最終更新日:2022/6/13
一般社団法人で働く人の収入は?従業員や理事の給料・報酬の決め方を解説
ベンチャーサポート税理士法人 税理士。
大学を卒業後、他業種で働きながら税理士を志し科目を取得。
その後大手税理士法人を経験し、現在に至る。
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この記事でわかること
- 一般社団法人で働く人にも給料が支払われることがわかる
- 一般社団法人の役員にあたる理事にも報酬が支払われることがわかる
- 一般社団法人の給料や報酬の決定方法を知ることができる
一般社団法人は株式会社とは違い、営利事業を行うことを目的としていません。
それでは、一般社団法人はボランティアのようなことをしているのかというと、そうではありません。
一般社団法人にも多くの従業員がおり、それらの人には給料が支払われるのです。
一般社団法人で働く人の給料や報酬の考え方について、整理しておきましょう。
目次
一般社団法人とは
一般社団法人は、営利を目的としない法人です。
設立時社員として2人以上が必要であり、設立時役員として理事が1人以上いなければなりません。
設立にあたって拠出されたお金は、法人の財産にはならず、いずれにしても出資者に返還しなければなりません。
また、設立にあたっては、公証役場で定款の認証を行う必要があります。
株式会社などの営利法人との最も大きな違いは、事業により獲得した利益を出資者に分配できないことです。
株式会社の場合は、配当として株主に剰余金を分配することができます。
また、配当を受けるために出資を行うと言ってもいいくらいです。
しかし、一般社団法人の社員は、配当のように法人から分配を受けることはできないのです。
一方で、法人が行う事業活動は営利目的であっても問題ありません。
利益を得るための事業活動を行い、事業活動のために必要な経費を支払う点は株式会社との違いはありません。
ただ、法人に残された剰余金を配当することはできないため、社員は営利目的で法人を設立するわけではないのです。
一般社団法人で働く人に給料は出るのか
一般社団法人で働く人には、株式会社の取締役に相当する理事や、実際に現場で働く従業員がいます。
また、一般社団法人の構成員であり株式会社の株主と同じような立場にある社員もいます。
このような人たちに給料が支払われるのか、確認していきましょう。
理事に対する報酬
理事として一般社団法人の業務を行う人に対しては、給料ではなく報酬を支払うことができます。
もっとも、名称は違ってもその中身は給料と同じであり、原則として支給方法にも違いはありません。
一般社団法人の理事に対する報酬は、法人税法上も役員報酬として取り扱われます。
そのため、毎月定額を支払うことが原則となります。
ただ、理事の中には非常勤として法人の経営に関わっている人もおり、その場合は毎月定額にはならない場合もあります。
従業員に対する給料
一般社団法人に従業員として勤務する人は給料をもらうことになります。
一般社団法人に勤務するか、株式会社に勤務するかの違いがあるだけで、給料の決め方は通常の会社の場合と違いはありません。
給与規程を作成したうえで、個々の能力や仕事の取組みなどを判断して給料を支給することとなります。
また、賞与も株式会社などと同じように支給することができるため、支給する場合は規程を設けておく必要があります。
なお、従業員を1人でも雇用した場合、一般社団法人として雇用保険や労災保険に加入しなければなりません。
また、健康保険や厚生年金などの社会保険への加入義務が生じることにも注意が必要です。
社員に対する給料
一般社団法人の社員は、株式会社における株主と同じような立場にあります。
株式会社における株主は、株主総会に参加したり、配当金を受け取ったりすることができます。
一方、株主であることを理由に会社から給料を受け取ることはできません。
このような考え方は、一般社団法人の社員についても基本的には同様です。
一般社団法人の社員については、配当を受け取ることはできませんが、社員総会での議決権は保有しています。
また、社員であることを理由に給料が支給されることはありません。
ただし、社員が理事に就任したり、従業員としてその一般社団法人に勤務したりすることはできます。
この場合は、理事としての報酬、あるいは従業員としての給料を受け取ることになるのです。
一般社団法人で働く従業員の収入
一般社団法人に勤務する従業員に対する給料は、はたしていくらぐらいなのでしょうか。
ここでは、従業員に対する給料の金額について考えてみます。
一般社団法人の従業員もサラリーマン
まず誤解のないように解説しておきますが、一般社団法人の従業員は、株式会社に勤務する人と同じサラリーマンです。
一般社団法人が営利法人でないという理由で、一般社団法人の従業員も給料をもらっていないのではないかと考える人がいます。
しかし、これは大きな誤解であり、実際そこで働く人は、株式会社などの選択肢の中から一般社団法人を選んで就職した人なのです。
そのため、一般社団法人の従業員の年収を知るためには、サラリーマンの平均的な年収を知る必要があります。
国税庁が毎年公表している「民間給与実態統計調査」によれば、令和元年の平均給与は436万円(平均年齢46.7歳)となっています。
また男女別に見ると、男性が540万円(平均年齢46.7歳)、女性が296万円(平均年齢46.7歳)となっています。
一般社団法人の従業員の給料はどれくらい?
それでは、一般社団法人に勤務する従業員の平均年収はいくらぐらいなのでしょうか。
株式会社であれば、上場している会社など公表されているデータがあるため、平均の給料を知ることができます。
しかし一般社団法人の場合は、公表されている数値がないため、あくまでも推測でしか年収を知ることはできません。
その中で、情報の1つとなっているのが転職サイトの情報や口コミです。
たとえば「転職会議」というサイトでは、過去の投稿から職種別・年齢別に平均給与をまとめています。
この統計によれば、団体職員の全年齢の平均年収は392万円となっています。
また、国税庁の統計と同年代である40代の平均年収は496万円となっています。
団体職員には、一般社団法人のほか学校法人や独立行政法人など、規模の大きな法人が多いため、平均給与は高めになっています。
また、団体職員の平均年収は、年齢が上がるほど高くなる傾向が強くなっています。
これは、多くの株式会社のような成果主義を採用しにくく、年功序列になる傾向が強いためと思われます。
一般社団法人は、営利性の強い事業を行っていないことが多く、儲かりにくいというイメージを持っているかもしれません。
儲かっていない法人であれば、当然給料も低くなると考えることでしょう。
しかし、そこで働く従業員は、給料に不満があれば簡単に他の会社に転職してしまいます。
そのため、実際には一般社団法人の給料が極端に低いということはありません。
一般社団法人の理事の収入
それでは、一般社団法人の役員に相当する理事の収入についてはどのようになっているのでしようか。
報酬の相場や、理事に対する報酬の決め方について、確認していきましょう。
理事に対する報酬はいくらくらいなのか?
従業員に対する給料の額が明らかにされていないのと同様、理事に対する報酬の額も公表されているわけではありません。
そのため、一般社団法人が理事に対してどれくらいの報酬を支払っているかをまとめた統計はありません。
理事が常勤として法人の経営に関わっている場合には、年額1,000万円以上、あるいは月額100万円以上の報酬をもらうこともあります。
財源に問題がなければ、月額数百万円というように、上場企業の役員と同じくらい報酬を受け取ることも可能です。
理事に対する報酬は実態に合わせて決める
一般社団法人の理事の中には、普段は法人の業務に従事することなく、理事会にだけ出席している人もいます。
このような非常勤の理事の場合は、理事会に出席した日数に応じて報酬を支払うというような報酬の支払いをすることもあります。
また、一般社団法人の中には、理事に対する報酬を一切なしにしているケースもあります。
従業員が理事を兼務しているような場合には、従業員としての給料を支払う一方、理事としての報酬をゼロとすることも可能です。
一般社団法人の収入源
一般社団法人が給料や報酬を支払うには、そのための財源を確保しなければなりません。
一般社団法人は、どのような方法で収入源を確保することとなるのでしょうか。
一般社団法人は、様々な事業を行うことができるため、その事業から収入を得ることができます。
株式会社と同じく、まずは事業収入が一番の収入源となるのです。
このほか、一般社団法人ならではの方法で収入を得る場合があります。
一般の人から寄付を受けることで収入を確保し、その収入を自由に使うことができます。
また、会員向けのサービスを行っている場合には、その会員の入会金や会費収入も一般社団法人の財源となります。
さらに、会員向けや一般向けに講演会や研修を開催して、その参加費を得ることも可能です。
一般社団法人の事業内容によりできることは異なりますが、いくつもの方法で収入を得られるような体制が求められます。
一般社団法人の給料や報酬の決定方法
一般社団法人において、従業員の給料や理事の報酬はどのように決定するのでしょうか。
その決定方法について確認しておきましょう。
従業員の給料の決定方法
従業員に対する給料を決定する方法は、株式会社が従業員の給料を決めるのと違いはありません。
給与規程や賃金規程という名称の規程を設けて、従業員の給料の支給額を決めておくこととなります。
賞与を支払う場合には、その賞与についても規程に条項を設けておきます。
これに、上司などの評価を加味して、実際の支給額を決定するのです。
なお、多くの一般社団法人では、年功序列による給与の支給を基本としていると思います。
理事の報酬の決定方法
理事に対する報酬の額をいくらにするかを決めるのは、その一般社団法人の定款あるいは社員総会です。
理事は、法人の運営に関してあらゆることを決定する権限を持ちますが、自分の報酬を自分で勝手に決めることはできないのです。
なお、報酬の額を決める際には、理事ごとに個別の額を定める方法と、理事全員の報酬の総額を定める方法があります。
多くの法人では、理事全体の報酬についてその総額(上限額)を決め、個別の配分は理事会や理事が決める方法をとっています。
定款に報酬の具体的な額を記載すると、報酬を変更するために定款を変更する手続きが必要になります。
しかし、定款の変更のために社員総会を開催する必要があるなど、非常に手続きが煩雑になってしまいます。
そのため、定款には特段の規定を設けないか、報酬の決定に社員総会の決議を要すると規定しておくケースが多いでしょう。
また、具体的な個別の報酬額については、別途、役員報酬規程を設けておくことになるでしょう。
一般社団法人で給料や報酬を支払う際の注意点
最後に、一般社団法人で給料や報酬を支給する際に注意すべき点をいくつか確認しておきます。
ここで紹介する注意点は、どの法人にもあてはまる基本的なことなので、問題のないようにしておきましょう。
賃金の支払い5原則を守る
給料や報酬を支給する際には、「賃金の支払い5原則」と呼ばれる、5つの支払い方法を守る必要があります。
5つの原則とは、以下のようなものです。
- (1)通貨払い(現金で支給すること。現物給与は認められません。)
- (2)直接払い(家族の口座に振り込むことはできません。)
- (3)全額払い(分割して支払うことは認められません。)
- (4)毎月払い(毎月1回以上支払わなければなりません。)
- (5)一定期日払い(決められた期日に支払わなければなりません。)
どれも基本的なことばかりです。
改めて注意する必要もないものばかりですが、違反することのないようにしましょう。
所得税の源泉徴収や社会保険の加入
給料や報酬を支給する際には、必ず所得税の源泉徴収を行わなければなりません。
徴収した所得税は、給与等を支給した月の翌月10日までに税務署に納付しなければなりません。
また、従業員を雇用すると社会保険への加入が必要になります。
働き方によっては、パートやアルバイトも加入義務者となることがあるため、注意が必要です。
まとめ
一般社団法人という名称や、非営利団体であるということから、給料がほとんど払われないのではないかと誤解している人もいます。
しかし、実際には一般社団法人で働いている人は、民間企業で働く場合と同じように給料や賞与を受け取っているのです。
また、従業員に支払う給料のほか、福利厚生や休暇取得など労働環境に関する整備の必要性も、株式会社などと違いはありません。
法人が事業を継続するためには、適正な給料と働きやすい環境を整備する必要があるのです。