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労働問題に強いVSG弁護士法人(使用者側専門) > コラム > パワハラセクハラ > ハラスメントにあたる言葉一覧|企業側のリスク管理のポイントを解説

ハラスメントにあたる言葉一覧|企業側のリスク管理のポイントを解説

弁護士 川﨑公司

この記事の執筆者 弁護士 川﨑公司

東京弁護士会所属。新潟県上越市出身。
労働問題は、一歩対応を誤れば損害賠償だけでなく、企業の信用失墜や従業員の士気低下、ひいては経営基盤を揺るがす重大なリスクとなります。
私は、野村證券をはじめとする金融機関で10年以上にわたり、リテール営業からコンサルティング、金融庁との折衝やリスク管理まで、多方面の業務に従事してまいりました。これらの経験から、企業の数字と法務は密接にリンクしており、労働問題を「点」ではなく「経営の一部」として捉えることの重要性を痛感しております。
経営者側の立場に立ち、財務分析や資金調達の観点も含めた戦略的なアドバイスを行うことが私の強みです。単に紛争を解決するだけでなく、組織の持続的な発展を見据えた強固なガバナンス構築のお手伝いをいたします。経営者の皆様の良き相談相手として、誠実かつ論理的にサポートさせていただきます。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/kawasaki/

職場で「〇〇ハラスメント」と言われた場合の法的判断基準や、企業に措置義務がある類型、放置による損害賠償リスクと予防策について弁護士へ相談を検討している人事担当者のイメージ画像

この記事でわかること

  • 【2026年最新版】ハラスメントにあたる可能性がある言葉一覧
  • 企業側のハラスメント対策における注意点
  • ハラスメント対策を放置するリスク

「〇〇ハラスメントだと言われたが、これは本当にハラスメントなのか」「どこまで会社が対応しなければならないのか」。人事・総務の担当者として、こうした判断を迫られる場面が増えています。

先に押さえておきたいのは、ハラスメントと呼ばれる言動のうち、法律が会社に対応を義務づけているものは限られているという点です。ハラスメントという名称が付いている言動であっても、直ちに法律上のハラスメントに該当するわけではなく、具体的な言動や状況に応じて判断する必要があります。

一方で、義務の有無にかかわらず、相談を受けた後に自社がどう動いたかは、後から会社の責任を問われる場面で問題になる可能性があります。どの類型にあたるのか、どこまで調査するのか、処分をどうするのかといった判断は、初動の段階で弁護士に相談しながら進めることで、企業側の対応に伴うリスクを抑えやすくなります。

この記事では、ハラスメントにあたる言葉の一覧と、企業に法律上の措置義務がある類型、対応にあたっての注意点について弁護士が解説します。

目次

ハラスメントとは?

ハラスメントとは、相手に対する嫌がらせや迷惑行為の総称です。職場では、立場や関係性を利用した言動などによって従業員の就業環境が害されることが問題になります。

ハラスメントに明確な法律上の定義があるわけではない

「ハラスメント」という名称が付いている行為すべてが、直ちに法律上違法になるわけではありません。

「ハラスメント」という言葉自体を定義した法律はなく、後述するパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントなど、個別の法律が定義を置いている類型があるにとどまります。したがって、ある言動が問題になるかどうかは、呼び名ではなく、行為の内容や目的、頻度、相手との関係性、就業環境への影響などを踏まえて各要件に該当するかどうかを判断することになります。

企業に義務づけられているハラスメント対策

各種法律は、ハラスメントの類型ごとに、事業主が雇用管理上講ずべき措置を義務づけています。

2026年10月現在、事業主に措置義務があるのは次の類型です。

  • パワーハラスメント:労働施策総合推進法31条
  • セクシュアルハラスメント:男女雇用機会均等法11条
  • 妊娠・出産等に関するハラスメント:男女雇用機会均等法15条
  • 育児休業等・介護休業等に関するハラスメント:育児・介護休業法25条

※この記事では、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律を「男女雇用機会均等法」、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律を「育児・介護休業法」と呼びます。

そして、厚生労働省による各指針が事業主に共通して求めている措置は、主に次の4つに整理できます。

① 事業主の方針等の明確化およびその周知・啓発
② 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
③ 事後の迅速かつ適切な対応
④ 併せて講ずべき措置(相談者・行為者等のプライバシー保護、不利益取扱いの禁止の周知等)

自社のハラスメント体制を確認・整理する際は、この4つを基準にすると漏れが出にくくなります。たとえば、「相談窓口は設置したが、就業規則に方針を書いていない」「方針は掲げたが、従業員に周知していない」という状態は、①②を満たしていないと評価されるおそれがあります。

2026年10月1日から措置義務の対象が広がる

労働施策総合推進法等の一部を改正する法律(令和7年法律第63号)により、いわゆるカスタマーハラスメントと求職者等に対するセクシュアルハラスメントについても、防止措置が事業主の義務になりました(労働施策総合推進法33条、男女雇用機会均等法13条)。

これまで社内の従業員間の問題として設計されていたハラスメント対応の枠組みが、社外からの言動と、まだ自社の従業員ではない人に対する言動にまで広がることになります。自社の相談窓口が従業員専用になっている場合や、就業規則にカスタマーハラスメントの記載がない場合は、規程と窓口の設計を見直す必要があります。

なお、この改正では条文番号の繰り下げも行われます。たとえば、パワーハラスメントの措置義務は30条の2から31条に、行政の助言・指導・勧告および公表の規定は33条から42条に移ります。社内規程や研修資料に条文番号を引用している場合は、あわせて確認し修正しておくことをおすすめします。

【2026年最新版】ハラスメントにあたる可能性がある言葉一覧とは?

「〇〇ハラスメント」という言葉は多数存在しますが、法律上、事業主に措置義務が課されているものはその一部です。また、同じハラスメントと呼ばれる行為でも、具体的な言動や状況によって、法律上問題となるかどうかは異なります。

企業側としてまず整理しておきたいのは、次の2つの区別です。

(1)法律が事業主に措置義務を課している類型(対応しないこと自体が法令違反になり得るもの)
  • パワーハラスメント(労働施策総合推進法31条)
  • セクシュアルハラスメント(男女雇用機会均等法11条)
  • マタニティハラスメント(同法15条)
  • パタニティハラスメント/ケアハラスメント(育児・介護休業法25条)
  • カスタマーハラスメント(労働施策総合推進法33条)
  • 求職者等に対するセクシュアルハラスメント(男女雇用機会均等法13条)
(2)法律上の定義がないハラスメント(呼び名ではなく、実際の言動がパワーハラスメントなどの要件を満たすかによって判断されるもの)
  • モラルハラスメント(モラハラ)
  • エイジハラスメント(エイハラ)
  • リストラハラスメント(リスハラ)
  • テクノロジーハラスメント(テクハラ)
  • 時短ハラスメント(ジタハラ)
  • リモートハラスメント(リモハラ)
  • アカデミックハラスメント(アカハラ)
  • アルコールハラスメント(アルハラ)
  • カラオケハラスメント(カラハラ)
  • スモークハラスメント(スモハラ)
  • スメルハラスメント(スメハラ)
  • 就活終われハラスメント(オワハラ)
  • ハラスメントハラスメント(ハラハラ)
  • ロジックハラスメント(ロジハラ)
  • エンジョイハラスメント(エンハラ)
  • ワクチンハラスメント(ワクハラ)
  • フォトハラスメント(フォトハラ)

以下では、この区別を前提として、実際のケースで耳にするハラスメントを場面ごとに整理します。

なお、ハラスメントの呼称には、報道やインターネット上で広まった俗称も多く、「時短ハラスメント」「就活終われハラスメント」など、表記もさまざまです。こうした呼称は法律上の統一された類型ではなく、実際の言動や状況に応じて判断する必要があります。

職場で問題になりやすいハラスメント(パワハラ・セクハラ)

社内で相談が多いのは、「パワーハラスメント」と「セクシュアルハラスメント」です。いずれも措置義務の対象であり、判断の枠組みは厚生労働省の指針(令和2年厚生労働省告示第5号)で示されています。

パワハラ|パワーハラスメント

職場におけるパワーハラスメントとは、次の3つの要素をすべて満たす言動をいいます。労働施策総合推進法31条に基づき、事業主にはパワーハラスメントを防止するための措置が義務づけられています。

① 優越的な関係を背景とした言動
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
③ 労働者の就業環境が害されるもの

厚生労働省の指針(令和2年厚生労働省告示第5号)では、職場におけるパワーハラスメントの典型的な類型について、「該当すると考えられる例」と「該当しないと考えられる例」をセットで示しています。

類型該当すると考えられる例該当しないと考えられる例
(1)身体的な攻撃(暴行・傷害)殴打、足蹴りを行うこと誤ってぶつかること
(2)精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)人格を否定するような言動を行うこと(相手の性的指向・ジェンダーアイデンティティに関する侮辱的な言動を行うことを含む)遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意をすること
(3)人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりすること新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に別室で研修等の教育を実施すること
(4)過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずること労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せること
(5)過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせること労働者の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減すること
(6)個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)労働者の性的指向・ジェンダーアイデンティティや病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること、または当該労働者が開示することを禁止するもしくは強要すること労働者の了解を得て、当該労働者の性的指向・ジェンダーアイデンティティや病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促すこと

この表は、個別の事案におけるすべての判断を網羅するものではありません。同じ言動でも、目的、必要性、態様、頻度、当事者の関係によって評価は変わります。自社の事案にあてはめる際は、前後の経緯を含めて検討してください。

なお、厚生労働省が示すパワーハラスメント6類型と、トラブルが発生した場合の具体的な対応の流れは関連記事『パワハラの6類型とは?具体例や会社側の予防・解決方法を解説』で詳しく解説しています。

セクハラ|セクシュアルハラスメント

職場におけるセクシュアルハラスメントは、労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応によりその労働者が労働条件について不利益を受けたり、性的な言動により就業環境が害されることです。男女雇用機会均等法11条に基づき、事業主にはセクシュアルハラスメントを防止するための措置が義務づけられています。

セクハラは、大きく「対価型」と「環境型」に分けられます。

対価型
性的な言動を拒否したり抵抗したりしたことを理由として、解雇、降格、減給、配置転換などの不利益を受けるもの
環境型
性的な言動によって職場環境が不快なものとなり、仕事をするうえで看過できない程度の支障が生じるもの

たとえば、上司が部下に性的な関係を求め拒否されたことを理由に不利益な配置転換をする行為は「対価型セクハラ」、職場で性的な内容の発言を繰り返したり必要なく身体に触れたりすることで労働者が働きづらい状況になる場合は「環境型セクハラ」にあたる可能性があります。

セクハラは、女性から男性、男性から女性に対する言動だけが対象ではありません。同性に対する言動も含まれ、性的指向や性自認にかかわらず「性的言動」であればセクハラに該当する可能性があります。

職場で問題になりやすいその他のハラスメント

実際の職場では、パワハラやセクハラ以外にも様々なハラスメントが問題になるケースがあります。ここに挙げるハラスメントに法律上の定義はありませんが、実際の言動がパワハラの3要素を満たせば、呼び名にかかわらず措置義務のあるパワーハラスメントに該当する可能性があります。

モラハラ|モラルハラスメント
言葉や態度による精神的な攻撃を指します。もともと家庭内(夫婦間)の文脈で使われることが多い単語ですが、人格や能力を否定する発言を繰り返したり、挨拶や話しかけを意図的に無視する場合、「精神的な攻撃」としてパワハラに該当する可能性があります。
エイハラ|エイジハラスメント
年齢を理由とする嫌がらせや差別的な言動を指します。「その年でこの程度しかできないのか」など、年齢を理由に人格や能力を否定する発言を繰り返せば、パワーハラスメントの「精神的な攻撃」にあたり得ます。
リスハラ|リストラハラスメント
退職させることを目的として、嫌がらせや不利益な扱いをすることを指します。退職勧奨そのものは直ちに違法となるわけではありませんが、執拗に退職を迫るなど、社会通念上の相当性を超えれば違法な退職強要と評価されるおそれがあります。また、仕事を与えないなどの対応は、パワーハラスメントの「精神的な攻撃」や「過小な要求」にあたり得ます。
テクハラ|テクノロジーハラスメント
IT機器やシステムの操作に不慣れな従業員に対する嫌がらせや、高圧的な言動などを指します。「こんなこともできないのか」などと侮辱したり、本人の能力を超える対応を一方的に求めたりする行為は、パワーハラスメントの「精神的な攻撃」や「過大な要求」にあたり得ます。
ジタハラ|時短ハラスメント
従業員に早く帰るよう求めながら、業務量や人員を調整しないなどの対応を指します。業務が終わらないまま退勤を強制すれば、持ち帰り残業やサービス残業につながるおそれがあり、労働時間の適正な把握や残業代の支払いなど、労働基準法上の問題につながる場合があります。
リモハラ|リモートハラスメント
在宅勤務やオンラインでの業務中に、過度な監視や私生活への干渉などを行うことを指します。テレワーク中であっても、業務に関連して行われる言動がパワーハラスメントなどに該当する場合があります。自宅で勤務していることだけを理由に、職場でのハラスメントにあたらないと判断することはできません。
アカハラ|アカデミックハラスメント
大学や研究機関などで、教育・研究上の立場を利用して行われる嫌がらせや不適切な言動を指します。一般企業では直接問題になる場面は限られますが、大学・研究機関との共同研究や実習生の受入れなどを行っている場合には、自社の従業員が関係するケースもあります。

相談を受けた段階で「その呼び名は法律上の類型ではないから、対応する必要はない」と判断してしまうと、実際の言動がパワーハラスメントなどに該当していた場合、必要な措置を講じなかったことが問題となるおそれがあります。ハラスメントの呼称だけで判断せず、まずは実際にどのような言動があったのかを確認することが重要です。

妊娠・出産・育児・介護に関するハラスメント

この3つは、いずれも法律上の措置義務があるハラスメントです。

マタハラ|マタニティハラスメント
妊娠・出産や、妊娠・出産に関する制度の利用などを理由とする嫌がらせや不利益な言動を指します。女性労働者に対する妊娠・出産等に関するハラスメントについては、男女雇用機会均等法15条に基づき、事業主に防止措置が義務づけられています。
パタハラ|パタニティハラスメント
男性労働者が育児休業や出生時育児休業などの制度を利用すること、または利用しようとすることに対する嫌がらせや不利益な言動を指します。育児・介護休業法25条に基づき、事業主には育児休業等に関するハラスメントを防止するための措置が求められています。
ケアハラ|ケアハラスメント
男女を問わず、労働者が介護休業や介護休暇などの制度を利用すること、または利用しようとすることに対する嫌がらせや不利益な言動を指します。パタハラと同様に、企業には育児・介護休業法25条に基づく措置義務が課されます。

実際の場面で見落とされやすいのが、制度を利用していない従業員への言動です。厚生労働省は、育児・介護の制度を利用していない労働者に対する次のような言動も、パワーハラスメントに該当する可能性があるとしています。

  • 「配偶者が妊娠しており体調が悪いため、上の子どもの世話が必要であることを理由に残業しないのは、迷惑だ」と皆の前で怒鳴りちらす行為
  • 「小さい子どもがいることを理由にすぐに帰るからまともな仕事はさせられない」と仕事から外す行為

参照:厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」

「各種制度を申請していないから、マタハラ・パタハラにはあたらない」と判断して対応を終えると、パワーハラスメントに該当する可能性を見落とすおそれがあります。相談を受けた際は、制度利用の有無だけで判断せず、実際にどのような言動があったのかを確認することが重要です。

社外からの言動によるハラスメント

カスタマーハラスメントは、2026年10月1日から事業主の措置義務の対象になります(労働施策総合推進法33条)。

厚生労働省の指針(令和8年厚生労働省告示第51号)では、カスタマーハラスメントにあたるためには、次の3つの要素をすべて満たす必要があるとしています。

① 顧客等による言動であること
② 社会通念上許容される範囲を超えていること
③ その言動によって労働者の就業環境が害されること

実務上、特に判断が難しいのが②の「社会通念上許容される範囲」です。

上記指針では、「言動の内容」と「手段・態様」のいずれかが社会通念上許容される範囲を超えている場合、カスタマーハラスメントに該当し得るとされています。たとえば、商品やサービスについて正当な要求をしていたとしても、大声で従業員を威圧する、同じ要求を執拗に繰り返す、長時間にわたって拘束するといった方法を取れば、カスタマーハラスメントにあたる場合があります。

一方、社会通念上許容される範囲で行われる苦情や要望まで、カスタマーハラスメントになるわけではありません。障害のある顧客等から合理的配慮を求める申出についても、直ちにカスタマーハラスメントと判断することはできず、関係する法令や指針を踏まえて個別に対応する必要があります。

また、カスタマーハラスメントの対象となる「顧客等」には、一般消費者だけでなく、今後取引をする可能性のある者、今後施設を利用する可能性がある者なども含まれます。そのため、一般消費者を相手にしていない企業であっても、カスタマーハラスメント対策が必要になる場合があります。

「職場」の範囲も、通常の勤務場所だけに限られません。従業員が業務を行う場所であれば、取引先の事務所や打合せ先の飲食店、顧客の自宅なども含まれます。

社内のハラスメントと大きく異なるのは、行為者が自社の従業員ではなく、自社の指揮命令下にない顧客や取引先などである点です。企業側では、現場の従業員だけに対応を任せない仕組みを作っておくことが重要です。たとえば、管理職への引継ぎ、複数人での対応、一定の場合の対応中止、警告文の発出、出入禁止、警察への通報、仮処分の申立てなど、状況に応じた対応方法をあらかじめ決めておくことが考えられます。

飲酒・喫煙・においなど職場環境に関わるハラスメント

アルハラ、スモハラ、スメハラには、法律上の独立した定義はありません。ただし、ハラスメントの内容によっては、職場環境や従業員の健康、安全に関する企業の対応が求められる場合があります。

アルハラ|アルコールハラスメント

アルコールハラスメントとは、飲酒の強要や、飲酒できない人への配慮を欠いた言動などを指します。たとえば、上司が部下に飲酒を強要する行為は、状況によってパワーハラスメントの「過大な要求」にあたる場合があります。

また、勤務時間外の懇親会であっても、実質的に職務の延長と考えられる場合は、パワーハラスメントにおける「職場」に含まれます。「勤務時間外の飲み会だから職場でのハラスメントにはあたらない」とは一概に判断できません。

カラハラ|カラオケハラスメント
カラオケハラスメントとは、本人が歌いたくないにもかかわらず、カラオケでの歌唱を強要するなどの言動を指します。職場の懇親会などで上司が部下に対して繰り返し歌唱を強要するなど、立場を利用して拒否しにくい状況を作れば、パワーハラスメントとして問題になる場合があります。

スモハラ|スモークハラスメント

スモークハラスメントとは、喫煙や受動喫煙をめぐる嫌がらせや、周囲の従業員への配慮を欠いた喫煙行為などを指します。

受動喫煙については、健康増進法により、事務所などの第二種施設について原則として屋内禁煙とするなど、施設の管理権原者等に一定の措置が求められています。また、労働安全衛生法68条の2では、事業者に対して、労働者の受動喫煙を防止するための措置を講じる努力義務が定められています。

スモハラについては「ハラスメントにあたるか」だけでなく、会社として受動喫煙を防止するための環境を整備できているかという観点からも対応する必要があります。

スメハラ|スメルハラスメント

スメルハラスメントとは、体臭や口臭、香水、柔軟剤などの「におい」をめぐって職場で問題となる言動を指します。

他の類型と異なり、においの原因となっている本人への伝え方自体が問題になりやすい点に注意が必要です。においの原因には、体質や健康上の事情、服用している薬などが関係している場合もあるため、本人の生活習慣や衛生状態の問題だと決めつけて対応することは適切ではありません。

多数の従業員がいる前で本人のにおいについて指摘したり、同じ内容を繰り返し注意したりすると、その対応自体がパワーハラスメントの類型における「精神的な攻撃」や「個の侵害」と評価される場合があります。

就職活動に関するハラスメント

就職活動に関するハラスメントで特に重要なのが、求職者等に対するセクシュアルハラスメントです。前述したように、2026年10月1日から、事業主には、求職者等に対するセクシュアルハラスメントを防止するための措置が義務づけられました(男女雇用機会均等法13条)。

対象となる「求職者等」には、採用面接や就職説明会に参加する人だけでなく、インターンシップ生、教育実習生、看護実習生なども含まれます。つまり、自社の従業員ではない人に対する言動についても、企業として防止措置を講じる必要があります。

特に注意したいのが、採用活動を人事部門だけで行っているとは限らない点です。現場の従業員が面接や会社説明会を担当したり、リクルーターが学生と個別に連絡を取ったりする企業では、誰が求職者等と接触しているのかを把握しておく必要があります。また、求職者等がハラスメントについて相談できる窓口を確認できるよう、相談方法を分かりやすく示しておくことも重要です。

オワハラ|就活終われハラスメント

オワハラとは、内定を出す条件として他社の選考を辞退するよう求めるなど、就職活動を終えるよう求める言動を指します。法律上の独立したハラスメント類型ではありませんが、採用活動における企業側の言動として問題になる場合があります。

たとえば、「今ここで他社の選考を辞退するなら内定を出す」「他社の面接を受けるなら内定は出さない」など、求職者に対して強く辞退を迫る行為です。採用するかどうかは企業側の判断に委ねられる一方、求職者の職業選択の自由にも関わるため、過度な圧力をかけることは避ける必要があります。

その場で他社の選考を辞退させた場合、後になって求職者から内定を辞退されたり、採用活動に関する経緯が外部に共有されたりすることで、企業側の採用活動に影響が及ぶこともあります。内定を出す際は、他社の選考状況を確認することと、求職者に選考辞退を強制することを区別して対応することが重要です。

その他のハラスメント

ここまで紹介したもの以外にも、「○○ハラスメント」と呼ばれるさまざまな言葉があります。

ハラハラ|ハラスメントハラスメント

ハラハラとは、業務上必要な指導や注意に対して、過度に「ハラスメントだ」と主張する言動を指して使われる言葉です。

ただし、従業員から「ハラスメントではないか」と相談されたことだけを理由に、単なる言いがかりとして扱うことは適切ではありません。指導が必要なものであったとしても、その方法や態様が相当な範囲を超えていれば、パワーハラスメントに該当する場合があります。

企業側としては、指導する側と受ける側のどちらか一方の説明だけで判断せず、具体的な発言内容や前後の経緯、指導の必要性などを確認することが重要です。なお、業務上の指導を「ハラスメントだ」と言われた場合の対処法については「6-3. 業務上の指導を「ハラスメントだ」と言われたらどうすればいい? 」で説明しています。

ロジハラ|ロジックハラスメント

ロジハラとは、正論や論理的な説明を一方的に押し付け、相手を追い詰めるような言動を指して使われる言葉です。

仕事上の指摘や説明の内容が正しい場合でも、必要以上に厳しい言い方をしたり、長時間にわたって叱責したりするなど、伝え方や態様によってはパワーハラスメントが問題になる場合があります。厚生労働省の指針(令和2年厚生労働省告示第5号)では、「必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う」言動をパワハラにおける「精神的な攻撃」の該当例としています。

「言っている内容が正しいか」と「その伝え方が相当か」は別の問題として考える必要があります。

エンハラ|エンジョイハラスメント

エンハラとは、「仕事は楽しむべき」という価値観を一方的に押し付け、それに沿わない従業員を否定したり、無理に参加させたりする言動を指して使われる言葉です。

「仕事を楽しむこと」を会社の方針として掲げること自体に問題があるわけではありません。ただし、従業員に特定の価値観を押し付け、拒否しにくい状況で参加を強制するなど、具体的な言動や状況によっては別のハラスメントとして問題になる場合があります。

ワクハラ|ワクチンハラスメント

ワクハラとは、ワクチン接種を強要したり、接種していないことを理由として不利益な取扱いをしたりする言動を指します。

ワクチンを接種するかどうかは、原則として本人が判断する事柄です。そのため、業務上必要な範囲を超えて接種を強制したり、接種していないことだけを理由として不利益な取扱いをしたりすることには注意が必要です。感染症対策として接種を求める場合も、必要性や代替措置の有無などを踏まえて慎重に検討する必要があります。

フォトハラ|フォトハラスメント

フォトハラとは、本人の同意なく写真を撮影したり、その写真をSNSなどに投稿したりする行為を指して使われる言葉です。

職場の懇親会や社内イベントなどで撮影した写真を、本人の確認なく社内外に共有したり、SNSに投稿したりすると、プライバシーや肖像権などの問題につながる場合があります。会社として撮影やSNSへの投稿に関するルールを定め、従業員に周知しておくことが予防につながります。

企業側のハラスメント対策における注意点とは?

相談を受けた後にどう動いたかによって、会社の責任の有無が分かれます。

ハラスメントの相談を受けた場合の基本的な流れは「一次対応(相談の受付と事実の聞き取り)」「事実確認(当事者・関係者からの聴取と客観的資料の確認)」「対応の検討(懲戒処分、配置転換、注意・指導等)」「当事者へのフォロー」「再発防止措置」です。

パワーハラスメントの場合の具体的な進め方は別記事で解説していますので、あわせてご確認ください。

ここでは、どのハラスメント対応にも共通する3つの注意点を解説します。

相談者・被害者のプライバシーを守る

ハラスメントの相談を受けた場合、相談者や被害者だけでなく、行為者とされた従業員のプライバシーにも配慮する必要があります。厚生労働省の指針(令和2年厚生労働省告示第5号)では、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨を労働者に周知することが、事業主に求められています。

事実関係を確認する前に「〇〇さんがハラスメントをした」といった情報が社内に広まれば、調査の結果、ハラスメントが確認されなかった場合でも、本人の名誉やプライバシーをめぐって別のトラブルにつながるおそれがあります。相談を受けた時点で、申告内容を必要以上に周囲へ共有しないことが重要です。

また、各指針では、保護すべきプライバシーに、性的指向・ジェンダーアイデンティティ・病歴・不妊治療等の機微な個人情報が含まれることも示されています。ハラスメントの相談では、こうした個人情報が事案の背景として語られることもあるため、通常の人事情報以上に慎重な取扱いが必要です。

実際に相談を受けた場合は、次のような運用をあらかじめ決めておくとよいでしょう。

  • 調査を担当する従業員を必要最小限に限定する
  • 聞き取り記録や関係資料の保管場所を決め、アクセスできる人を限定する
  • 本人の同意なく「〇〇さんから相談があった」と周囲に伝えない
  • 行為者への聴取に進む前に、相談者へ誰にどのような情報を伝えることになるのかを説明する
  • 相談者の意向を確認したうえで、調査の進め方を検討する

特に注意したいのが、行為者への聞き取りです。事案の内容によっては、行為者に事情を確認するだけで、誰が相談したのかが事実上分かってしまうことがあります。

そのため、相談者に何も説明しないまま調査を進めるのではなく、どのような調査を行い、誰にどの程度の情報を伝える必要があるのかを事前に説明しておくことが重要です。

相談したことを理由に不利益な取扱いをしない

ハラスメントについて相談したことや、会社の事実確認に協力して事実を述べたことを理由として、労働者に解雇などの不利益な取扱いをすることは、以下の法律で禁止されています。

  • 労働施策総合推進法31条2項(パワーハラスメント)
  • 男女雇用機会均等法11条2項(セクシュアルハラスメント)
  • 育児・介護休業法25条2項(育児・介護休業等に関するハラスメント)

これらの法律では、いずれも「事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」と定めています。

ここで注意したいのは、保護されるのが「相談した本人」だけではないことです。たとえば、ハラスメントを目撃した従業員が会社の事実確認に協力し、知っている事実を述べた場合、その従業員も保護の対象になります。そのため、調査に協力したことを理由として人事評価を下げたり、職場で不利益な扱いをしたりすることは避けなければなりません。

また、各ハラスメントに関する指針では、不利益な取扱いをしないことを労働者に周知・啓発することも事業主に求められています。たとえば、就業規則やハラスメント防止規程に不利益取扱いの禁止を明記し、研修などを通じて従業員に説明しておくとよいでしょう。

特に判断が難しいのが、ハラスメントの当事者である相談者と行為者を引き離すための配置転換です。会社としては、職場環境を改善するために相談者または行為者を異動させる必要が生じることがあります。しかし、相談者本人の意向を確認せずに相談者だけを異動させると、「ハラスメントを相談したら自分が異動させられた」と受け止められ、不利益な取扱いを受けたと主張されるおそれがあります。配置転換が必要な場合は、可能であればまず行為者側の配置転換などの対応を検討し、相談者を異動させる場合には、本人の意向や業務上の必要性を確認したうえで、その経緯を記録に残しておくことが重要です。

また、相談後に突然、配置転換や人事評価の引下げなどを行うと、相談したことへの報復ではないかと疑われることがあります。実際には業務上の必要性があったとしても、相談との時期が近い場合には、その判断経緯を説明できるようにしておく必要があります。

ハラスメントの申告だけで加害者と断定しない

ハラスメントの相談・申告があったことと、実際にハラスメントの事実が確認されたことは別の問題です。事実関係を確認する前から、申告された従業員を「加害者」と決めつけて対応すると、別のトラブルにつながるおそれがあります。実際、行為者とされた側から名誉毀損や違法な処分を理由に争われるケースも珍しくありません。

相談者を守ることは重要ですが、申告内容だけで事実を断定するのではなく、会社として公平に事実関係を確認することが大切です。

自社で調査を行う場合は、次のような対応を基本とするとよいでしょう。

  • 相談者、行為者とされる従業員、目撃者などからそれぞれ事情を聴く
  • メール、チャット、録音、勤怠記録、座席表などの客観的な資料も確認する
  • 聞き取った内容を記録し、必要に応じて本人に内容を確認してもらう

調査の結果、ハラスメントが認められた場合には、就業規則などに基づいて、行為者への注意・指導や懲戒処分などを検討します。

ただし、処分を行う場合には、その手続きにも注意が必要です。就業規則に懲戒処分の定めがある場合は、その内容や手続きに従う必要があります。また、就業規則上の根拠がある場合でも、行為者に弁明の機会を与えずに処分するなど、手続きが適切でなければ、処分の有効性が問題になることがあります。

労働契約法15条は、懲戒について、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、権利を濫用したものとして無効になると定めています。解雇を行う場合には、同法16条の解雇権濫用の問題も生じます。

また、懲戒処分の相当性を判断する際には、認定できた事実の内容や程度だけでなく、過去の同種事案でどのような処分をしてきたかなども考慮する必要があります。重大な事案だからといって、直ちに最も重い処分を選択できるとは限りません。

一方で、調査を尽くしても、ハラスメントがあったかどうかを明確に判断できないケースもあります。この場合、「ハラスメントと認定できなかったから何もしない」とするのは適切ではありません。各ハラスメントに関する指針では、事実関係を確認できなかった場合にも、再発防止に向けた措置を講じることが求められています。調査結果や会社としての判断を相談者に説明し、同様の問題が起きないよう、ハラスメントに関する研修や周知を行うなどの対応が企業側の対応としては重要です。

ハラスメント対策を放置するリスクとは?

ハラスメントへの対応を怠れば、会社は民事上の責任、行政上の措置、労災対応、人材・評判への影響という複数の場面でリスクを負う可能性があります。

被害者から損害賠償を請求されるおそれがある

ハラスメントが発生すると、行為者だけでなく、会社も被害者から損害賠償(治療費・休業損害・慰謝料など)を請求される場合があります。特に、会社が相談を受けた後も適切な対応を取らなかった場合には、会社自身の責任が問題になることがあります。

会社が責任を問われる理由は、大きく2つあります。

1つは、行為者の不法行為について会社が使用者責任を負う場合です。行為者のハラスメントが民法709条の不法行為にあたり、会社が民法715条の使用者責任を負う場合、会社も被害者に対して損害賠償責任を負うことがあります。

もう1つは、会社自身が安全配慮義務に違反したとされる場合です。使用者には、労働契約に伴って、労働者が生命・身体などの安全を確保しながら働けるよう必要な配慮をする義務があります(労働契約法5条)。この安全配慮義務に違反した場合には、債務不履行として民法415条に基づく損害賠償責任が認められることがあります。

特に注意したいのが、会社がハラスメントの相談を受けた後の対応です。たとえば、相談窓口に申告があったにもかかわらず担当者の判断だけで対応を止めたり、事実確認をしないまま「しばらく様子を見る」としたりすると、後から会社の対応が不十分だったと指摘されるおそれがあります。

一方で、会社が被害者に賠償金を支払った場合、「支払った金額を行為者本人に請求できるのか」という問題も生じます。民法715条3項は、使用者から被用者への求償を妨げないと定めています。ただし、会社が支払った損害賠償額を、そのまま全額行為者に請求できるとは限りません。

茨城石炭商事事件(最高裁昭和51年7月8日判決/民集30巻7号689頁)は、使用者から被用者への求償について、損害の公平な分担という観点から、事業の性格や規模、被用者の業務内容や労働条件、加害行為の態様などを考慮し、信義則上相当と認められる限度に制限されると判断しています。会社としては「支払った額の全部を本人に請求できるわけではない」という前提で検討する必要があります。

行政から勧告を受け、公表されるおそれがある

ハラスメントの防止措置を適切に講じていない場合、厚生労働大臣による助言・指導・勧告の対象となることがあります。また、勧告を受けたにもかかわらず従わなかった場合には、その旨を公表されることもあります。

労働施策総合推進法42条1項は、厚生労働大臣が事業主に対して、助言、指導または勧告をすることができると定めています。また、同条2項は勧告を受けた事業主がこれに従わなかった場合には、その旨を公表できると規定しています。

ハラスメント対策を怠った場合の会社側のリスクは、次の3段階で整理すると分かりやすいでしょう。

  • 防止措置に違反したこと自体に、罰金や拘禁刑などの刑事罰は定められていない
  • 厚生労働大臣から報告を求められたにもかかわらず、報告をしなかったり、虚偽の報告をしたりすると、20万円以下の過料の対象となる(労働施策総合推進法51条)
  • 勧告を受けても従わなかった場合には、その旨を公表されることがある(労働施策総合推進法42条2項)

※男女雇用機会均等法や育児・介護休業法にも、同様の規定があります(男女雇用機会均等法35条1項・36条・39条、育児・介護休業法56条・56条の2・66条)。

民事上のリスク(被害者からの損害賠償請求)とは別に行政上のリスクもあることを考えると、企業としては、相談窓口の整備、事実確認の手順、再発防止策などをあらかじめ整えておくことが重要です。

労災請求により、調査対応や安全配慮義務の問題に発展する

ハラスメントが原因で精神障害を発症した場合、労災認定の対象となる場合があります。

厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」は、業務による心理的負荷の評価表において、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントなどを具体的出来事として明示しています。また、顧客等から著しい迷惑行為を受けた場合(カスタマーハラスメント)も具体的出来事に位置づけられています。

従業員から労災請求がなされれば、労働基準監督署の調査が入り、当時の勤務状況、相談の有無とその後の対応、関係者からの聴取など、会社としての対応が求められます。労災認定がなされた事実は、後の民事上の賠償請求の場面で安全配慮義務違反を基礎づける事情として主張されることも少なくありません。

なお、具体的な認定要件などは厚生労働省の資料をご確認ください。
参照:心理的負荷による精神障害の認定基準について(基発0901第2号(令和5年9月1日))|厚生労働省

離職者が増加し、人材が流出する

ハラスメントを放置すると、被害を受けた従業員だけでなく、周囲の従業員も職場に不信感を抱く可能性があります。

会社が動かなかったという事実は、相談した本人だけでなく、それを見ていた従業員にも共有されます。その結果、被害を受けた従業員が退職するだけでなく、職場環境への不満から他の従業員が離職することも考えられます。採用・教育コストの増加や、その後の人材確保にも影響し得ます。

なお、 ハラスメントや労働条件の悪化を理由とした退職の場合、特定受給資格者または特定理由離職者として扱われる場合があります。会社都合に準じた扱いになる可能性があるため、助成金の受給要件に会社都合離職の有無が関係するときは、自社の助成金の受給に影響することもあります。どの制度にどのような影響があるかは制度ごとに異なるため、個別の確認が必要です。

職場環境が悪化し、生産性が低下する

ハラスメントが続くと、従業員は相談や報告をためらうようになり、職場のコミュニケーションが減少します。コミュニケーションの希薄化などによる職場環境の悪化を放置すると、チーム内の連携が悪くなり、業務効率の低下やミスの増加につながることもあります。さらに、従業員が精神的な不調を抱えて休職するなど、職場への影響がより大きくなるケースもあります。

実際、厚生労働省の指針(令和2年厚生労働省告示第5号)も、パワーハラスメントの発生の原因や背景として、労働者同士のコミュニケーションの希薄化などの職場環境の問題を挙げ、これらを幅広く解消していくことがハラスメントの防止の効果を高めるうえで重要であるとしています。

休職者が出た場合には、会社が検討すべき事項も増えます。たとえば、復職できる状態かどうかの判断、復職後の配置、行為者と同じ職場に戻すかどうか、休職期間満了時の取扱いなどです。対応を誤ると、復職や退職をめぐって別の労働トラブルに発展するおそれもあります。対応の中で、労働契約法5条の安全配慮義務との関係が問題になるケースもあるでしょう。

ハラスメントが深刻化してから対応すると、会社が選択できる対応も限られてきます。相談を受けた早い段階で事実関係を確認し、必要に応じて職場環境を改善することが、問題の深刻化を防ぎ、会社の選択肢を残すことにつながります。

イメージが悪化し、企業価値が低下するおそれがある

ハラスメント問題が社外に知られると、企業のイメージや社会的信用に影響するおそれがあります。取引先や顧客からの信用が低下したり、採用活動に影響して人材を集めにくくなったりすることも考えられるでしょう。

一方、ハラスメント問題がSNS等で社外に発信された場合、投稿した従業員の特定・処分・口止めをすることは避けてください。「3-2. 相談したことを理由に不利益な取扱いをしない」で説明したとおり、ハラスメントについて相談したことや、会社の事実確認に協力して事実を述べたことを理由とする不利益な取扱いは、法律で禁止されています(労働施策総合推進法31条2項など)。

加えて、投稿した従業員に対して、会社の信用が低下したことを理由に損害賠償を請求する場合にも注意が必要です。ハラスメントの内容に暴行・傷害などの犯罪行為が含まれている場合、外部への通報が公益通報に該当することがあります。公益通報に該当する場合には、公益通報をしたことを理由とする解雇は無効とされ(公益通報者保護法3条)、降格や減給などの不利益な取扱いも禁止されます(同法5条1項)。また、公益通報者保護法7条は、事業者が公益通報によって損害を受けたことを理由として、公益通報者に損害賠償を請求することを禁止しています。

もっとも、従業員による外部への発信が、すべて公益通報として保護されるわけではありません。公益通報に該当するかどうかは、通報の相手方や通報対象となる事実、通報の目的・内容など、法律上の要件を満たすかどうかによって判断されます。

そのため、従業員の投稿に対して処分や損害賠償請求などを検討する場合には、「会社の信用を傷つけた」という理由だけで判断せず、公益通報者保護法による保護の対象となるかを含めて慎重に確認する必要があります。

企業がハラスメント対策で弁護士に相談するメリットとは?

4章で挙げたリスクは、いずれも事前の体制整備と、相談を受けた後の初動によって大きく変わります。

弁護士に相談することで、法律上求められる防止措置が整っているかを確認し、離職や職場環境の悪化、企業イメージの低下などを防ぐための体制を整えやすくなります。

また、実際に相談を受けた場合も、事実確認や行為者への対応、再発防止策などを適切に進めることで、損害賠償請求など会社の責任が問題となるリスクを抑えやすくなります。

ここでは、企業がハラスメント対策で弁護士に相談する具体的なメリットを解説します。

ハラスメント防止体制を法的な観点から整備できる

弁護士に相談することで、自社のハラスメント防止体制が法律や指針の基準を満たしているかを確認・整理できます。「1-2. 企業に義務づけられているハラスメント対策」で挙げた4つの措置義務について、社内規程だけでなく実際の運用まで確認できる点は、ハラスメント対策を放置する企業リスクを下げることにもつながります。実際、弁護士への相談で「相談窓口はあるものの担当者への研修をしていない」「規程を作成したものの従業員に周知していない」といった抜けが見つかるケースも珍しくありません。

また、就業規則やハラスメント防止規程を整備する際は、内容だけでなく必要な手続きにも注意が必要です。就業規則を作成・変更する場合、労働基準法90条1項により、過半数労働組合または労働者の過半数を代表する者の意見を聴く必要があります。また、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、同法89条により就業規則の作成・届出が必要で、変更した場合も同様です。

相談窓口は社内だけでなく、弁護士や社会保険労務士などの外部に委託することもできます。社内の担当者には相談しにくい従業員にも相談してもらいやすくなり、担当者の教育負担を抑えられる点もメリットです。特に専任の担当者を置きにくい中小企業では、外部窓口の活用も選択肢になります。

なお、厚生労働省の指針(令和2年厚生労働省告示第5号)では、複数のハラスメントについて一元的に相談できる体制を整備することが望ましい取り組みとして示されています。2026年10月1日からは、カスタマーハラスメントと求職者等に対するセクシュアルハラスメントについても、相談体制の整備などが事業主の義務となっています。

これからハラスメント相談窓口や社内規程を整備するのであれば、現在の義務だけでなく、今後必要となる対応まで見据えて体制を整えることが重要です。

ハラスメント発生時の事実調査や対応を任せられる

ハラスメントの申告を受けた場合、初動から事実調査、処分まで、法的な観点から対応を進める必要があります。弁護士に相談することで、調査の進め方や処分の妥当性について実務的なアドバイスを受けながら対応できます。

たとえば、誰からどのような順序で事情を聴くのか、メールやチャットなどの資料をどこまで確認するのかといった調査方法を検討したうえで、調査結果に応じて懲戒処分、配置転換、注意・指導などの対応を判断します。

懲戒処分を行う場合には、労働契約法15条に基づき、就業規則上の懲戒事由に該当するか、認定した事実に対して処分が重すぎないか、過去の同種事案と比べて不均衡になっていないかなどを確認する必要があります。また、処分の内容だけでなく、行為者とされた従業員に弁明の機会を与えるなど、適切な手続きを踏むことも重要です。解雇まで行う場合には、同法16条の解雇権濫用の問題も生じます。

また、社内調査では、調査担当者の中立性が問題になることもあります。たとえば、行為者とされた従業員が調査担当者の上司であったり、相談者と調査担当者が同じ部署に所属していたりする場合、後から調査結果の公正さが争われるおそれがあります。

こうした場合に外部の弁護士が調査に関与することで、社内の人間関係から距離を置いて事実確認を進めやすくなります。調査方法や処分の判断を誤り、相談者側だけでなく行為者とされた従業員との間でも新たなトラブルが生じることを防ぐため、ハラスメントの申告を受けた段階から弁護士に相談することが重要です。

従業員とのトラブルや紛争への発展を防ぎやすくなる

ハラスメントをめぐるトラブルは、社内での話し合いだけで解決するとは限りません。弁護士に相談することで、紛争化する前から会社としての対応方針や、従業員への説明方法を整理できます。

ハラスメントに関する労働者と事業主との紛争については、労働審判や訴訟の前に、都道府県労働局長による紛争解決の援助(助言・指導・勧告)や、紛争調整委員会による調停が利用されることがあります。労働施策総合推進法36条・37条のほか、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法にも同様の制度が設けられています。

労働局から連絡があった場合には、会社として事実関係を確認したうえで、説明や資料の提出などに対応する必要があります。この段階で提出した説明や資料は、その後の労働審判や訴訟での会社側の主張にも影響するため、事実関係や会社の対応を整理したうえで回答することが重要です。

また、会社として何を確認したのか、当事者にどのような説明をしたのかを整理したうえで、必要に応じて当事者間の調整や通知書の作成などを弁護士に依頼することもできます。紛争に発展した場合には、会社側の代理人として対応を任せることも可能です。

ハラスメント問題が行政手続や労働審判、訴訟に発展する前から弁護士に相談しておくことで、段階ごとに対応を変えるのではなく、一貫した方針で問題解決を進めやすくなります。

社内ハラスメントに関してよくある質問(Q&A)

部下に指導することもハラスメントになる?

業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワーハラスメントには該当しません。厚生労働省の指針(令和2年厚生労働省告示第5号)にも、その旨が明記されています。

判断のポイントは、パワーハラスメントの3要素のうち、「②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」にあたるかどうかです。指導の目的や必要性、言い方、頻度、時間、対象となる従業員の状況などを踏まえて判断します。

たとえば、ミスについて具体的な改善方法を伝えることは通常の業務上の指導です。一方、「給料泥棒」「辞めろ」など人格を否定する発言を繰り返す場合には、パワーハラスメントに該当することがあります。

判断する際には、次の3点にも注意が必要です。

1つ目は、③「就業環境が害されること」の判断基準です。厚生労働省の指針では、同様の状況で言動を受けた場合に、社会一般の労働者が就業するうえで看過できない程度の支障が生じたと感じるかどうかを基準とすることが適当とされています。本人が「ハラスメントだ」と感じたからといって、直ちにパワーハラスメントに該当するわけではありません。

2つ目は、指導を受けた従業員の問題行動も判断材料になることです。厚生労働省の指針では、問題行動の内容や程度と、それに対する指導の態様などの相対的な関係性が考慮要素とされています。ただし、従業員に問題行動があったとしても、人格を否定するような言動など、業務上必要かつ相当な範囲を超えた指導はパワーハラスメントに該当し得ます。相手に非があれば、どのような言動をしても許されるわけではありません。

3つ目は、言動の頻度です。厚生労働省の指針では、強い身体的または精神的苦痛を与える態様の言動については、1回でも就業環境を害する場合があるとしています。「繰り返していなければ問題にならない」とは限らないため、1回の言動であっても内容や態様を確認する必要があります。

ハラスメントでのトラブルを避けるためのポイントは?

ハラスメントでのトラブルを避けるには、相談を受けた後の対応だけでなく、日頃から適切な指導やコミュニケーションが行われる環境を整えておくことが重要です。

まず、管理職を含めて定期的にハラスメント研修を実施することを検討してください。厚生労働省の指針でも、ハラスメントに関する方針の周知・啓発の取り組みとして研修が挙げられており、定期的に実施したり、管理職層を中心に職階別に実施したりする方法が効果的とされています。

研修では、単に「ハラスメントをしてはいけない」と伝えるだけでなく、どのような指導が適正な業務指導にあたり、どのような言動が問題になり得るのかを具体的に説明することが大切です。特に管理職には、部下への指導方法や注意の仕方、問題行動がある従業員への対応など、実際の場面を想定した内容を伝えるとよいでしょう。

また、研修の対象を管理職だけに限定しないことも重要です。労働施策総合推進法は、事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)についても、パワーハラスメントに対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うよう努めることを求めています(労働施策総合推進法32条3項)。経営層も含めて、会社全体でハラスメントに関する共通認識を持つことが大切です。

さらに、日頃から管理職が部下と適切にコミュニケーションを取れる環境を整えることも、ハラスメントの防止につながります。厚生労働省の指針(令和2年厚生労働省告示第5号)では、パワーハラスメントの発生の原因や背景として、労働者同士のコミュニケーションの希薄化などの職場環境の問題が挙げられています。

たとえば、管理職が一人で問題を抱え込まず、人事担当者や上司に相談できる仕組みを設けたり、定期的な面談などを通じて部下とのコミュニケーションを確保したりする方法があります。管理職が適切な指導方法を身につけるだけでなく、困ったときに相談できる環境を整えることも重要です。

業務上の指導を「ハラスメントだ」と言われたらどうすればいい?

実際に従業員から「ハラスメントではないか」と相談された場合には、広く相談を受け付けたうえで、事実関係を確認する必要があります。

「6-1. 部下に指導することもハラスメントになる?」で述べたように、厚生労働省の指針(令和2年厚生労働省告示第5号)では、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワーハラスメントには該当しないとされています。そのため、従業員から「ハラスメントだ」と言われたからといって、会社が必要な指導まで控える必要はありません。

一方で、「ハラスメントハラスメントだから」と決めつけて、相談自体を受け付けない対応は避けましょう。指針でも、パワーハラスメントに該当するかどうかが微妙な場合を含め、広く相談に対応し、適切に対応することが求められています。

業務上の指導を「ハラスメントだ」と言われた場合、具体的には次のような流れで対応します。

  • 広く相談を受け付け、いつ、どこで、誰から、どのような言動があったのかを具体的に確認する
  • 相談者と指導を行った側の双方から事情を聴き、業務上の必要性や言動の内容、言い方、頻度などを確認する(ただし、指導者に事情を聞くべきかどうかについては相談者の意向も確認する)
  • 適正な業務指導と判断した場合は、その理由を相談者に説明する

※実際にハラスメントが起きた場合の対処法については「1-2. 企業に義務づけられているハラスメント対策」や「3. 企業側のハラスメント対策における注意点とは?」を参照してください。

法律上の定義がないハラスメントにも会社は対応する必要がある?

法律上の定義がないハラスメントであっても、会社は相談を受けた場合に放置するのではなく、実際の言動や職場への影響を確認する必要があります。

2章で紹介したハラスメントの中には、法律上の独立した定義が設けられていないものも少なくありません。たとえば、モラハラ、エイハラ、リスハラ、スメハラなどは、それぞれの名称が付いた法律上のハラスメント類型ではありません。

ただし、法律上の名称がないからといって、その言動が法的に問題にならないわけではありません。たとえば、モラハラと呼ばれる言動であっても、具体的な言動がパワーハラスメントの3要素(詳細は2-1で解説しています)を満たせば、法律上のパワーハラスメントとして扱う必要があります。また、ハラスメントの内容によっては、労働者の安全や職場環境に関する会社の義務などが問題になることもあります。

そのため、「〇〇ハラスメントという法律上の定義があるか」だけで対応の要否を判断するのではなく、実際にどのような言動があったのか、誰に対して行われたのか、業務との関係はどうか、就業環境にどのような影響が生じているのかなどを確認することが重要です。

まとめ ハラスメント対策を検討している場合は弁護士に相談を

ハラスメントの呼び名は今後も増えていく可能性がありますが、企業が取るべき対応の基本的な枠組みは大きく変わりません。重要なのは、ハラスメントの呼び名を覚えることではなく、次のような共通した手順で対応できる体制を整えておくことです。

  • ハラスメントの呼び名ではなく、実際の言動が法律上の要件を満たすかどうかを確認する
  • 法律上の措置義務があるハラスメントについて、方針の明確化と周知・啓発、相談体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応、併せて講ずべき措置を講じる
  • 相談を受けた後は、プライバシーに配慮しながら事実関係を確認し、必要な対応を行った経緯を記録する
  • 2026年10月1日から措置義務の対象となるカスタマーハラスメントや、求職者等に対するセクシュアルハラスメントについても、必要な体制を整える

もっとも、実際に問題になるケースでは、業務上の適正な指導といえるのか、どこまで事実調査を行うべきか、行為者への処分が相当といえるのかなど、個別の事情によって判断が変わります。判断を誤ると、被害を訴える従業員だけでなく、行為者とされた従業員との間でもトラブルが生じるおそれがあります。また、いったん行った対応を後から修正することは容易ではありません。

自社のハラスメント対策を見直したい場合や、実際に従業員から相談を受けて対応を検討している場合は、早い段階で弁護士にご相談ください。

「VSG弁護士法人」では、社内規程や相談窓口の整備から、ハラスメント発生時の事実調査、処分の検討、紛争に発展した場合の対応まで、企業側の立場でご相談をお受けしています。労働トラブルでお困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。

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