最終更新日:2020/10/12
【2020年最新】青色申告特別控除の変更点と65万円の控除を受ける方法
この記事でわかること
- 青色申告特別控除の変更点が理解できる
- 青色申告を受けるための手続が自分でできる
- 最高65万円の青色申告特別控除を受けるために何をすればよいかがわかる
2020年以降の所得税の申告につき、青色申告特別控除の見直しが行われました。
税制改正により、青色申告特別控除が2種類から3種類に変更され、これまで65万円の特別控除を受けていた事業主が今後も引き続き同様の控除を受けることが難しくなるケースも出てきました。
新たに青色申告の適用を受けることを検討している場合はもちろん、これまで青色申告を行ってきた事業主も、税制改正の内容と特別控除の要件を正しく理解して、確定申告に向けて適切に対応しましょう。
目次
青色申告特別控除とは
「青色申告特別控除」とは、青色申告事業者が所得税の申告に際し、複式簿記に基づき記帳し正しく申告を行うことを条件に、原則として最高65万円の控除が受けられる制度です。
青色申告特別控除の対象となるのは、不動産所得または事業所得がある事業主です。
青色申告を受けるには
これまで白色申告を行ってきた事業主が青色申告の適用を受けるには、青色申告の申請を行おうとする年の3月15日までに納税地を所轄する税務署に「青色申告承認申請書」を提出して、青色申告の承認を受けなくてはなりません。
3月15日を過ぎてしまうと青色申告の適用を受けられるのは翌年になってしまいますので、気をつけましょう。
新たに事業を開始したばかりの場合は、開業届の提出と同時に申請書を提出しましょう。
開業した年から青色申告の適用を受けたいのであれば、開業届に記載した開業日から2か月以内に青色申告承認申請書を税務署に提出する必要があります。
ただし、相続により事業を承継した場合は、亡くなった人の準確定申告の期限である相続の開始を知った日の翌日から4か月以内(ただし、相続開始日が9月以降の場合は12月末まで、11月以降の場合は翌年の2月15日まで)に、青色申告承認申請書を提出すればよいことになっています。
青色申告は特別控除が受けられる
青色申告を行うことで、事業主が受けられるメリットはたくさんあります。
【青色申告のメリット】
- ・最高65万円の特別控除が受けられる
- ・家族に支払う給与を必要経費に算入できる
- ・貸倒引当金に繰り入れた貸金を必要経費に算入できる
- ・損益通算しても控除しきれない純損失を繰越し、繰戻しできる
青色申告することで受けられるメリットはいくつかありますが、やはり一番大きいのは特別控除が受けられることでしょう。
正規の簿記の原則である複式簿記で帳簿を作成し、これに基づいて青色申告決算書とともに確定申告を期限までに行うことで、最高65万円の特別控除が受けられます。
複式簿記では、一つの取引につき借方・貸方に分けて複数の勘定科目で記帳します。
例えば、500円の事務用品を現金で購入した場合、借方に「消耗品費 500円」、貸方に「現金 500円」と記載することで、取引が発生した原因(500円の消耗品を購入)と結果(現金500円が減少)が分かるようになっています。
また、記帳のタイミングは、原則として収入・支出の事実が確定したときに計上(発生主義)します。
例えば、先ほどの例で現金ではなくクレジットカードで事務用品を購入した場合、購入時とカードの引き落とし日の2回に分けて記帳することになります。
ただし、前々年分の所得額が300万円以下の小規模事業者については、「現金主義の所得計算による旨の届出書」を所轄の税務署に提出することで、現金の収入・支出時点だけ計上(現金主義)してもよいようになります。
複式簿記で記帳するのは難しいと感じる場合でも、青色申告対応の会計ソフトを活用することで記帳や確定申告にかかる作業が大幅に軽減できるかもしれません。
家族に支払う給与を必要経費にできる
青色申告を行うメリットは、他にもあります。
青色申告を行う事業主(青色事業者)の配偶者など、生計を共にする家族(青色事業専従者)がその事業を手伝う場合、青色事業専従者に支払った給与を必要経費にすることができます。
青色事業者がこの青色事業専従者給与の特典を受けるには、いくつか要件があります。
まず、青色事業専従者についての要件として、15歳以上であること、他の仕事に就くことなくもっぱら青色事業に従事していること、従事する期間が6か月を超えること、があげられます。
また、経費算入する青色事業専従者の給与の金額に対する要件として、青色事業専従者が従事する業務に対して著しく高額でなく、適正な金額であることが求められます。
なお、青色事業者は、事前に税務署に「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出する必要があります。
提出期限は、経費算入しようとする年の3月15日までです。
ただし、1月16日以降に開業する場合は、開業届に記載する開業日から2か月以内に届出を行います。
青色事業専従者となる家族が変更になる場合は、忘れずに変更届出も行いましょう。
以下に要件をまとめましたので、改めてしっかり確認しましょう。
【青色事業専従者給与の要件】
- ・青色事業者と生計を共にしている家族であること
- ・その年の12月31日時点で15歳以上であること
- ・6か月を超える期間、青色申告事業に専従していること
- ・給与の額が業務に対して適正であること
- ・提出期限までに税務署に届出を行っていること
- ・届出に従った支払方法および金額であること
ここで注意すべき点は、青色事業専従者控除を使う場合、青色事業者は青色事業専従者となる家族について配偶者控除や扶養控除が使えなくなることです。
配偶者を専従者にする場合は、配偶者控除の38万円を超える金額を青色事業専従者の給与に設定しましょう。
貸倒引当金に繰り入れた貸金を必要経費に算入できる
青色申告の場合、売掛金や貸付金などの貸金を貸倒引当金に繰り入れた場合、繰入額を必要経費に算入することで節税できます。
対象となるのは、売買取引の売掛金やサービス提供の大家である未収入金、受取手形などで、一時的な立替金や仮払金、手付金、前渡金、保証金、敷金などは対象にはなりません。
この場合、貸倒引当金に繰り入れて経費として計上できる額は、年末時点の貸金総額の5.5%以下(金融業の場合は3.3%)となっています。
ただし、貸倒れなどによる損失の見込み額は別枠で貸倒引当金に繰り入れることができます。
なお、この特典は事業所得に限定され、不動産所得には使えません。
損益通算しても控除しきれない純損失を繰越し、繰戻しできる
青色申告の対象となる不動産所得や事業所得は、給与所得などの他の所得と損益通算ができますが、損益通算しても控除しきれない純損失(赤字)がある場合、その分を翌年以降に繰り越したり、前年分に繰戻ししたりできます。
損失分を無駄なく使い切れることで、節税効果が高くなるメリットがあります。
なお、損失繰越できるのは、翌年以降3年間です。
税制改正により青色申告特別控除は3種類に変更
2018年の税制改正によって、2020年分の所得税確定申告から青色申告特別控除が変更されることになりました。
これまで青色申告特別控除額は65万円又は10万円の2種類でしたが、今後は65万円、55万円、10万円の3種類になります。
厳密に言うと、これまで最高65万円だった青色申告特別控除が55万円に引き下げられます。
ただし、一定の要件を満たすことで65万円の青色申告特別控除が引き続き受けられるというものです。
65万円の控除の要件
これまで、65万円の青色申告特別控除を受けるための要件は、以下の3点でした。
【65万円の青色申告特別控除の要件(従来)】
- ・正規の簿記の原則(複式簿記)による記帳を行っていること
- ・確定申告書に複式簿記に基づく青色申告決算書(貸借対照表および損益計算書)を添付すること
- ・申告期限内に確定申告すること
今後も引き続き65万円の控除を受けるためには、上記の要件に加えて以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
これまで上記の要件を満たしていて65万円の控除を受けていた青色申告事業者であっても、以下の要件のいずれも満たすことができない場合には、今後受けられる控除額は55万円になります。
【65万円の青色申告特別控除の要件(追加)】
- ・e-Taxによる申告(電子申告)を行うこと
- ・電子帳簿保存を行うこと
令和2年分の確定申告で65万円の控除を受けるためには
ここでは、65万円の控除を受けるための2つの要件について、具体的な方法を説明します。
いずれか1つを満たせば65万円の控除を受けられますので、負担の少ないほうを選択しましょう。
要件1:e-Taxによる電子申告を行う
e-Taxは、国税庁が提供する電子申告・納税システムで、確定申告など国税に関する手続きがインターネット上で行えます。
電子申告の流れ
e-Taxによる電子申告の流れは、以下のとおりです。
【電子申告の流れ】
- ・ネット環境やパソコンなどの利用環境を整える
- ・マイナンバーカードを用意する
- ・利用者識別番号および電子証明書を取得してe-Tax上で初期登録や設定作業を行う
- ・申告・申請データを作成する
- ・作成したデータに電子署名および電子証明書を添付する
- ・データを送信して申告する
すでにネット環境があり、パソコンの操作に慣れている場合はそれほど難しくありません。
最近は、スマートフォンからも利用できるようになりましたので、パソコンの操作に慣れていない場合でも挑戦してみる価値はあります。
ただし、最初に開始届出書を提出して利用者識別番号を取得し、さらに電子証明書を取得・登録するなどの初期設定に手間がかかるほか、OSなどの利用環境に制約があるため、初めての場合は身近に相談できる人がいると安心です。
また、マイナンバーカードやカードリーダーがあるとIDやパスワードの入力が省略できますので、マイナンバーカードを取得していない場合は、これを機に申請しておきましょう。
マイナンバーカードの申請から発行まで、自治体によっても時間差がありますが、1か月程度かかることを見込んでおきましょう。
利用環境と初期設定が整った後は、確定申告書と青色申告決算書の申告・申請データを作成します。
マニュアルや各機能の説明が充実していますので、これまで手作業で申告書や決算書を作成していた場合は、むしろ入力作業のほうが簡単かもしれません。
入力が完了したら、申告・申請データにあらかじめ登録した電子証明書を使用して、電子署名を添付します。
ただし、ID・パスワード方式で申告する場合は、電子署名は不要です。
準備ができたら、申告・申請データを送信して電子申告が完了します。
申告時のデータの送信結果や受理状況については、メッセージボックスに通知が届きますので、申告後も処理状況を把握することができます。
また、一度電子申告を行うと、翌年以降は前年のデータを引き続き使用することができますので、入力の手間が省けます。
電子申告によるメリットは他にもある
電子申告によるメリットは、65万円の控除を受けられること以外にも種々あります。
【電子申告のメリット】
- ・65万円の青色申告特別控除を受けられる
- ・申告書類の印刷や郵送などが不要
- ・添付書類の提出が省略できる
- ・還付手続きが通常より早い
申告期間中は、インターネット上で24時間申告ができるため、印刷した書類を持参して税務署に並ぶ手間が省け、交通費や郵便代などの費用もかかりません。
また、電子申告では、源泉徴収票や生命保険料控除証明書、医療費控除の対象となる領収書等の添付書類の提出を省略できるため、膨大な書類を整理して、申告書に添付する手間を省けます。
さらに、還付金がある場合は、申告から2~3週間程度と処理期間が短く、スピーディーに還付金が支払われることも嬉しい特典です。
要件2:電子帳簿保存を行う
「電子帳簿保存」とは、複式簿記で記帳した帳簿を紙ではなく、電子データで保存できる制度です。
e-Taxによる電子申告が難しい場合でも、電子帳簿保存を行うことで65万の青色申告特別控除を受けることができます。
帳簿や書類の作成・保存は、紙で行うのが原則です。
帳簿や書類を電子データで保存したい場合は、「青色申告承認申請書」を提出しているだけでは足りず、「国税関係帳簿の電磁的記録による保存等の承認申請書」を所轄の税務署に提出して承認を受ける必要があります。
届出を行わずに帳簿等を電子データで作成・保存している場合は、帳簿が正しく作成されていない状態となり、青色申告特別控除をはじめとするメリットを受けられなくなりますので注意しましょう。
申請は、原則として帳簿の備付開始日の3か月前までに行わなくてはなりません。
課税期間の途中から電子帳簿に変更することができないため、通常は電子帳簿保存を開始する前年の9月末までに申請するし、1月1日から電子帳簿の作成を開始する必要があります。
ただし、2020年分については税制改正を考慮して、2020年9月30日までに申請を行って同年中に税務署の承認を受けることで、12月31日までに電子帳簿の作成・保存を行えば65万円の控除を受けられることになっています。
e-Taxによる電子申告が難しい場合は、期限までに電子帳簿保存の申請を行いましょう。
なお、電子データの保存場所はパソコンのハードディスクに限らず、クラウドサービスを利用することもできます。
また、紙で発行・受領した請求書等の書類は、スキャナで読み込んだものも電子データとして保存できますが、解像度やタイムスタンプ機能、バージョン管理など一定の要件を満たす必要があるため、電子帳簿保存を開始する際は事前によく確認しましょう。
多くの取引がWebやメールなどネットを介して行われ、取引データが多く存在する場合は、取引データを活用して会計ソフトにダウンロードし、帳簿を作成することで記帳が圧倒的に楽になります。
また、手入力による転記ミスや入力ミスも防げるため、今回の改正をきっかけに電子帳簿にすることも前向きに検討してみましょう。
【青色申告特別控除】10万円の控除になってしまう要件
青色申告の承認申請を行っても、これまでの65万円の青色申告特別控除を受ける要件を満たさない場合は、今後も特別控除額は10万円になってしまいます。
青色申告特別控除が10万円になってしまう要件は、以下のとおりです。
【10万円の青色申告特別控除の要件】
- ・正規の簿記の原則によらない簡易帳簿で記帳する場合
- ・複式簿記に基づく青色申告決算書が提出できない場合
- ・申告期限までに申告しなかった場合
現金出納帳や売掛金台帳などの簡易帳簿を作成し、これに基づいた青色申告決算書を決算時に提出する場合は、10万円の控除になります。
また、3月15日の青色申告期限までに確定申告が間に合わなかった場合も、同様です。
ただし、10万円の青色申告特別控除を受ける場合でも、青色事業専従者給与や純損失の繰り越し控除などの他のメリットは受けられます。
お小遣い帳のように簡単な記録をつけるだけでよい白色申告でも10万円の控除を受けることができますが、白色申告ではこのようなメリットは受けられない点が大きく異なります。
なお、損益通算後の所得の合計額が10万円より少ない場合には、特別控除額はその金額が限度になります。
基礎控除額の改正で注意すべき点
青色申告特別控除額の変更だけを考えると、今回の税制改正で65万円の控除を受ける要件が厳格化され、控除額が引き下げられたことになります。
しかし、変更になったのは青色申告控除額だけではありません。
今回の税制改正では、基礎控除額もあわせて変更になっています。
これまで一律38万円だった基礎控除額ですが、今後は48万円に引き上げられます。
その結果、従来は青色申告特別控除65万円と基礎控除38万円の合計103万円の控除が受けられましたが、今後は青色申告特別控除65万円と基礎控除48万円で最高113万円の控除を受けることが可能になりました。
ただし、所得金額の合計が2,400万円を超える高所得者については、所得額に応じて段階的に基礎控除額が引き下げられます。
所得金額が2,500万円を超える場合は、基礎控除がなるなりますので注意が必要です。
【基礎控除額】
個人の合計所得金額 | 控除額 |
---|---|
2,400万円以下 | 48万円 |
2,400万円超2,450万円以下 | 32万円 |
2,450万円超2,500万円以下 | 16万円 |
2,500万円超 | 0円 |
引用:基礎控除(国税庁)
まとめ
2020年分からの所得税確定申告に関する変更点を以下にまとめます。
【変更点のまとめ】
- ・青色申告特別控除が2種類から3種類に変更になり、e-Taxや電磁帳簿保存に対応しない場合は今後65万円の控除が受けられない。
- ・基礎控除額が最高48万円に増額する一方、所得額が2,400万円を超える高所得者は減額または基礎控除を受けられなくなった。
今後65万円の青色申告特別控除を受けたい場合は、以下の手順で対策を講じましょう。
【65万円の控除を受けるための手順】
- ・青色申告承認申請書を税務署に提出する
- ・9月30日までに電子帳簿保存の承認申請書を税務署に提出する
- ・早めにマイナンバーカードを取得する
- ・電子申告や電子帳簿保存に必要なパソコンやカードリーダー、会計ソフト(またはクラウドサービス)を準備し、e-Taxの初期設定を早めに行っておく
- ・おそくとも2020年12月末までに電子帳簿の作成を開始する
新たに事業を開始する場合や、これまで白色申告を行ってきた場合、複式簿記による記帳や電子帳簿、e-Taxへの対応など、青色申告はハードルが高く思われるかもしれません。
しかし、青色申告特別控除や損益参入など数多くのメリットを受けることにより、高い節税効果が得られます。
青色申告特別控除後の所得金額に応じて税率が決まるため所得税の節税になることはもちろん、住民税や国民健康保険料も所得金額に応じて算出される所得割が適用されるため、節税効果は大きいといえます。
青色申告に対応した会計ソフトやクラウドサービスを上手に活用し、記帳や確定申告にかかる労力・時間の削減と節税対策を実現しましょう。