異議を述べているか(同条2項)といった点です。こうした事情が見つかれば、交渉の前提そのものが変わり、立ち退き料を請求しやすくなるケースもあります。場合によっては、あえて内容証明郵便を送らず、相手の出方を見る戦略を取ることもあります。
なお、行政書士は、紛争性のない書類の作成を業務としています。一方、相手方と争いがある事案の書面作成や代理交渉は弁護士の業務です(弁護士法72条)。書面の作成から貸主との交渉、調停や訴訟まで一貫して任せられる点が、弁護士に依頼するメリットです。
立ち退き料は、根拠を積み上げて主張できるかどうかで結果が大きく変わります。立ち退き交渉の経験豊富な弁護士に依頼することで、増額につながる可能性があります。
立ち退き料の主な構成要素は、次のとおりです。
実務では、算定の参考として「公共用地の取得に伴う損失補償基準」の考え方や、不動産鑑定を用いることがあります。ただし、この基準は国や自治体が公共事業のために用地を取得する場面のものであり、民間の立ち退き交渉に直接適用されるものではありません。また、借家権価格には公的な割合の基準がなく、事案ごとに評価されます。
貸主からの提示額が妥当かどうかは、正当事由の強弱と合わせて見なければ判断できません。貸主側の必要性が弱ければ、提示額が低いこと以前に、そもそも明渡しに応じる必要があるのかが問題になります。この見極めこそ、実務経験のある弁護士に任せたい部分です。
弁護士に依頼すれば、交渉の窓口を弁護士に一本化できます。貸主、管理会社、貸主側の弁護士から直接連絡を受けて対応する必要がなくなります。
事業主の方であれば、交渉中も本業に集中でき、移転先探しと交渉をどう並行させるかについても相談できます。個人の方であれば、高齢の家族がいる場合の転居の負担なども踏まえて進め方を検討でき、貸主との感情的な対立も避けやすくなります。
特に、貸主側がすでに弁護士を立てている場合は、法的知識の差がそのまま交渉力の差になりやすいため、こちらも早めに弁護士をつけることを検討してください。
メールでも、相手に到達すれば意思表示としての効力はあります。ただし、証拠としての力は内容証明郵便に劣ります。
意思表示の方式は原則として自由であり、メールで立ち退き料を求めることも可能です。もっとも、相手が「受け取っていない」「そのような内容ではなかった」と争った場合、送信日時や内容、到達を証明する力は内容証明郵便に及びません。
日常的な連絡はメールで行い、更新拒絶への異議、合意内容の確認、支払いの催告といった重要な意思表示は内容証明郵便で行う、という使い分けが重要です。
なお、メールであっても「明渡しを承諾した」と読める文面は、内容証明郵便と同じく証拠になります。気軽に送れる分、メールの文面にも注意してください。
民事調停(簡易裁判所)、ADR(裁判外紛争解決手続)、弁護士による代理交渉などが考えられます。
注意したいのは、合意済みの場合を除き、あなたの側から「立ち退き料を支払え」と訴訟を起こすことは原則として難しいという点です。立ち退き料は独立した請求権ではなく、正当事由の判断の中で考慮されるものだからです。多くの場合は、貸主側が明渡請求訴訟を提起し、あなたが応訴する中で、正当事由と立ち退き料が争われることになります。
また、契約期間の満了後もあなたが建物の使用を続け、貸主が遅滞なく異議を述べなかった場合は、契約は法定更新されます(借地借家法26条2項)。交渉が進まないからといって、焦って退去したり、不利な条件で合意したりしないことも選択肢の一つです。
一方、合意済みの立ち退き料が支払われない場合は、支払督促、少額訴訟(60万円以下の金銭の支払請求。民事訴訟法368条1項)、通常訴訟などを検討します。
貸主の同意を得て設置した造作であれば、契約終了時に時価で買い取るよう請求できる場合があります。ただし、契約書で排除されていることが多いため、まず契約内容を確認する必要があります。
借地借家法33条は、貸主の同意を得て建物に付加した畳、建具その他の造作について、賃貸借が期間満了または解約申入れによって終了するときに、貸主に時価での買取りを請求できると定めています(造作買取請求権)。店舗で内装や設備に費用をかけている場合は、請求を検討してもよいでしょう。
もっとも、この規定は強行規定ではなく、特約で排除することができます。実際の場面では、「造作買取請求権を放棄する」旨の特約が入っている契約が多く見られます。契約書を確認し、特約がある場合は、内装工事費などを立ち退き料の算定の中でどう主張するかを検討することになります。
自分で作成・送付すること自体は可能です。ただし、送れることと、送ってよい内容かどうかは別の問題です。
「6-2. 相手方に有利な証拠を与えてしまうこともある」で解説したとおり、一文の書き方によって交渉の争点が変わってしまうことがあります。貸主側に弁護士がついている場合や、事業用物件で営業補償が問題になる場合は、送付前に弁護士に文面を確認してもらうことが、適正な補償を受けるために重要です。
また、弁護士名義で送ることで、交渉の進み方が変わる場合もあります(詳しくは「相手に心理的なプレッシャーを与えられる」で解説しています)。
立ち退き料の請求で内容証明郵便を使えば、自分の主張を証拠として残し、貸主に意思を明確に伝えることができます。一方で、内容証明郵便には強制力がなく、一度送った書面は撤回できません。
特に注意したいのは、金額を示したり、「上乗せしてくれれば退去する」と書いたりすることです。こうした書面は明渡しの承諾と受け取られ、「出ていくかどうか」ではなく「いくらで出ていくか」に争点がすり替わるおそれがあります。立ち退き料は法律上当然に認められる請求権ではなく、正当事由の判断の中で考慮されるものです。だからこそ、最初の書面で自分の立場をどう示すかが、その後の交渉を大きく左右します。
「VSG弁護士法人」では、貸主からの更新拒絶通知や解約申入れへの対応、内容証明郵便の作成・送付、立ち退き料の算定と増額交渉、調停・訴訟まで、立ち退きに関するさまざまな問題に対応しています。
「貸主から更新しないという通知が届いた」「提示された立ち退き料が妥当か分からない」「自分で内容証明郵便を送ろうと思っているが、この文面で大丈夫か不安」。このようなお悩みがある方は、書面を送る前、そして届いた通知に返事をする前に、まずは私たちの初回相談をご活用ください。
契約内容やこれまでの経緯を丁寧に確認し、あなたの状況に合った進め方を弁護士がご提案します。