最終更新日:2023/4/14
夫を扶養に入れるメリット・デメリット【扶養に入れる収入の壁について】
ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネルを運営。
PROFILE:https://vs-group.jp/tax/startup/profile_writing/#p-mori
YouTube:会社設立サポートチャンネル【税理士 森健太郎】
書籍:プロが教える! 失敗しない起業・会社設立のすべて (COSMIC MOOK) ムック
この記事でわかること
- 税法上の扶養と社会保険の扶養について
- 夫婦のどちらの扶養に入るのかについて
- 夫を扶養に入れるメリットとデメリットについて
- 扶養の要件である年収の壁について
夫婦で共働きしている場合、夫や妻の扶養に入って働くことで、税金や社会保険料の負担額を軽減できることがあります。
「扶養」という概念を理解し、どのような条件下で得をするのか判断する必要があります。
そこで今回は、夫を扶養に入れるメリットやデメリット、扶養に入れる要件について分かりやすく解説していきます。
目次
扶養には税金・社会保険の2種類がある
前提として、「扶養」には税法上の扶養と社会保険上の扶養の2種類があります。
それぞれの内容や主な加入要件は以下のとおりになっています。
税法上の扶養
扶養対象者の年齢や人数に応じて、一定額の所得控除を受けることができる制度です。
所得控除を受けることによって、所得税や住民税の負担を軽減できます。
社会保険上の扶養
扶養親族の社会保険料を負担せずに保険の適用を受けることができる制度です。
被扶養者に対しては、加入者(夫や妻)の属する健康保険組合から保険証が発行されます。
要件 | 税法上の扶養 | 社会保険の扶養 |
---|---|---|
範囲 | 6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族 | 3親等内の親族 |
年齢 | 16歳以上 | 75歳未満 |
同居・別居 | 生計を一にしていること | 親族の範囲によって同居が必須 |
年収 | 103万円以下 | 130万円未満 |
内縁関係・事実婚 | 対象外 | 対象 |
夫婦どちらの扶養に入るかは収入によって決まる
夫婦どちらの扶養に入るかは、原則年収の高さによって決まります。
節税面からも、年収の高い方の扶養に入ることがお得になるケースが多いです。
ただし、健康保険組合などによっては、年収の低い方の扶養にすることを認めてくれる場合もあります。
その場合は相応の理由が必要となり、説明が求められます。
たとえば、以下のようなケースが考えられます。
- 育休を取るため今後の年収が下がる
- コロナの影響で今後の仕事が大幅に減少する見込みである
ご家庭の事情に応じて適宜対応しましょう。
夫を扶養に入れるメリット
夫妻で共働きしている場合、一定の要件を満たすことでいずれかの扶養に入ることができます。
夫や妻の扶養内で共働きすることで税法上・社会保険上大きなメリットがあります。
以下では例として、夫が妻の扶養に入って働くことのメリットについて紹介します。
妻が所得控除を受けることができる
夫が扶養に入ることで夫の確定申告や年末調整の際に、所得控除(配偶者控除や配偶者特別控除)を受けることができます。
所得控除を受けることで夫の所得税や住民税が減額されるため、メリットとしては大きいです。
夫や妻の年収や年齢によって控除額は変動しますが、配偶者控除では13万円~48万円、配偶者特別控除では1万円~38万円の控除を受けることができます。
夫が自身で国民健康保険や国民年金に加入する必要がなくなる
夫が扶養に入ることができない場合には、自身で国民健康保険や国民年金に加入して保険料を負担しなければなりません。
勤務先の会社の社会保険に加入するという手段もありますが、いずれにせよ扶養から外れると夫の負担すべき保険料が発生します。
しかし妻の扶養に入ることで、夫が保険料を負担する必要がなくなります。
つまり、保険料を別で負担することなく、夫も保険の適用を受けられることになります。
夫を扶養に入れるデメリット
一方で扶養に入るデメリットもいくつか考えられます。
先ほどの例と同様に、夫が妻の扶養に入って働くことのデメリットについて紹介します。
夫の受給できる年金が少なくなる
夫が妻の扶養に入った場合、自身で年金を負担しなくても将来的に年金を受給することができます。
しかしこの場合、受給できる年金は国民年金のみであるため、金額は少なくなります。
将来的にある程度の年金を受給したいと考えている方は、妻の扶養に入らずに勤務先の会社で厚生年金に加入することをお勧めします。
働き方や収入が制限される
扶養に入るために最も気を付けなければならない点は、収入制限があるということです。
正社員では収入の制限を超えてしまうため、パートや派遣社員としてとして働かなければなりません。
基本的に年収103万円以上で税法上の扶養から外れ、年収130万円以上で社会保険の扶養から外れます。
そのため収入を気にしながら、時には勤務に制限をかける必要があります。
扶養に入ることの恩恵が大きいからと言って、「働きたいけど働けない」という状況になってしまうと、結果的に世帯全体で損をしてしまうこともあります。
扶養に入ることのみに捉われずに世帯収入を増やすことを最優先に、損をしない働き方を選択しましょう。
また、パートや派遣社員になると、正社員として復帰することが厳しくなるといったケースもあるため、どのような働き方で生活していきたいか、夫婦でよく相談すべきだと言えるでしょう。
扶養を意識した年収の壁5つ
前述のとおり、扶養には税法上の扶養と社会保険の扶養の2種類があります。
これらの適用要件を踏まえて、年収の5つの壁を解説します。
年収100万円の壁
住民税は前年の収入をベースに課税対象金額が決定される税金であり、年収が100万円以下であれば基本的には課税されません(市区町村によっては課税対象となることもあります)。
たとえば、世帯年収の大部分が妻の収入で、夫がお小遣い程度の感覚でパートやアルバイトをしている場合には、年収100万円を目安に働くのもよいでしょう。
年収103万円の壁
扶養を考える上で最もよく耳にするのが、年収103万円の壁でしょう。
結論から言いますと、年収103万円を超えた場合には所得税が課税されます。
所得税は所得金額に応じて累進課税される仕組みになっています。
この所得金額は、基本的には年収から給与所得控除額と基礎控除額を差し引いた残額のことを言います。
給与所得控除額は年収によって変動しますが、最低55万円で基礎控除額は一律で48万円であるため、合計額の103万円以内であれば所得税は課税されないということになります。
また、年収103万円を超えてしまった場合は税法上の扶養から外れてしまうため、扶養控除および配偶者控除の適用を受けることができなくなります(なお、控除を受ける本人の年収にも制限があります)。
たとえば、妻の扶養に入っている夫がパートで年収103万円を超えてしまった場合、夫に所得税が課税される上に、妻は配偶者控除の適用を受けられなくなるため、所得税の負担が大きくなります。
年収106万円の壁
近年では社会保険の加入拡大政策が進められており、基本的に年収106万円以上の方は勤務先の会社で社会保険の加入をしなければならない可能性があります。
たとえば、妻の扶養に入っている夫が年収106万円を超えてしまった場合、夫は社会保険の扶養から外れてしまうため、社会保険料を負担しなければならなくなります。
ただし、加入には勤務先の会社の従業員数や勤務時間などの要件があるため、年収106万円を超えたからといって、必ずしも社会保険に加入しなければならないわけではありません。
社会保険の加入を検討しなくてはならない程度に収入が増えてきている場合には、要件を調べておくとよいでしょう。
年収130万円の壁
社会保険の扶養については、年収130万円未満という要件があります。
前述したように、年収130万円を超えてしまった場合は、自身で国民健康保険や国民年金に加入して保険料を負担しなければなりません。
年収130万円を超えてしまい、自身で保険料を負担しなければならなくなる場合には、勤務先の社会保険(健康保険、厚生年金)に加入することをお勧めします。
勤務先で加入することにより、保険料が労使折半(労働者と会社が保険料を半分ずつ負担する)となるので、実質保険料の負担を抑えることができる上に、老後の年金面でもメリットが大きいです。
年収が130万円を超えそうなときは、勤務先の担当者に相談してみるとよいでしょう。
年収201万円の壁
前述のとおり、年収103万円を超えると配偶者控除の適用を受けることができませんが、配偶者の収入に応じて、一定の所得控除(配偶者特別控除)を受けられる場合があります。
配偶者特別控除は、配偶者の年収が201万円までならば1万円~38万円の所得控除が認められています。
ただし配偶者控除と同様に、控除を受ける本人の年収にも制限があるため、夫婦で相談する必要があるでしょう。
たとえば、妻の年収が1,000万円であり、夫の年収が150万円である場合には、妻は38万円の所得控除を受けることができます。
まとめ
今回は、夫を扶養に入れるメリットやデメリットを、扶養に入ることができる要件と併せて解説しました。
基本的に夫婦どちらかの扶養に入ることで得られるメリットは大きいです。
ただし、被扶養者は働き方や年収が制限されてしまうため、世帯年収を増やしにくいというデメリットもあります。
扶養のみに捉われずに、夫婦で優先すべきことを話し合うことで、よりよいライフプランが選択できるでしょう。