この記事でわかること
- 建建業法の概要
- 建設業法の改正内容
建設業者が行う工事などを規制する法律に、建設業法があります。
建設業法は、建設工事の品質確保や発注者の保護などを目的として1949年に制定されました。
一方、建設業界の就業人口の減少や資材の高騰など、時代背景に応じて度重なる改正が行われています。
建設業者は、改正に応じた対応をしなければ事業を継続できなくなるリスクがあるため、重要なポイントを正確におさえておきましょう。
ここでは、建設業法の近年における改正やその対応方法をご紹介します。
- 目次
- 建設業法とは
- 建設業法に該当する工事
- 建設業法で企業が押さえておきたいポイント
- 建設業法違反時の罰則
- 建設業法の違反事例
- 【2023~2024年】建設業に関わる法律の改正内容
- 【2025年施行予定】建設業法等の改正内容
- まとめ
建設業法とは
建設業法とは、建設業を営む際のあらゆるルールを定めた法律です。
建設業者は、建設業法に定められた内容を遵守して事業を行わなければなりません。
建設業法の主な柱となる内容は、以下の通りです。
- 一定規模以上の建設工事を行う場合の許可取得
- 建設工事の請負契約に関する規制
- 主任技術者、監理技術者など、一定の要件を満たした専門技術者の設置
1949年の制定から建設業界の状況にあわせて都度改正されています。
最近では「2024年に建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律」が公布されました。
違反した場合は重大な処罰を受ける可能性もあるため、これから建設業に携わる方は内容を把握しておきましょう。
建設業法の目的
建設業法の第1条には、以下の事項が定められています。
<趣旨>
- 建設業を営む者の資質の向上
- 建設工事の請負契約の適正化
<目的>
- 建設工事の適正な施工の確保
- 発注者の保護
- 建設業の健全な発達の促進
建設工事は大規模なプロジェクトとなるケースもあり、施工業者や下請けなど多くの関係者が関わります。
建築物が完成した後も、日常的に多くの人が利用する場合は安全性の確保や定期的なメンテナンスなどが欠かせません。
建築物を適切に施工するには、各建設業者に法令を遵守して工事に取り組んでもらう必要があります。
建設業法は、適切な施工のために各建設業者が遵守するルールを定め、公共の福祉を増進する目的で定められています。
建設業法に該当する工事
建設業者にとって、請け負う工事が建設業法上の建設工事に該当するか否かの判別は非常に重要です。
建設業法に該当する工事は、建設業法に以下の29種類が定められています。
- 土木一式工事
- 建築一式工事
- 大工工事
- 左官工事
- とび・土工・コンクリート工事
- 石工事
- 屋根工事
- 電気工事
- 管工事
- タイル・れんが・ブロツク工事
- 鋼構造物工事
- 鉄筋工事
- 舗装工事
- しゆんせつ工事
- 板金工事
- ガラス工事
- 塗装工事
- 防水工事
- 内装仕上工事
- 機械器具設置工事
- 熱絶縁工事
- 電気通信工事
- 造園工事
- さく井工事
- 建具工事
- 水道施設工事
- 消防施設工事
- 清掃施設工事
- 解体工事
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- 建設業許可が必要な29業種を詳しく解説
建設業法に該当しない工事
以下のような工事は、建設業法に該当しないとされています。
附帯工事 | 建物の外壁塗装工事に付随する足場工事など、許可を受けた業種の建設工事に付随する工事 |
軽微な建設工事 | 請負代金などが一定の規模以下の工事 |
完成を請け負わない工事 |
・工事の完成でなく、業務の一部のみを依頼される工事 ・自分のために自分で施工する工事 |
建設工事に該当しない作業 |
・建設用地の整備、測量、地盤調査など、前述の29種類の工事に該当しない ・土地に固定されない建築物の工事 |
建設業法で企業が押さえておきたいポイント
建設業界に携わる方がぜひ知っておきたい建設業法のポイントがあります。
ここからは、特に重要なポイントを解説します。
建設業許可
建設業許可は、土木や建築の一式工事や大工・左官などの専門工事など、一定の工事を行う建設業者に取得が求められる許可を指します。
ただし、以下のような工事は建設業許可が不要です。
- 1件あたりの請負代金が500万円未満の工事
- 建築一式工事で請負代金が1,500万円未満、または延べ面積が150㎡未満の木造住宅工事
上記以外の工事を行う場合は、建設業許可を取得しなければなりません。
建設工事の請負契約の内容
建設業法19条では、発注者と受注者が対等な立場で請負契約を締結するとともに、契約書の記載事項を定めています。
契約書の記載事項は、以下のとおりです。
- 工事内容
- 請負代金の額
- 工期
- 支払時期と支払方法
- 工事を施工しない日や時間の定め
- 損害賠償の定め
- 紛争の解決方法
建設工事の見積り
建設業法20条では、建設工事の請負契約を締結する際に、見積りを行うよう努めなければならないと定められています。
見積りの内容は、工事の種別ごとの材料費や労務費、その他の経費の内訳などです。
工事を発注する人は条件を提示し、見積りの作成に必要な時間を設けなければなりません。
また、見積りを作成する建設業者は、請負契約の締結までに見積書を交付する必要があります。
主任技術者と監理技術者の設置
建設業者は、工事の技術管理を行うため、すべての工事現場に必ず主任技術者を設置しなければなりません。
主任技術者は、工事現場で品質管理や検査の実施、技術者への指導監督などの役割を担います。
さらに、請負金額が一定金額以上となる場合は監理技術者を設置する必要があります。
監理技術者とは、下請負人の指導監督者として施工計画の作成や工程管理などを行い、現場の技術水準を確保する役割を担う者です。
建設業法違反時の罰則
建設業法には、建設業者が守らなければならない様々なルールが定められ、守らなかったときの罰則が設けられている場合もあります。
具体的にどのような違反をすると罰則が科されるのか、確認しておきましょう。
指示処分
指示処分とは、建設業者の事業運営に法令違反や不適切な状態があり、監督行政庁が是正措置を命令する処分です。
監督行政庁とは、建設業者に許可を与えた国土交通大臣や都道府県知事を指します。
指示処分の段階では、あくまで自主的な改善を促している状態です。
ただし拘束力はあるため、建築業者は速やかに通達された措置を実施しなければなりません。
監督行政庁からの指示に従わないまま事業を続けると、より重い営業停止や許可取り消しなどの処分を受ける可能性があります。
営業停止処分
重い法令違反などをした場合に、行政庁は一定期間の営業停止を命ずるケースがあります。
行政庁によって営業停止処分が下される期間は、1年以内がほとんどです。
営業停止の期間中は、新たな請負契約の締結や入札、見積り、交渉などの営業活動ができません。
一方、許可を維持するための建設業許可申請や、営業停止前に締結した建設工事などは施工できます。
国土交通省のHPで、業者名や処分の理由などが詳細に公表されます。
営業停止期間が終わっても、取引先からは取引停止などを求められるリスクがあるでしょう。
許可取り消し処分
不正など情状が重い違反をした場合、建設業の許可が取り消される可能性があります。
3つの監督処分では最も重い許可取り消し処分が下されると、建設業の許可が必要な工事は当然にできなくなります。
ただし、注文主の不利益を防止するために、処分前に締結した請負契約はその工事に限り施工可能です。
処分前に締結した請負工事を行う場合、建設業者は処分の日から2週間以内に注文主へ通知しなければなりません。
また、注文主は一定期間内であれば請負契約の解除が認められます。
許可取り消しは国土交通省のHPなどに詳細が公表されるため、事実上は事業継続が困難になるケースも多いでしょう。
建設業法の違反事例
ここからは、建設業法に違反した具体的な事例を解説します。
指示処分
指示処分になる事例は、以下の通りです。
- 請負契約に違反したとき
- 営業停止処分が科せられているものと契約を締結したとき
- 労働災害の発生時に虚偽の報告をしたとき
- 工事に主任技術者を配置していなかったとき
- 営業所を新設して30日以内に届出書を出さなかったとき
- 労働者が工事中に墜落するような危険を防止する措置を行わなかったとき
- 下請けに丸投げをしていたとき
営業停止処分
以下のようなケースで営業停止処分を受ける可能性があります。
- 建設業の許可がないまま、500万円以上の建設工事を請け負ったとき
- 建設業者が、営業停止処分を受けている事業者と、処分の事実を知りながら下請契約を締結したとき
- 許可行政庁の指示処分を受けたが、是正措置に従わず違反した状態を継続したとき
- 指示処分を受けて改善されたが、3年以内に再び不正行為を行なったとき
- 独占禁止法や刑法の違反など、違反内容が重いため指示処分では不十分と判断されるとき
許可取り消し処分
下記に該当した場合、建設業許可が取り消しとなる可能性があります。
- 建設業許可の基準を満たさなくなったとき
- 事業者や法人の役員が欠格要件に該当したとき
- 不正な手段で建設業許可を取得していたとき
- 指示処分に該当する違反を行い、その情状が特に重いとき
- 営業停止処分を受けたにも関わらず、違反して営業活動を行ったとき
許可の取り消しから5年間は、新たに建設業許可を取得できません。
取り消しを受けた法人の役員が、別の会社の役員になって許可を取得しようとする場合も同様です。
【2023~2024年】建設業に関わる法律の改正内容
建設業界を取り巻く環境が日々変化する中で、2023年から2024年にかけてさまざまな改正が行われます。
実施される改正の内容を確認しておきましょう。
特定建設業許可・技術者の専任配置要件の見直し
一定の契約金額を超えている場合、次のように工事を請け負うための要件が厳しくなります。
- 下請業者への発注に特定建設業許可が必要になる
- 施工現場ごとに専任技術者の設置が必要になる
近年は資材高騰や労務費の上昇などで施工費用が上がり続けているため、以下のように2023年1月1日より要件が緩和されました。
- 下請業者への発注に特定建設業許可が必要となる請負工事の契約金額
改正前:4,000万円以上(建築一式工事は6,000万円以上)
改正後:4,500万円以上(建築一式工事は7,000万円以上)
- 専任技術者の設置が必要となる請負工事の契約金額
改正前:3,500万円以上(建築一式は7,000万円以上)
改正後:4,000万円以上(建築一式は8,000万円以上)
時間外労働の割増率の引き上げ
2019年に働き方改革関連法が施行され、長時間労働の抑制や休日の確保といった課題への対応が進められています。
月60時間を超える時間外労働を行った場合、時間外手当として支給される割増賃金の率が引き上げられました。
所定労働時間を超えた場合の割増率は、時間数にかかわらず一律25%とされていました。
しかし、一定規模以上の大企業は、月60時間を超える時間外労働について50%の割増しに変更されています。
2019年では、中小企業への適用が猶予され、割増率は以前と変わらず一律25%でした。
この猶予措置は2023年3月に終了し、4月から中小企業も月60時間を超える時間外労働には50%の割増率が適用されています。
時間外労働の上限規制
建設業は以前から、長時間労働や休日の取りづらさが問題とされていました。
働き方改革によって改善していましたが、実情を考えるとすぐには対応できません。
猶予措置により、建設業については時間外労働の上限が適用されていませんでした。
ただし、2024年4月からはこの猶予措置が撤廃され、月100時間未満、年間720時間以内の上限が設けられます。
この上限を超えて勤務させられないため、超過する場合は対応が必要です。
【2025年施行予定】建設業法等の改正内容
「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律」が2024年6月7日に国会で成立しました。
施行は公布日の同月14日から1年6カ月以内です。
建設業は、低賃金や長時間労働などで労働者の確保が困難になっています。
この問題を解決し、建設業を持続可能な労働環境にするのが改正の目的です。
具体的な内容を確認していきましょう。
労働者の処遇の改善
施工現場で働く労働者の処遇を改善するため、以下の義務や禁止事項などが定められました。
- 労働者の処遇確保
労働者の技能や経験に応じた適切な賃金の確保が努力義務化されました。
あくまで努力義務であり、違反した場合の具体的なペナルティなどは定められていません。 - 標準労務費を下回る見積りや請負契約の禁止
中央建設業審議会の作成する標準労務費を著しく下回る見積りや請負契約が禁止されました。 - 原価割れ契約の禁止
建設業者と注文者に対し、材料費やその他の経費が通常必要とされる原価を著しく下回る請負契約が禁止されました。
原価割れ契約は、労務費削減の原因となるためです。
違反した場合、国土交通大臣または都道府県知事による勧告や公表の対象となります。
労務費へのしわ寄せ防止
資材などの価格が高騰した場合、施工現場で働く労働者の給与や手当などが削減される恐れがあります。
そのような労働者へのしわ寄せを防ぐため、以下のルールが定められました。
- 資材高騰リスクの事前通知義務
請負代金や工期に影響する資材高騰リスクがある場合、契約締結前に建設業者から注文者へ通知する。 - 請負代金の変更方法の明記
資材が高騰した場合の請負代金の変更方法を契約書へ明記する。 - 協議に応じる義務
実際に資材が高騰した場合、注文者は誠実に協議に応じる。
事前の通知や契約上の変更方法の明記により、注文者はリスクを踏まえた上で請負契約を締結するでしょう。
結果として、資材が高騰した場合に請負代金へ価格転嫁しやすくなり、労務費へのしわ寄せを防止できます。
現場管理・労働時間の適正化
これまでの施工現場では、過密な工期などで労働環境が非常に過酷となるケースがありました。
施工現場ごとに必要な専任技術者の設置も、建設業者や技術者の負担となっていました。
このような労働環境を適正化するため、以下の措置が講じられています。
- 著しく短い工期の請負契約の禁止
通常より著しく短い工期の請負契約を禁止する。 - 専任技術者の設置要件の緩和
遠隔通信で施工現場を指導監督できる場合、リモートや複数現場の兼任など、専任技術者の設置要件を緩和する。 - 施工体制台帳の提出義務の免除
ICTの利用で施工体制を確認できる場合、施工体制台帳の提出義務を免除する。 - 施工を効率化するICT活用
一定規模以上の工事を発注する元請業者は、施工を効率化するICTの活用に努める。
まとめ
建設業法は、建築物の品質や注文者を保護するだけでなく、建設業の健全な発達を目的に制定されました。
建設業の発達には時代背景に応じた建設業法の改正が必要であり、建設業者には法令遵守による具体的な対応が求められます。
改正後の建設業法への対応に不安がある場合、専門家である行政書士への相談がおすすめです。
法改正への対応方法は建設業者によってケースバイケースであるため、自社の状況に応じた適切な対応方法を確認しましょう。