この記事でわかること
- 普通養子縁組と特別養子縁組の違い
- 養子は実親の相続人になれるのかどうか
- 相続対策として養子縁組するメリット
養子縁組は2種類
「養子縁組」とは、血縁関係がない人同士で法律上の親子関係を生じさせる行為をいい、養子縁組をすることで養子は養親の相続人になることができます。
養子縁組には、「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2種類があります。
養子縁組は、元々は一種類の養子縁組制度でしたが、昭和62年に「特別養子縁組」の制度が新たに創設されました。
その結果、従来からの養子縁組を「特別養子縁組」と区別するために「普通養子縁組」と呼びます。
普通養子縁組
普通養子縁組は、養子となる人が実の親との親子関係を維持したまま養親の養子になることができる制度です。
養子になっても実親との親子関係は継続しているため、実親の財産を相続できます。
法定相続分やお互いの扶養義務も養子縁組前と変わらず、実親との親子関係に影響はありません。
普通養子縁組の要件
普通養子縁組が認められるには、多くの要件があります。
まず、養子は養親より年下でなければなりません。
また、養親は20歳以上であるか、結婚歴がなければなりません。
さらに、養子となる人がたとえ年下でも、叔父や叔母などの尊属では認められません。
そのうえで、養子となる人、養親となる人がそれぞれ、自信の意思で養子や養親になる必要があります。
なお、結婚している人が未成年者を養子とする場合は、夫婦ともに養親にならなければなりません。
また、養子となる人が未成年者の場合、家庭裁判所の許可を得る必要があります。
普通養子縁組の場合は実親・養親両方の相続人になれる
普通養子縁組の場合は養子と実の親との親子関係はそのまま存続します。
養子になった後も実親の子であるという関係性は変わっていないため、実親の相続人となり、財産を相続することが可能です。
養子になったからといって法定相続分の割合も変わりません。
つまり、普通養子縁組をすると、養親の子として養親の財産を相続できるだけでなく、実の親が亡くなった場合にも、実親の子として実親の財産を相続することができるということになります。
特別養子縁組
特別養子縁組という制度は、既に述べたとおり、昭和62年の民法改正によって創設された制度です。
これは、養親が経済的な事情で子供を養育できない、子供を虐待または育児放棄しているなど、実親が子を養育できない、または、養育させることが適切でないと認められる場合に、子供を実親との親子関係から切り離して、養親の下で、養親の実の子供と同様の環境で養育させる制度です。
養子となる者の保護を目的とする制度であることから、当事者間の合意と届出のみで行える普通養子縁組とは異なります。
特別養子縁組の場合は、養子や養親になる人の年齢などに条件があり、試験養育期間を経たうえで家庭裁判所が審判で判断するという、厳格な手続きが定められています。
特別養子縁組の要件
特別養子縁組が成立するためには、普通養子縁組より厳しい要件が定められています。
まず、特別養子縁組をする際には、養子となる人の実親の同意が必要です。
また、養親となる人は配偶者がいる夫婦でなければならず、独身の方は養親になれません。
夫婦が共同で養子縁組をしなければならないうえ、養親の年齢は夫婦の一方が25歳以上、もう一方は20歳以上でなければならないとされています。
さらに、養子となる人は15歳未満でなければならず、家庭裁判所の許可が必ず必要となります。
特別養子縁組の場合は実親の相続人になれない
特別養子の場合は、普通養子縁組とは異なり、特別養子縁組の成立によって、養子とその実親との親子関係、および実親の血族との親族関係は全て終了します。
そのため、以後は、実親に生じた事由は養子には一切の影響を及ぼしません。
従って、養子の実親が亡くなった場合でも、特別養子はその実親の財産を取得することはありません。
養子縁組後の相続については、以下の記事も参考にしてみてください。
養子縁組したときの養子の相続順位と相続割合
養子となった人がいる場合に、養親には実の子がいる場合も少なくありません。
この状態で養親のいずれかが亡くなった場合、実子も養子も相続権を有することとなります。
養親に対する相続権については、養子が普通養子縁組の場合も、特別養子縁組の場合も違いはありません。
また養子ではありませんが、男性の親と婚姻関係にない女性から生まれ、その男性から認知をされた子は、非嫡出子と呼ばれます。
非嫡出子は生みの親である母親だけでなく、認知を行った父親についても相続人となり、相続権を有しています。
そのため、養親が亡くなった時には、実子、普通養子縁組による養子、特別養子縁組による養子、非嫡出子のいずれもが相続権を有することとなるのです。
これらの人は、被相続人との関係の濃さには違いがあります。
一般的には、実子が被相続人と一緒に過ごした時間が長いことが多いのですが、その関係性はそれぞれの親子によって異なります。
そこで、法律上は実子も養子も非嫡出子も、相続順位に違いはありません。
実子だけが第1順位の相続人となるわけではなく、養子や非嫡出子も同じように第1順位の相続人となるのです。
また、相続割合にも違いはなく、実子、養子、非嫡出子の人数によって均等に相続権が発生することとされています。
相続対策として養子縁組するメリット
養子縁組は相続対策としても活用できます。
ここからは、養子縁組で相続対策する方法を見ていきましょう。
法定相続人以外にも財産を遺せる
亡くなった人がいると、被相続人の配偶者や子供などの法定相続人が遺産相続することとなります。
通常、遺産分割協議に参加するのは法定相続人だけであり、その他の人はたとえ被相続人の面倒をみていた人でも相続権はありません。
しかし、養子縁組を利用することで、当初の法定相続人ではなかった人を新たに法定相続人とすることができ、その結果、財産を遺すことができる可能性があります。
具体例として、配偶者がすでに他界しており、子供2人が法定相続人となる人のケースを考えてみましょう。
事例配偶者がすでに他界、法定相続人が子供2人
この人には子供2人がいるものの、2人とも遠く離れたところに暮らしており、普段の生活の面倒は近くに住む弟の子供(姪)がみてくれています。
しかし、姪は法定相続人ではないため、法定相続分も遺留分も有しません。
もし子のまま亡くなってしまうと、姪には何の財産も分けてあげることができないのです。
そこで、生前に姪と普通養子縁組を行うこととしました。
すると、2人の実子のほかに養子も法定相続人となります。
実子も養子も、法定相続分や遺留分に計算に違いはないため、面倒をみてくれた姪にも財産を遺せるのです。
相続税の基礎控除額を増額できる
養子も法定相続人になるので、相続税の計算の際にも、法定相続人としてカウントされることになります。
ただし、実子は何人いても全員が法定相続人として基礎控除額の算定に際してカウントされるのに対して、基礎控除額の算定にカウントされる養子の数は、以下のように制限されます。
- 他に実子がいない場合は2名まで
- 他に実子がいる場合には1名まで
生命保険金・死亡退職金の非課税枠を増額できる
相続税の基礎控除額の算定と同様に、生命保険金、死亡退職金についても、法定相続人の人数に応じた非課税枠が認められています。
そして、この際の法定相続人にも、養子はカウントされます。
ただし、この場合もカウントされる養子の人数は、基礎控除の場合と同様に制限されます。
養子縁組のメリットについては、以下の記事でも詳しく解説していますので参考にしてみてください。
養子縁組で相続対策するときの注意点
養子縁組をすれば必ず相続税対策になるというわけではありません。
相続税対策としての養子縁組を検討する場合は、以下の注意点についても確認しておきましょう。
養子をとると相続人が減るケースもある
養子をとるということは、法定相続人が増えることになるという認識が一般的です。
しかし、家族構成によっては、養子縁組をすることにより逆に法定相続人が減り、その結果、基礎控除額も減ってしまう可能性があるということに注意しましょう。
例えば、被相続人に配偶者のみがいて子供がおらず、被相続人の両親が健在の場合、相続人は配偶者と両親の合計3名です。
その結果、基礎控除額は3,000万円+(600万円×3)=4,800万円となります。
ところが、この状態で養子を迎えた場合、相続人は配偶者と養子の2名となってしまい、基礎控除額は3,000万円+(600万円×2)=4,200万円となってしまいます。
このように、相続税対策として養子縁組を考える場合には、有効な相続税対策になるのかをきちんと検証してから行うことが大切です。
養子縁組が相続トラブルの原因になる場合がある
養子縁組をすることにより、第三者が相続関係に関与してくることになります。
その結果、相続分が減少する他の相続人との間で、遺産を巡る争いが生じるといった話もよく聞きます。
相続対策として養子縁組をする場合には、他の相続人との意思疎通なども十分に行っておく必要があるでしょう。
孫を養子にする場合は相続税が2割加算される
被相続人の配偶者、父母、子以外の人が、相続または遺贈により相続財産を取得した場合には、相続税が2割加算されます。
養子の場合は、被相続人の「子」となるため、通常は相続税の2割加算は適用されません。
しかし、孫が養子となった場合は、孫は被相続人の子の地位を有すると同時に、孫としての地位も有しているため、上記の「配偶者、父母、子以外の人が相続する場合」に該当し、相続税が2割加算されることになります。
この点を認識しておかないと、余計な税金を納めることになりかねませんので、注意が必要です。
養子縁組の時期で代襲相続ができない
養子縁組を行うと、養子となった人は法定相続人として相続権を有することとなります。
ただし、養子縁組を行った後、養親より先に養子がなくなると、その養子の子供が代襲相続人として相続できるか否かが問題となります。
この点については、大きく2つの考え方があるため、いずれのケースに該当するのか判断しなければなりません。
養子縁組前に生まれた養子の子は、代襲相続人にはなれない
養子縁組前に生まれている養子の子は、養親と直接的な血縁関係はありません。
養子の子が生まれた後に親が養子となっているため、生まれたときには養親は全く見ず知らずの人とされるためです。
代襲相続人となれるのは「被相続人の直系卑属」に限られるものとされていますが、この場合の養子の子は「被相続人の直系卑属」には該当しません。
したがって、代襲相続人となることはできないのです。
養子縁組後に生まれた養子の子は、代襲相続人となれる
養子縁組を行うと、養親と養子は法律上の親子関係が生じます。
そして、その後に生まれた養子の子も、養親の子の子(つまり孫)となり、養親の直系卑属に該当します。
被相続人の直系卑属は代襲相続人となることができるので、養子縁組後に生まれた人は代襲相続人になれます。
まとめ
養子縁組が相続に関してどのような影響を与えるかや、養子縁組をした後に相続が発生した場合、どのような取り扱いになるのかについてみてきました。
最近では相続税対策としての養子縁組の利用も増えてきているようですが、それ以外にも、様々な事情から養子縁組をする場合があります。
そして、養子縁組をした場合、それが相続税対策かどうかに関わらず、様々な法律問題や周囲への影響が生じることは避けられません。
養子縁組を行う際には、それらのことも考慮し、周囲ともしっかりと意思疎通を図っておくことが、将来的に相続でトラブルを回避するためには必要です。