地主が土地の賃借人に退去を求める場合、地主の一方的な都合だけで賃借人を退去させられず、正当事由が必要です。
正当事由が認められるには、退去を求める理由だけでなく、賃借人の生活状況への配慮や立ち退き料の提示をしなければなりません。
立ち退き料の金額は、地主と賃借人の双方の状況から総合的に判断されます。
賃借人の立場で退去の通知を受けた場合、まずは地主に根拠となる正当事由を確認しましょう。
内容によっては、そもそも退去の要求自体が認められないケースもあります。
また、立ち退き料を受け取る場合、受け取った金額に応じて譲渡所得税がかかるので注意しましょう。
ここでは、借地の立ち退き料の相場や退去の正当事由などについて解説します。
目次
借地権とは、建物を建てるために地代を支払って土地を利用する権利です。
立ち退き料とは、賃借人が土地が利用できなくなる損害を補填するために地主から支払う金銭をいいます。
借地権は、地上権と貸借権にわけられます。
地上権
地主の承諾を得ずに第三者へ譲渡や賃貸できる土地利用権です。
賃借権
地主の承諾を得た上で第三者へ譲渡や賃貸できる土地利用権です。
借地に建物を建てると、賃借人を保護するために借地借家法が適用されます。
借地借家法は、建物を建てる以外の目的で土地を利用している場合は適用されません。
借地権が適用される例 | 借地権が適用されない例 |
---|---|
・アパートやマンション ・自らが居住する一戸建て ・営業店舗 |
・更地 ・青空駐車場 ・資材置き場 |
一般的に、借地権付きの土地において立ち退き請求が行われる場合、地主から借地人へ立ち退き料が支払われるケースがほとんどです。
しかし、立ち退き料の支払義務や具体的な金額を規定する法律は定められていません。
立ち退き料の相場はなく、金額は地主と賃借人の事情が総合的に考慮されて決まります。。
借地権が付いている土地の立ち退き料の内訳は、以下の通りです。
それぞれの支払われる理由や金額について詳しく解説します。
借地権には財産的価値があるため、立ち退き料には借地権価格も含まれます。
借地権価格は、更地価格に借地権割合を乗じて計算されます。
借地権割合とは、土地の更地価格に対する借地権の評価額の割合です。
たとえば、更地価格が2,000万円で借地権割合が7割の場合、借地権価格は1,400万円と評価されます。
借地権割合は、国税庁のHPで確認できます。
借地権価格に「賃借人が土地を利用する必要性」と「地主の退去を求める必要性」がそれぞれ考慮されます。
たとえば賃借人に要介護者がいる場合、転居が困難になるため立ち退き料は多くなります。
一方、都市開発などで退去を求める場合は地主側の必要性が高いと判断されるでしょう。
借地から退去する場合、新居を契約するための費用や業者への引っ越し費用などがかかります。
そのため、以下の費用などが立ち退き料の算定に含まれます。
引っ越し費用は、業者に見積を依頼し、暫定的な引っ越し費用から算定するのが一般的です。
運搬や搬入に手間がかかる大型の家財がある場合、追加費用がかかるため高額となるケースもあります。
引っ越し先が遠い場合や、業者が繁忙期になる時期も同様に引っ越し費用が高額になる可能性があるでしょう。
営業店舗を経営している場合、退去をすると休業期間の機会損失や移転先の改装費用なども発生します。
営業補償としては、たとえば以下の費用などが立ち退き料へ含まれます。
大規模な店舗や退去によって得意先を失う可能性が高い場合、営業補償も高額になるケースがあります。
具体的な金額はケースバイケースですが、目安として賃料10万円前後なら1,000万円〜1,500万円ほどになります。
退去前と同じエリアで新居を探した場合でも、家賃相場が上がっており以前よりも賃料が高額となるケースもあるでしょう。
この場合、退去による金銭的な負担であるため家賃差額を立ち退き料へ含める必要があります。
家賃差額は、新居との家賃差額に補償期間を乗じて計算します。
補償期間は1年~3年ほどになるのが一般的です。
たとえば、新居との家賃差額が月5万円、補償期間が2年の場合、120万円となります。
補償期間の長さは「賃借人が土地を利用する必要性」と「地主の退去を求める必要性」がそれぞれ考慮されます。
なお、退去前と同程度の物件が前提であり、家賃差額が物件の広さなどによる場合の差額補填は認められません。
賃借人が退去するとき、建物を地主に買い取ってもらう権利を建物買取請求権といいます。
もし土地を更地にして返還する場合、建物の解体や土地の整地にかかる費用を負担しなければなりません。
建物買取請求権は、賃借人保護のもとに地主へ建物の買取を求める権利であり、地主は原則として買取を拒否できません。
建物買取請求権を行使するには、次の条件を満たす必要があります。
借地権の契約期間中は建物買取請求権を行使できません。
また、定期借地権は更地にして返還するのが前提であるため注意しましょう。
買取価格は建物の時価であり、建物の固定資産評価額に立地条件などの利益を加算して算定されます。
正当事由とは、地主が賃借人に土地からの退去を求める理由です。
正当事由には、たとえば次の事例があります。
最終的に正当事由があると認められるかどうかは、地主と賃借人の双方の事情から総合的に判断されます。
正当事由のない立ち退き要求は、賃借人が拒否する限り認められません。
ただし、正当事由として弱い場合でも十分な立ち退き料の支払いがあれば認められる可能性があります。
地主の都合で立ち退きを求める場合、通常は賃貸契約の契約期間満了の6カ月前~1年前に通知し、交渉を行います。
借地権付きの土地における立ち退き料の相場には、明確な基準はありません。
一般的には、前述の立ち退き料内訳から立ち退き要求が行われる土地の条件や契約状況などに応じて、以下のように妥当な金額を計算します。
上記の計算方法をそれぞれ見ていきましょう。
土地の上に建物を建築して使用できる借地権は、1つの財産です。
そのため、地主が借地人に立ち退きを請求するためには、財産である借地権を買い取る必要があります。
借地権の価格は、以下のようなさまざまな要素を総合的に考慮したうえで算定します。
借地権付きの土地で立ち退きが実際に行われる場合、借地人は土地から退去し、別の場所へ移転する必要があります。
よって、借地人が移転するためにかかる費用も、立ち退き料として地主が支払う方が一般的といえます。
移転するための費用の内訳は、以下の通りです。
借地人が借地権付きの土地で事業を行っていた場合は、立ち退き料の算出時に営業補償についても考慮する必要があります。
借地人が立ち退きに伴い事業を一時休止しなければならない場合は、休止期間に得られたであろう収益を地主が補償した方が良いとも考えられます。
また、移転先となる場所で改めて事業を再開するために必要な内装費なども、営業補償として立ち退き料に反映させる費用です。
借地権付きの土地で立ち退き請求に応じる場合に、十分な金額の立ち退き料を受け取るためには交渉が重要です。
交渉を成功させるためには、以下のコツを押さえましょう。
ここからは、4つのコツについて詳しく解説していきます。
借地人が借地の使用をどの程度必要としているかどうかは、立ち退き料の金額を決めるうえでの判断材料の1つです。
地主からの立ち退き要求に応じる場合は、いかに借地を必要としているか、意思を明確に伝えましょう。
借地で事業を行っている人であれば、立ち退いて場所を移転したためにどれだけの損失が生じるか、具体的な数値を提示して伝えましょう。
実際に借地を必要としている意思をしっかりと伝え、立ち退き料の金額が高くなったケースは多くあります。
立ち退き要求を行う地主の中には、できるだけ早く立ち退いてもらいたいと望んでいるケースもあります。
立ち退きが決まった場合、できる限り早めの立ち退きを条件に交渉を進めるのも一つの方法です。
早めに立ち退いてもらえるなら、立ち退き料の支払いが多少増えても構わない地主は少なくありません。
ただし、必ずしも早めの立ち退きによって高額な立ち退き料を受け取れるとは限らないため、状況に応じて交渉の仕方を検討しましょう。
借地権が付いている土地において地主から立ち退きを請求する場合、前述の建物買取請求権を行使できます。
一般的な立ち退き料の内訳には、借地上の建物を買い取ってもらうための金額は含まれていないケースが大半です。
借地上の建物の買取分も受け取るためには、建物買取請求権を行使しましょう。
立ち退き料の交渉を成功させるためには、豊富な経験を持つ弁護士へ相談すると良いでしょう。
直接地主とやり取りを行って立ち退き料交渉を進められます。
しかし、お互いの主張がぶつかり合い、どうしても折り合いがつかないケースも珍しくありません。
また、立ち退き料に関する十分な知識を持っていなければ、本来なら受け取れるはずの金額をもらえずに、立ち退く事態も考えられます。
弁護士に相談すると、借地人に代わって地主との交渉を進めてもらい、交渉のためにかける手間や労力も軽くなります。
借地権付きの土地において受け取った立ち退き料は、譲渡所得税が課税されます。
譲渡所得税とは不動産を譲渡したときの利益に課される税金で、主に所得税、住民税、復興特別税の合算です。
譲渡所得税の額を計算するには、以下の計算式で基準となる譲渡所得を求める必要があります。
課税される譲渡所得税の額は、譲渡所得に税率を掛けて求めましょう。
このとき、借地権を保有していた期間に応じて以下のように税率が変わります。
借地権の保有期間 | 所得税の税率 | 住民税の税率 |
---|---|---|
5年超 | 15% | 5% |
5年以内 | 30% | 9% |
なお、税金の負担を軽くする特例を受けられるケースもあるため、正確な税額を知るためには税理士に相談しましょう。
借地の立ち退きに関するよくある質問は、以下の通りです。
それぞれの質問について解説します。
借地に建物を建てて使用している場合は借地借家法の適用があるため、地主側に正当事由がない場合は立ち退き拒否できます。
立ち退きを拒否した場合、地主との話し合いになりますが、双方が納得できない場合は調停や裁判で判断を求めます。
地主側の立ち退きを求める理由が強い場合、賃借人からも生活上の事由などで立ち退きが困難である旨を説明する必要があるでしょう。
借地権は賃借人の保護が原則ですが、立ち退きの拒否はあくまで地主と賃借人の双方の事情が考慮されます。
必ずしも賃借人の保護のみが優先されるわけではない点に注意しましょう。
立ち退き料の支払いは法律上の義務ではなく、あくまで地主と賃借人の合意により決まります。
ただし、通常は住み慣れた土地を離れるときは賃借人に相当の負担がかかります。
実際のところ、立ち退き料の支払いなしに賃借人から退去の合意を得るのは現実的ではないでしょう。
立ち退きを求めるのに正当事由がある場合も同様で、賃借人に契約義務違反などがない限り、立ち退き料は必要となります。
もし賃貸借契約書で「立ち退き料の請求を認めない」と定めていても、法律上賃借人に不利な契約は無効になるため、立ち退き料は必要です(借地借家法30条)。
退去の原因が賃借人にあるケースでは原則として立ち退き料は不要です。
たとえば次のケースが該当します。
他にも、定期賃貸借契約の場合は契約期間満了後に更地にして返還する前提であるため立ち退き料が認められません。
一時的な使用の賃貸借契約である場合も同様です。
借地権で使用している土地から退去する場合、引っ越し先を見つける手間や発生する費用など、賃借人には大きな負担がかかります。
できれば立ち退きを拒否したい、もしくは、できるだけ生活環境を変えずに新居での生活をスタートしたい人がほとんどでしょう。
地主から退去を求める通知が届いた場合、まず退去を求める理由が正当な事由に基づくかを確認しましょう。
特に立ち退きを拒否したい場合、賃借人側からも土地を利用し続ける必要性について主張しなければなりません。
正当事由として認められるかわからない場合や、地主との交渉に不安がある場合、弁護士に相談するのがおすすめです。
立ち退き交渉は専門的な知見が必要になるケースが多く、弁護士は依頼人の利益を最大化させるために交渉してくれます。
できるだけ早く弁護士に相談し、交渉を円滑に進めていきましょう。