

大阪弁護士会所属。京都市出身。
労働環境が激変する現代において、企業が直面する労務リスクは経営の根幹を揺るがしかねない重要課題です。私は、大学卒業後のIT企業勤務、経営コンサルタント、企業役員といった10数年のビジネス現場での経験を経て弁護士となりました。
法律はあくまで手段であり、目的は「企業の持続的な成長と安定」であるべきだと考えています。そのため、単に「法的に可能か不可能か」を答えるだけでなく、現場のオペレーションや事業への影響、経営者の想いを汲み取った上での「最適な次の一手」を提示することを最優先しています。
使用者側(企業側)の専門弁護士として、労働紛争の早期解決はもちろん、トラブルを未然に防ぐための強固な労務基盤の構築を支援いたします。経営者の皆様が事業に専念できるよう、法的側面から強力にサポートさせていただきます。
PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/fukunishi/
書籍:「事業をやり直したい」と思ったときの会社のたたみ方
監修:プロが教える!失敗しない起業・会社設立のすべて
共著:民事信託 ――組成時の留意点と信託契約後の実務

目次
労働基準法や個人情報保護法に、「職場に監視カメラを設置してはならない」と定めた規定はありません。盗難・横領の抑止、入退室管理、情報漏えい防止、工場や店舗の安全確認、トラブル発生時の事実確認など、目的に業務上の必要性・合理性がある場合には、設置が認められる余地があります。
ただし、「自分の会社の建物内なのだから、どこをどう撮影してもよい」という考え方は危険です。映像には従業員の行動、交友関係、休憩中の様子などが映るため、意図せず従業員のプライバシーを侵害するおそれがあるからです。
設置の適法性は、主に次の事情を比較して判断されます。
たとえば、金庫室の出入口を防犯目的で撮影することと、執務室全体を常時撮影し、上司が部下の細かな行動を日常的に点検することでは、必要性とプライバシーへの影響が大きく異なります。「防犯カメラ」か「監視カメラ」かという呼び方によって結論が変わるわけではなく、設置の目的・場所・運用などから総合的に判断されます。
また、労働組合の活動を監視・妨害する意図でカメラを設置した場合には、労働組合法7条3号(不当労働行為)に規定されている支配介入が問題となる可能性があります。組合掲示板の周辺や組合活動の場所を狙って撮影するような設計は、通常の防犯目的とは説明しにくく、特に慎重な対応が必要です。
前述したように、労働基準法には職場への監視カメラ設置を直接禁止する規定はありません。
もっとも、映像を使って従業員の在席状況や休憩中の行動を把握する場合は、労働時間・休憩時間のルールとの関係を切り分けて検討しなければなりません。
労働基準法32条1項は、使用者が労働者に休憩時間を除き1週間について40時間を超えて労働させてはならないと定めています。また、同条2項は、1週間の各日について、休憩時間を除き1日について8時間を超えて労働させてはならないと定めています。
さらに、労働基準法34条1項は、労働時間が6時間を超える場合には少くとも45分、8時間を超える場合には少くとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えることを求めています。重要なのは、同条3項が「使用者は、第一項の休憩時間を自由に利用させなければならない」と定めている点です。
休憩室にいることをカメラで確認しているだけでは、適法な休憩を与えたことにはなりません。休憩中の従業員に電話番・来客対応・緊急対応を求め、実際には業務から離れられない状態にしている場合、その時間は休憩ではなく労働時間と評価される可能性があります。カメラで常時様子を見て、席を外した理由や私的な会話を細かく追及する運用も、休憩の自由利用を実質的に妨げるおそれがあるでしょう。
また、監視カメラの映像だけで始業・終業時刻を管理する運用もおすすめできません。厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日策定)」は、始業・終業時刻について、使用者が自ら現認して記録する方法、またはタイムカード・ICカードなどの客観的な記録を基礎として確認・記録する方法を原則として示しています。監視カメラ映像がこの客観的記録に当たるとは明記されていないため、監視カメラの映像だけで労働時間を管理する運用は、ガイドラインが想定する管理方法とは言えないことになります。
映像には、従業員が建物に入った時刻は映っても、実際に業務を開始・終了した時刻、持ち帰り業務、休憩中の業務対応まで正確に表れないことがあります。タイムカードやPCログなどを基礎とし、カメラ映像は不自然な打刻差異などを確認する補助資料にとどめる運用が安全です。
労働安全衛生法66条の8の3および労働安全衛生規則でも、事業者には労働時間の状況を客観的な方法その他の適切な方法で把握することが求められています。
監視カメラに録画された映像は、そこに写る従業員が誰かを特定できる場合、個人情報保護法における「個人情報」に当たります。氏名が映っていなくても、顔、制服、座席、勤務シフトなどから特定できる場合は、個人情報として扱う前提で設計すべきです。
通常の監視カメラ映像と、顔認証機能付きカメラのデータは区別が必要です。通常の映像は、主に人物を識別できる情報として個人情報保護法2条1項1号の個人情報に該当します。他方、顔認証のために顔の特徴を電子計算機用に変換した特徴量データは、個人情報保護法2条2項および同法施行令1条1号の個人識別符号に当たり得ます。顔認証機能を利用するなら、単に「防犯のため」とするだけでは足りず、顔識別機能を用いることも本人が合理的に予測できる程度に明示する必要があります。
個人情報保護法3条は、個人情報を人格尊重の理念の下に慎重に取り扱うべきものとしています。社内にカメラを設置する際は、少なくとも次の点を確認してください。
防犯目的で取得した映像を、事前の説明なく人事評価に恒常的に使うことは、当初の利用目的を超えるおそれがあります。
従来型の防犯カメラについては、設置状況から防犯目的が明らかな場合、利用目的の通知・公表が不要となることがあります(個人情報保護法21条4項)。一方で、従業員の勤務状況を継続的にモニタリングすることまで「防犯目的が明らかな場合」に含めるのは難しいケースも多いです。従業員を撮影する場合は、設置目的、設置場所、映像の利用場面を規程と掲示等で明示する対応が安心です。
監視カメラを設置したことや、録画映像が個人情報に該当することだけで直ちに罰則の対象となるわけではありません。ただし、個人情報保護法違反の内容によっては、個人情報保護委員会による指導・助言、勧告、命令などの対象となる場合があります。この命令に違反した場合などには、罰則の対象となることがあるため注意が必要です。
監視カメラは、不正の抑止や事実確認に役立つことがありますが、目的に合う範囲で使わなければ従業員の不信感を招きます。
カメラを設置すれば不正やハラスメントを必ず防げるわけではありません。映像があっても、死角、保存期間の経過、音声の有無、利用目的の制約によって確認できる範囲には限界があることを頭に入れておきましょう。
金銭・商品・重要書類を扱う場所を適切に撮影すれば、盗難や持ち出しへの心理的な抑止となり、発生時の確認にも役立ちます。
レジ周辺、倉庫の出入口、金庫室、機密情報を扱うエリアなどは、防犯上の必要性を説明しやすい場所です。従業員による横領、窃盗、情報の無断持ち出しを疑う事態が起きたときも、映像は確認材料の一つになります。
ただし、映像だけで事実を断定し、直ちに懲戒処分や刑事告訴に進むことは避けるべきです。撮影日時、死角、関係者の説明、物品管理記録などを照合し、本人にも弁明の機会を与える必要があります。
事故や顧客対応をめぐるトラブルでは、映像が当事者双方の記憶を補う客観資料になることがあります。
店舗での接客トラブル、工場での事故、受付周辺でのトラブルなどでは、誰がいつどこにいたか、どのような動きがあったかをカメラ映像によって確認できる場合があります。自分の会社が顧客から一方的な苦情を受けた場合にも、早期に映像を保全できれば、事実確認の精度を上げることができます。
もっとも、映像の切り取りだけで判断すると誤認につながります。特に懲戒や人事上の不利益を伴う判断では、映像の前後関係、当事者の説明、業務指示の内容を確認してください。
ハラスメント申告があった際、映像は補助資料になり得ますが、音声のない映像だけでは言動の内容まで分からないことが多い点に注意が必要です。
押しつぶすように近づく、物を投げる、身体に触れるといった行為は、映像から確認できる可能性があります。しかし、暴言や性的な発言などは、音声がなければ確認できません。音声録音はプライバシーへの影響が大きいため、ハラスメント調査への利用を理由に全社的な常時録音を正当化できるとは限りません。
また、ハラスメント調査に映像を使う場合にも、設置時に定めた利用目的の範囲内かを確認します。防犯・安全確保・職場秩序の維持などと調査利用の関係を、あらかじめ監視カメラ運用規程に整理しておくことが重要です。
個人情報保護委員会は、従業者を対象とするビデオおよびオンラインによるモニタリングを実施する場合の留意点について、次の4つを挙げています。
監視カメラ設置による従業員とのトラブルを避けるためにも、以下の7点を設置前から運用に組み込んでおくのがよいでしょう。
監視カメラでの撮影は、目的に必要な場所・角度・時間帯に絞り、プライバシー性が極めて高い場所への設置は原則として避けるべきです。
防犯目的なら、出入口、レジ、金庫・重要書類の保管場所、情報資産を扱う区画などを中心に検討します。従業員のデスク全体を常時撮影する必要が本当にあるか、出入口のみの撮影や画角の限定で目的を達成できないかを検討してください。
更衣室、トイレ、仮眠室は、プライバシー保護の必要性が特に高い場所です。防犯上の必要性が極めて高い例外的な事情がない限り、設置は避けるべきです。場所や撮影方法によっては盗撮として刑事責任が問題となるおそれもあります。
休憩室も、単に「社内スペースだから」と設置を決めるのではなく、防犯上の具体的必要性と従業員への影響を比較してください。休憩室の問題はプライバシーだけでなく、休憩時間の自由利用(労働基準法34条3項)の問題とも関わります。
音声録音機能があるカメラの場合、業務と無関係な私的な会話まで広く取得します。録音された音声も、話者を特定できる場合には個人情報保護法上の「個人情報」に当たり得ます。防犯目的であれば通常は音声まで取得する必要性はそこまで高くありません。音声録音をオフにできるなら、オフにすることを優先して検討してください。
従業員に隠したまま設置するのではなく、目的・場所・撮影対象・問い合わせ先を設置前に明示することが重要です。
設置目的は「防犯」だけと曖昧にせず、たとえば「レジ周辺における盗難防止および発生時の事実確認」「倉庫出入口における部外者侵入防止」のように具体化します。従業員に対しては、少なくとも設置場所、撮影範囲、録音の有無、保存期間、映像を確認する場面を説明してください。
これは個人情報保護法21条1項で規定されている利用目的の通知・公表と、個人情報保護委員会「FAQ(Q5-7 従業者の監督)」が示す「目的を社内規程等に定め、従業者に明示すること」に対応する措置です。外観からカメラと分かりにくい場合は、カメラ作動中であることや目的を掲示する措置も必要になります。
労働組合等がある場合、個人情報の取扱いに係る重要事項を定める際には、あらかじめ労働組合等に通知し、必要に応じて協議することが望ましいとされています。設置後に一方的に通知すると、「隠し撮りされていた」と受け止められ、目的が正当でも不要な対立を招きます。
映像を見ることができる人、外部提供を判断できる人、事故時に対応する人を事前に限定し、責任者と権限を明確にしてください。
映像は、総務・人事・店舗責任者など、業務上必要な担当者だけが閲覧できる状態にします。「カメラ映像を確認できる人」「映像をコピーできる人」「外部提供を決裁できる人」を分けて定めると、私的閲覧や情報漏えいのリスクを下げられます。
映像を確認した日時、確認者、目的、対象映像、コピーの有無を閲覧記録に残す運用も有効です。責任者が異動・退職した場合に、クラウドカメラのアカウントや閲覧権限を速やかに削除・変更する手順も規程化してください。
なお、警察などから映像提供を求められることもあります。第三者提供は個人情報保護法27条1項により本人同意が原則ですが、法令に基づく場合などの例外があります。現場担当者が独断でUSBメモリを渡すことがないよう、提供可否を判断する責任者と確認手順をあらかじめ決めておく必要があります。
「誰が、何のために、どのような場合に映像を見るのか」を監視カメラ運用規程として文書化し、既存の就業規則や個人情報保護規程と整合させます。規程には、少なくとも次の事項を定めることが望ましいでしょう。
上司が部下の勤務態度を日常的にチェックするため、自由に映像を閲覧するような運用は避けるべきです。目的外利用や過剰なモニタリングと評価されるおそれがあるためです。
就業規則自体を作成・変更する場合、労働基準法90条1項により、過半数労働組合があるときはその組合、ないときは労働者の過半数を代表する者の意見を聴く必要があります。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、労働基準法89条により、作成・変更した就業規則を所轄労働基準監督署へ届け出る必要があります。
「監視カメラ運用規程」という別規程の名称にしても、映像を懲戒処分の根拠にするなど、内容が労働条件や服務規律に実質的に関わる場合には、就業規則の一部として扱われる可能性があります。「規定は作成したものの、意見聴取や届出までは必要ないと思った」というケースは実務上も多いため、規程の名称だけで手続きの要否を判断しないことが大切です。
映像を必要以上に保存せず、アクセス制御・ログ管理・委託先管理を行うことが、漏えいと目的外利用を防ぐ基本です。
特定の従業員を識別できる録画映像が個人データに当たる場合、会社には個人情報保護法23条に基づく必要かつ適切な安全管理措置が求められます。また、個人情報を取り扱う従業者に対する必要かつ適切な監督も、会社が負う義務の一つとなります(個人情報保護法24条)。
具体的には、アクセス権限の設定、強固なパスワード・多要素認証、アクセスログの取得、録画機器・記録媒体の施錠管理、USBメモリ等へのコピー記録、不要になった映像の確実な削除などを実施します。
保存期間に法律上の一律基準はありません。「30日間」「3カ月間」といった期間はあくまで運用例であり、法律が一律に定めた基準ではありません。盗難・事故の発見までに要する期間、上書き録画の仕組み、保管コスト、プライバシーへの影響を比較し、自分の会社の目的に必要な期間に絞ってください。
クラウド型カメラを使う場合、サービス提供事業者に任せきりにするのはおすすめできません。個人情報保護法25条は「個人情報取扱事業者は、個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合は、その取扱いを委託された個人データの安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない。」と定めています。
委託先の安全管理体制、再委託、データの保存場所、管理者アカウント、障害時の削除・返還、国外からのアクセスの有無を契約前に確認します。海外製の安価なクラウドカメラを導入する企業も多いですが、海外のサーバーや海外事業者が関与する場合には、外国にある第三者への提供に関する規律が問題になる場合があるため、国内委託と同じ感覚で導入しないことが重要です。
映像が外部に流出した場合には、個人情報保護法26条に基づき、個人情報保護委員会への報告や本人への通知が必要となることがあります。漏えい後ではなく、導入時に対応手順を決めておくべきです。
法律だけで判断せず、個人情報保護委員会のQ&A、所在地の自治体ルール、業種別ルールを確認して運用を設計してください。
個人情報保護委員会の「『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』に関するQ&A」では、カメラ画像について、Q1-13(個人情報)で従来型防犯カメラ、Q1-14(個人情報)で顔識別機能付きカメラシステム、Q5-7(従業者の監督)で従業者モニタリングの留意点についての質問に回答しています。自分の会社のカメラが、単なる録画か、顔認証・行動分析機能を含むものかによって、確認すべき内容は変わります。
また、自治体によっては、防犯カメラの設置・運用に関する条例やガイドラインを設けています。会社所在地だけでなく、店舗・施設を置く地域のルールも確認してください。医療・金融などでは、個人情報保護に関する分野別ガイドラインや監督官庁のルールが問題となる場合があります。自社の業種に適用されるガイドラインがないか確認してください。
参照:金融分野における個人情報保護に関するガイドライン|個人情報保護委員会
参照:厚生労働分野における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン等|厚生労働省
監視カメラに関する規程を作成しても、実際の閲覧・保存・権限設定が規程から外れていれば、トラブルを防ぐことはできません。
個人情報保護委員会「FAQ(Q5-7 従業者の監督)」でも、モニタリングがあらかじめ定めたルールに従って適正に行われているか確認することを求めています。少なくとも定期的に、次の点を点検してください。
特に、店舗責任者の交代やクラウドサービスの契約更新のタイミングでは、権限が放置されやすいため注意が必要です。
監視カメラ設置前に弁護士へ相談すれば、目的と手段のずれ、規程の不備、労務対応の見落としを洗い出しやすくなります。
監視カメラは、労務、個人情報保護、就業規則、労働組合対応、懲戒手続きなどに関わります。機器業者は設置方法には詳しくても、自分の会社の労務リスクや映像利用の限界まで判断する立場にはありません。
カメラ設置前に、目的に対して場所・範囲・説明方法が過剰でないかを確認できるため、あとから設計をやり直す負担を抑えられます。
弁護士に相談すると、たとえば次のような点を具体的に検討できます。
プライバシー性の高い場所への設置は、目的があると考えていても、代替策を含めて慎重な比較が必要です。設置してから問題が発覚するより、設計段階で確認するほうが対応の選択肢は広がります。
なお、休憩室へのカメラ設置については「5-3『休憩室に監視カメラを設置してもよい?』で詳しく解説しています。
就業規則・個人情報保護規程と矛盾しない監視カメラ運用規程を整備し、必要な労基法上の手続きまでを漏れなく確認できます。
弁護士は、設置目的、撮影場所、閲覧できる人、保存期間、第三者提供、人事評価・懲戒での利用条件などを規程に落とし込むサポートができます。3章の冒頭で説明したように、個人情報保護委員会は従業者を対象とするモニタリングについて、あらかじめルールを策定し、その内容を運用者に徹底することが留意点として示されています。自分の会社の既存の個人情報保護規程や就業規則との矛盾を確認しながら、監視カメラの運用ルールを整備できる点は、弁護士に相談するメリットの一つです。
また、監視カメラの運用については、ルールを作るだけでなく、誰がどのような権限で映像を閲覧できるのかなど、運用者がルールに従って適切に取り扱えるしくみを整えることも重要です。弁護士に相談すれば、個人情報保護委員会が示すモニタリングに関する4つの留意点も踏まえ、社内の実情に合った運用ルールを検討できます。
就業規則を変更する場合には、労働基準法90条1項の意見聴取、常時10人以上の事業場では同法89条の届出が必要です。こうした手続きを省略すると、規程を作っても従業員への説明や処分の場面で問題が残ります。映像を人事評価や懲戒の資料に使う予定があるなら、設置前に規程と必要な手続きを整えておくことが重要です。
従業員から「監視カメラはプライバシー侵害だ」と主張された場合、感情的に「会社の施設だから問題ない」と返答すると、対立を深めるおそれがあります。監視カメラ設置によるトラブルが発生した際は、労務トラブルに精通した弁護士と共に設置目的、撮影範囲、従業員への説明状況、閲覧履歴、保存期間などを確認し、問題があれば運用を是正することが重要です。
また、映像をハラスメント調査や懲戒処分の根拠にする場合には、設置時に定めた利用目的の範囲内かを確認する必要があります。たとえば、防犯目的で設置したカメラの映像を懲戒処分の証拠として利用する場合には、個人情報保護法18条1項との関係を確認することになるでしょう。また、懲戒処分を行う前には、本人に映像や指摘内容を示して弁明の機会を与えるなど、適切な手続きを踏むことも重要です。
労働組合から監視カメラの設置について問題を指摘された場合や、団体交渉を申し入れられた場合も、慎重な対応が必要です。監視カメラの設置が組合活動への介入と受け取られると、労働組合法7条3号の支配介入が問題となる可能性があります。
また、設置が労働条件に関わる場合には、団体交渉の対象となる可能性もあるため、設置目的や必要性、社内規程などを整理したうえで対応することが大切です。
監視カメラの設置だけで直ちにパワハラになるわけではありませんが、特定の従業員を執拗に監視・追及する運用はパワハラに当たる可能性があります。
労働施策総合推進法31条1項は、事業主に対し、職場における優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより労働者の就業環境が害されないよう、必要な雇用管理上の措置を講じることを求めています。
※ 労働施策総合推進法の条文番号は、2026年10月1日施行の改正法によるものです。改正前の資料には別の条文番号が記載されている場合があります。
パワハラ該当性は、一般に次の3要素から検討します。
上司が部下の映像を利用して行動を追及するなら、1つ目の要素は満たされやすいでしょう。判断の中心は2つ目です。全従業員を対象に、レジ周辺を防犯目的で撮影する場合は、必要かつ相当な範囲と評価されやすい一方、特定の従業員だけを狙って撮影する、勤務時間外まで行動を確認する、映像を使って些細な行動を繰り返し叱責するような場合は、範囲を超えたと評価されやすくなります。
3つ目の要素は、平均的な労働者の感じ方を基準に判断されます。自分の会社が「指導のため」と考えていても、客観的にみて就業環境を害していないかを検討する必要があります。
なお、パワハラの類型や該当する要件などについては、関連記事『パワハラの6類型とは?具体例や会社側の予防・解決方法を解説』で詳しく解説しています。
従業員全員の同意がなければ監視カメラを設置できないわけではありません。ただし、反対された場合は、その理由を確認したうえで、設置目的や撮影範囲、保存期間、閲覧できる人などを具体的に説明し、必要に応じて運用方法を見直すことが大切です。
監視カメラの設置そのものについて、法律上、従業員全員の同意が必要とされているわけではありません。一方、取得した映像の利用については、設置と分けて考える必要があります。当初特定した利用目的の達成に必要な範囲を超えて映像を取り扱う場合には、個人情報保護法18条1項により、あらかじめ本人の同意が必要となる可能性があります。
反対が出たときは、「防犯のため」とだけ説明して終わりにせず、どの場所を、なぜ撮影するのか、誰が映像を閲覧できるのか、どの程度の期間保存するのか、人事評価などに利用するのかを具体的に示してください。反対が強い場合には、撮影範囲を限定する、録画する時間帯を限定する、音声録音をオフにする、保存期間を短くするなど、従業員のプライバシーへの影響を抑える方法も検討できます。
また、労働組合等がある場合には、モニタリングに関する重要事項を定める前に通知し、必要に応じて協議することが望ましいとされています(個人情報保護委員会の「FAQ(Q5-7 従業者の監督)」)。ここでいう「労働組合等」には、労働組合がない事業場の過半数代表者等も含まれるため、自分の会社の状況に応じて対応を検討しましょう。
休憩室への設置を一律に禁止する規定はありませんが、労働基準法34条3項の休憩の自由利用とプライバシーの両面から、必要性を厳格に検討すべきです。
休憩時間は、労働基準法34条3項により、労働者が自由に利用できなければなりません。休憩室にカメラを置いて従業員を常時監視し、電話対応や来客対応を求めるような運用では、実際には業務から離れられず、休憩を与えたことにならない可能性があります。その時間が労働時間と評価されれば、賃金・残業代の問題にもつながります。
防犯上の必要性があると考える場合も、出入口のみを撮影できないか、金庫・備品保管場所だけに限定できないか、音声を取得しない運用にできないかを検討してください。
なお、更衣室やトイレは休憩室以上にプライバシー性が高いため、極めて例外的な事情がない限り設置を避けるべきです。たとえば、重大な盗難や不正侵入が繰り返し発生し、撮影による防止が不可欠な場合などが考えられます。
ただし、その場合でも更衣スペースや個室内を直接撮影するのではなく、出入口など必要最小限の範囲に限定することが重要です。
防犯目的の映像を恒常的に人事評価へ使うことは、本来の利用目的を超えるおそれがあります。事前の目的設定や本人同意を含めて慎重な検討が必要です。
個人情報保護法18条1項は、あらかじめ本人の同意を得ないで、特定した利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取り扱うことを禁じています。「防犯目的」として設置した映像を、勤務態度の評価や査定のために日常的に使うことは、通常「目的の範囲内」とはいえません。
利用目的を変更する場合にも、個人情報保護法17条2項により、変更前の利用目的と合理的な関連性を有すると認められる範囲を超えることはできません。防犯から人事評価への変更は慎重に検討すべきです。人事評価への利用可能性があるなら、導入段階で利用目的・利用場面・閲覧権限・本人への説明を明確にし、必要に応じて同意を得ることを検討してください。
さらに、映像だけに依拠して勤務態度を評価すると、評価の合理性・公正さが争われる可能性があります。評価制度全体の基準、上司の評価、成果、本人の説明などと総合的に判断する必要があります。
監視カメラによる従業員の不安やストレスを抑えるには、監視を目的とするのではなく、具体的な業務上の目的に基づいて運用していることを説明することが重要です。また、設置後も従業員からの質問や相談を受け付け、必要に応じて運用を見直せる体制を整えておきましょう。
設置目的や撮影範囲、閲覧できる人、保存期間などはあらかじめ明示し、必要以上に広い範囲を撮影したり、業務上必要のない場面まで確認したりしないことが基本です。具体的な運用方法については、3章「社内に監視カメラを設置する際の注意点とは?」で詳しく解説しています。
特に重要なのが、設置後も従業員からの質問や相談を受け付ける窓口を明確にしておくことです。たとえば、「撮影範囲が広すぎる」「休憩中の撮影が負担に感じる」といった声が出た場合には、設置目的や必要性を改めて説明するだけでなく、撮影範囲や録画時間、保存期間などの見直しを検討する姿勢が大切です。従業員からの声を踏まえて運用を改善できる体制を整えることで、監視カメラに対する不安や不信感の軽減につながります。
また、監視カメラによる過度な監視によって従業員の心身に影響が生じた場合には、使用者の安全配慮義務(労働契約法5条)が問題となる可能性もあります。経営上の必要性だけでなく、従業員がどのように受け止めているかも確認しながら運用することが重要です。
社内に監視カメラを設置すること自体を一律に禁止する法律はありません。ただし、設置する場所や撮影範囲、利用目的、映像の管理方法などによっては、従業員のプライバシーや個人情報保護法、労働基準法などとの関係が問題となる場合があります。
特に、労働基準法との関係では、監視カメラによって休憩時間中も業務から離れられない状態になっていないか、労働時間の把握方法が適切かなどを確認する必要があります。また、従業員を撮影した映像は個人情報に当たり得るため、利用目的を明確にし、適切に管理することも重要です。
監視カメラの設置目的や撮影範囲、映像の利用方法が適切か判断に迷う場合は、設置前に弁護士へ相談することも検討しましょう。自分の会社の実情を踏まえて、個人情報保護法や労働関係法令、社内規程などとの関係を確認し、必要な対応を整理しておくことが大切です。
「VSG弁護士法人」では、企業側の労働問題に関する豊富な実績をもとに、監視カメラ設置への対応から労働審判・訴訟、再発防止のための労務管理まで幅広くサポートしています。労働トラブルでお困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。