使用貸借は、土地や建物などを無償で借りるときに利用される方法です。
無償で使用しながら建物の居住権を主張できますが、賃貸借契約と比べると借主を保護するための法的効力は弱くなっています。
一方で、貸主の都合で立ち退きを要求されたときは、立ち退きの拒否や立ち退き料を請求できるケースもあるでしょう。
貸主に立ち退き料を請求する場合、相場は賃料の6カ月分ほどです。
立ち退き料は交渉によって決まりますが、交渉には専門的な知見が必要になるため、弁護士に依頼するとよいでしょう。
ここでは、使用貸借で借りている土地や建物からの立ち退きを要求された場合に、立ち退き料を請求できるケースや相場などを解説します。
目次
使用貸借とは、借主が無償で貸主から財産を借りる行為です。
借りる対象は、土地や建物などの不動産だけでなく、車や家財などの動産も含まれます。
使用貸借は借主と貸主の合意によって成立し、契約終了時は貸主に借りた財産を返還しなければなりません。
修繕費などの管理費用や、返還するときに借りた状態に戻すための原状回復費用は、原則として借主が負担します。
一般的には、家族や友人など身近な方との信頼関係に基づいて財産を貸し借りする場合に利用されます。
使用貸借と賃貸借の違いは、賃料が発生するかどうかです。
無償で借りている場合は使用貸借、有償で借りている場合は賃貸借となります。
有償とは、土地や建物を使用する対価として賃料などが設定されているケースをいいます。
土地の管理費用など、使用するために必要な費用を払っているだけでは有償の賃貸借とはなりません。
賃貸借は契約書などで詳細な条件を定めるのが一般的です。
一方で、使用貸借は口頭の約束のみで行うケースが珍しくありません。
賃貸借は借地借家法で借主の権利が保護されますが、使用貸借は借地借家法が適用されないため、権利の保護は賃貸借と比べて弱くなります。
使用貸借が終了するのは、契約で定められた使用期間が終了したときです。
使用期間が設定されていない場合、借主が使用や収益の目的を達成したときに使用貸借は終了します。
借主が死亡した場合、賃貸借による借主の地位は相続人に承継されますが、使用貸借による借主の地位は原則として相続されません。
一方で、貸主が死亡したケースでは、賃貸借と使用貸借の両方で相続人が貸主の地位を承継します。
ただし、契約に「貸主の死亡と同時に契約は終了する」と定めがあるときは、貸主の死亡と同時に契約が終了します。
使用貸借は、原則として貸主からの立ち退き要求を拒否できません。
一方で、使用期間終了前や使用の目的が未達成のときに立ち退きを要求するのは権利の濫用にあたるため、拒否できる可能性があります。
貸主の立ち退き要求が権利の濫用にあたらないためには、立ち退きを要求するための正当事由がなければなりません。
正当事由は、単に貸主の都合だけでは認められず、契約を終了させるのが妥当であると判断される理由が必要になります。
たとえば、借主の契約違反や建物が老朽化して倒壊の恐れがある場合などです。
使用貸借で賃貸物件に住んでいるときに立ち退きを命じられた場合、原則として貸主に従わなければなりません。
しかし必ず従う必要はなく、以下のように立ち退き料を請求できるケースもあります。
ここからは、請求できるケースについて見ていきましょう。
使用貸借契約で使用期間を決めたにも関わらず、期間途中で立ち退きを命じられた場合は立ち退きをする必要はありません。
使用貸借契約で定めた使用期間がかなり残っている時点で立ち退き要求を受けたときには、立ち退き料を要求できる可能性があります。
たとえば、使用貸借契約で使用期間を5年と定めたにも関わらず、使用貸借開始1年で立ち退きを命じられた場合です。
使用貸借契約で設定した使用目的の達成前に立ち退きを命じられた場合にも、立ち退き料を請求できる可能性があります。
たとえば自宅を建築するために、使用貸借で一時的に別の建物へ居住する場合があります。
自宅が建築中で借主がその建物をまだ自宅として使用し続けている限り、使用目的が達成したとは言えません。
このようなケースでは使用貸借でも、立ち退き料を受け取れるケースに該当する可能性があります。
ただし借主の使用目的が完了していないときでも、民法上、使用をするのに足りる期間が経過すると使用貸借の終了が認められます。
場合によっては、無償で建物の返還を求められるかもしれません。
以下のケースでは、借主が立ち退き料を請求できない可能性が高くなります。
契約違反がある場合
転貸などの違反行為があるときは契約が解除されるため、立ち退き料は請求できません。
使用期間が終了した場合
貸主の合意がなければ契約期間を更新できないため、立ち退き料なしに契約は終了します。
使用の目的や収益を達成した場合
使用の目的や収益を達成している場合、立ち退き料なしに返還しなければならない可能性が高いです。
貸主に強い正当事由がある場合
経済的な事情で物件を住居として使用しなければならないなど、貸主に強い正当事由があるときは立ち退き料が認められない可能性があります。
立ち退き料の計算には、明確な基準はありません。
一般的には家賃の6カ月分ほどが目安ですが、貸主と借主の双方の事情が総合的に考慮されて立ち退き料が決まります。
たとえば、自宅を建築するために別の建物に使用貸借で一時的に居住しているケースを考えてみましょう。
一時的に居住している建物からの立ち退き請求を受けたが、自宅の建築までにあと4カ月かかる場合、借主は次のような損害を受けます。
借主が受ける損害に加え、借主に引っ越しが困難な要介護者がいるなどの事情があると、立ち退き料は増える可能性があります。
使用貸借の立ち退きはトラブルが発生しやすいため、以下のようなトラブル回避方法を知っておきましょう。
トラブルを避ける方法について、詳しく解説します。
使用貸借をするときには、必ず使用貸借契約書を作成しておきましょう。
使用貸借は借主の権利が弱く、貸主の権利が強いため、契約書がない場合は貸主の一方的な都合で解除される状況が起こり得ます。
使用貸借契約書を作成するときは、使用貸借期間や使用貸借目的を明記しておかなければなりません。
期間や目的を明記しておけば、立ち退きを命じられたときに立ち退きを拒否できる、あるいは立ち退き料を要求できる可能性があります。
契約書なしで使用貸借を長年続けていたとしても、途中から使用貸借契約書を作成できます。
使用貸借は貸主と借主だけの関係で終わらず、関係者を巻き込むケースが多いため家族や親族の理解を得ておかなければなりません。
使用貸借が長年続くと相続が発生したり、借主と貸主との関係が変わるケースがあります。
あらかじめ家族や親族の理解を得ておけば話し合いを進めやすいため、トラブルの発生を防止できるでしょう。
使用貸借契約を締結していない場合は、特に家族や親族の理解を得ているかが重要です。
事前に設定した決まりがないと、関係者の感情次第で物事が進んでしまうケースもあります。
利用方法については、あらかじめ話し合っておきましょう。
使用貸借をしていては悪いと思い、賃料の代わりに固定資産税を払う借主がいます。
払う行為自体は問題ありませんが、貸主に代わって固定資産税を納税しても原則として賃貸借にはならず、使用貸借として判断されます。
裁判所の過去の判例によれば、固定資産税を肩代わりしても、特段の事情がない限りは使用貸借と判断するとされているためです。
貸主から使用貸借を理由に立ち退きを命じられた場合に、借主は「固定資産税を納税しているから立ち退かない」とは言えません。
立ち退き要請を断るには、賃料を払って借地借家法の適用を受ける必要があります。
使用貸借契約を締結していない人の中には、使用貸借している土地に倉庫を建築してしまう人もいます。
このようなケースで貸主から立ち退きを命じられた場合、倉庫は撤去して返還しなければなりません。
借主が借りた土地を返却するときは、借りたときの状態に戻す原状回復義務があるためです。
立ち退きを命じられたときに、貸主が「倉庫を残してもいい」と言った場合には、そのまま立ち退きをしても構いません。
使用貸借でトラブルになった場合、弁護士に相談して解決するのがもっとも効果的です。
使用貸借は契約書を作成せず開始しているケースや、家族や親族を巻き込んでトラブルになるケースが多くあります。
貸主・借主ともに感情的になりやすく、根拠に乏しい話し合いになるケースが多いためなかなか解決できません。
使用貸借と立ち退きに関するよくある質問は、以下の通りです。
それぞれの質問に回答します。
法律上、金銭や物品の譲渡だけでなく、無償で経済的な利益を与える行為も贈与とみなされる場合があります。
贈与とみなされた場合、経済的な利益に一定割合を乗じた額が贈与税として課税されます。
通常、親子間の使用貸借が贈与とみなされるケースはほとんどありません。
たとえば親の土地に子どもが建物を建てる場合などは、子どもが土地の使用について経済的利益を受けているようにみえます。
ただし、このような土地の使用貸借が贈与とみなされる可能性は低いでしょう。
使用貸借は終了後に貸主へ返還するのが前提であり、借地借家法の適用もない点で権利としての価値は低いと判断されるためです。
国税庁の取り扱いでも、使用貸借により土地を使用する権利の価額はゼロとして計算されます。
親子間の使用貸借の場合、一般的には親が所有する財産を子どもに無償で貸しているケースが多いでしょう。
この場合、相続や返還を求めるときにトラブルになる事例があります。
たとえば父親の土地に子どもである兄弟2人のうち1人が自宅を建てている事例で考えてみましょう。
父親が死亡すると、土地は原則として兄弟2人と母親が相続します。
1人が土地を使用している場合、他の相続人は土地を使用できないため、遺産分割や立ち退きなどを巡りトラブルになる可能性があります。
父親が老後の生活費のために土地を売却したいケースでも、子どもの自宅があると売却ができません。
自宅を建てた子どもも長年生活していると転居が難しいため、土地の返還を巡ってトラブルになるケースがあるでしょう。
居住権とは、借りた物件に住み続けるための権利です。
使用貸借や賃貸借に基づく契約により、借主は居住権を主張できます。
一方で、使用貸借は賃貸借と比べると次のように権利の保護が弱くなります。
使用の目的や収益は、達成した場合だけでなく、達成するのに相当な期間が経過した場合でも要件を満たす可能性があるため注意しましょう。
たとえば「仕事を見つけるまで」の条件で使用貸借により空き家を借りているが、仕事が決まらないまま住み続けている場合です。
仕事が見つからないだけでなく、仕事を探す意欲もないまま長年経過した場合は使用貸借の終了により居住権を失うケースがあります。
使用貸借契約を締結して建物を使用している期間は、居住権を主張できます。
貸主から立ち退き要求をされた場合、立ち退きの拒否や立ち退き料を請求できるケースもあります。
ただし、貸主に強い正当事由がある場合や、借主に契約違反がある場合などは立ち退き料をもらえないケースもあるため注意しましょう。
貸主との立ち退き交渉は、お互いの生活が関わっており、冷静な話し合いができないケースが多いかもしれません。
立ち退き料を求める場合は、金額を算定するときの根拠を説明する必要があるため、交渉は弁護士に依頼するのがおすすめです。
弁護士に依頼すると、裁判例など客観的な根拠に基づいて立ち退き料を主張できるため、交渉が円滑に進む可能性が高くなるでしょう。