最終更新日:2022/11/18
法人投資信託で運用するメリット・デメリット【向いているケースとは?】
ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネルを運営。
PROFILE:https://vs-group.jp/tax/startup/profile_writing/#p-mori
YouTube:会社設立サポートチャンネル【税理士 森健太郎】
書籍:プロが教える! 失敗しない起業・会社設立のすべて (COSMIC MOOK) ムック
この記事でわかること
- 法人が投資信託を購入するメリットとデメリットを知ることができる
- どのような場合に法人が投資信託の運用に向いているかがわかる
- 法人が投資信託の運用を行う場合に注意すべきポイントがわかる
法人は多額の資金を保有して運転資金としている他、新たな投資を行うための準備をしています。
また、経営者や従業員の退職に備えて、退職金の準備をしておく必要もあります。
しかし、多額の資金を保有する一方で、その資金をどのように運用すればいいのか、頭を悩ませる方も多いでしょう。
ここでは、法人が投資信託で資金を運用することのメリット・デメリットや、注意点について解説していきます。
目次
法人投資信託のメリット
法人が投資信託を購入して運用を行うことには、どのようなメリットがあるのでしょうか。
運用によって利益を得ることができれば、法人の資産を増やすことができ、大きなメリットとなります。
ただ、それ以外にも法人で投資信託を保有することには、多くのメリットがあるのでご紹介していきます。
投資信託の経費も損金になる
投資信託を購入する際には、手数料がかかります。
また、投資信託で運用を始める際には、セミナーに参加し書籍を購入するなどして、情報収集や勉強することもあります。
個人で投資信託の運用を行う場合は、手数料以外の経費を計上することはできないため、税負担が大きくなります。
一方、法人の場合は、法人が収益を上げるための支出は、すべて損金とすることができます。
そのため、セミナーの参加費や書籍代、交通費などの支出も、すべて損金になります。
その結果、個人で投資した場合より税負担を減らすことができるでしょう。
本業の利益と通算できる
法人は、獲得した利益の種類に関わらず、すべての金額をまとめて税金の計算を行います。
本業で利益を計上し、投資信託で損失が発生した場合、利益を損失と相殺することで、課税対象となる金額を減らすことができます。
また、本業で損失が発生し、投資信託で運用益を獲得した場合も、その損益を相殺することができます。
損失を10年間繰り越すことができる
法人の損益は、本業も、それ以外から発生したものも合わせて計算を行います。
もし本業からも投資信託からも損失が発生した場合、税金が発生することはありません。
それだけでなく、発生した損失を翌年以降、最大10年間にわたって繰り越すことができます。
そのため、損失が発生した後に利益が発生しても、そこで発生する法人税の金額を抑えることができます。
借入金により資金調達できる
法人の場合、本業の業績に応じて、金融機関から借り入れをすることができます。
個人で投資信託を購入するために借り入れをすることは、ほぼ不可能と言っていいほど難しいことです。
しかし、法人であれば多額の借り入れができることから、資金運用の一環として投資信託を購入することができます。
法人投資信託のデメリット
法人で投資信託を購入することには、デメリットもあります。
どのようなデメリットがあるのか、その内容を確認していきましょう。
法人は非課税制度がない
個人で投資信託を購入する場合、運用益が非課税になる制度がいくつかあります。
たとえばつみたてNISAの制度を利用すれば、最大20年間で800万円までの投資が非課税となります。
またiDeCoの制度を利用すれば、60歳になるまで非課税で運用を続けることができます。
しかし、法人の場合はこういった非課税の制度がありません。
必ず他の収益と合わせて課税されるため、利益が出れば税金を払わなければなりません。
特定口座を開設できない
投資信託を購入するためには、証券会社に口座を開設する必要があります。
個人の場合は特定口座と一般口座のいずれかを選択し、口座を開設することができます。
特定口座を開設すれば、取引から発生する損益を証券会社が計算してくれます。
そのため、申告に必要な数字を計算してもらえるだけでなく、売買を行う際の判断材料としても利用できます。
しかし、法人は特定口座を開設することはできません。
そのため、投資信託による収益の計算は、すべて法人自身が行う必要があります。
法人に投資信託の管理を行う人がいないと、取引状況を判断することができなくなってしまう可能性もあります。
法人投資信託の運用が向いているケース
投資信託自体に、値下がりして元本割れする可能性があります。
ただし、法人で投資信託を保有する場合、個人とは違う点で注意すべき点があるとおわかりいただけたでしょう。
では、どのような場合に、法人が投資信託で運用するのに向いているのでしょうか。
退職金の資金を確保する
役員や従業員の退職金の支払いは、大きな金額になることが多く、法人の運営に悪影響を及ぼしかねません。
一方で、退職金の支払いは定年退職する従業員がいる時などに限られるため、その時期をあらかじめ把握しておくことができます。
そこで、退職金としていつまでにいくらの資金が必要になるかを計算し、それまでに投資信託を利用して積み立てておくことも可能です。
運用益も新たな投資信託の購入にあてれば、少ない支出でより多くの資金を確保することが期待できます。
年金資産を形成する
小規模な法人の経営者の場合、仕事を辞めるタイミングを自分で決めることが多いでしょう。
この時、仕事を辞められるかどうかを判断する要因の1つとなるのが、やめた後の収入が確保できるかどうかです。
公的年金だけでは十分な収入を得られないため、別に自分で年金資産を積み立てておく必要があります。
しかし、在職中の報酬を低く抑えている場合もあり、個人的に年金資産を形成することは困難です。
そこで、法人で年金資産形成を行い、退職後に年金が支給できるようにしておきます。
この時、投資信託を利用することで、運用益を得ながら資産を増やすことができます。
多額の設備投資の資金を確保する
法人の有する固定資産の中には、数千万円、あるいはそれ以上の金額になるものもあります。
これだけの資金をまとめて準備することはできないため、金融機関から融資を受けるのが普通です。
ただ、いずれ設備投資や設備の更新が必要になることがわかっているのであれば、それに向けた準備をしておくことができます。
数年単位で投資信託を購入して運用を行い、資金が必要になった時には売却して利益を得ることが可能です。
自己株式を取得する資金を確保する
法人の株主が亡くなって相続が発生すると、その子どもが新たな株主となります。
しかし、その子どものことをよく思っていない、あるいはまったく知らないために、株主でなくなってほしいと考える場合があります。
そこで、株主が保有する法人の株式を会社が自己株式として買い取ることがあります。
この場合、法人の株式の評価額によっては、非常に大きな買い取り額になることがあります。
将来的に法人にとって好ましくない株主がいる場合は、買い取り資金を投資信託で準備しておくことが有効です。
法人投資信託を運用するときの注意点
法人が投資信託を購入して資金運用することには、メリットだけでなくデメリットもあります。
そのため、実際に運用する際にはいくつかの注意点があります。
ここでは、その注意点についてご紹介します。
投資信託は元本割れすることもある
投資信託は、投資家から集めた資金を専門家が株式や債券などに投資して運用する金融商品です。
どの投資信託に投資するかは、投資家が自由に決定できますが、実際に株式や債券の選定を行うのは運用の専門家です。
そのため、大きなマイナスが発生しにくく、比較的安全に利益を確保できると考えられています。
しかし、投資信託に投資した結果、マイナスになることがないわけではありません。
購入した後、その投資信託の価格が下落した時にあわてて売却してしまうと、損失となってしまいます。
定期預金のように元本保証の商品ではないことは、忘れないようにしましょう。
余裕資金で運用を行う
投資信託を購入する際に、一度にまとまった資金を用意できない場合は、毎月積み立てを行って購入することもできます。
この時、法人にとっては余裕資金の範囲内で投資信託を購入することが重要です。
余裕資金がないのに、無理に投資信託を購入した場合、資金不足で積み立て資金を用意できない月があるかもしれません。
この場合、投資信託の価格の動向に関係なく、それまで購入した投資信託を売却するしかありません。
価格が下落していても、売却のタイミングを探ることもできず、損をして終わることとなります。
最終的に運用益を確保するためには、余裕資金の範囲内で投資することが重要です。
本業が赤字の時は要注意
投資信託から発生する損益は、本業から発生する損益と通算して、法人としての損益を計算することとなります。
本業が赤字となっている場合は、投資信託から発生した利益があっても相殺されるため、その利益には実質的に課税されません。
そのため、投資信託で利益を得ても節税効果があるといわれます。
しかし、このような状態にある法人の場合は、本当に投資信託を購入するべきなのか、よく考える必要があります。
本業で発生した赤字がたまたまのものであり、その理由がはっきりしているのであれば、翌期は黒字になる可能性が高いでしょう。
しかし、毎年赤字を計上している法人は、たとえ節税効果があったとしても、投資信託を購入している場合ではないといえます。
赤字になれば資金繰りも悪化しているはずですし、法人の状態は決して良いとはいえません。
まずは本業の立て直しに全力を注ぎ、投資信託の購入はその後にするべきでしょう。
まとめ
金融機関の預貯金に資金を預けていても、利息はほとんどつかず、法人の資金運用は非常に難しい状態にあります。
そこで、資金の一部を投資信託への投資に回すことを考えている法人も多いでしょう。
投資信託を購入する場合は、必ず余裕資金で行いましょう。
また、節税効果を狙っての投資信託購入は、その効果が限定的なのであまり重視すべきではありません。
何のために資金が必要なのか、その目標を明確にして投資を行うようにしましょう。