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パワハラの6類型とは?具体例や会社側の予防・解決方法を解説

弁護士 川﨑公司

この記事の執筆者 弁護士 川﨑公司

東京弁護士会所属。新潟県上越市出身。
労働問題は、一歩対応を誤れば損害賠償だけでなく、企業の信用失墜や従業員の士気低下、ひいては経営基盤を揺るがす重大なリスクとなります。
私は、野村證券をはじめとする金融機関で10年以上にわたり、リテール営業からコンサルティング、金融庁との折衝やリスク管理まで、多方面の業務に従事してまいりました。これらの経験から、企業の数字と法務は密接にリンクしており、労働問題を「点」ではなく「経営の一部」として捉えることの重要性を痛感しております。
経営者側の立場に立ち、財務分析や資金調達の観点も含めた戦略的なアドバイスを行うことが私の強みです。単に紛争を解決するだけでなく、組織の持続的な発展を見据えた強固なガバナンス構築のお手伝いをいたします。経営者の皆様の良き相談相手として、誠実かつ論理的にサポートさせていただきます。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/kawasaki/

職場で発生したパワハラが厚生労働省の定める6類型や適正な業務指導に該当するか悩み、初動対応や事実調査、会社の損害賠償リスク防止について弁護士へ相談を検討している人事担当者のイメージ画像

この記事でわかること

  • 厚生労働省が定める「パワハラ6類型」の詳細
  • 従業員からパワハラの相談を受けたら何をすべきか
  • 職場でのパワハラを予防するためのポイント

従業員から「上司の言動はパワハラではないか」と相談を受けたときや、管理職による指導に問題があるかもしれないと感じたときは、速やかに事実確認と対応方針を整理することが重要です。

パワハラに当たるかどうかの判断は、厚生労働省が示す6類型だけで決まるものではなく、指導の必要性、言い方、頻度、当事者の関係性、就業環境への影響などを踏まえて総合的に判断されます。

「適正な業務指導だったはずだ」「まず管理職本人に確認すればよい」と自社だけで判断して動くことはおすすめできません。相談者の意向を確認しないまま行為者へ事情聴取を始めれば、誰が相談したかが伝わり、報復や職場での孤立につながるおそれがあります。

この記事では、パワハラの6類型と具体例、適正な業務指導との線引き、従業員から相談を受けたときの対応手順、予防策と放置するリスクについて弁護士が解説します。

目次

パワハラとは?

パワーハラスメント(以下「パワハラ」といいます。)とは、職場における優越的な関係を背景として、業務上必要かつ相当な範囲を超える言動により、労働者の就業環境を害する行為です。労働施策総合推進法31条1項は、パワハラに関する雇用管理上の措置を事業主に義務付けています。

※ 本記事における条文番号は、2026年10月1日施行の改正法によるものです。改正前の資料には別の条文番号が記載されている場合があります。

パワハラに当たるかどうかは、次の3要素をすべて満たすかどうかで判断します。

  • 職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であること
  • 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動であること
  • 労働者の就業環境が害されること

「優越的な関係」は、上司から部下への関係に限りません。専門知識や豊富な経験を持つ同僚・部下の協力を得なければ業務を円滑に進められない場合や、複数の同僚・部下から集団で言動を受け、抵抗しにくい場合も含まれます。つまり、部下から上司への言動であっても、優越的な関係が認められればパワハラとなり得ます。

「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」とは、社会通念に照らし当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、またはその態様が相当でないものを指します。たとえば、以下のような言動のことです。

  • 業務上明らかに必要性のない言動
  • 業務の目的を大きく逸脱した言動
  • 業務を遂行するための手段として不適当な言動
  • 当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動

判断にあたっては、次のような事情を総合的に考慮することが適切とされています。

  • 言動の目的
  • 言動が行われた経緯や状況
  • 言動を受けた労働者の問題行動の有無や、その内容・程度
  • 業種・業態、業務の内容・性質
  • 言動の態様、頻度、継続性
  • 労働者の属性や心身の状況
  • 行為者と労働者との関係性

労働者の行動が問題となる場合は、その内容・程度と、それに対する指導の態様との相対的な関係性を検討します。ただし、労働者に問題行動があったとしても、人格を否定する言動など、業務上必要かつ相当な範囲を超える言動があれば、パワハラに当たる可能性があります。

また、パワハラの頻度や継続性は考慮されますが、暴行や強い侮辱のように身体的・精神的苦痛が大きい言動は、1回でも業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動に該当するケースもあります。

「就業環境が害される」とは、労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、就業するうえで看過できない程度の支障が生じることです。

本人が不快に感じたかだけでは決まりません。同様の状況で言動を受けた社会一般の労働者が、就業するうえで看過できない程度の支障が生じたと感じるかという、平均的な労働者の感じ方を基準に客観的に判断します。

「職場」には、通常の執務室だけでなく、労働者が通常就業している場所以外でも業務を遂行する場所が含まれます。出張先、業務で使用する車中、取引先との打ち合わせ場所、接待の席のほか、勤務時間外の懇親会、社員寮、通勤中であっても、実質的に職務の延長といえる場合は対象となり得ます。特に飲み会での言動は、任意参加とされていても実態として業務との結び付きが強い場合があるため注意が必要です。

「労働者」は正社員に限らず、パートタイム労働者、契約社員など、事業主が雇用するすべての労働者を指します。派遣労働者については、派遣元事業主だけでなく派遣先についても、自社で雇用する労働者と同様に必要な措置を講じなければなりません。

なお、2026年10月1日からは、カスタマーハラスメントの防止措置も事業主の義務となります(令和7年法律第63号)。社外の顧客等による言動はカスタマーハラスメントの問題であり、職場内の優越的な関係を背景とするパワハラとは区別して考える必要があります。

厚生労働省が定める「パワハラ6類型」とは?

厚生労働省が定めるパワハラ6類型のイラスト図解。①身体的な攻撃、②精神的な攻撃、③人間関係からの切り離し、④過大な要求、⑤過小な要求、⑥個の侵害の各シーンを2行3列のイラストと名称でわかりやすく一覧整理
厚生労働省は、パワハラに当たり得る代表的な言動を6つの類型に整理しています。
参照:事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針|令和2年厚生労働省告示第5号

以下では、各類型の具体例や注意すべき点を解説します。

なお、厚生労働省が示す6類型はあくまでも典型例であり、すべてのパワハラ行為を網羅するものではありません。6類型に含まれない行為でも1章で説明した3要素を満たせば、パワハラに該当する可能性があります。たとえば、労働者の自由な意思に反して自社の商品・サービスの購入を求めること(いわゆる自爆営業の強要)も、言動の内容や経緯によってはパワハラとなり得ます。

一方で、6類型に似た行為でも、客観的に見て業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示・指導はパワハラに該当しません。

身体的な攻撃(暴行・傷害)

殴る、蹴る、平手打ちをする、物を投げつけるなどの行為は、原則として許容される業務指導ではありません。身体に直接触れなくても、至近距離で物を振り回すなど、身体的危険を生じさせる行為は問題になります。

指導の目的があったとしても、暴力を用いることは正当化されません。事案によっては、傷害罪(刑法204条)や暴行罪(刑法208条)、民事上の損害賠償責任も問題となります。

一方、業務中に誤ってぶつかったようなケースであれば、基本的にパワハラには該当しない(身体的な攻撃には該当しない)と判断されるでしょう。

日本ファンド(パワハラ)事件(東京地裁平成22年7月27日判決/労働判例1016号35頁)

日本ファンド(パワハラ)事件(東京地裁平成22年7月27日判決/労働判例1016号35頁)では、消費者金融会社の従業員3名が、上司と会社に対してパワーハラスメントによる損害賠償を求めました。裁判所は、上司が従業員の背中を殴打し、面談中に膝を足の裏で蹴った行為を、正当な理由のない違法な暴行として不法行為と認定しています。

同事件では、暴行だけでなく、長期間にわたり特定の従業員へ扇風機の風を当て続けた行為、人格を否定する叱責や始末書の提出要求、配偶者を侮辱する発言も問題となりました。上司による一連の行為と従業員の抑うつ状態・休職との因果関係を認め、上司だけでなく会社にも、慰謝料、治療費、休業損害の支払いが命じられています。

出典:「上司から受けたパワハラを理由とした損害賠償請求」日本ファンド(パワハラ)事件|あかるい職場応援団

精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)

人格を否定する暴言や、他の従業員の前での執拗な叱責、脅迫的な発言は、精神的な攻撃に当たり得ます。

「無能だ」「使えない」といった能力を超えて人格を否定する発言、長時間にわたる大声での叱責、メールやチャットで多数の従業員に侮辱的内容を送信する行為などが典型です。性的指向・ジェンダーアイデンティティ、外国人であることや出身・ルーツに関する侮蔑的な発言も、人格を否定する言動として特に注意が必要です。

A保険会社上司(損害賠償)事件(東京地裁平成16年12月1日判決/労働判例914号86頁、東京高裁平成17年4月20日判決/労働判例914号82頁)

A保険会社上司(損害賠償)事件(東京地裁平成16年12月1日判決/労働判例914号86頁、東京高裁平成17年4月20日判決/労働判例914号82頁)では、上司が部下に対し、「意欲がない、やる気がないなら、会社を辞めるべきだと思います」などと記載したメールを、本人だけでなく職場の同僚十数名にも送信したことが問題となりました。

控訴審は、部下の処理件数を改善させようとする指導目的自体は認められるとしつつも、「会社にとって損失そのもの」などの表現は、退職勧告や会社に不要な人間であるとの評価と受け取られかねず、侮辱的な言辞と相まって名誉感情を不当に傷つけると判断しました。目的が業務指導にあったとしても、表現方法や送信範囲が許容限度を超え、著しく相当性を欠くとして不法行為を認め、上司に5万円の賠償を命じています。

出典:「上司が送ったメールの内容が侮辱的言辞として、損害賠償請求が認められた事案」A保険会社上司(損害賠償)事件|あかるい職場応援団

一方、遅刻などの社会的ルール違反を再三注意しても改善しない従業員や、業務の性質に照らして重大な問題行動をした従業員に、一定程度強く注意することまで直ちにパワハラとなるわけではありません。

人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)

業務上の必要性なく従業員を長期間隔離し、仕事から外したり、自宅待機を続けたりすることは、人間関係からの切り離しに該当する可能性があります。

たとえば、自分に従わない従業員を別室に隔離する、会議やチャットグループから外す、必要な業務連絡を意図的に共有しないといった行為です。リモートワーク下でも、オンライン会議への不招集やチャットでの意図的な無視により、同じ問題が生じます。

トナミ運輸事件(富山地裁平成17年2月23日判決/労働判例891号12頁)

トナミ運輸事件(富山地裁平成17年2月23日判決/労働判例891号12頁)は、従業員が運送業界のヤミカルテルを新聞社や公正取引委員会等に告発した後、会社から不利益な扱いを受けた事案です。裁判所は、告発内容には真実性または真実と信じる合理的理由があり、公益性も認められるとして、告発を正当な行為と評価しました。

従業員は告発後に教育研修所へ異動となり、20数年にわたり他の従業員から離れた個室に配置され、研修生の送迎など補助的な雑務を主に担当し、昇格もありませんでした。裁判所は、こうした個室配置、雑務への従事、昇格させない取扱い、退職を促す行為について、内部告発への報復として不利益に扱ったものと認定しました。会社の人事権には裁量があるとしても、その目的や態様が合理性を欠き、正当な内部告発をした従業員を差別的に扱う場合には、裁量の範囲を逸脱し、損害賠償責任を負うと判断しています。慰謝料200万円、財産的損害約1,047万円、弁護士費用110万円が認められました。

出典:「内部告発等を契機とした職場いじめと会社の法的責任」トナミ運輸事件|あかるい職場応援団

ただし、新規採用者を育成するため短期間別室で研修することや、懲戒処分後に通常業務へ復帰させる前の一時的な研修は、合理性があれば直ちにパワハラではありません。

調査のための一時的な自宅待機も、業務上の必要性があり、期間・賃金・連絡方法が適切であれば許容される可能性があります。必要性がないまま待機が長期化していないかを、記録とともに検証してください。

過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)

経験・能力や教育体制を無視して到底達成できない業務を強制したり、業務と無関係な私的な仕事をさせたりすることは、過大な要求に当たり得ます。

長期間にわたり、肉体的苦痛を伴う過酷な環境で、業務と関係のない作業を命じること、必要な教育をしないまま新卒採用者に到達不能な目標を課し、未達成を厳しく責め続けることなどが具体例として挙げられます。また、業務を意図的に妨害する行為も含まれます。

損害賠償請求事件(鹿児島地裁平成26年3月12日判決/判例時報2227号77頁)

損害賠償請求事件(鹿児島地裁平成26年3月12日判決/判例時報2227号77頁)は、精神疾患を有する市立中学校教員の精神疾患が増悪し自死したことについて、校長、教育委員会等の対応との因果関係が争われた事案です。裁判所は、病気休暇明け直後で業務量の軽減が必要とされていた教員に、従来の担当科目に加えて免許外の国語科を担当させ、他の業務も軽減しなかったことを、過重な心理的負荷を与える事情と認定しました。

さらに、管理職らが精神疾患の存在や状態悪化を認識し得たにもかかわらず、病状を適切に確認しないまま、指導力向上特別研修の受講につながる報告を行い、研修でも本人に強い心理的負荷を与える指導が続いたことについて、一連の対応と精神疾患の増悪・自死との相当因果関係を認めました。

他方で、年次有給休暇の取得方法や勤務場所についての指導などは、管理職として必要かつ相当な範囲の指導であり、過度に長時間のものとはいえないとして、パワハラには当たらないと判断しています。

出典:「教員の精神疾患が増悪し自殺したのは、校長らのパワーハラスメントが原因であるとして損害賠償を請求した事件」損害賠償請求事件|あかるい職場応援団

一方で、繁忙期に業務量が一時的に増えること、育成目的で現在より少し高い水準の仕事を任せることは、それだけでパワハラにはなりません。

過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)

退職に追い込む目的で、従業員を仕事から外し、能力や経験に見合わない雑務だけを命じることは、過小な要求に当たり得ます。退職目的で誰でもできる単純作業だけに従事させる、特定の従業員だけに合理的理由なく業務を与えないといったケースです。

また、育児・介護を理由に「すぐ帰る人には仕事を任せられない」として業務から外す行為などは、パワハラに加え、マタニティハラスメント(マタハラ)やケアハラスメント(ケアハラ)などで問題となる可能性があります。

新和産業事件(大阪高裁平成25年4月25日判決/労働判例1072号19頁)

新和産業事件(大阪高裁平成25年4月25日判決/労働判例1072号19頁)は、営業部の課長職であった従業員が、倉庫への配置転換と降格により賃金を減額されたため、命令の無効と差額賃金等を求めた事案です。

裁判所は、従業員が10年間営業職に従事していたこと、営業成績が振るわなかった原因を本人の適性・能力とは認め難いこと、倉庫には2人を配置するほどの業務量がなく、本人は商品運搬に必要な運転業務にも従事していなかったことなどから、配置転換の業務上の必要性は乏しいと判断しました。さらに、会社が約2カ月にわたり退職勧奨を繰り返し、本人が拒否した直後に配置転換・降格を命じた経緯や、賃金が従前の2分の1以下となった事情を踏まえ、退職に追い込む又は大幅な賃金減額を正当化する不当な目的があったと認定しています。

その結果、配置転換・降格命令は権利の濫用として無効であり、社会的相当性を逸脱して人格権を侵害する不法行為にも当たるとして、会社に差額賃金等に加え、慰謝料50万円の支払いが命じられました。

出典:「配置転換及び降格についてその無効とそれに伴い減額された賃金の支払いを求めた事案」新和産業事件|あかるい職場応援団

一方、健康状態や能力に配慮して業務量を軽減することは、その対応に合理性があれば直ちにパワハラとは判断されません。

退職勧奨も、それ自体は直ちに違法ではありませんが、退職しない意思を示した従業員に執拗に繰り返す、雑務だけを命じる、必要性の乏しい配置転換・降格を行って退職を迫るといった対応は避けるべきです。

個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

私生活や機微な個人情報に必要以上に介入し、本人の了解なく広める行為は、個の侵害に当たり得ます。

家族関係・交際関係への過度な介入、私物の無断撮影、勤務時間外の継続的な監視、社用端末やSNSを通じた不必要な行動把握などが問題になります。特に、性的指向・ジェンダーアイデンティティ、病歴、不妊治療等の情報を本人の了解なく他の労働者に暴露すること(いわゆるアウティング)、開示(カミングアウト)を強要または禁止することは、重大なプライバシー侵害です。

豊前市(パワハラ)事件(福岡高裁平成25年7月30日判決/労働判例ジャーナル20号18頁)

豊前市(パワハラ)事件(福岡高裁平成25年7月30日判決/労働判例ジャーナル20号18頁)は、市役所の福祉課に勤務する従業員が、別部署の総務課長から交際関係について不当な介入や誹謗中傷を受け、精神的不調が悪化したとして、市に損害賠償を求めた事案です。

総務課長は、市民からの通報をきっかけに、従業員の交際相手について「若い子を捕まえて、だまして」「危険人物」などと述べ、離婚歴や交際関係を取り上げて非難しました。高裁は、成人同士の交際は本人らの自主的な判断に委ねられるべきであり、職場への悪影響を是正する必要がない限り、使用者側は交際に介入する言動を避けるべき職務上の義務を負うと判示しました。そのうえで、これらの発言を誹謗中傷、名誉毀損または私生活への不当な介入に当たる違法な人格侵害と評価し、市に慰謝料30万円などの支払いを命じています。

出典:「所属部署が異なる二者間の、反復継続性があったとはいえないパワーハラスメント」豊前市(パワハラ)事件|あかるい職場応援団

会社側としては、プライバシー保護の観点から、このような暴露等をしないよう労働者に周知・啓発する等の措置を講じることが必要となります。

なお、管理職や人事担当者が配慮のために家族状況を聞く、本人の了解を得て必要な人事担当者へ健康情報を共有することまで禁止されるわけではありません。目的、共有範囲、本人の同意の有無を明確にし、必要最小限の取扱いにとどめることが必要です。

従業員からパワハラの相談を受けたら、まず何をすべき?

相談を受けた会社は、その場でパワハラかどうかを断定せず、相談者の安全と意向を確保したうえで、迅速かつ正確な事実確認に進む必要があります。

これは労働施策総合推進法31条1項に基づく措置義務の一部です。また、同条2項は相談したことや事実確認に協力して事実を述べたことを理由に、解雇その他の不利益取扱いをすることを禁じています。

まず相談者の話を丁寧に聴く

相談者に対し、日時、場所、関係者、具体的な発言・行為、目撃者、保存しているメール・チャット・録音などを確認し、できる限り相談記録に残します。この段階で「それは指導ではないか」「証拠がないから難しい」と結論づけるべきではありません。

また、行為者への聴取に進む前に、相談者へ調査の必要性や、調査の過程で相談者が誰なのか推測される可能性があることを説明しておく必要があります。

実際の場面では、相談者が行為者からの報復をおそれ、すぐに調査してほしくないと考えているケースもあります。相談者に「会社が秘密を守ってくれる」と受け取られる説明をしたにもかかわらず、意向を確認せずに行為者への聴取を始めれば、相談者との信頼関係を損なうおそれがあります。

パワハラに関する相談があった場合は、相談者の意向を確認しながら、どの範囲まで調査を進めるのか、調査によってどのような影響が生じる可能性があるのかを丁寧に説明することが重要です。

事実関係を迅速かつ正確に確認する

相談者の説明だけで判断せず、行為者や、必要に応じて第三者からも事情を聴きます。あわせて、メールやチャット、録音、勤怠・業務記録、会議資料など、事実関係を確認できる客観的な資料を確保します。

もっとも、調査のために相談内容を関係者へ広く共有することは避けるべきです。聴取する対象者や質問事項、情報を共有する範囲を必要最小限にとどめ、誰がどの資料にアクセスしたのかも記録しておきます。

行為者の説明に、相談者側の問題行動についての指摘が含まれている場合もあります。その場合も、直ちに相談者を非難するのではなく、「指導する必要があったか」と「その指導方法が相当だったか」を個別具体的に検討することが重要です。

対応を検討し、フォローと再発防止を行う

事実確認が終了したら、被害を訴えた従業員への配慮を念頭に置いたうえで、行為者への適正な措置、再発防止対策を速やかに行います。具体的には、被害を訴えた従業員にメンタルヘルスの相談先を案内する、当事者間の関係改善への援助を行う、接触を避けるため配置を調整するなどの対応が考えられます。

一方、被害を訴えた従業員を異動させる場合、被害者によっては「相談したら飛ばされた」と受け取られるおそれがあります。この場合、労働施策総合推進法31条2項が禁止する不利益取扱いと評価されるおそれがあります。配置変えを検討する際は、原則として行為者側の異動可能性を先に検討しましょう。被害者を配置変えする場合には、本人の意思を十分に確認しておくことが後のトラブルを避けるために重要です。

なお、事実を十分に確認できなかった場合でも、何もしなくてよいわけではありません。相談者に結果と判断理由を説明し、方針の再周知や研修など、職場環境の改善・再発防止策を講じます。

懲戒処分、配置転換、休職命令などを検討する局面では、処分の有効性や不利益取扱いの問題が絡むため、決定前に弁護士へ相談することをおすすめします。

職場でのパワハラを予防するためのポイントとは?

パワハラ対策では、事業主の方針の明確化・周知、相談体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応、プライバシーの保護などが、事業主に義務付けられています。3章で解説した「相談を受けたときの対応」も、法律上の措置義務に含まれます。

一方、アンケート調査や意見交換の実施、他のハラスメントと一元的に相談に応じることのできる体制の整備などは、法律上の義務ではないものの、会社として「望ましい取り組み」とされています。

経営者がパワハラを許さない方針を明確にする

事業主は、パワハラを許さず行為者には厳正に対処する方針を明確にし、その旨を管理職を含む全従業員へ周知する必要があります。厚生労働省による指針(令和2年厚生労働省告示第5号)は、方針の明確化について次のように明記しています。

「就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書に、事業主の方針を規定し、当該規定と併せて、パワハラの内容およびパワハラの発生の原因や背景等を労働者に周知・啓発すること」

自社でコミュニケーションが希薄になっている、過重な目標が常態化している、特定の管理職に業務が集中しているといった背景があれば、禁止方針を立てるだけでは再発防止になりません。社内報、イントラネット、研修、講習などを組み合わせ、規程を配布しただけで終わらせないことが重要です。

パワハラの禁止や処分に関するルールを定める

就業規則等に禁止規定と懲戒の根拠を整備し、行為の内容・程度に応じて処分を判断できる明確なルールを設けることがパワハラの対応としては重要になります。

厚生労働省の指針では「パワハラに関する言動を行った者について厳正に対処する方針と、対処の内容を就業規則その他の職場における服務規律などを定めた文書に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること」を会社の措置義務として明記しています。

そのうえで、「パワハラをしたら必ず解雇する」など、すべてのケースで同じ処分とするのではなく、行為の内容や程度に応じて具体的な処分内容を判断できるようにしておくことが重要です。指針でも「具体的なパワハラに該当する言動と処分の内容を直接対応させた懲戒規定を定めることのほか、どのようなパワハラの言動がどのような処分に相当するのかについて判断要素を明らかにする」と就業規則の規定に関する指針を示しています。

たとえば、暴行の有無、発言内容、行為の回数、被害の程度、行為者の反省、過去の処分歴などを考慮し、戒告、減給、出勤停止、降格、懲戒解雇などから適切な処分を検討できるようにします。

なお、減給の制裁には次のような制限があります。「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。」(労働基準法91条)。「パワハラをしたからペナルティとして今月の給与を大幅に減らす」という対応は、この上限を超えると違法になります。

実際の懲戒処分は、就業規則上の根拠があり、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性がなければ無効となります(労働契約法15条)。解雇はさらに厳格に判断されます(労働契約法16条)。処分を公表する場合も、プライバシー侵害や名誉毀損の問題がないかを確認すべきです。

アンケートなどで定期的に職場環境を把握する

アンケートや意見交換は法律上の義務ではありませんが、厚生労働省が望ましい取り組みとして示している、問題の早期発見に有効な方法です。匿名アンケート、個別面談、管理職へのヒアリングなどを活用し、問題が表面化する前に職場の状態を把握します。

一方、アンケートでパワハラの兆候を把握した場合、会社側としてはパワハラに関する問題を認識したことになります。把握しながら放置した場合、後に安全配慮義務違反(労働契約法5条)や使用者責任(民法715条)の判断で不利に働く可能性があります。

また、匿名回答で個人名が挙がった場合、直ちに回答者を特定する形で調査を始めることは適切ではありません。匿名性への信頼を損ない、不利益取扱い(労働施策総合推進法31条2項)の懸念も生じます。匿名アンケートから個別の事案として調査に移る場合は、原則として相談窓口での対応に切り替え、回答者の意向を確認するという運用を整えてください。

管理職や従業員にパワハラ防止の研修を実施する

パワハラに関する事業主の方針等の明確化およびその周知・啓発は法律上の義務であり、研修はその中心的な実施方法です。加えて、労働施策総合推進法32条2項は、研修の実施その他の必要な配慮を事業主の努力義務としています。

研修では、厚生労働省の示すパワハラ6類型の定義だけでなく、適正な業務指導との違い、発生の背景となる職場環境(労働者同士のコミュニケーションの希薄化など)、相談窓口の使い方、相談を受けた管理職の初動などを扱います。特に管理職には、行動に着目した指導方法、記録の取り方、チャットで感情的な発信をしないことを具体的に伝える必要があります。

性的指向・ジェンダーアイデンティティ、病歴、不妊治療等の機微な個人情報を暴露・強要しないことも研修に含めてください。経営者・役員自身も研修の例外ではありません。労働施策総合推進法32条3項は、事業主(法人の場合はその役員)に対しても、自らパワハラに対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うよう努めることを求めています。管理職層を中心に職階別に分けて、定期的かつ職場の実態に応じて実施することが重要です。

パワハラの相談窓口を設置し、相談しやすい環境を整える

パワハラについて相談できる窓口を設置し、相談者がパワハラかどうか判断できない段階でも相談できる体制を整えておくことが重要です。窓口の連絡先や利用方法を従業員に周知し、相談しやすい環境を整えることも重要です。

また、相談窓口を設置するだけでは十分ではありません。相談担当者が相談内容や状況に応じて適切に対応できるよう、必要な研修を行うとともに、対応マニュアルを整備することが求められます。

たとえば、相談を受けた担当者だけで判断するのではなく、必要に応じて人事部門や責任者と連携できる仕組みを整えておきましょう。相談を受けた場合の対応手順をマニュアルにまとめておけば、担当者による対応のばらつきも抑えやすくなります。

相談者や行為者のプライバシーを保護するためのルールも必要です。特に、性的指向・ジェンダーアイデンティティ、病歴、不妊治療などの機微な個人情報については、本人の同意なく第三者に伝えることがないよう、情報の取扱いに関する規定を定めておきます。

また、相談したことや、事実確認に協力したことを理由として、不利益な取扱いをすることは禁止されています(労働施策総合推進法31条2項)。この禁止についても従業員に周知し、安心して相談できる環境を整えることが大切です。

相談窓口は、必ずしも社内に設置する必要はありません。社内の人には相談しにくい、専任の担当者を置くことが難しいといった場合には、弁護士や社会保険労務士などの外部機関に相談窓口を委託することも可能です。外部に委託することで、担当者の教育にかかる負担を抑えながら、専門的な対応を受けられるというメリットもあります。

なお、2026年10月1日からは、カスタマーハラスメントおよび求職者等に対するセクシュアルハラスメントに関する相談体制の整備などが事業主の義務となります(令和7年法律第63号)。これから相談窓口を整備する場合は、パワハラだけを対象とするのではなく、他のハラスメントについても一元的に相談できる体制を検討するとよいでしょう。

パワハラが起きる前に弁護士へ相談する

法律上の義務ではありませんが、パワハラ防止のために事業主に求められている措置を適切に整えるため、自社の判断で弁護士に相談することも有効です。問題が起きてから対応するのではなく、平時から法的なアドバイスを受けておくことで、問題発生時の判断ミスや対応の遅れを防ぎやすくなります。

弁護士には、たとえば次のような相談ができます。

  • 就業規則やパワハラ防止規程の整備
  • 相談窓口の設計や外部窓口の受託
  • 管理職研修の内容や実施方法
  • パワハラに該当するか判断が難しいケースへの対応
  • 問題発生時の事実確認や調査方法
  • 懲戒処分の内容や手続き
  • 会社としてどこまで対応すべきかの判断

就業規則を変更する場合は、内容を作成するだけでなく、法律上の手続きにも注意が必要です。

  • 「常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする」(労働基準法89条)。
  • 「使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない」(労働基準法90条1項)。
  • 「使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない」(労働基準法90条2項)。

「規程を作ったものの、意見聴取も届出もしていなかった」というケースは珍しくないため、弁護士に対応漏れがないか確認してもらうことが重要です。

職場のパワハラを放置するリスクとは?

パワハラを放置すると、被害を訴える従業員だけでなく、自社の法的責任、人材定着、取引関係、行政対応に影響します。問題を把握した後の初動が、責任の範囲を左右することがあります。

被害者から会社が損害賠償を請求されるおそれがある

パワハラに関する防止措置や相談後の対応を怠った場合には、行為者本人だけでなく会社の損害賠償責任が問題となり得ます。

行為者には民法709条の不法行為責任が、会社側には民法715条の使用者責任が問題となる場合があります。また、使用者は従業員が生命・身体等の安全を確保しつつ働けるよう必要な配慮をする義務を負います(労働契約法5条)。義務違反があれば、債務不履行に基づく損害賠償責任(民法415条)が問われる可能性があります。

損害には、治療費や休業損害などの財産的損害に加え、精神的損害に対する慰謝料が含まれます。アンケート、面談、相談窓口などを通じて問題を知りながら、適切な調査・是正をしなかったなどの事情は、会社にとって不利な事情として考慮されるおそれがあります。

会社が被害者に賠償した後に行為者へ求償する余地はありますが(民法715条3項)、必ずしも全額を請求できるとは限りません。事業の性質・規模、従業員の業務内容や労働条件、行為の態様などを踏まえ、信義則上相当な範囲に制限されます。

労災請求や労働基準監督署の調査につながるおそれがある

パワハラを原因として従業員が精神障害を発症した場合、労災認定が問題となることがあります。

厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」には、パワーハラスメントが具体的出来事として明記されています。令和5年9月の改正では、心理的負荷評価表において、パワーハラスメントの6類型それぞれについての具体例が示されたほか、顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた場合(カスタマーハラスメント)も具体的出来事として追加されています。従業員から労災請求があれば、労働基準監督署による調査への対応が必要となり、関係資料の提出や説明に相応の負担が生じます。

なお、心理的負荷による精神障害の認定要件は、以下のとおりです。

次に挙げるいずれの要件も満たす対象疾病は、労働基準法施行規則別表第1の2第9号に該当する業務上の疾病として取り扱う。

  • 対象疾病を発病していること
  • 対象疾病の発病前おおむね6カ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
  • 業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと

出典:心理的負荷による精神障害の認定基準について(基発0901第2号(令和5年9月1日))|厚生労働省

なお、認定要件の具体的判断(発病等の判断、業務による心理的負荷の強度の判断、業務以外の心理的負荷及び個体側要因による発病でないことの判断)などについては、上記厚生労働省の資料をご確認ください。

従業員の離職や職場環境の悪化につながる

パワハラは被害を訴える従業員だけでなく、周囲の従業員の意欲、定着、職場全体の生産性にも影響します。相談しても自社が対応しないという印象が広がれば、被害者だけでなく、周囲の従業員も離職を検討する可能性があります。

厚生労働省も「ハラスメントは個人としての尊厳や人格を不当に傷つける、行ってはならない行為です。また、これに起因する問題としては、労働者の意欲の低下等による職場環境の悪化や職場全体の生産性の低下、労働者の健康状態の悪化、休職や退職等につながり得ること、これらに伴う経営的な損失等様々なものがあります。」としています。

会社の信用や社会的評価が低下するおそれがある

パワハラ問題が社外に知られると、会社の信用や社会的評価が低下するおそれがあります。

近年は、取引先や元請からハラスメント対策の実施状況について確認を求められるケースが増えています。人権尊重の取り組みをサプライチェーン全体で確認する動きが背景にあります。

社外から問われるのは、パワハラがあったという事実だけではなく、会社が問題を把握した後にどのように対応したかという点も含まれます。対応の遅れや、問題を隠そうとするように受け取られる対応は、会社の評価に影響する場合があります。

また、SNSや口コミ、報道などを通じて問題が広がれば、採用活動や取引先との関係に影響することもあるでしょう。

一方で、会社の信用低下を防ぐためであっても、問題となった投稿や通報に対して直ちに処分や口止めを行うことは避けてください。相談したことや事実確認に協力したことを理由とする不利益な取扱いは、法律上禁止されています(労働施策総合推進法31条2項)。

また、一定の要件を満たす公益通報については、公益通報者保護法による保護の対象となる場合があります。たとえば、パワハラの中に暴行や傷害などの犯罪行為が含まれている場合、その事実を外部へ通報することが公益通報に該当する可能性があります。

公益通報に該当する場合、通報を理由とする解雇は無効となるほか(公益通報者保護法3条)、降格や減給などの不利益な取扱いが禁止されます(同法5条1項)。さらに、公益通報をしたことによって生じた損害について、通報者に損害賠償を請求することもできません(同法7条)。

ただし、公益通報者保護法による保護を受けられるかどうかは、通報の内容や通報先などの要件によって異なります。個別のケースで保護の対象となるかを慎重に確認することが必要です。

行政から勧告を受け、公表されるおそれがある

厚生労働大臣は、措置義務に違反している事業主に対して助言・指導・勧告をすることができ、勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができます(労働施策総合推進法42条1項・2項)。

措置義務に違反したこと自体に刑事罰(罰金・拘禁刑)はありませんが、厚生労働大臣から報告を求められたのに報告をしない、または虚偽の報告をした場合は、20万円以下の過料に処せられます(同法45条1項・51条)。そして、勧告に従わなければ公表されます(同法42条2項)。

勧告に従わない場合「公表によって行政から勧告を受けても従わなかった」という事実が社外に知られることになります。その結果、会社の信用や社会的評価に影響する可能性があり、採用活動や取引先との関係などにも影響が及ぶおそれがあります。

パワハラの類型に関してよくある質問(Q&A)

パワハラをした従業員を解雇してもいい?

パワハラが確認されたとしても、行為者を直ちに解雇できるわけではありません。就業規則上の根拠があるか、行為の内容・程度に対して処分が重すぎないかなどを個別に検討する必要があります。

具体的には、暴行の有無、発言の悪質性、行為の回数・期間、被害の程度や影響範囲、過去の指導歴、本人の反省などを確認します。懲戒処分は労働契約法15条、解雇は同法16条に基づき、その有効性が判断されます。

また、処分を決める際には手続き面も重要です。相談者の話だけで判断せず、客観的な資料を確認するとともに、行為者にも弁明の機会を与える必要があります。就業規則に弁明の機会について定めがある場合は、その手続きに従うことが必要です。規定がない場合でも、弁明の機会を与えずに懲戒処分を行うと、手続きの相当性を欠くと判断されるおそれがあります。

処分の種類によっては、法律上の制限にも注意が必要です。たとえば、減給の制裁には労働基準法91条による上限があります(詳しくは「4-2. パワハラの禁止や処分に関するルールを定める」を参照)。また、一度懲戒処分を行った同じ行為について、後からさらに重い懲戒処分を行うことは、原則としてできません。「まず軽い処分をして、後から重い処分に変更する」といった対応は避ける必要があります。

懲戒解雇について、労働基準法20条1項は、労働者を解雇する場合、少なくとも30日前に予告をするか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払うことを義務づけています。「労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」はこの限りではありませんが、その場合には所轄労働基準監督署長の認定(解雇予告除外認定)を受ける必要があります(同条3項、19条2項)。「懲戒解雇だから即日辞めてもらった。予告手当も払っていない」という対応は、認定を受けていなければ労基法違反になります。

さらに、懲戒処分の内容を社内に公表する場合も注意が必要です。再発防止などの目的があっても、必要な範囲を超えて行為者の氏名や具体的な事情を公表すると、プライバシー侵害や名誉毀損などの問題が生じるおそれがあります。

グレーゾーンでパワハラかどうか判断できない場合はどうすればいい?

「グレーだから何もしない」という対応は避け、事実確認と職場環境の改善を速やかに行うべきです。相談者・行為者・第三者の説明、メール、チャット、録音、業務記録を確認し、1章で説明したパワハラの3要素を順に検討します。目的、必要性、態様、頻度、継続期間、従業員側の問題行動の内容・程度などを一面的に見ず、全体として評価することが重要です。

調査しても事実関係がはっきりしなかった場合でも、相談者へ結果と理由をフィードバックし、研修や方針の再周知など再発防止策を講じます。「パワハラではない」と判断した場合も、そう判断した理由を相談者に説明することが会社の対応として必要となります。

会社にとってのリスクを抑えるためにも、判断が難しいケースを担当者だけで処理しないことが重要です。事実認定や処分の判断に迷う場合は、弁護士に相談し、調査の進め方や会社として取るべき対応について助言を受けることも検討しましょう。

業務上の細かい指摘はパワハラにあたる?

業務上必要な注意・指導であれば、細かい指摘であっても直ちにパワハラにはなりません。判断にあたり重要なのは、指導目的だけでなく、方法・態様が相当かどうかです。

ミスの内容を示し、改善期限や支援策を具体的に伝えることは通常の業務指導です。他方で、人格を否定する、必要以上に長時間叱責する、大勢の前で執拗に怒鳴るといった方法は、たとえ指導の契機があってもパワハラになり得ます。

管理職には、注意の目的、伝え方、場所、時間、記録を意識させることが有効です。

中小企業にもパワハラ防止措置の義務がある?

企業規模を問わず、すべての事業主にパワハラ防止措置の義務があります。

パワハラの措置義務は、大企業は2020年6月1日から、中小企業は2022年4月1日から義務化されており、現在はすべての事業主が対象です。中小企業など人員に限りがある場合でも、相談窓口の外部委託や専門家の活用を含め、自社に合った体制を整える必要があります。

パワハラの証拠として録音を提出された場合はどう対応すればいい?

パワハラに関する言動を録音したデータが提出された場合は、無断で録音されたという理由だけで証拠から排除するのではなく、録音の内容や前後の経緯、文字起こしの内容、他の資料との整合性などを確認することが重要です。

録音には会話の一部しか記録されていない場合もあるため、録音だけでパワハラの有無を判断するのではなく、関係者への聞き取りやメール、チャット、業務記録なども含めて総合的に確認します。

一方で、録音の内容が具体的で、メールやチャット、勤怠記録などの客観的な資料とも一致している場合は、パワハラの事実を確認するうえで重要な資料となります。提出された録音データは、改変や無断拡散を防ぐため適切に管理し、閲覧できる担当者を必要な範囲に限定することも大切です。

また、録音には相談者だけでなく、行為者や他の従業員の発言が含まれている場合があります。調査の過程で録音を共有する際には、関係者のプライバシーにも配慮し、必要以上にデータを共有しないよう注意しましょう。

録音の内容や取得経緯を含め、証拠としてどのように扱うべきか判断が難しい場合は、弁護士に相談することも検討してください。

まとめ パワハラを確認したら早めに弁護士に相談を

厚生労働省が示すパワハラの6類型は、自社で問題の兆候を見つけるために役立ちます。ただし、実際の該当性は、優越的関係、業務上の必要性・相当性、就業環境への影響を、具体的な事実から総合的に判断します。

従業員から相談を受けた場合、最初から「パワハラではない」と決めつけたり、相談者の意向を確認せずに行為者へ聴取したりすることは避けるべきです。相談後の対応の不備自体が、会社の責任を問われる事情になり得ます。

就業規則・懲戒規定、相談窓口、研修、調査手順は、問題が深刻化してから整えるよりも、日頃から制度設計しておくほうが負担を抑えやすいケースが多いです。パワハラに当たるかの判断、調査の進め方、行為者への処分、相談者への配慮に迷う場合は、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。

「VSG弁護士法人」では、企業側の労働問題に関する豊富な実績をもとに、パワハラへの対応から労働審判・訴訟、再発防止のための労務管理まで幅広くサポートしています。労働トラブルでお困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。

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